H S DX2D   作:メラニン

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今回は色んな意味で、若干閲覧注意です。えー、なぜかと言いますと・・・


吐きます。はい。


では、どうぞ!



恋人と追手

 

 

――ルドガーside

 

 

外から漏れる陽光が眩しくて、俺は目を覚ました。両隣には両親が居て、その間に挟まれている状態だ。しかも、母さんには抱きつかれてる。うん、若干苦しいし、俺の精神年齢からいくと、かなり恥ずかしい。顔から火が出そうな勢いで。

 

 

そろそろ自分の部屋が欲しいところなんだけど、母さんがまだくれないんだよなぁ………

 

 

まぁ、各家庭それぞれだとは思うんだけども、ちょっとくらい子離れしてくんないかなぁ……

 

 

そういえば兄さんも小学校入学前まで一緒だったって言ってたし、俺ももしかしてこのまま小学校まで一緒じゃなきゃいけないのか?うーーーん、できればそれは勘弁して欲しいんだけども……

 

 

 

 

 

さて、時計を見れば時刻は8時過ぎだった。ん?そういや父さん仕事は良いのか?

 

 

そんな疑問を浮かべつつ、俺は両親の間をすり抜けてベッドを降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、俺は今日も元気に町外れの裏山へ来ています。マクスウェル曰く――

 

 

『サボったら、取り戻すのに3倍は必要になる』

 

 

との言葉を受けて、俺は半ば強制的に連行されました。やるメニューは昨日と一緒。それにプラスで、今回から微精霊達を視認しながら、訓練をしろと言われた。

 

 

まぁ、確かに昨日いきなり人外の代表格とも言える神様が我が家に来たから、マクスウェルが焦るのは分かる。朝食を食べた後、すぐに出掛けたから俺の祖父ちゃんだという、オーディン様(?)とはエンカウントせずに済んだ。

 

 

どうやら、昨夜は夜遅くまで酒を煽っていた様で、ダウンしてたんだよな。俺としては有難かったんだけどさ。今はとにかく、予定が早まるかもしれないという事で、鍛錬を急がないと。まぁ、だけど………

 

 

 

「うっ………………うおえぇぇぇぇぇ……」

 

 

俺は絶賛目を回して、吐いております。うぶっ…………ぎぼぢわるい……

 

 

 

『はぁ…………せめて、酔う事だけは何とかならんのか?』

 

 

「む、無茶言うな。微精霊と合わせて動くと、平衡感覚がく……狂……く………うおろろろろろろ………」

 

 

汚い場面で本当に申し訳ないです、はい……

 

 

 

微精霊が押し寄せて、波の様な物を形成するんだけど、それに全身が揺さぶられる感じがして、船酔いみたいになるんだよな。こう……三半規管を直接揺さぶられてる様な感じです。むしろ、これで酔わない人って居るのかよ……

 

 

『だが、早く慣れてもらわねば困る。まさか、こんなにも早く人外の者と接触するとは思わなかったからな。それも、あの様な強大な存在にな』

 

 

「……んな事言っても…うぷ」

 

 

『はぁ……』

 

 

微精霊達が起こす波と格闘しながら、俺は取り敢えず吐く事を我慢するだけはできる様になった。1時間くらい能力を使いっ放しで。

 

 

その頃には、胃の中が空っぽの感じがしたけど、何かを食べたいとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……………ど、どうだ、マクスウェル。た、耐えられるようには…な、なった…ぞ……」

 

 

『…………まぁ、及第点というところか』

 

 

ここまで頑張っても及第点か。採点が厳しいです。ホロリ………

 

 

 

だけど、お陰で本当に慣れることはできた。微精霊は確かに押し寄せて波を形成するけど、向こうも慣れてくると、比較的穏やかになって来たんだ。そうすると、視界がクリアになって来る。

 

 

アチコチが光って見えるのは変わらないけど、微精霊というのはある程度固まって動いて、波のような流れを形成するのが分かった。そして、その流れは風であったり、命のやり取りなどを生み出していた。裏山から街を見下ろせば、人と人の間も微精霊が流れになって行き交っている。

