オルガマリー所長が復活してから数日後。カルデア所員達も最初は戸惑っていたが皆もすっかり落ち着いたようだ。
……となるとそろそろ新しい特異点が現れる頃だな。良くも悪くも人々を飽きさせないカルデアの事だからまず間違いない。前世がFGOプレイヤーで今世がカルデアの一医療スタッフである私の勘がそう言っている。
え? 一部の人々から「お前はもうマスターだからいつまでも医療スタッフと言ってないでそろそろ覚悟を決めろ」という意見が出ているって?
………。
……………。
…………………。
HAHAHA! 何を言っているのでしょうね、その方々は? 誰がなんと言おうと私は医療スタッフだ。百億光年譲って私がマスターの役割を一部するとしても私が医療スタッフであることは代わりない。
そう、私は医療スタッフであることを諦めない! 諦めたらそこで試合終了なんですよ!
私がそんなことを考えていると久世君とマシュがオルガマリー所長が緊急の話があると私達を呼びに来た。逆らっても結局は連行されるので仕方なくオルガマリー所長にロマン上司、そしてダ・ヴィンチちゃんがいる司令部に行くと、着くなり新たな特異点が観測されたという報せを受けた。
ほら、やっぱり……。
しかし新たな特異点か……。第二特異点ではレフ・ライノールと遭遇して、更にはレフが自分の呼び出したサーヴァントに真っ二つにされて殺されるイベントがあるのだが、オルガマリー所長は大丈夫なのだろうか?
「何? 私がどうかしたの、薬研?」
私が横目でオルガマリー所長を見ながら心配していると、私の視線に気づいた所長がこちらを見てきた。
ダ・ヴィンチちゃんの卓越した技術によって見事復活しただけでなくアンリ・マユの霊基を宿して、マシュに続く二人目のデミ・サーヴァントになったオルガマリー所長は、久世君と契約をしてこれからのレイシフトに現場指揮官として同行することになった。久世君と契約をした理由は、カルデアと直接連絡できるラインを持っているのは久世君と契約をしているマシュだけで、現場指揮官としてレイシフトしてすぐにカルデアのロマン上司達とする必要があるオルガマリー所長は久世君達と契約をすることになったのだ。
次の特異点が古代ローマであるのならば、そこにはシナリオ通りにレフ・ライノールがいるだろう。
特異点でオルガマリー所長とレフ・ライノールが再会すれば一体どういう展開になるのか全く予想がつかない。そう、言ってみればこの特異点こそが私の知っている原作知識が決定的に狂いだすポイントと言える。
行きたくないなぁ……。
今までは原作知識と頼光さんの力を借りて何とか生き残ってきたけど、これからは原作知識もあまりアテにならなくなるから死にそうになる確率が上がるのだろうな……。行きたくないなぁ……。
「さて、そろそろレイシフトを行うけど皆、準備はいいかい?」
私が心の中でため息をついていると、そんな私の気持ちなんか全く分からないロマン上司がいよいよレイシフトを始めると言ってきた。
……って、そういえばロマン上司?
「ん? どうしたんだい、薬研君?」
そのレイシフトなんですけど……今回は安全なのでしょうね?
オルレアンの特異点の時は久世君達とは別の場所、それもその特異点のボスと言えるジャンヌオルタの側にレイシフトしてしまい、即戦闘となった。あんなのは二度とゴメンである。
「うっ!? だ、大丈夫さ、薬研君。あの反省を活かして君と久世君はなるべく近くの時間と場所にレイシフトするように調整しているからさ。あの時のようなことにはならないさ……多分」
オイコラ。最後の一言は何ですか、ロマン上司? 今の一言で盛大にフラグが立った気がするのですけど?
最後のロマン上司の発言で非常に不安になった私だったが、結局連れていかれるのは確定なのだし「ぐだぐだ本能寺」の時も大丈夫だったのでとりあえずは納得することにして私は次の特異点にレイシフトすることにした。
……しかし私はレイシフトした直後に後悔することになる。
たとえ全ての令呪を使ってでも頼光さん達を黙らせて、今回のレイシフトを絶対に逃げるべきだったと心の底から後悔した。
「や、薬研征彦!? 何故ここに!?」
レイシフトをした私の前には二人の男が立っていた。
一人はレフ・ライノール。そしてもう一人は……。
「ほう……。貴様が薬研征彦か」
人理を焼却した張本人、魔術王ソロモンであった。