では、約一週間ぶりのお話です!どうぞ!
――ユリウスside
「あつ!あふ!……んぐ……んー、おいしい!!」
「うまい!やっぱり、柴田さんの所のたこ焼きは絶品だな!」
「……ほんと、お前らはよく食うな」
石段の中腹辺りに座り、俺はイッセーとイリナと並んで夕日を見ながら、屋台で買った食品を消費していた。商店街主催の『桜祭り』の屋台はどこも美味い。メディアが取材に来たことがあったくらいだからな。
「んー、しかし。普段は頼りない柴田さんが何で、こんな旨いたこ焼きを作れるのかは謎だな……書店を廃業して、たこ焼き屋やった方が儲かる気がするんだがなぁ」
「はは、ユリウス兄ちゃんにさんせー!こんな旨いたこ焼きが毎日食べられるなら、お店やって欲しいなぁ!」
「うんうん!確かにそうだよね!外はカリッとしてて、それにサクサクするのに、中はすごい柔らかいし!あ、それにソースが美味しいよね!」
「だからって、皿を舐めるなよ?意地汚いぞ?」
「「うっ!?」」
舌を伸ばそうとしていた二人の動きが同時に止まる。ったく……
ん?
「なんか今……?」
「ん?どうしたの、ユリウス兄ちゃん?」
「……二人は山を下りろ」
「「えぇぇ!!?」」
「早めに降りろよ?」
「なんで?」
「多分、ここら辺は危なくなるからだよ。じゃあ、俺から二人に頼んでいいか?」
「「何?」」
「俺の両親は分かるな?何とか探して、呼んで来てくれ。きっと、今は変な爺さんが一緒に居るからすぐに見つかると思う。いいな?頼んだぞ?」
俺は二人の頭に両手を置く。まぁ、少しズルい手だと俺も思うが、緊急事態だ。しょうがない。
「……分かった。すぐに戻るから、ユリウス兄ちゃんも気をつけろよな!」
「わ、分かった。ユリウスさんの両親を探せばいいんだよね」
「ああ、そうだ。頼んだぞ?」
「「うん!!」」
二人は石段を駆け下り始めた。よし、俺も行くか。
俺は、さっき聞こえた小さな悲鳴を目掛けて駆け出した。
――side out
―― 一誠side
「……」
「どうしたの、イッセーくん?早くユリウスさんの両親を見つけないと!」
「やっぱり、ユリウス兄ちゃんが心配だ」
「え、えぇ!!?」
「なぁ、頼むよ、イリナ!ユリウス兄ちゃんの両親はイリナが呼んで来てくれ」
「ダ、ダメだよ!ユリウスさんが危ないって……」
「だ、だけど、心配なんだよ!な、イリナ!頼む!今度のヒーローごっこでは、俺が悪役になってやるから!」
「う、うぅぅ……!あ、危ないことはしないでよ!?」
「分かった!ありがとう、イリナ!」
――side out
――ユリウスside
……悪い方の予想通りだな。ここの神社は何度も訪れた事がある。だから神主さんの家も知ってる。その家の扉が破壊されていた。石段を登り切って、まず目に飛び込んだのがソレだった。
そして、視線を少し動かせば、縁側付近で上段に刀を構えている老人の姿が見えた。さらにそれを距離を置いて囲むように、黒装束に身を包んだ6人の男たちが囲んでいる。老人の視線の先には、腕を既に怪我した女の人。何度か会った事がある神社の巫女さんだ。その後ろには小さくなって震えている少女が居た。何とか止めようと俺は声を上げようとする。
「やめ――」
次の瞬間、女性の体に刃が入った。老人が女性を袈裟斬りにしたんだ。宙には血が舞って、返り血が老人の顔に付着していた。
女性はゆっくりと血を流しながら後ろへと倒れた。
少女は目の前に横たわる女性の体を揺すっていた。その手には血がべっとりと付いていたが、そんな事には気付いていない様だった。
「か……あ…さま?母……様?…か…さ………ぃや……やあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!」
「……今すぐ、お前を母の元へ送ろう」
老人がもう一度刀を振り上げる。
…………何をやっている?