 

 

何かが動けば、その動きに従った流れができるし、ジッとしている生き物からも、僅かだけど微精霊の流れが生まれている。

 

 

そうして、見えてくると、何と言うか世界の見方………って言うのは大袈裟かもしれないけど、感覚は変わってくるな。

 

 

「これが……精霊の見ている世界か……」

 

 

『………そうだ。本来であれば、人間が見ることは適わん。だが、儂を宿しているのであれば話は別だ』

 

 

「何と言うか………見てて思ったけど、精霊は自由だな」

 

 

『ふん、当たり前だ。元来、精霊とは万物を司る自然の長だ。まぁ、四大の様に強力な者も居るが、1個体当たりの力は小さくとも、その流れはやがて大きな流れとなり、そして世界を回す巨大なものへと変わる。その流れは何者にも止める事は叶わん』

 

 

「はは……スケールデカすぎだな……ん?なんだ?」

 

 

と、感心していると、俺の周囲に再び微精霊が集まりだした。何かを伝えようとでもしているんだろうけど、微精霊の声は非常に小さい。今の俺では、まだ聞く事は出来ない。もうちょい大きな精霊の声なら聞こえるんだけどなぁ……

 

 

とにかく、俺は微精霊達に手を引かれる様にして、森の奥へ奥へと連れて行かれた。

 

 

そして、俺も入った事が無いくらいの森の奥。まるで迷宮の様な森の中の一角に、凄く小さな小屋があった。木造のもので、高さも2メートルあればいい方だ。多分、中は人が10人も入れば、窮屈に感じるだろう。

 

 

そして、小屋の扉の前には人が倒れていた。肩には大き目の裂傷に、服は所々が裂けて、身体中に泥が付着している。俺が急いで駆け寄ろうとすれば、突然マクスウェルが俺の目の前に現れて、制止してきた。

 

 

『待て!』

 

 

「うおっ!?何でだよ、マクスウェル!?このまま放っておけって言うのか!?」

 

 

『そうだ。捨て置け。こやつは――』

 

 

「捨て置け!?できるわけ無いだろ!!目の前で、大怪我してる人が居たら、助けようとするのが人間だ!」

 

 

『だから、待てと……ちっ』

 

 

「………ぅ」

 

 

俺たちの言葉が煩かったのか、小屋の前で倒れてる人が呻き声を上げる。マクスウェルは急いで俺の中へと戻る。俺の中で未だに反論するマクスウェルを無視して、俺はその人へ駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

「ぅっ…………、ここ、は…」

 

 

薄っすら目を開けた人は灰色の目をしていた。髪も灰色の長髪で、端正な顔立ちの美人さんだった。その女性は俺を視界に捉えると、口を動かそうとする。俺は耳を近付けて、よく聞こえる様にする。

 

 

「そうだ…私……は……………………君…悪いんだけど…そこの小屋。………中に救急箱があるから取って……来てくれる?」

 

 

「分かった!」

 

 

俺は小屋の扉を勢いよく開けて、小屋の中を漁る。そして棚の中からそれらしき物を見付けると、外へと急いで取って返す。

 

 

俺は女性の前に屈んで、救急箱を差し出す。

 

 

「取って来ました!」

 

 

「……そ、その中の一番下。赤い小瓶があるから……フタを開けて……私の口に入れて」

 

 

俺は言われた通りに、救急箱の中にあった小瓶を取り出す。上部分のフタを開けて、そっと女性の口元へと運ぶ。中には飲み薬の様なものが入っており、それを一息で飲み込んだ。

 

 

そして次の瞬間、俺は目を大きくして驚いていた。肩の大きな裂傷がみるみる塞がっていく!さらに、身体のアチコチにあった小さな傷までも消えていった。

 

 

俺が驚いていると、女性の顔に生気が戻ってきて、俺を見る目もハッキリとして来た。そして、起き上がろうとするが、まださすがにフラつくのか、俺が手を貸して小屋の外壁へと寄り掛からせる。

 

 

