君に捧ぐ唄   作:死姫

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1話 運命の歯車

 

「はぁ。・・・久々だ」

溜息を吐きながら手荷物を下ろし、古い長屋造りの家を眺める桐谷 奏。

冬に亡くなった父方の祖父の残した家。本来なら一人息子の奏の父が引き継ぐのだが、奏が幼い頃に亡くなって男は奏しかいない。そんな訳で母親から追い出されるように、奏は田畑に囲まれた「五月雨村」に住む事になった。

(なんで、俺なんだよ・・)

心の中で文句を言いつつ、荷物を持ち直し玄関まで進む。引き戸を引いた所で・・・。

ガタッガタガタッ

「・・は?」

・・・・玄関が開かない。

不思議に思い鍵穴を見ると、見慣れた差込口は無く、ただ鉄の丸い物が埋め込まれている。暫く首を傾げた奏は、思い出したかのように頭を抱える。

「爺ちゃん家・・・、内鍵だった」

今時田舎でも珍しく、内側からしか締めれない構造。つまり、家を空けたら基本開けっ放しである。

「くっそー・・・、鍵屋呼ばなきゃ・・って!俺の荷物は⁉︎」

そう言って奏は庭へ回ると、縁側の前に堂々と自分が送った荷物が置かれている。呆然とした目に飛び込んできたのは、上に貼り付けられた1枚の紙。

 

『今日は天気も良いので!

ご利用、ありがとうございます♪」

 

「『♪』、じゃねーよ!!何考えてんだよ!!配送業社!!」

憤りを叫びながら、紙をくしゃくしゃに丸めてから投げ捨てる。暫く治らない怒りを息に変えて吐き出し、落ち着いたところで奏は荷物を縁側から中へと運ぶ。

縁側からすぐに居間があり、右には台所、正面からは裏口に繋がる土間となっている。左の戸を引いて廊下を進めば、奏が利用する予定の部屋がある。一応親戚の女衆が掃除をしていてくれたお陰で、家の中は主不在とは思えぬ程綺麗である。

 