その子は、まだルドガーと同じくらいの歳の子じゃないか。
………何をやっている。
俺は!何をやっている!!!
「やめろおぉぉぉ!!」
「なん――がっ!?」
「もらうぞ、この刀!」
6名いた内の一人の鳩尾へと、掌底を叩き込み、刀を分捕った。ソニア
「ぐ……まさか、こんな子供に武器を奪われるとは」
「だ、誰……?」
「あんたら、正気か!?こんな小さい子に何をしようとしてやがる!」
俺は刀を構えたまま男たちへと向き合う。ちっ、出来ればもう一本欲しいところだが、仕方がない。
すると、先程女性を斬った老人が目を向けてきた。
「お主の様な年端もいかぬ子供には関係ない事よ。去れ」
「この状況で、はいそうですか、なんて言うと思うか?」
「……相手をしてやれ」
「「「「「「はっ!」」」」」」
ギィン!
「う…おっ!?」
一人が刀を俺目掛けて叩きつけるようにして、振ってくる。俺はそれを、刀を盾にして防ぐ。が……くそ!押し込まれる!
「はあぁぁ!!」
「しまっ――!」
俺は距離を放され、それぞれが武器を持った男たちが前に立つ。
「どけえぇぇ!!」
俺は再び連中に突っ込む。けど、やっぱり力不足と経験不足か!足は今にも緊張で倒れそうだし、腕も力み過ぎてる。これが、ソニア
「さぁ、今度こそ――」
「……ま…って」
っ!
俺は目を大きくして驚いた。まだあの女性は息がある。生きてるんだ!!
「むす……めは……あの人の…こども……だけ、は……」
「……その娘が原因なのだ。……すまんな」
「やめろーー!!」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
その場にいた誰もが驚いた。再びの乱入者が現れたんだから。だが、俺にとっては有難くない乱入者だ。そいつは、少女の前に立って目一杯両腕を上げて、庇うように立ち塞がる。
「お、おお、大人が!こ、こどもを苛めるな!!」
「何をやってる、イッセー!!」
そう、先程別れた筈のイッセーが乱入してきたんだ。イリナが居ないという事は、イリナだけでも親父たちを呼びに行ってくれたって事か。けど……くそっ!!
「……今日はよく童に邪魔をされる日だな。因果なものだ」
「来るなと言っただろ、イッセー!」
「し、心配だったから、しょうがないだろ!!」
くそ、無理しやがって!足がガクガク震えてんじゃねえか!何とかアイツだけでも……!
「名も知らぬ童よ。そこを退け。その気骨に免じ、逃してやる」
「い、いい嫌だ!お、俺がどっか言ったら、後ろの子を……き、斬るんだろ!?だ、だったら、どいてなんかやるもんか!!」
「貴様が死ぬとしてもか?」
老人がイッセーの顔の目の前に刀の刃をチラつかせる。くそ、あのジジイ!イッセーは一瞬後ずさるが、それでもキッと老人を睨み返す。
「ひぐっ……っ!!…ど、退かない!!こ、この子は俺が……お、俺が、ま、護る!!!」
「……見事!」
「ダメエェェェ!!!」
「イッセー!?くっ……そこをどけえぇぇぇ!!!!」
ついに、イッセーに向けて凶刃が振り下ろされる。それは、非常にスローモーションの様に感じた。振り下ろされるまでの時間が何十倍にも伸びたような、そんな錯覚に陥った。次の瞬間には、イッセーまで斬られる。そんなのは……イヤだ!!
