社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ   作:スパークリング

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やっぱりレミリアと咲夜の人はダイスを振ろうとしない(主に《図書館》)。


Part.2

 あなた達観光客を乗せた船は無事に出雲の秘島に到着しました。時刻は午後2時です。

 

「とりあえず船から降りるか。多分俺が先に降りているだろ。ずっと甲板のとこで突っ立ってたしな」

 

「じゃあ次に私と咲夜が降りましょう。あら、緑がいっぱいな素敵な島ね。潮風も心地良いわ」

 

「ええ。空気が澄んでいていい島です」

 

「最後はオレたちですね。着きましたね先輩。見てください、自然豊かな島ですよ」

 

「青◯のベストスポットだね津田くん!」

 

「そうだな津田!」

 

「話を振っといて申し訳ないんですが、オレに同意を求めないでください」

 

 それぞれ思い思いに島に上陸し、最後に6人のNPCの男たちが降りてきます。感じからして全員が知り合いらしく親し気ですが、どこかちゃらちゃらとして印象を受ける若い男たちです。

 

「お、あれレミリア・スカーレットじゃないか? あの占い師の! すげー本物だ。綺麗だなぁ」

 

「連れている銀髪緑メッシュの人も相当な人だぜ!? スタイルも抜群じゃんか!」

 

「あっちの娘達も可愛いぜ!」

 

「胸が小さい娘は俺が貰うな」

 

「あ、でも男連れじゃねえか」

 

「2人も美人連れやがって……ちょっと顔がいいからってよ」

 

 といった感じで6人はタカトシたちのもとに近づいてきます。

 

「よぉ兄ちゃん、2人も美人さん連れていい御身分じゃねぇか」

 

「よかったらどっちか片方俺らに紹介してくれよ」

 

「どっちでもいいぜ?」

 

「どっちもでもいいぜ?」

 

 とか言って絡んできますが。

 

「面倒なのに絡まれちゃいましたね。一応聞いておきますが、先輩たちは乗り気ですか?」

 

「嫌に決まっているだろう。私はみんなで旅行を楽しみたいんだ」

 

「私もだよ?」

 

「じゃあ追い払います。悪いですけど話しかけないでくれませんか? 先輩たちも嫌がっています。拒絶している彼女たちを無理に連れて行っても印象は良くないですよ。他をあたってください、という感じでやんわり追い払います」

 

 タカトシがそう言うものの、往生際が悪いらしく男たちは詰め寄ってきます。

 

「おいおい兄ちゃん。んなこたねえよ。ただ恥ずかしがっているだけだっての」

 

「いいから兄ちゃんはどっかに行けよ、な?」

 

「あー……本当に面倒くさいタイプだ」

 

「助けてあげましょうか。咲夜行くわよ」

 

「またお嬢様は……あまり騒ぎを起こさぬようにお願いします」

 

「わかっているわよ。あらあら、男の人が6人も群がるなんて、あなた達は人気者ねぇ」

 

「あ……レミリアさん」

 

「さっきぶりね津田さん。天草さんに七条さんも。えっとあなたたちもこのツアーの参加者なのかしら? ってDQN共に話しかけるわ」

 

「そっす、俺らもなんすよ。あんた占い師のレミリアさんっすよね?」

 

「ええ、その通りよ」

 

「じゃあどうっすか? 俺たちと遊びませんか?」

 

「あらあら、私があなた達のような女の子の気持ちも汲み取れないようなお子様に用があると思っているのかしら? 用があるのはこっちの3人よ。悪いけどあっちに行っててくれないかしら? と言いつつシッシと手でジェスチャーするわ」

 

「は? いきなり割り込んできてなんだよ。有名人だからって――」

 

「咲夜、と呼びながら側に落ちていた固そうな石を咲夜に渡すわ」

 

「はい、お嬢様。お嬢様から石を受け取って握りつぶします」

 

 シュブ=ニグラスが石ころを粉砕することなんて造作もないことですね。きっと石は咲夜の手の中でボロボロに砕けてただの砂となっていることでしょう。

 

