ハートのA   作:ヒキニパ神の下僕

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第二話 第一球

「なに、ならお前がそこのデカp...スカウトが言ってたピッチャー?ちょっと待てお前、地元の仲間を裏切って寄せ集め集団に入るとか、何考えてんだよ!」

 

(え、何で俺怒られるの?)

 

面食らう雄介。当たり前である。

 

「いや、裏切るとかいう発想無かったし...てか、そっちも青道の見学来たってことは、入るつもりで来たんじゃないの?」

 

「俺はデk..スカウトが赤城中の野球を見下しやがるから、参考までに全国レベルとやらを見せてもらった上で、鼻で笑って帰ってやるために来たんだよ!」

 

「そ、そうかよ...」

 

(本音かどうかはともかく、よくそんな事をスカウトの前で言えるよな...その言い間違え含め)

 

確かに個性的で面白い奴だな、と思う雄介。

 

「はいはい、お喋りはそこまで。そんなに時間の余裕もないんだから、そろそろ出発するわよ。」

 

若干怖い目をした高島に急かされ、車に乗り込む二人。まるで敵地に向かう途中であるかのように鼻息を荒くしながら好き勝手に喋りまくる沢村と、やや機嫌のわるそうな高島、気まずげになりながらひたすら聞き役に徹する雄介の三人が醸し出す微妙な空気を乗せ、車は青道高校のグラウンドに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?これが我が校が誇るグラウンド設備よ!」

 

「広い...」

 

青道高校の練習環境は、雄介の予想以上に恵まれたものだった。特に、雨が降るたびに水抜きと丸一日以上のグラウンド使用中断を強いられてきた中学時代の環境を当たり前だと思っていた雄介には、雨天練習場の存在が非常にありがたく思えた。

 

(ってかあいつ、ずいぶん楽しそうだな、オイ...)

 

物珍し気に練習機材を見回す沢村に目をやる雄介。その姿は随分と興奮気味で、とても青道を鼻で笑いに来た人間には見えない。

 

「ハッ!別にときめいてなんかねーぞ!ちょっと驚いただけだ!」

 

「いや、何も言ってないし...」

 

むしろボロが出ている気がする。

 

「第一、金が無くたって野球はできるんだよ!選手も元々上手い奴ばっか集めてんだろ!」

 

こんなエリート集団には負けたくねえ、と雑草魂を燃やす沢村。そんな彼に対し野球留学する選手達の覚悟と向上心を語り、それが尊敬に値することだと説く高島。もう半分野球留学の意思を固めている雄介のスタンスは高島に近いものであるが、同じ田舎出身として、沢村の言葉にも思う所がある。

 

「武田君、あなたはどう感じたかしら?」

 

高島に話を振られる雄介。自分なりの意見を言おうと口を開きかけた矢先、それを遮る声が上がった。

 

「俺は...」

 

「コラァ川上ィ!何じゃその腑抜けた球は!」

 

少し離れた所で練習をしている大変ふくよかな体系(婉曲表現)の選手が、バッティングピッチャーに向かって暴言を吐いている。

 

(げぇ...後輩いびり...)

 

実は雄介、中学の頃先輩にいびられていたことがあり、こういうタイプの先輩が大嫌いだったりする。若干顔をしかめた雄介をよそに、高島が選手の紹介を始める。

 

「あの子のバッティングは見ておいた方がいいわ。高校通算42ホーマーの怪物、東清国。今年のドラフト候補生よ。」

 

(あの体型で!?まあ、パワーヒッターなら許されるのかもしれないけど...)

 

見た所かなりのスイングスピードであり、どうやら口だけの人間でもないらしい。

 

(まあそれより重要なのは、あの人がもう三年生ってことだ)

 

来年はもう卒業してチームを離れるだろうから、雄介が入部後に東にいびられる心配はない。あのバッティングピッチャーには同情するが、所詮は赤の他人である。

 

(触らぬ神に祟りなし、って言うしn「あんな体でプロに行くって!?マジでありえねえ!!」おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!)

