私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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今回でぐだぐだ本能寺は終了です。
そして今回、久世君の前に最大の敵が現れます。


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 聖杯を回収……じゃなくて破壊して沖田と信長の特異点を修復した次の日。私達はカルデアの英霊を召喚する部屋にと集まっていた。

 

 私達がこの部屋に集まった理由は勿論、特異点で(主に私が)集めた聖晶石を使って新たなサーヴァントを召喚する為である。

 

 特異点で集めた聖晶石は十二個。聖晶石三個でサーヴァントを一人召喚できるから、今回の召喚では四人の英霊を召喚できて私と久世君にそれぞれ二人ずつ契約されることになる。

 

 ちなみに聖杯は破壊してしまったため魔力が無くなってしまい、今回は使用することは出来なかった。……何で私はノリであんな事をしてしまったのだろう、私の馬鹿。

 

「皆、特異点の修復お疲れ様……でもないかな? 薬研クンが『色々』と頑張ってくれたお陰ですぐに終わったからね?」

 

 苦笑を浮かべながら言うロマン上司だが、「色々」の部分に何か色んな感情が込められている気がする。横を見れば久世君とマシュ、そして久世君と契約をしているサーヴァント達が疲れた顔をして頷いているし、私が一体何をしたというのだ?

 

 私はただ、安全かつ迅速に特異点を修復するべく行動しただけだというのに、この反応はあんまりじゃない? 私は医療スタッフだ。このような危険人物を見るような目は止めてくれないかな。

 

「それじゃあ早速だけど召喚を始めようか。まずは久世君からいこうか」

 

「はい。分かりました」

 

 ロマン上司に呼ばれて久世君が前に進み出る。

 

 久世君の召喚か……。確実に生き残るためとは言え、前回の特異点に引き続き今回の特異点でも久世君の実戦経験の機会を奪ってしまった私は、ここで彼が強力なサーヴァントを引き当てる事を心から願った。

 

 主人公である久世君が戦いに敗れて死ぬと、その時点で私の命運どころか世界の命運はほぼ詰んでしまう。しかし久世君の仲間に強力なサーヴァントがいれば、彼の生き残る確率は大きく上がり、ついでに私が生き残れる確率も大きく上がるだろう。

 

 だから久世君、是非とも強力な、星五クラスのサーヴァントを引き当ててくれ。この世界の為にも、そして私の生存率アップの為にも!

 

「英霊召喚システム起動!」

 

 私が久世君の応援をしているとロマン上司が英霊召喚システムを起動させて、部屋の中心に光の柱が立ち昇った。そして光の柱の中から現れたのは……。

 

 バサッ。バサッ。

 

 

 手帳より少し大きめのサイズで、どこかで見たような表紙の二冊の本であった。

 

 

 ……………え? 何あれ? 何で英霊の代わりに本が現れるの?

 

 二冊の本からは魔力が感じられたので一瞬ナーサリー・ライムが二人召喚されたのかと思ったが、本の表紙はナーサリー・ライムのものとは全く違うし、感じられる魔力の量もサーヴァントのそれとは比べ物にならないくらい少なかった。

 

 結論から言えばあの二冊の本はナーサリー・ライムでも英霊でもない。あれは恐らく……。

 

「あ、あのDr.ロマン? この本は一体……?」

 

 久世君が困惑した表情で聞くとロマン上司は言い辛そうな表情を浮かべながらも説明をする。

 

「え~と……。その本は英霊ではなく、多分『概念礼装』ってものだろうね。概念礼装は人類史に記憶された魔術の記録や英霊に力の一部とかが形となった、言わば世界が作った礼装なんだよ。この本が一体どんな礼装なのかは調べないと分からないけど、きっと久世クンの力になると思うよ」

 

 やっぱりあの二冊の本は概念礼装だったか。

 

 ロマン上司の言っている事は嘘ではない。魔術の素人である久世君にとって礼装は戦いの助けになるだろう。

 

 だが私としてはやっぱり久世君には概念礼装よりもサーヴァントを引き当ててほしかった。そしてそう思っているのは私だけではなかったようだ。

 

「概念、礼装……?」

 

「う、うん。そうだよ、概念礼装……」

 

 生気のない顔で呟く久世君に冷や汗をかきながら答えるロマン上司。

 

「サーヴァント、じゃない……?」

 

「そ、そうだね。ざ、残念だったね……」

 

「…………………………!!」

 

「ひぃっ!? く、久世クン!?」

 

 ロマン上司との会話でようやく現実を理解した久世君は、一瞬で目と口を限界まで開いて涙を流す絶望の表情となった。

 

 あ、あの表情で見覚えがある! キャスターのジル・ド・レェ? いや、違う! あれはガチャで爆死した前世の私だ!

 

「………」

 

 絶望の表情を浮かべた久世はそのまましばらく固まった後、無言で部屋の隅に言って体育座りをした。

 

 あ、あの……。久世君?

 

「…………よね」

 

 私が声をかけると久世君はまるで蚊の鳴くような声で呟いた。

 

 え? 久世君、今何て?

 

「いいですよね薬研さんは。いつも強力な英霊ばかり引き当てて……。俺は今回、概念礼装しか手に入らなかったけど、薬研さんは今回も強力な英霊を引き当てるんでしょうね……」

 

 そう言って私を見てくる久世君の目には負の感情で濁りきっていた。く、久世君がダークサイドに堕ちている……!?

 

 い、いやいや! そ、そんな訳ないじゃないか久世君! きっと私だって概念礼装しか引き当てられないって!

 

「ええ〜? 本当でござるか〜?」

 

 相変わらず負の感情で濁りきっ目でどこぞの侍のようなセリフを言う久世君。いかん。久世君ってばかなりの重症のようだ。

 

 かくなる上は……ロマン上司! 英霊召喚システムを起動してください!

 

「わ、分かった! 英霊召喚システム起動!」

 

 かくなる上は私も概念礼装を引き当てて久世君の負の感情を晴らすしかない! ロマン上司の声と共に部屋の中心に光の柱が立ち昇り、光の柱から現れたのは……。

 

 

「新選組一番隊隊長。沖田総司、推参。薬研さん、あなたが私のマスターですか……え、羽織? それが何処かにいってしまいまして……」

 

「魔人アーチャーこと第六天魔王、信長じゃ!  うむ、薬研よ、そなたがわしのマスターとなることを許すぞ!」

 

 

 昨日まで一緒に特異点を旅をしていた二人のサーヴァント、沖田総司(星5)と織田信長(星4)だった。

 

 ……お前らさぁ。ちょっとは空気読めよ。頼むからさぁ……。

 

「…………………………!」

 

 はっ! 気がつけば久世君は先程と同じ、目と口を限界まで開いて涙流す絶望の表情となって私を見ていた。

 

 く、久世君……?

 

「うわあああぁぁあああああぁあん!!」

 

 私が声をかけるや否や、久世君を泣きながら走り去っていった……って!? 久世君!? 久世君!

 

 

 

 

 

 それから久世君は丸二日マイルームに引きこもった。

 

 唯一、久世君のマイルームに入る事ができたマシュの話によると、久世君はただひたすら「描けば出る」と呟きながら古今東西の英雄の絵を描いていたそうでとても怖かったそうだ。

 

 ……私か!? これって私が悪いのか!?




久世君の前に現れた最大の敵……その名は「爆死」。
作者もFGOのレアサーヴァントの出現率の低さに心を折られて無課金プレイヤーの道を諦め、重課金プレイヤーとなりました。
ちなみに作者は「深夜にガチャを回す」教の信者です。

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