「咲夜、この人たちは美しい女性に目がないみたいよ。どう? せっかくだし、握手でもしてあげたら? きっと喜ぶわ」

 

「御命令ならば喜んで。すっと右手を差し伸べます」

 

「鬼だ……」

 

「これ手が粉々にされるやつね」

 

 えー、その一連の流れを見ていたDQNたちは顔を真っ青にさせて逃げるように立ち去っていきました。

 

「まったく、こんなに美しい咲夜との握手を断るなんて見る目のない奴らね」

 

「レミリアさん、その、ありがとうございました」

 

「いいのよ。ああいう面倒な連中はちょっと脅してやるのが一番効果的だもの。あなたじゃ厳しいでしょう? 彼女たちの前で暴力なんて出来なさそうだし」

 

「まぁ、そうですね」

 

「というかああいう数にものを言わせて迫ってくるような連中は男じゃなくて女が直接拒否するのがいいのよ。明確に拒絶する意思を言葉にするだけでも違うわ。あんまり男に頼ってばっかりじゃダメよ。……好きなら尚更ね、って天草さんの耳元で囁くわ」

 

「な、ななななっ……」

 

「ふふっ、バレバレよあなた。気付かぬは当の本人くらいかしらね?」

 

「レミリアさんその……」

 

「あなたもお子様ね。一目見ただけでわかったわ。彼、結構モテるでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「ああいう落ち着いている紳士的で、しかもちょっとかわいい子って今じゃ貴重よ?……彼の方から告白されたい気持ちはわかるけど、こういうのは言ったもん勝ちなのよ。ま、頑張りなさい。って感じでまたねと言いつつ少し距離を取るわ」

 

「どうしたんですか天草先輩。レミリアさんと何か話していたようですけど」

 

「なっ、なんでもないぞ津田! その……なんていうか……大人の女性だなと思っただけだ」

 

「?」

 

 さてまぁ、特に意味のないシーンを挟んだところでですね、船から降りたあなたたちのもとに2人の人物が近づいてきました。

 人の良さそうな初老の男性と、まさに絶世の美少女としか形容できないほどの美しさと抜群のスタイルを兼ね備えた茶髪の女性です。具体的には《APP》18。このセッションの十六夜咲夜並です。

 

「うわっ……」

 

「凄い美人さんね」

 

「綺麗な方ですね」

 

 えー、レミリアは《クトゥルフ神話》技能を、白夜は《アイデア》をどうぞ。咲夜の《クトゥルフ神話》技能は自動成功とします。

 

 レミリア《クトゥルフ神話》06 → 61 失敗

 白夜  《アイデア》65 → 02 クリティカル

 

 ふぇっ!? く、クリティカルですか……うーん。じゃあクリティカル効果は後程。

 まずは白夜の《アイデア》成功の情報について。ええー、白夜は彼女を見たとき十六夜咲夜と会った時と同じような疑問を抱きます。どこかで会ったことがあるんじゃないか? と思うことでしょう。

 

「だがおかしいな。十六夜さんも彼女も一度会ったら到底忘れないような美貌の持ち主だぞ。なのにこんなふわっとしているなんて。うーんと首をひねるな」

 

 そして《クトゥルフ神話》に自動成功している咲夜。あなたは確信するでしょう。今、あなた達の前に現れた彼女こそ、あなたと同じ神が生み出した分霊の内の一体だということに。彼女から邪気は一切なく、清く澄みきった温かい気を発していることから、彼女の邪神としての力が消え、今はただの人間として暮らしていることがわかるでしょう。

 

「……お嬢様に伝えましょう。お嬢様、彼女……」

 

「咲夜?……ああ、なるほど。彼女がそうなのね? 道理であんなに綺麗なわけだわ」

 

「はい、間違いないかと。あの様子からして1年前までの私と同じような状態だと思います」

 

「つまり記憶もない可能性がある、ってこと?」

 

「はい。下手に記憶を取り戻してしまったら危険です。ここは刺激を与えず様子を見ることが先決ですね。最悪私がどうにかします」

 

「お願いするわよ、咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

 さて、シーンを進めます。

 2人はあなたたちに一礼して朗らかに笑いながら自己紹介してきます。

 