「ありがとね、助かったわ。………えーーーと?一応聞いておきたいんだけど、君は誰かな?」

 

 

「俺――とと、じゃなかった。僕はルドガー」

 

 

「ふふっ、いいわよ、言いやすい方で。そう……………ルドガー君、ね。私はクレーリア・ベリアル。クレーリアでいいわよ」

 

 

「んと……じゃあ、クレーリア…さん?」

 

 

「ん?」

 

 

「何で倒れてたの?それに、肩の傷も…」

 

 

「あぁ、ごめんなさい。驚くわよね。んーと、そうねぇ、まずは………さっきルドガー君がくれた薬あるでしょ?」

 

 

「うん」

 

 

「あれって、簡単に言っちゃうと凄いお薬なの。どんな怪我や病気だって治しちゃう優れもの!ただ……少し高いのよ。それに貴重だから、他の人には内緒にしててくれる?もし、悪い人に知られちゃったら、まだ持ってるかもって思われるかもしれないから」

 

 

「ん、分かった」

 

 

「ありがと、いい子ね。で……何で倒れてたかって言うと、んーー…………」

 

 

クレーリアさんはそこで考え込んでしまった。言いにくい事なのか?もしくは……

 

 

 

 

ガサガサ……

 

 

 

 

クレーリアさんが考え込んでいると、遠くの方から茂みが揺れる音が聞こえた。クレーリアさんも、それを聞いたらしく、急に俺の手を引いて背後へと下げた。次の瞬間、茂みから黒い影が飛び出した。その速度は今の俺では追うことは出来なかった。

 

 

瞬きをしている間に、俺を庇う様にしているクレーリアさんの顔先には、剣が突き付けられていた。突き付けているのは男性だ。

 

 

黒い長髪を一まとめにして、意志の強そうな目が印象的な男性だ。黒い神父服の様な格好に、黒の帽子、そして恐らく普通とは異なった剣だ。何だか不思議な感じがする。

 

 

俺が飛び出そうとするのを、クレーリアさんは押さえつけて、前に出さない様にしている。

 

 

「………クレーリアだったか」

 

 

男性はそう言うと、剣を下ろした。敵意は無いって事で良いのかな?

 

 

「はぁ、コッチも急な事でビックリしたわよ、正臣」

 

 

「済まない。気配を2つ感じてね。ここがバレて、追っ手でも来たと思ったんだ」

 

 

んーー?今、スッゴイ物騒な事を言いませんでしたか、お兄さん?追っ手って何?もしかしなくても、この人達って危険人物ですか?あーー………マクスウェルの言う事聞いとけば良かったかな……

 

 

「ところで、そっちの子供は?」

 

 

「あぁ、この子?可愛いでしょ?小屋の前で倒れてた私を助けてくれたのよ」

 

 

俺は今度はクレーリアさんに前に出されて、正臣と呼ばれた男性の前に出される。ちょっと、待って!この人まだ剣が抜き身状態なんですけど!?

 

 

「ん?あ、あぁ!すまない!そうだよな、剣があっちゃ怖いよな」

 

 

「ちょっと、正臣。子供を怖がらせないでよ」

 

 

「わ、悪かった。うっかりしていたんだ。君もすまないね。クレーリアを助けてくれた恩人を怖がらせてしまうとは」

 

 

正臣さんはそう言うと、剣を鞘にしまってくれた。うん、正直言って、今のこの身体と同じくらいの身長の刃渡がある剣が目の前にあれば恐怖をビンビン感じます。しまってくれてありがとう。

 

 

「僕は八重垣正臣。クレーリアを助けてくれたそうだね?ありがとう、君のおかげで、僕はクレーリアを失わずに済んだよ」

 

 

「もう!大げさよ、正臣!子供相手に、そんな事言ったら余計萎縮させちゃうでしょ!」

 

 

「うっ……そ、そうは言ってもキッチリとしたお礼を……」

 

 

目の前で、ギャイギャイ言い合いを始めてしまうクレーリアさんと正臣さん。と言うか正臣さんの方が、結構一方的に言われたい放題だな……

 

 

「わ、分かったよ、クレーリア!僕が悪かったって!そ、それよりも、そっちの子は?」

 

 

「あっと、そうだったわね。ごめんね、ルドガー君。コッチのお兄さんに自己紹介してくれる?」

 

 

「えと……はい。ルドガー・ウィル・クルスニク…です」

 

 

「っ!……クルスニクって――」

 

 

「そうね、多分そう」

 

 

んー?何かマズったか?俺何かした?