「子供相手に何やってんのよ!!」
「……っ!」
「なっ!?」
突如森から現れた女性の横蹴りを食らい、老人は刀を取りこぼした。そして、俺を囲んでいた男たちが老人へと駆け寄る。
「ご老公!」
「ご無事ですか!?」
「大事ない。それより……」
突如現れたのは灰色の髪と、それと同じ色の瞳を持つ女性だった。そして、それに続くようにして、もう一人別の男性が現れる。伸びた黒髪を後ろに一纏めにした男性だ。
「ふぅ……一旦抜けられたねぇ。って、ちょっとタイミングがずれちゃったか」
「正臣、時間稼ぎお願い。そこの人を診るわ。利用しようとしてた手前、死なれたら寝覚めが悪いもの。連中、今頃潰し合ってるだろうから、少し猶予はあるし」
「了解」
男性は腰に差していた剣を抜く。見た目は普通の西洋剣だ。柄の所に少し装飾が施されてるが……
そして、男性は相手側と斬り合いを始めてしまった。
灰色の髪の女性は横たわって、血を流す女性の傍に座り込むと、手をかざして淡く光が出る。その傍には、さっきので気絶したイッセーが横たわっている。
そこに俺も駆け寄る。
「母様……母様!!」
「う……」
「あ、あんたは?」
「私はクレーリア。この人は今私が治療してるから大丈夫。まぁ、私の魔法だと気休め程度だけど、無いよりはマシよ。それよりも、そこの気絶してる男の子を連れて、下山しなさい」
「……ですが」
「ここはこれからもっと危険に――」
「くっ!?」
正臣と呼称されていた男性が先程の俺と同様押し込まれたのか、膝をついていた。だが、外傷は無いようだ。
「……これは、予想外にやるなぁ」
「加勢します!」
「ちょ、ちょっと、私の話聞いてた!?」
「さっきの口振りからして、まだここには人が来るんですよね?だったら、その隙乗じて、逃げます。今はそれまでの時間稼ぎをします」
「あぁぁ、もう!!分かったわよ!刀持ってるって事は、それなりに戦えるのよね!?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
俺は男性の横に並び立ち、構える。
「よろしくね、僕は八重垣正臣だ」
「はい、お願いします、正臣さん」
「じゃあ……いくよっ!」
俺は再び、黒装束の連中に突っ込んだ。
――side out
――ルドガーside
俺は石段を駆け上っていた。さっきイリナとはすれ違ったが、どうやら上には兄さんとイッセーが居るらしい。イリナには一緒に父さんたちを呼びに行くよう頼まれたが、俺は首を横に振って、それを拒否して今に至る。
イリナは泣いてたなぁ……多分、あとで凄い怒られるだろうけど、我慢しよう。今は緊急事態だ。だから、悪いけど最悪力を貸してもらうぞ、マクスウェル?
『……ふん、勝手にせよ』
ははは、ご機嫌斜めなようで……
ってか、遠目に剣戟の音が既に聞こえてる!マズイな、こりゃ。
とにかく、俺は大急ぎで石段をひたすらに数段飛ばしで蹴って駆け上がる。ようやく登り切れば、神社の神主さんの自宅だという家の前で数人の黒装束の男と、見覚えのある二人が切り結んでいた。だあぁぁ!マクスウェル、いいな!?
『……はぁ、分かっておる。とっとと、本体を具現化せよ』
「サンキュー、マクスウェル!」
俺の右腕には、中心に時計の填まった、歯車により形成された腕輪?籠手?が現れた。そのまま地面に触れ、力が一気に抜ける感覚が襲う。俺が作ろうとしているのは、いつも訓練で作っているゴーレムだ。ただ、俺はまだ上手く作れないし、ましてやコントロールなんて出来ない。だから、今はまだマクスウェル頼りだ。
「行け!!」
「な、なんだ!?」
「新手か!?」
作成したゴーレムは今の限界ギリギリの4体だ。動きは鈍いが、どうやら攪乱する事には成功したようだ!あ、でもヤバ……
これは、意識が遠のきかける。ぐ……今気を失う訳にはいかない!