 

スルーを決め込もうとした雄介だったが、隣の個性的で面白い奴によって、目論見を見事に崩された。

 

「見てみろよあのハラ!オッサンじゃねえか!」

 

(やめろその意見にはすこぶる同意するがマジやめろ)

 

今から止めようにも、既に周りの目が此方を向いてしまっているのでどうしようもない。

 

「だ...誰だコラァァァァ!さっきから俺のチャームポイントを笑うとんのはぁぁぁ!」

 

(こ、怖ぇぇぇぇぇぇ!)

 

「ははは、チャームポイント?どう見てもそれ短所だから!」

 

「んだとコラァ!」

 

のしのしと此方に近づいてくる東。雄介はといえば、東と目を合わせないよう必死で下を見続けていた。

 

(俺は関係ない俺は関係ない俺は関係ない)

 

そんな彼の横で、余計なことを言った馬鹿が、沢村が.......

 

 

 

 

 

吠えた。

 

「何が野球留学だ!覚悟や向上心は立派かもしれねーけどよ...ここじゃあ力のある奴は何言っても許されんのかよ!練習に付き合ってくれた仲間を罵倒するなんて、たとえ世間が認めても俺は認めねえ!」

 

(こいつ...)

 

馬鹿だ。初対面の相手にこんな事を言って。自分から危ない橋を渡りに行って。

 

(だけど...)

 

「たった一人じゃ、野球はできねえんだ...」

 

睨み付けてくる東の前に堂々と立つ沢村。

 

「名門と呼ばれるこの学校じゃあ、そんな大切なことも忘れてんのかよ!」

 

(実は凄い奴なんじゃね?この沢村って男...)

 

この瞬間から、雄介は沢村という男に一目を置くようになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで何故か高島が東と沢村を野球で勝負することを提案し始めた。

 

「沢村君、ここは野球のグラウンドなの。言いたいことがあるならプレーで見せてもらえる?」

 

「俺は別に構わねえぜ!ただし、このガキが泣き入れるまでマウンド降ろさねえけどなあ!」

 

(なんでスカウトが煽ってんのさ...)

 

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 

沢村の意思に関係なく、話が進んでいく。

 

(ってか俺空気...いや、別に良いんだけど)

 

「へへっ、面白そーっすね。そいつの球、俺が受けてもいい?」

 

なんか突然出てきた眼鏡野郎。青道の選手のようだが、スカウト相手にも妙に馴れ馴れしい。

 

「コラァ御幸!一年が出しゃばるんじゃねえ!」

 

「はは、すいません!けど最近東さん天狗気味だし、若者とプレーして初心取り戻した方が良いかなって」

 

(一年でこの物言い、沢村といいこの人といい無茶苦茶だ...まあこの人の場合、沢村と違ってワザと煽ってるみたいだから余計タチ悪いけど...)

 

「上等やないか御幸ぃ!おい小僧、詫び入れるなら今のうちやぞ...マウンドに上がっちまったら、どこにも逃げ場ねーからなぁ!」

 

「フン...何様だえらっそーに!逃げ場がねーのはテメェだっつの!てゆーかぶつけられても文句言うんじゃねーぞオラァ!」

 

(な、なんかもう喧嘩じゃねこれ?)

 

そして爆笑しているキャッチャー御幸。あの人絶対性格悪いな、と思う雄介だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負の結果は予想外のものとなった。全球ストレートの沢村に対し、東は10球目まで粘るも全てファール。

 

(大して速いボールでもないのに、何故...?)