家に荷物を入れ終わり、奏は一息つく。そして物が無くなった庭を見回し、角に立つ仰々しい蔵を見る。

「・・・なんで蔵だけ、白壁造りなんだよ。家も豪華にしろよ、爺ちゃん」

そう独り言を洩らしてから、ゆっくりとそれに近付く。

すると、視界の端に飛び跳ねる物が映る。

「あ?・・・・・・はぁ、またかよ」

顔を向けたそこにあったのは、目と口が付いた『皿』と『茶碗』と『スプーン』だった。

「おい、お前!そこを気安く開けるんじゃねーよ!」

「「そうだそうだー!!」」

「・・・・・・あっそ」

たった一言で一蹴し、奏は蔵を開ける。奏にとって、目の前の事象は日常茶飯事で、特に驚く事もないのだ。

「なっ、なんだ?こいつ、俺らの事認識できてるのに、ビビらねーぞ?」

「な、なんで・・・だろー」

「もしかして、あたい達をオモチャか何かと勘違いしてるんじゃないのかい?」

「・・・ちげーよ」

「「「うわーっ!!」」」

横で騒ぐのが鬱陶しくなり、奏は疑問に答えてやる。その反応に後退り、皿が前に出て話し出す。

「・・あんた、俺らのこと、わかんのか?」

「あぁ。大方、付喪神だろ?」

「「「お、おぉーっ」」」

驚きに声を上げる三匹に、頭をかきながら奏は尋ねる。

「で、お前らの言う『気安く開けるな』っての、何?」

「そ、・・・それは〜」

「その〜・・・の〜」

事情を言いたく無さげに顔を見合わす皿と茶碗。逆にスプーンは話したげに口をもごもごしている。それを察した奏は、スプーンを指さす。

「はい、スプーン」

「はい!あたい達とは比べものにならないくらいの妖気が、そこから感じるからです!!」

「「バカーー!!」」

「ふーん・・・」

言いたい事を理解した上で、奏は1度頷いてから蔵の中へと足を進め、ガタガタと音を立て出す。

そんな行動に驚きながら、付喪神達は蔵の中の奏に飛び付く。

「まっ、待ってくだせぇよ!あんただって、俺らを視認できるなら霊感とか持ってんでしょ?ここの蔵の中のヤバイ空気、感じやせんか?」

「いや、わからんでもないが・・・、そんな慌てるほどかよ?爺ちゃんが趣味で集めた、巻物か妖刀か・・・。そんなんだろ?」

「だーめー・・・本当、だーめー!」

「呆気なく言っちゃったあたいが悪いけど、本当にまずいんだってば!」

背中や足に貼り着き騒ぐ付喪神達を適当にあしらい、奏は大きな木箱を開けて中を漁る。

「はいはい、わかったわかった。これ見たら一旦止めるから」

「一旦しか止めてくれねぇんですか⁉︎」

「良いだろう?ここ俺の物になったんだし。ほら、こんな腐った札しか・・」

「「「うぇーーっ⁉︎」」」

三人の反応に「ん?」と自分の挙げた右手に目をやる。その手に握られたのは、1枚の古いお札。

「あ・・・、ヤバイかも」

「「「うそーーんっ!!」」」

付喪神達が顔を青ざめたのに苦笑した奏の顔を、突如眩い光が照らし出す。

「うわっ!」

「「「ぎゃぁぁっ!!」」」

薄眼を凝らして前を見ようとする奏に、誰かの声が呼び掛ける。

 

『妾を起こしたのは・・・そなたか?』

 

その声は付喪神達にも聞き取れたのか、皿が足元から声を上げる。

「これ、答えない方が・・」

「あっ、俺です」

「「「なんでーーっ!!」」」

奏がごく当たり前のように答えると、光は一気に霧散する。

かざした腕をゆっくり下ろして、奏は目を開ける。そこにいたのは、

「そなたじゃな?長き眠りから妾を起こしたのは?」

赤い椿の花をあしらった着物を纏い、尖った獣耳を頭にはやし、長い尾を腰から持ち上げる、美しい女性が立っていた。

 

「う〜ん・・・、良く眠ったの〜♪お主、煙管は持っておるか?」

大きく背伸びをした女性は、奏に手を出し呑気に喋る。女性が恐ろしいのか、付喪神達は奏の影に隠れる。

「あの〜・・」

「ん?なんじゃ?持っておらぬか?」

「いやいや、そうじゃなくて・・・あんた、誰?」

「「「ーーーーーーっ!!!」」」

声を殺して驚く付喪神を他所に、奏はいつもの調子で女性と向き合う。そんな奏に目を丸くした女性は、物珍しそうに彼を見つめる。

「お主・・・、妾が怖くないのか?」

「いや、その前にあんたが誰だかわかんないと・・・。俺、見えるだけで全然知らないし」

「はぁ〜〜・・・・くふっ!あーーはっはっはっはっ!!」

そんな返事が可笑しかったのか、女性は急に声をあげて笑い出す。そして少し不機嫌そうな表情を浮かべる奏に顔を寄せ、ニッコリと微笑む。

「お主、面白いな」

「はぁ、そうっすか」

「顔も・・・妾好みじゃ♪」

「はぁ、そうっすか」

「よかろう!」

「何がっすか?」

「妾は、・・・お主のモノになろうぞ♪」

「ふーん・・・・・・・・、今なんて?」

長い間を置いて奏が聞き返すと、女性はその笑みを絶やさず、改めて言い放つ。

「妾の名は『葛の葉』。大妖怪、妖狐 葛の葉ぞ!今より妾は、お主のモノじゃ!!」

「「「えぇぇーーっ!!!」」」

「・・・・えー」

出会ってしまった二人。

霊感少年と大妖怪の物語の、幕開けです。

 

 

長閑かな村に夜が舞い降りる。

一人暮らし初日から怠けぬように、奏は台所に立ち、鍋をゆっくりかき混ぜてから蓋をする。火を弱火にし、炊飯器を確認してから息を吐き、居間へと足を運ぶ。そこには・・、

『なんでそうなるねん!!』

『あいたーっ⁉︎』

「あはははははっ!面白いのー、この『テレビ』とやらは!」

「ほんとっすねー、姐さん!」

「お、おもしろいー・・」

「あたい、こんなに楽しいの初めてー!」

文明の進歩を楽しむ妖怪が一人と三匹。

ほんの数十分で終わった一人暮らしに溜息を吐き、奏も妖狐の隣に座る。

「おっ?夕餉はできたのか、奏?妾、300年振りじゃから楽しみじゃ!」

「はぁ、そりゃー良ござんしたね」

ちゃぶ台に頬杖をつき、奏は数時間前の出来事を思い返す。

 