 

 

「あぁ、大丈夫よ、ルドガー君。君は何もしてないわ。ただ……うーーんと、そうねぇ。ね、ルドガー君。君のお父さんとお母さんの……うーーんと、何て言えばいいかな………昔のお仕事って知ってる?」

 

 

「?ううん」

 

 

俺は首を横に振る。そういや、知らないんだよな。いや、まぁ興味が無いわけじゃ無いんだけど、聞くタイミングを逃してたと言うか……

 

 

「あなたの名前を聞いて、正臣が驚いたのはね、君のお父さんとお母さんが有名人だからよ」

 

 

……………………

 

 

なぜか分からないが、追われている男女2名。

 

 

俺の両親はなんか有名らしい。

 

 

俺、5歳児。

 

 

……………………

 

 

あ、終わった。

 

 

俺は唐突に何かに巻き込まれる気がしてならなかった。ま、まさか、身代金要求とか無いよな?もしくは、追っ手とやらに差し出される?

 

 

って言うか!!

 

 

俺の両親、自分らが有名人なら危機管理のためにも、先に言っとけーーー!!

 

 

俺は心の中で叫びまくった。え、俺の人生終わる?エレンピオス救うっていう目的未達成のまま?

 

 

………それだけは、ダメだ!何でか分からないけど、それだけはしたくない!!

 

 

俺は何とかして逃げる算段を立てる。どうすればいい!?どうすれば、この場を切り抜けられる!?

 

 

 

 

「あーーー……………なんか、警戒させちゃってるねぇ」

 

 

「え、本当?」

 

 

「はぁ……クレーリアは本当その辺、鈍――」

 

 

「え、なぁに?」

 

 

「…………何でもないです、ゴメンナサイ」

 

 

正臣さんは、クレーリアさんから睨まれて口を紡ぐ。っていうかヤバイ。本当にこの場を何とか穏便に切り抜けられる算段が思いつかない!

 

 

俺がそんな風に考えていると、正臣さんが目線を俺に合わせるように屈んでくれた。

 

 

「えっと、警戒させちゃって、ごめんね。確かに僕とクレーリアは追われている。けどね、別にお巡りさんとかに追われてる訳じゃないんだ。それに、僕らは何も悪い事はしていない」

 

 

「………」

 

 

俺は黙って聞くしかなかった。まぁ、両肩にクレーリアさんの手が上から乗ってるからね。鍛えているとはいえ、まだまだ身体は子供だもの。大人に本気を出されたら敵わないし、絶対逃げられない。いや、マクスウェルの力を使えば分からんけども……

 

 

いやいや、待った待った。正臣さんが剣持ってるから、下手に動くと余計マズイか……

 

 

「えっと、何で追われてるかと言うとね、僕とクレーリアは恋人なんだ」

 

 

「……………………………は?」

 

 

え?なんて?今、なんて?

 

 

色んな考えを巡らせてたけど、何だか一気に毒気を抜かれた様に、俺の思考がふっ飛んだ。

 

 

「だからね、恋人」

 

 

俺は少し考え込んでから、そのまま上を見上げる。そうすると、クレーリアさんの顔が赤かった。これは、本当の反応なのか?

