「何よこの体!? 全く使えないじゃない!」
オルガマリー所長が無事に復活をした次の日。サーヴァントを含めた訓練を行うシミューレートルームにオルガマリー所長の困惑を含めた怒声が響き渡る。
ダ・ヴィンチちゃんの手によってデミ・サーヴァントとなったオルガマリー所長。本人はあまり乗り気ではなかったらしいが、周囲に言われてとりあえずデミ・サーヴァントの体の性能を確かめることにしたのだが……結果はあまりにも残念な結果であった。
サーヴァントであるため通常の人間に比べたら遥かに上の身体能力を発揮したのだが、同じサーヴァントと比べたら明らかに格下で本人の格闘能力の低さも相まって能力値以上に弱そうに見えたのだ。
「筋力E、耐久E、敏捷D、魔力B+、幸運E、宝具C……か。ええっと、その……ま、魔力の値は結構高いですね?」
「無理して褒めなくてもいいわよ! 余計惨めになるじゃない!?」
オルガマリー所長のデミ・サーヴァントとしての能力値を見たロマンが苦笑しながら感想を言うと、オルガマリー所長が半泣きの表情で叫ぶ。……でもこれは仕方ないよな。
オルガマリー所長に宿った英霊は「復讐者」のサーヴァント「アンリ・マユ」。
アンリ・マユとはゾロアスター教で「この世全ての悪」とされる悪神の名前だ。それだけを聞けば強力な存在に思われるがオルガマリー所長に宿ったアンリ・マユは悪神などではなく、悪神の名前と役割を押し付けられて生け贄とされた事で「悪神の側面を持つ反英雄」として英霊の座に登録された古代の村人にすぎず、能力値が低いのも当然の事と言えた。
まあ、この事は原作知識を持っている私だけが知っている事で、他の人達は悪神の名と実際の能力値の低さのギャップに大きく驚いていた。
……しかしオルガマリー所長の能力値、私が知っているアンリ・マユの能力値と比べて敏捷と幸運が低くて、代わりに魔力が高いよな? だけどさっきも言ったようにオルガマリー所長は格闘能力が低いし、通常の人間だった頃から雑魚モンスターなら一撃で倒せるガンドを撃てるから丁度いいかもしれないな。
「す、すみません……。あっ、でも宝具は最初から使えるみたいですし、その宝具も使い方次第では格上の敵も倒せそうな凄いものじゃないですか」
半泣きで怒鳴るオルガマリー所長にロマン上司は謝ってからフォローを入れる。
そう。オルガマリー所長を器にした事で変わったのは能力値だけでなく宝具もであった。
オルガマリー所長の宝具の名前は
効果は自分の受けたダメージを倍加して敵に与えるというものでそこまではアンリ・マユのと同じなのだが、オルガマリー所長のそれは敵から受けたダメージだけでなく「自分で自分に与えたダメージ」も倍加して敵に与えるというもの。その「逆怨み」という言葉が合いそうな宝具は本来のアンリ・マユの「偽り写し記す万象」よりもずっと使い勝手がよさそうなのだが……。
「……でも、それってダメージを受けないといけないんでしょう? 怖いんだけど……」
そう、この宝具って私に負けないくらいのチキンハートの持ち主であるオルガマリー所長とは相性が最悪なんだよな。
……あの、オルガマリー所長? そこまで無理をして戦わなくてもいいと思いますよ?
「薬研?」
オルガマリー所長は確かにデミ・サーヴァントとなってレイシフトできるようになり、一応はサーヴァントと戦える力を得ました。しかしオルガマリー所長はこのカルデアのトップであり、無理に前線に出る必要はないと思います。
オルガマリー所長はこのカルデアのトップだ。故に前線ではなくカルデアの司令部こそが正しい立ち位置である。
そして私は医療スタッフだ。故に前線ではなくカルデアの医療室こそが正しい立ち位置である。
このままオルガマリー所長を説得するついでに私の配置替えをお願いしようと思ったのだが、オルガマリー所長は私の言葉に首を横に振った。
「ううん。それはできないわ、薬研」
オルガマリー所長?
「私はこのカルデアのトップ。そして今はその上にデミ・サーヴァントでもある。貴方の言う通りレイシフトができてサーヴァントと戦える力を得たわ。だから私はカルデアのトップとして前で戦って責任を果たさないといけないの……怖いけどね」
………っ!? 馬鹿な……チキンハートのオルガマリー所長が勇気を見せた、だと……!
私が内心で驚愕していると、オルガマリー所長が私に向けて笑みを浮かべてきた。
「心配してくれてありがとう、薬研。でも薬研や皆もいるから私も頑張るから」
っ! オルガマリー所長の笑顔が眩しすぎて直視できない……! こ、これでは今後配置替えなんて言い出せないじゃないか……!
私の明日はどっちだ?
「私の明日はどっちだ?」(by薬研)
「………」(by慈愛に満ちた笑顔で次の特異点を指差す運命の女神)