「ル、ルドガーか!?一体どうなってんだ!?」
「「ルドガー君!!?」」
兄さんも、正臣さんも、クレーリアさんも驚きの声を上げる。やっぱ、正臣さん達も居たのか。来て正解だったな。
って言うか、何この状況?兄さんと正臣さんは、黒装束の連中と戦ってて、クレーリアさんは座り込んで、別の女性の治療をしてるのか?その傍に居るのは小さい女の子と、何故か気絶してるイッセー。カオス過ぎるだろ……
まぁ、でも今は!
「事情は、うっ……あ、後で説明するから!い、今は逃げる事を……ぐ……や、やっぱ、コレはキツイ……」
一気に魔力を消費したのは、やっぱり体に悪いらしい。頭がグワングワンして、頭痛も合わさって、吐き気がする。けど、我慢……
兄さんだけが、黒装束の一人を刀の鍔迫り合いから、重心をずらしながら下から押し上げるようにして、一気に押し返した。あれもソニア
兄さんは、へたり込む俺の元へ駆け寄って、顔を覗き込む。あー、そんな心配そうな顔しなくても……
「大丈夫か、ルドガー!?」
「だ、大丈夫だから。……に、逃げないと」
「そうしたいのは、山々なんだがな。あの女の人を動かすわけにもいかないんだ」
よく見れば、クレーリアさんが治療している女性が横たわる地面には血溜まりが出来ていた。なるほど、出血が酷いのか。って事は、後頼りになるのは、これを報せに行ってるであろう、イリナだけか。
「イ、イリナが、呼びに行ってくれてる……そ、それまでは耐える、よ…」
「あぁ、頼む。俺も出来る限りの事はする」
そう言うと、兄さんは再び剣戟を開始する。あー、くそ。ホントにグラグラする……
「はっはー!!逃がしゃしませんよ、クレーリア様にクソ神父!!」
いきなり、神主の家の裏手の茂みから黒いローブを纏った奴が出てきた。口振りからして、アイツがクレーリアさんの追手か!
男は、籠手から爪が生えたような武器を装着し、爪の部分には血が付着していた。返り血も浴びたからなのか、顔と色素の薄めの黒髪に付着していた。
「ちっ、もう少し猶予があると思ったんだけどね」
「はっはっはっ!教会の連中を俺に当てて、共倒れを期待したんでしょうが、残念でしたねぇ。あの程度じゃ、俺は止められねえッスよぉ?」
「あぁ、ホント、厄介ねぇ」
「む、また人外の者が増えたか。まぁ、よい。まとめて滅してくれる」
「およ?爺さん、好戦的だねぇ。まぁ、待っててよ。俺の方の仕事を終わらせちまうから、さ!」
男は武器である爪をクレーリアさんへと、振り下ろす。だけど、当然動く人物がいた。
「悪いけど、やらせないよ!」
ギィン!という甲高い金属音を立て、爪の一撃を防ぐ。男の方は、正臣さんの方を睨み付け、舌打ちをする。
「ち、まーたお前か。お前の方の追手は仲良く、お前らの言う神の御下とやらに送っといたぜ?」
「……そうか」
「いい加減邪魔なんだよ、お前は!仲良く天に召されちまいなぁ!」
「しまっ――!」
正臣さんの聖剣は、男の爪に挟まれ、真っ二つに折れてしまう。って、あのままじゃマズイだろ!!
「マクスウェル!正臣さんを!」
『分かっておる』
マクスウェルは俺の意思を汲み取って、正臣さんに一番近くのゴーレムを動かし、爪の男に向けてその太い腕を振り下ろさせる。爪の男は後ろへ飛び退いて、その一撃を躱す。
そして、グリンと俺の方へ視線を向ける。や、やばい。視線が合っちまった……
「さっきから、邪魔なデカブツだと思ってたが、お前の仕業だな、ガキんちょ?……ははぁーん、
「な!や、やめなさい!あの子は関係ないでしょ!!」
「あんたが庇うんだから、大有りでしょうがよぉ!!」
爪の男は、黒装束連中やゴーレムをすり抜け、俺へ一気に距離を詰めようとする。だが、その前に兄さんが立つ!
