「そういえばアルジュナ? お主は一体何の本を読んでおるのじゃ?」
信長が部屋の隅で本を読んでいるアルジュナに問いかける。
あっ。それは私も聞きたい。
アルジュナはマイルームにいる時はいつも本を読んでいる。最初は漂流者達の漫画やアニメに熱中している頼光さん達を視線に入れないためのポーズであったが、今では純粋に本を楽しみながら読んでいるのが分かる。
アルジュナが、古代インドの大英雄が楽しみながら読む本とは何なのか、というかそんな本が私のマイルームにあったのか是非気になるところである。
「うん? これはマスターのマイルームにあった漫画ですよ。ホラ」
そう言ってアルジュナが私と信長に見せた本の表紙には、星空をバックに着物を着た銀髪の天然パーマの男が描かれている。
……うん。どこからどう見ても私がこのカルデアに持ち込んだ「吟魂」の単行本です。
え? 吟魂? 何で吟魂? 吟魂は私の好きな漫画だけど何でそれをアルジュナが読んでいるの? 何て言うか……その、違和感が半端ないんですけど?
「何と言うか意外じゃの。アルジュナ、お主みたいないかにも真面目そうな者が漫画を読むとは。それにその漫画、確かアニメじゃとワシそっくりのぷりちーな声を無駄にしまくっとるゲロインが出てくるのではなかったか?」
私が内心で呟いていると、信長が私が考えていたこととほとんど同じ感想を口にする。というかお前も吟魂読んでいたのか信長。後、ゲロイン言うな。
心の中で私が信長に突っ込んでいるとアルジュナは僅かに苦笑をして口を開いた。
「そうですか? 私だって漫画くらいは読みますよ? それに日本の漫画はどれも面白くて続きが気になるのですよ」
日本の漫画やアニメは海外の人達から高い評価を受けているが、どうやらそれはサーヴァントでも同じらしい。これは日本人として少し誇らしい気もしないでもないな。
「それにこの漫画の主人公……普段は自堕落と無責任極まるくせにいざとなると自分の掟に従い勇敢に戦う。この自分に正直な生き方は正直、嫉妬を通り越して殺意を覚えるくらい羨ましい。……私も今からでもこの漫画の主人公のようになってみたいと思……」
ちょっと待たんかいぃぃぃぃ!!
私は声を最大にしたツッコミでアルジュナの言葉を遮った。
ちょっと待とうかアルジュナ! 今なんて言った授かりの英雄!? 吟魂の主人公みたいになる? そんなのマスター認めませんからね!
自分に正直な生き方をしたいっていうのはまだいい! だけど吟魂の主人公みたいに自堕落で無責任になるというのは認められない!
吟魂の主人公みたいになったアルジュナを想像してみる。すると死んだ魚みたいな目をしたアルジュナが弓や宝具を適当に放って、私を初めとする味方ごと敵を吹き飛ばす光景が鮮明に思い浮かんだ。
やっぱり駄目だ! 吟魂の腐れ天パ化なんて私は絶対に認めないからな!
「どうしてですか? やっつぁん?」
やっつぁんって誰だよ! やっつぁんって!?
首を傾げて言うアルジュナに私は思わず怒鳴り返した。
あれか!? 薬研の「や」とぱっ○ぁんを合わせたのか!?
ふざけんな! 私は医療スタッフだ! ぱっつ○んと同じ眼鏡キャラだけどツッコミ担当の苦労人キャラではない!
「契約者よ、何か不満があるのか? 『ゆっつぁん』よりも言いやすいと思うのだが?」
そういう問題じゃないよ山の翁! というか山の翁も吟魂読んでいるんかい!
「うむ。先日、漫画の全巻を読破した。正直、あの主人公の自堕落さを見ていたら思わず何度も『首を出せ』と呟いていたが、自らの掟に殉ずる姿勢は評価に値すると思う」
私の言葉にどこか自慢するように答える山の翁。
夜中に暗い部屋で「首を出せ」と呟きながら吟魂の漫画を見る山の翁。
……想像するとホラーなのかシュールなのか分かりませんな。
そんな事を考えていると頼光さんを初めとする他の英霊達も、漫画やアニメに登場するどのキャラクターやどのシーンが好きかという話を楽しげにしていた。
どうやら私が契約したサーヴァント達は漫画とアニメを通じてこの時代に充分馴染み、満喫しているようであった。
……恐るべし、日本のオタク文化。
次話かその次くらいでいよいよ「あの人」が復活します。