「皆さん、今回はこの出雲の秘島観光ツアーに参加していただきありがとうございます。私は皆様が宿泊していただく民宿『くしなだ』のオーナーの串灘武彦です」

 

「若女将の串灘咲耶です」

 

「サクヤ? 彼女もサクヤっていうの?」

 

 はい。漢字は違いますけどね。『夜』ではなく『耶』の字です。

 

「ああ、そっちの字の方が女の子に使われるわね。というかこれは偶然なのGM」

 

 偶然です。シナリオに本当にこの名前で載っていますから。面白いくらいに重なってしまいましたね。

 閑話休題。

 自己紹介を終えた2人は笑顔であなた達を民宿『くしなだ』に案内します。民宿『くしなだ』は船着場から5分も歩かないところにある小さな宿屋さんです。木造の古き良き日本家屋のようですが綺麗に保たれており、この島の観光ツアー始まって以来、客は皆ここに下宿しているみたいです。

 さて、何事もなく宿屋に到着したあなたたちに、オーナーの武彦がこの民宿『くしなだ』についての説明をします。

 

「皆さん、ここでのお食事、そしてご入浴のお時間を説明させていただきます。朝食が8時、夕食が18時です。ご入浴時間は16時から23時まででございます。時間厳守でお願いします」

 

 次にこのツアーの注意事項の話をします。

 

「それからこれは必ず守っていただきたいのですが、この島のメイン観光スポットの『神樹の森』には必ずガイドを同伴させてください。それから日没後の『神樹の森』は絶対に入らないようお願いします」

 

「はい、質問したいわ」

 

「なんでしょうか?」

 

「ガイドを連れても入っちゃいけないの?」

 

「はい。ガイドに頼んでも応じることはないでしょうが、絶対に入らぬよう、よろしくお願いします」

 

「あらあら。じゃあなんで入っちゃいけないのかしら? なにか訳ありなのかしら?」

 

 レミリアが武彦に訊くと、彼は真面目な顔をして告げます。

 

「夜の神樹の森は『ミツクビ様』が活動する場所。不用意に森に入ろうものならば『ミツクビ様』の祟りを受けてしまいます。よって、夜の森への立ち入りを禁止しています」

 

「まぁ、それは怖いわね」

 

「『ミツクビ様』の祟りねぇ……」

 

「その『ミツクビ様』とはなんですか?」

 

「『ミツクビ様』はこの島に古くから存在する荒神様です。詳しくは郷土資料館に立ち寄って調べてみてください。資料館には他にもいろいろな資料や文献が展示されていますので、きっと楽しんでいただけるはずです」

 

 ちなみにあなたたちAグループのツアー2日目は完全に自由行動ですので、好きな場所に行くことができます。1日目はプログラムが組み込まれていますので、あんまり自由行動はできません。

 

「そうか。じゃあ明日にでも行かせてもらおう」

 

「そうねシノちゃん。興味が出てきちゃったわ」

 

「是非とも足を運んでください。そして何度も言いますが、夜の神樹の森には行かないようによろしくお願いします。私からの話は以上です。Aグループの方は1時間後、このロビーに集合してください。メイン観光スポットの神樹の森に向かいます。Bグループの方は本日、自由行動となりますので、どうぞ自由に島を散策なさってください」

 

 といった感じで解散します。さて、1時間ほどあなたたちAグループは自由時間が設けられますが、何かやりたいこととかありますか?

 

「とりあえず荷物を置きに行きましょう。自分の部屋に行きたいです」

 

 あ、それは全員済ませたことにしといてください。部屋に関してなんですけど何か要望はありますか? 基本的に1人1部屋ですけど、希望するなら複数人で泊まることができますよ。

 

「あ、そう? じゃあ私は咲夜と一緒の部屋に泊まるわ」

 

「お供します、お嬢様」

 

「俺は1人でいい。連れはいないしな」

 

「オレたちは……オレだけが1人部屋ですかね」

 

「いやいや津田、そんな寂しいことを言うな。みんなで一緒の部屋にしよう」

 

「うんうん。私もシノちゃんも津田くんのことを信用しているからね。大丈夫だよ。……あ、でも私達と一緒だと津田くんソロ活動できないね」

 

「私の配慮不足だったか」

 

「あーオレ先輩達と一緒に泊まりたいなー!」

 

 じゃあその部屋割りにしておきましょうか。それでどうしますか?