「やらせるかよ!」
「邪魔だっつーの!」
兄さんが爪を刀で防ぎ、すぐさま弾くことで、2撃目による武器破壊を防ぐ。
「へぇ!ただのガキじゃなさそうだ!だが……経験不足だぜぇ!!」
「何――をっ!?」
今度は爪によるフェイントを入れて、がら空きになった腹目掛けて、思いっきり蹴りを入れ、兄さんは吹き飛ばされた。
「が……はっ!」
「まぁ、ガキにしちゃ、やる方だと思うぜ?だが、お前にゃ早かったなぁ。まぁ、残念賞ってことで。……ふんっ!!」
兄さんが取りこぼした刀を、爪の男が再び聖剣同様に真っ二つにへし折った。マズイマズイマズイ!このままじゃやられる!
俺は何とかヨロヨロと立ち上がるが、バランスを崩し、片膝をつく。あ、足がうごかねえ!!
「ま、
「やめ――っ!」
正臣さんが駆け付けようとしてくれるが、黒装束の内の一人が立ち塞がる。
「はは、人間ごときと利害が一致するのは癪だが、コッチの方が楽だしなぁ。今はそれに乗せてもらうとすっか」
「や、やめろ……」
兄さんが俺の方へ手を伸ばす。けど、兄さん本人は動けないみたいだ。
「……ま、まだ、死ねない」
俺がそう言うと、爪の男はニヤァと笑う。こいつ、獲物をいたぶる趣味でもあんのか!?
「いんや、お前は今ここで死ぬんだよ。……はい、ご苦労さん」
ついに俺の方へと、爪が振り下ろされた。それでも、俺は目を閉じず睨み付けたまま、目を逸らさない。
ごめん、マクスウェル。エレンピオスは――
ゴッ!
突如として、爪の男の顔が歪んだ。大きな拳が、これでもかと言うほどメリ込み、男の顔の形を変えたんだ。そのまま、声を上げる事も許さず、爪の男は一気に吹き飛び、本殿の扉を突き破り、さらにその先の壁もぶち抜いて、本殿裏側の山の斜面にぶつかる事で、ようやく止まった。
俺は上を見上げ、拳の先へ視線を向ける。
「無事だな、ルドガー」
「父…さん?」
「よくやったな。もう、休んでいろ」
「……うん」
俺はその場に座り込んで、一気に脱力感が襲ってくる。その瞬間に俺の右腕の神器は消えて、同時にゴーレムも崩れ去ってただの土くれに戻った。
「ユリウス、お前も無事だな?」
「あ、あぁ……親父、あいつらは――」
「分かっている、喋るな。お前も休んでいろ」
父さんは赤いコートを翻して、残った敵勢力である黒装束の連中の前へと進む。
「……北欧の『拳神』か。迂闊だったな。まさか、貴様がここに居るとは」
「ふむ。どうやらご老人、あなたがこの長らしいな。私も些か好き勝手にやられて頭に来ている。今、退くのならば、見逃しもするが?」
「答えは……否だ!お前たち!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
「無駄な事を」
黒装束の6人が父さんに襲い掛かり、老人だけが再び女の子の方に襲い掛かろうとした。だが――
ガガガガガガガガ!!