 

横から見て沢村の球質に気づけるほど、雄介は慧眼ではなかった。

そして第11球目。

 

 

 

 

 

      スパァァァァァァァァン

 

 

 

 

 

沢村が東を、空振り三振に打ち取った。

 

「お、おおおおおおおおお!」

 

呆然とする一同の中で、最初に声をあげたのは雄介だった。

 

「凄ぇ...よくわかんないけど凄ぇよ、沢村!お前本当は凄い奴だったんだな!」

 

同い年のピッチャーがドラフト候補生を打ち取った姿に、雄介は心を揺さぶられていた。本気で沢村を凄いと認めたのだった。

 

そんな言葉をかけられて調子に乗った沢村、ついついこんな事を口走ってしまう。

 

「は、はは、当然だろ、俺にかかればこの位!ってか、あのメタボのオッサン大したことなかったし。武田だって打ち取れるさ、アイツくらい!」

 

(あれ、なんか嫌な予感が...)

 

いまコイツは、非常にまずいことを言わなかっただろうか。

 

「ほう、抜かしおったな、クソガキ...そこのお前もピッチャーなんやな?コラ」

 

「いいえ、僕はしがない一介の外野s」

 

「ああ、コイツもピッチャーだぜ!」

 

(やっぱさっきのナシこいつ疫病神だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)

 

沢村に余計な事を言われ、雄介もマウンドに立つことになってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度の奴はアンダースローか。それも、渡辺や牧田みたいな、極端にリリースポイントが低いフォームしてるぜ。」

 

「流石の東さんも、あんな投げ方のピッチャーとはまだ対戦したことないんじゃないか?」

 

そんな周りの声を聴きながら、投球練習をする雄介。対する東はバッターボックスの横で、ものすごい顔で此方を睨んでいる。

 

(いや俺何も言ってないんですけど...ってか打ち取ったら打ち取ったで後が怖いんじゃね、コレ...)

 

そうこうしているうちに投球練習が終わり、御幸一也がマウンドに向かってくる。

 

「どうも、武田雄介です。よろしくお願いします。」

 

ペコリと頭を下げる雄介。

 

「ほう、さっきの奴より礼儀正しいじゃねえか、感心感心。それに、中学生であれだけアンダースローで投げられるとは中々おもしれーじゃん。俺は御幸一也だ。あの人のクセは全部知ってるから、リードは俺にまかせとけ!」

 

えらい自信家である。が、先程大して速くもない球で沢村が東を抑えたのは、この人のリードが大きいのかもしれない。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「お、おお、えらい素直だな...で、お前球種は?まさかあいつと同じで、ストレート一本とか?」

 

「あー...一応チェンジアップを...」

 

(いや、一般的なチェンジアップとはかけ離れてるんだけど、中学のバッテリーではそう呼んでたし...)

 

「ほぉ、緩急も付けられるなんて益々いいじゃん。」

 

ここまでは素直に褒める御幸。

 

「で、東さんだが、格下相手とナメてたさっきと違って本気モードに入っちゃってるから、残念ながら打ち取るのはまず無理だな。まあ、所詮は中学生なんだし打たれても気にすんな!...まあ、さっきのサウスポー君は三振とったけどな」

 

「え、ちょ」

 

ククク、と笑いながらポジションに戻る御幸。上げたり下げたり忙しい男である。

 

(やっぱこの人性格悪ぃ...)

 

御幸が座ったのを確認すると、東がバッターボックスに入って来た。

 

「ゴルァ小僧、滅多打ちにしてやるで...」

 

ここでふと思う雄介。

 

(しかしこの人、本当に凄いのか...?)

 

先程も、沢村の大して速くない球に三振を喫していた。プロに目をつけられたのはあくまでその圧倒的なパワーであって、ミート力はそこまででもないのではないだろうか。

 

(なら、戦いようはある...スカウトにも認められた俺のアンダースローが、通用しないということはないはず!)

 

御幸が構えたキャッチャーミットの場所は、内角低め。ここに、ミットより低いリリースポイントから直球を投げ込む!

 

(見やがれ俺の、地を這うストレートォ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                カキィィィィン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               

              ガシャァァァァァァァン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田雄介の青道マウンドでの記念すべき第一球は、快音を伴って弾き飛ばされ、レフトフェンス下部に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パワプロの「地を這うストレート!」って実況が好きで、いつも新作最初のサクセスでアンダースローのピッチャーを作ってしまいます。
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