 

「民宿のロビーには新聞とかが設置されているでしょう? メジャーなやつからその地域特有のものまで。そこでこの島のことが多く取り扱われている新聞を手に取って読むわ。こういうところって結構古い新聞なんかも残っているわよね? 可能な限り新聞を読んで情報収集しながらこの時間を潰す」

 

「では私もお嬢様と一緒に読み物をしましょう。お嬢様が新聞なら私は雑誌です。本棚もあるでしょうから、この島のことについて取り扱っている雑誌を手に取って読んでみます」

 

「さて、新聞には何か書かれていないかしら? 例えば『ミツクビ様』の祟りについてとか」

 

 ではレミリアは新聞を読んでいると、『観光客の変死体発見 ミツクビ様の祟りか』『観光客が行方不明 夜の神樹の森に入ったのか』などの見出しを過去の新聞からいくつも見つけることができました。

 記事や島民の反応からして、こういった事件は日常茶飯事らしく、警察も匙を投げている状態でまともに捜査していないことが見て取れるでしょうが、この失踪・変死事件は、この島の観光客に対して夜の神樹の森に決して入らないことを呼びかけ、徹底し始めたことをきっかけに、言いつけを守る観光客の協力もあって、減少傾向にあるようです。それでもちまちま起こっているのは、失踪や変死した観光客が素行の悪い客で言いつけを守らずに夜の森に足を踏み入れたからだと記事に載っていました。

 

「あらあら……物騒なことね。まぁ、要は夜の神樹の森に入らなければいいだけでしょう? こんな危険を冒してまで行く必要はなし。大人しく言いつけは守るわ」

 

「私の方からは何かありませんか? 私はこの島の精霊に関する記事がないかを探ります」

 

 では咲夜は雑誌の1ページに島に伝わる精霊に関する記事を見つけることができました。

 精霊は神樹の森にある巨大な御神木である生命の木に宿るとされている、いわゆる木の精で、その木の精の行動は生命の木の意志であると掲載されています。

 邪な木の精は黒き子山羊の姿で現れ、森に迷い込んだ人間を贄として喰らい、聖なる木の精は銀色に輝く長い髪の毛を靡かせる絶世の美少女の姿で現れ、森に迷い込んだ人間を森の外に無事に返してくれる、と書かれています。

 

「これ完全に私のことですね。正しくは私と同じ存在のことですが。なんにせよ、この生命の木を一度見てみないことにはまだ何とも言えませんね」

 

 さて、レミリアと咲夜はロビーで調べ物をしていますが、他の人はどうしましょうか?

 

「私は特に何もしないな」

 

「私も特には」

 

「オレもないですね。ロビーで談笑しながら時間でも潰していましょうか」

 

 わかりました。白夜はどうします?

 

「俺は咲耶……ああ、串灘咲耶に話しかけようかと思う。彼女は今、どこにいる?」

 

 ロビーで接客中……というか絡まれていますね。港で役員共に絡んでたDQN共に。困った顔をしながら対応しています。

 

「はぁ……面倒だけど出来るだけ早く彼女と話をしておきたい。噂の真偽も確かめるためにも、島民と親しくしておいた方が話してくれるかもしれないからな。というわけで俺は串灘咲耶に近づいて話しかける。DQN共はいないものとしてな。あのちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「え、ええ? あ、はい。なんでしょうか?」

 

「今日これから神樹の森に行くんだが、明日も行くことってできるのかい?」

 

「あ、ああ、ツアーのことですね。今日行くということはAグループのお客様でしょうか?」

 

「そうそう。俺は夢幻の白夜っていう者だ。3日間よろしくお願いするぜ」

 

「こちらこそ、串灘咲耶です。まだ至らぬところもありますが、精一杯ご奉仕させていただきます。よろしくお願いします」

 