「これはっ!?――ちっ、帰って来たか」
老人の行く手を塞ぐように、光る槍が上空から降り注いだ。上空を見上げれば、それをやったであろう、十枚の黒い翼を広げる厳つい顔をした男性が浮いていた。
あれが堕天使ってやつか。
「朱璃!!」
堕天使の男性はすぐさま朱璃と呼んだ女性の元へと降り立ち、顔を覗き込む。女の子が、それに飛びつく。
「父様!!母様が…ひっぐ……かあさ…ま…がぁ……」
「分かっている。済まなかった、俺が出かけてしまったために……あなたは悪魔だな?」
「えぇ、そうよ。早く奥さんを連れてった方が良いんじゃないの?私がやったのは、精々応急処置だもの」
「ああ、感謝しておく。この借りはいつか返そう。だが、もう暫く頼む。……お初にお目にかかる、『拳神』殿。済まないが、あとの事を頼んでいいだろうか?」
「ああ、問題は無い。またいつか会おう、『雷光』殿」
「感謝する」
堕天使の男性は、朱璃という女性を抱き上げる。それに対して、黒装束の老人が問いかける。
「……殺していかんのか?」
「あぁ、正直あなた方は今すぐにでも滅したい。だが、腐っても朱璃の縁者だ。今回は見逃す。時間も無いのでな」
そう言うと、『雷光』と呼ばれた堕天使は女の子と一緒に転移していった。そして、父さんは黒装束連中に向き直る。
「『雷光』殿が見逃した者達に、私が手を出すわけにもいくまい。……さっさとこの街から消える事だ」
「……そうさせてもらおう。今回は退かせてもらう」
黒装束連中は、林の中の闇に溶けるようにして消えて行った。これで、本当に敵は居なくなったわけか。はは……ようやく一安心、っと忘れてた。まだやる事が有るんだった。
動けない俺は父さんに声だけかける。さっきから、眠気が襲い始めてて、そろそろヤバいから、急がないと……
「父さん……」
「ん?どうした、ルドガー」
「ま、正臣さんと、クレーリアさんを……逃がし……」
俺はそのまま前のめりに倒れるようにして、意識を閉じた。
――side out
――ビズリーside
「ルーくん!!」
前に倒れかけるルドガーをコーネリアが受け止めた。
「コーネリア、ルドガーの様子はどうだ?」
コーネリアはルドガーの額に手を当て、熱でも測るような仕草をとる。
「……はぁ、大丈夫よ。急激な魔力欠乏症みたい。今、軽く私の魔力を渡したから、あとは寝れば治るわ」
「ふむ、ユリウス、どうだ?」
少し離れた位置に居るユリウスを見れば、既に立てるらしくフラ付きながらも立ち上がり、コッチへ歩いてくる。
「まだ、腹が痛むが問題ない。ま、気絶してない分、ルドガーよりはマシなのは確かだよ」
「そうか。さて……」
次に視線を二名の男女に移す。ふむ……片方は悪魔、片方は人間か?
「……はは、まさか本当に『拳神』と名高いビズリー殿と会えるとは思ってませんでした」
「そう警戒するな。ルドガーたっての願いだ。お前たちを逃がそう」
「……いいの、そんな事をして?私達一応、お尋ね者よ?」
「あぁ、分かっている。だから、少し汚い手を使う。……コーネリア、二人を逃がしてくる。子供たちを頼む。それとゲンドゥル殿を呼んでくれ」
「はいはい、分かりました。ユリウス、もう歩いて、大丈夫?」
「ああ、問題ないよ、母さん。っと、しまった。イッセーの事を忘れてたな」
コーネリアはルドガーを抱え、近所の子供である兵藤一誠を抱えたユリウスを伴って石段を下りて行く。あとは、ゲンドゥル殿に協力してもらうとしよう。
「ねぇ、汚い手を使うって?」
「あぁ、その事か。――お前たちには一度死んでもらう、ということだ」
◇
壊れた神社の本殿から裏手に回り、山の斜面を登る。片手には、先程の悪魔を引き摺っている。
悪魔を木に縛り、さらにそれの目の前に縄で縛り、身動きの取れなくなった八重垣正臣という男性の人間と、クレーリア・ベリアルという女性悪魔を座らせる。
ふむ、これでいいか。
「おい、起きろ」
「うっ!?」
悪魔の頬を叩き、無理矢理起こす。悪魔は呻き声を上げたが、目的通り起きたようだ。
「……は、はは……俺もついてねえなぁ。まさか、あんたみたいなのが近くに居たとはなぁ」
「黙れ。それよりも、どうせ見ているのだろう?なぁ、悪魔どもよ?」
「あぁ?何を――」
『はっはっは、さすがだな』
男の衣服の中から、一匹の小さな蛇が現れ、声を発する。やはりな……
「お得意の使い捨てか。相変わらず、旧い悪魔共というのは腹が立つ」
『そう言うな。ゆるりと話そうではないか』
「生憎と、悪魔と長々話す趣味は無い。用件だけ言っておくとしよう」
『ほう、聞こうではないか』
「今すぐ、この街から消えろ」
『はっはっは、そのつもりだよ、「拳神」よ。しかし、我らもそこで捕えられている者を何とかせねば――』
「ふむ、ではこうしよう」
ゴッ!