 

 

「だけどね、本当は僕とクレーリアは恋人になってはいけないんだ」

 

 

「ん?けど、恋人って……」

 

 

「そうだね。僕らは恋人になってはいけなかった。けど、僕はクレーリアを愛しているし、クレーリアも僕を愛してくれると言ってくれた」

 

 

「ま、正臣!こ、ここ子供に何言ってんの!!?ち、違うのよ、ルドガー君!わ、私は、えっと………そ、そう!ま、正臣は私が居ないと、寂しいって言うから!」

 

 

「あはは………まぁ、そういうわけでね。僕はクレーリアの家の人達から。クレーリアは僕の……そうだな。家の人達から追われているんだ」

 

 

「……………それでも、2人は恋人になったの?」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

「追われてるのに?」

 

 

「そうだよ。追われてでも、ダメだと言われても、それでも僕はクレーリアを好きになってしまったんだ。たとえ、何があってもクレーリアを愛する、クレーリアとずっと一緒に居たいと思ったんだ…………って、難しいかったかな?」

 

 

もう一度上を見れば、クレーリアさんはソッポを向いて、表情を隠しているが、耳まで真っ赤だった。んーと?これは、クレーリアさん、照れてるんだよな?って事は、正臣さんの話は本当って事か?けど、恋人になってはいけないってどういう事だ?

 

 

「えっと……ロミオとジュリエットみたいって事?」

 

 

「うーーん、まぁそうなるのかなぁ。ね、クレーリア」

 

 

「……ま、正臣、あ、あああ後で覚えときなさいよ!!?」

 

 

クレーリアさんの顔は驚くほど真っ赤だけど、口元は緩んでいるようにも見えた。あぁ、コレは内心では嬉しいってやつですね。

 

 

………なんと言うか、本当に毒気を抜かれてしまった。こんなのを目の前で見せられれば、警戒しているのもバカらしくなって来る。

 

 

「はは…了解。まぁ、そういう訳なんだ。っていう事で、ルドガー君。できれば僕たちの事は黙っててくれないかな?」

 

 

「うん、分かった」

 

 

「うん……ありがとう。じゃあもうお帰り。ここには、2度と来てはいけないよ?君に何かあったら、お父さんやお母さんが心配するだろうからね」

 

 

俺は考え込む。果たして、このまま2人の事を放り出して良いものか否か………

 

 

マクスウェルは当然、俺の中からさっさとここから離れろと、煩く注意勧告している。だけど、本当にそれで良いのか?

 

 

確かに、俺の目的はエレンピオスを救う事だ。それは揺らがない。コレは別にマクスウェルに言われたからじゃない。記憶には残っていないけど、多分俺の中の魂がそうしたいんだと、叫んでいるのかもしれない。

 

 

だけど、今目の前の2人の事を放り出したら、後で後悔するんじゃないか?確かに、俺の身体は子供だ。けど………

 

 

「……君は優しいのね、ルドガー君」

 

 

「え?」

 

 

クレーリアさんは再び、屈んで俺に目線を合わせてくれる。

 

 

「私たちの事を心配してくれてるんでしょ?」

 

 

「………………うん」

 

 

「ふふ、噂に聞くあの2人の子供とは思えないわね。……でもね、ルドガー君。私も正臣もこうなる事は覚悟してたわ。けど、それでも私たちは、今の『選択』をした。だから、ルドガー君は気負わないで。ね?」

 

 

 

クレーリアさんの言葉は何でか、俺の胸を締め付けた。何でなのかは分からない。ただ、どうしても今の言葉は、俺にとっては重くのしかかったみたいだった。

 

 

この2人がした選択だ。だから俺がそこに横槍を入れちゃいけない。『選択』に横槍を入れるというのは、それを選んだ人の意思を否定することになるから。けど、それでも……

 

 

頭では色々な考えが浮かぶが、子供の俺にできることの少なさが悔しくて、俺は俯いてしまう。

 

 

「……………まぁ、クレーリアを救ってくれた恩人に何もせずに帰すのは失礼かな。狭いところで良ければ、お茶くらいは出すけど………どうかな、ルドガー君?」

 

 

「ふふ、そうね。私たちも今すぐ動いたら見つかっちゃうかもしれないしね」

 

 

俺はその言葉にコクリと頷いて、ひとまずその2人に促され、小さな小屋の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Clan and Abhorring child

 

 

時刻はルドガーがクレーリア達と出会った日の、明け方まで遡る。空の端が白み始めているが、まだ闇の方が色濃い。いわゆる暁時といった時刻だろう。街に入らないギリギリの外縁部付近に数名の集団がいた。