「ああ。それでさっきの質問なんだがどうなんだい?」

 

「えっと、それはですね――」

 

 とここら辺であなたと串灘咲耶のやり取りを見ていたDQNが割り込んできます。不機嫌そうな顔でですね。

 

「おいおいオッサン、今は俺たちと咲耶ちゃんが喋っていたんだぜ? 割り込んでくんじゃねーよ」

 

「オッサンって……まだこれでも30代だぜ? 四捨五入すりゃあ40だけどよ。年上には敬意を払いな。それから、今俺と彼女の会話に割り込んできた君にはその台詞を言われたくはないぜ」

 

「いいからすっこんでろよ。んなこと咲耶ちゃんじゃなくってオーナーとかに話せばいいだろ?」

 

「近くにいたのが彼女だったから尋ねたまでさ。それに彼女は見るからに困っていたからな。男6人に絡まれてよ。人助けってやつだぜ?」

 

「は? てめえいい加減に――」

 

「じゃあ彼女に話を聞いてみようぜ? 串灘さん、この人たちに何されてた? どう感じた? という感じで《説得》してみよう」

 

 白夜《説得》72 → 08 成功

 

「そ、その……はい。その、私仕事に戻ろうとしていたところだったんですけど囲まれてしまって……それで、今日暇だから友達を紹介してくれって言われて、でも私にはお友達なんていないからって断ったんですけどそれでも……」

 

「ぶっちゃけた話、迷惑してたんだな?」

 

「……はい」

 

「だってさ。彼女は嫌がっている。しつこい男と馴れ馴れしい男は嫌われるぜ? ほら、どっか行った行った」

 

「……ちっ、つまんねえの」

 

 男たちはぶつぶつ文句を言いながら立ち去りました。

 

「ふぅ、面倒な連中だぜ全く。観光ツアーをお見合い大◯戦かなんかと勘違いしてんじゃねえよっと。さて、話を戻そうか。今日行った後に明日また神樹の森に行けるかい?」

 

「あ、えっとですね。申し訳ございません。それは出来ません。案内してくれる人が1人しかいらっしゃらなくて、明日はBグループのお客様のみのご案内になります。ですのでAグループのお客様は申し訳ございませんが本日のみの観光となります」

 

「ふーん、わかった。わざわざ答えてくれてありがとうな。それじゃあまた。これで俺の行動は終わりだな。とりあえずいい印象は与えられただろう。明日は自由行動だし、ゆっくり調べるとするぜ」

 

 あ、白夜が立ち去ろうとするとですね、串灘咲耶があなたを呼び止めます。

 

「あ、あのっ、その……夢幻さん」

 

「ん? なんだ? ていうか白夜でいいぜ。変な名前だしな」

 

「では私も咲耶で構いません。父も串灘ですから。困っているところを助けてくれてありがとうございました」

 

「ああ、いいってことよ。こういう性分だしな」

 

「それでですね、あの……ちょっとこっちに来てもらっていいですか?」

 

 と串灘咲耶は人差し指を民宿の一角に向けてお願いしてきます。彼女が指差す先には従業員以外立ち入り禁止の張り紙が貼られている扉がありました。

 

「他人に聞かれたくない質問ってか? まぁいいや。ああ、いいぜと言いながらその扉の向こうに行く」

 

 扉の向こうは小さいソファーが2つ対になるように机を隔てて設置されている簡単な作りの一室です。従業員専用の休憩所のようですね。

 

「そちらにおかけください」

 

「じゃあ座ろうか。それで、どうして俺をこんなところに?」

 

「あの……変な質問になっちゃうんですけど……。白夜さん、昔、私とどこかでお会いしたことはありませんか?」

 

「! まさか向こうからその質問をしてくるとはな。どう返すか。……。…………。……決めた。ここは俺も話すとしよう。ああ……実も俺も同じことを考えていたよ。君とどこかで会ったことがあるんじゃないかってな」

 

「! じゃ、じゃあっ!」

 