拳を振い、女性悪魔の方の頭を吹き飛ばす。頭部が欠損した体は、グラリと揺れ、倒れた。
「あ……あ…ク、クレーリア…?……あ、あんたは………あんたはあぁぁぁ!!」
ゴッ!
次は男の方を。私の前には物言わなくなった骸が二つ並んだ。私の手からは、二人の血が滴り落ちる。
『な…あ…』
「は、はは……こ、これが『拳神』かよ。しゃしゃしゃしゃしゃ!狂ってやがる!最高に狂ってやがるなぁ!!」
「ところで、貴様のところの悪魔は随分この街で好き勝手をしたようでな。挙句、私の子供にまで手を出した。……さて、どうする?」
『くくく、良いだろう。そこな悪魔の命なぞくれてやる。所詮は今までも多く命を奪ってきた者だ。終わる場所としては悪くあるまい?』
「本当に反吐が出るな、貴様らは」
私は蛇を掴みとり、そのまま握り潰す。本当に反吐が出る思いだ。これだから、旧い悪魔というのは好きになれん。
「さて、見捨てられた悪魔よ。貴様はどうする?聞けば、多くの命を奪ってきたそうだな。ルドガーを殺そうとしていた所も見ると、老若男女関係なくその手に掛けてきたのだろうな?」
「ははは!ああ、その通りよ!特に、今日は残念だったぜぇ?かの『拳神』の子供を殺し損ねたんだからなぁ!?しゃしゃしゃしゃ!!特に、子供を斬る時の感覚なんざ――」
ドゴッ!!
悪魔の体の中心に、ただ一撃を叩き込んだ。悪魔がいた筈の場所には、何も残らず、縛りつけていた木も倒れていた。
「相変わらず、凄まじいですね」
別の木の上から、白髪の老婆が降りてきた。彼女に向き直り、頭を下げる。
「ありがとうございました、ゲンドゥル殿。もう大丈夫ですかな?」
「えぇ、もう悪魔も覗いてはいないようですよ。っと、いつまでも
ゲンドゥル殿が手を軽く振れば、二つの屍骸は霧散し消えた。まるでそこには初めから何も無かったように。
「相変わらず見事な手際ですな」
「ほほほ、当り前です。コーネリアの師なのですから」
「そうでしたな。では、帰ると致しましょう。主神殿を待たせては悪いですからな」
「本当にそう思っていますか?」
「さぁ、どうでしょう?」
さて、あの二人は無事に逃げおおせただろうか。まぁ、少なくともこの街からは出れただろう。
私とゲンドゥル殿はその場を後にし、帰路へと付いた。
ってな感じでした!色々と過去改変しました。
で、取り敢えず、一連の騒動はいったん終了です。
あとは、後日談ですね。
序章もあともう何話かで終わり!頑張ります!
ではでは