 

 

全員が黒装束で全身を覆っており、雰囲気はどこか陰気なものがあった。全員おそらく男性なのだろう。背格好や体格は全員がっしりしており、屈強そうな体躯である。そして、目を引くのは各々が持つ長物が入っているであろう布袋だ。それぞれが普通とは違った雰囲気を醸し出し、勘の鋭い者なら遠目でも危険だと分かるだろう。

 

 

だが、ここには人目の心配は無い。時間帯もそうだが、彼らの立つ場所は人の寄り付かない廃ビルの屋上である。さらに、彼らの背後には何やら黒い物体が転がっている。高さは3mほどで、まるで小山のようである。

 

 

「………ふむ。ここで思わぬ時間を食ったな。潜伏は逢魔が刻を待つとしよう」

 

 

「しかし、よろしいので?今回は分家とはいえ……」

 

 

「よい。それ以上口を開くでない。遅かれ早かれ、こうなっていたであろうしな。………一族の恥は一族の内で納めなければ。でなくては、他の宗家に後れを取る」

 

 

「………分かりました」

 

 

『………ご…あ………………き、きさ…ま…ら………』

 

 

 

彼らの背後で小山が動いた。声はそこから出たものである。よく見れば小山を中心に、屋上の床には何やら液体が広がっていた。それは赤――というよりはドス黒い赤だった。周囲には鉄と、生き物が腐った様な臭気が蔓延し、普通であれば気分を害するだろう。

 

 

だが、黒装束の集団はそうではない。1人が振り返り、冷え切った目を向ける。

 

 

「まだ生きているか、バケモノめ」

 

 

「貴様に問おう。このビルのアチコチから人骨が見付かった。中にはこんな物もな」

 

 

そう言って年嵩の一番高そうな男性が、蠢めく小山の前に小さな白い球体を置く。否、球体と呼ぶには形が少々歪である。前面には穴が2つ空いており、その間から下方に掛けてなだらかな曲線を描き、その先は空洞になっている。さらに下へと進めば、爪ほどの大きさの白い物が、綺麗に並んでいた。それを年長者である男性が出した瞬間に、場の空気がピリッと張り詰めたものに変わる。

 

 

「貴様………子供をもその手に掛けたな?一体何人を食らった?」

 

 

『…ぜぇ…はぁ………げ、……げげ……げげげげげげ!!』

 

 

小山は笑う。その声は寒気がする様な擦り切れた声だ。だが、男性を含め、黒装束の集団は顔色1つ変えることはない。

 

 

『……げげげげ……………その…こど…もは……旨かったなぁ』

 

 

小山はニィと口が裂けた様に口角を吊り上げ笑う。だが次の瞬間、屋上に風が吹いた。

 

 

風が収まると、男性たちの立ち位置が変わっていた。それぞれが小山を挟んだ向かい側に移動していたのだ。そして、それぞれの手には、いつの間にか抜き放ったであろう太刀が握られていた。刀身には赤黒い液体が付着し、それが雫となって、ビルの屋上の床をさらに赤黒く染めていた。

 

 

『……が…は……へへ……げげげげげげ!!』

 

 

再び笑い声が響いたのも束の間であった。その後小山はズルリと崩れ堕ち、朝日に照らされ塵芥となって霧散した。

 

 

「………皆の者。犠牲者の供養を。せめてそのくらいの余裕はあろう」

 

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

そう言うと、年長者以外の男性はビルの屋内へと姿を消していった。1人残った男性は、もう一度朝日を見やり、ポツリとこぼす。

 

 

「………所詮はコレが人外へと身を堕とした者が辿る道だ。こうなってしまう前に、我らで手を下さなければ」

 

 

残っていた男性も姿を消すと、屋上には何も無くなった。

 

 

 

 

 

 

 







今回はちょい長めでした。最後の方はキナ臭い集団が出てきましたねぇ・・・

勘の良い方は分かるかもしれませんが。


さぁ、この先物語がどう動くのか。ご期待下さい!


ではでは
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