「でも多分そりゃ気のせいだ。俺は職業柄、記憶力が良い方だ。一度会った人の顔だったら間違うことはほとんどないと言っても過言じゃない。そんな俺がだ、君みたいな絶対に忘れるはずもないほど綺麗な女性を忘れるはずがないんだよ。だから気のせいさ」

 

「そ、そんな……」

 

 串灘咲耶はしょんぼりとしてしまいます。

 

「そこまでショックを受けることなのか? というかなんで君は俺と昔会ったことがあると思うんだい? 歳だって離れているだろう? 俺は36だぞ。君はいくつだ?」

 

「じゅ、17……だと思います」

 

「だと思う? どういうことだ?」

 

「実は私……1年以上前の記憶がないんです。気が付いたら森の中で倒れていて……」

 

「待て待て待て。そんなこと、俺に話していいのか? 今日会ったばっかりの赤の他人だぜ?」

 

「でもなんとなく思うんです。白夜さんは昔私と会ったことがあるって。きっと私のことを知っているって。きっと以前、この島に訪れたことがあるんじゃないですか? きっとその時に!」

 

「……確かに俺は一度だけ、この島に来たことはある。だがそれは俺がまだガキだった頃の話だ。30年ほど前の昔だ。その時にはまだ君は生まれていない。どうやっても会えないんだよ」

 

「え……」

 

「君にとってとても大事な話をしてくれたのはわかる。だが俺は君に協力できそうにない。一応聞いておくが、君はお父さんから虐待でもされているのかい?」

 

「そんな! 虐待なんてとんでもない! お父さんは確かに、私の本当のお父さんじゃありません! でも、私のことを本当に大切にしてくれる良い人です!」

 

「だろうな。俺から見ても君のお父さん……武彦さんは良い人そうに見えたよ。失敬な質問しちゃって申し訳ない。でもこの質問で君がこの状況に不満を持っていないって言うことはわかったよ。お父さんからは大切にされているし、君自身もとても魅力的だ。昔の記憶がなくても充分幸せになれるだろう。なのになぜ過去のことを思い出そうとする? 記憶喪失はよほどのことがない限り起こりえない重い精神疾患だ。過去のことを思い出せば君自身が苦しむかもしれない。それでも思い出したいのかい?」

 

「……はい。同じことをお父さんに言われましたけど、それでも知りたいんです。私が誰なのか、どうして森の中で倒れていたのか、何があったのか、知りたいんです。そんな何も覚えていない私ですけど、白夜さんを一目見たときから直感ですけど思ったんです。きっとこの人とどこかで会ったことがあるって、この人と話してみたら記憶が戻るんじゃないかって。だからお願いです。この島にいる間だけでも結構です。私の記憶を取り戻すためのお手伝いをしてくれませんか?」

 

「はぁ……こう頼まれちゃあ、断れないよなぁ。手伝いって、具体的にどうすりゃいいんだ? 俺はそういう医療知識は持ち合わせていないぜ?」

 

「その……私と会ったことがないかどうか、もう一回思い出してもらってほしいんです。きっとどこかで会ったことがあるとおもうんです。お願いします。

 

「それだけでいいのか? じゃあ、まぁ、わかった。部屋でゆっくりしている時とかに思い出してみるよ」

 

「ありがとうございます。私も協力できることがあったら協力しますから、どうか、お願いします」

 

「……一応、俺としてもありがたい言質は取ったな。わかった。そういうことなら協力する。とりあえず今はこれくらいにしておこう。あと何分もしないうちに俺は神樹の森に行くからな。そこで何か思い出すかもしれないし、まぁ、期待しないで待っていてくれよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「ということで、今度こそ俺の行動終わりだ」

 

 わかりました。では時間がやってきました。

 Aグループに所属している皆さんは全員ロビーに揃っていますね。ではオーナーの串灘武彦が笑顔で対応してきます。

 

「皆さんお揃いみたいですね。ご協力ありがとうございます。それではこのツアーの目玉スポットの神樹の森にご案内します。皆さん、私の後に続いてください」

 

 というわけで、武彦はあなたたちを案内します。

 

 

 

 

     ――To be continued…

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