蔵の中、自信満々に豊満な胸を張っている大妖怪様に、奏は手を挙げて質問する。

「あのー・・・、なんで俺のモノ、なんですか?」

「ん?お主が封印の札を取ったのじゃろう?ほれ、その手にあるものじゃ」

「あー、ね。・・・それで、俺に付き従うとかってヤツ?」

奏が手の中のお札に目を向けながら聞き返すと、妖狐の女性は不機嫌そうに顔をしかめる。

「なんじゃ、付き従うとは!妾はお主の従者になった覚えはないぞ?」

「じゃあ、なんっすか?」

「お主の妻じゃ♪」

「・・・・・・えー」

何を間違ってこうなったのか理解できないでいると、女性は視線を奏の後ろへと向ける。

「それで?そこにおる者達はなんじゃ?」

「ん?あぁ、これはそこで・・」

見つけたと続ける前に、妖狐の女性から異様な妖気が放たれだす。それを見た付喪神達は「ひぃ!」と小さく悲鳴をあげその場にへたり込む。そして普段何事にも動じない奏も、その恐ろしさに鳥肌を立てる。

「まさか・・・、そなたに取り憑いておるのではあるまいな?」

「あ、あの・・・その・・」

「ん〜?」

さっきまで1番良く口を動かしていた皿も、恐怖のあまり上手く喋れないでいる。

流石に不味いと、奏が付喪神達を庇うように手を広げ、口を開く。

「ま、待った待った!こいつらはさっき俺に懐いてきたー・・・そう!俺の子分だから!」

「「「え?」」」

驚いて自分を見る付喪神達に、奏は小さく「合わせろ」と言う。すると皿を筆頭に三匹は頭を下げて、妖狐の女性に弁解する。

「そ、そうでさぁ!俺ら、旦那の子分でして!」

「そ、そー・・・そー!」

「あたいらは旦那と共に生きるって、さっき誓い合ったんですー!」

必死に頭を下げる姿に納得したのか、妖狐の女性の妖気は徐々に治まっていく。

「そうか。ならば妾の旦那様の為に、その命を捧げよ!」

「「「ははぁーー!!奥方様!!」」」

「・・・なんで、そうなってんだよ」

一人文句をたれる奏とは裏腹に、女性の方は喜びに顔を緩ませる。

「よいよい。じゃが、妾の事は『姐さん』と呼ぶがよい。『奥方』じゃと年寄り扱いされておるようで好かぬ」

「「「わかりやした!!姐さん!!」」」

「うむ!」

「・・・どこのヤクザだよ」

三匹に頷くと女性は、奏へと顔を向ける。

「そうじゃ。妾はお主の名が知りたいぞ?」

「あぁ、そうか」

まだ名乗ってなかったことに頭をかき、奏は自分の名を告げる。

「俺の名前は、桐谷 奏。奏と呼び捨てでいい。代わりに俺も敬語はやめさせてもらう。えっとー・・・く、ずの、は?」

「『葛の葉』じゃ、奏!ちゃんと覚えぬか!」

頬を膨らます葛の葉に、奏は少し考えてから意見する。

「なんか呼び辛いんだよ、その名前。なんかないのか?」

「呼びづら・・、なんでじゃ!むぅー!!・・・ならば、お主がつけよ!」

腹立ち加減に提案してきた葛の葉に、「いっ!」と顔しかめた奏。しかし言い出したのは自分と諦め、顎に手を当て葛の葉に目をやる。

しばらく悩んでいた時、着ていた着物の柄に目を止める。そして、一度手を鳴らしてから指をさす。

「じゃあ、『椿』!その着物の柄から悪いけど・・・。でも、それ良く似合ってるし!」

「・・・椿・・・この、花か」

自分の羽織った着物を見て納得したのか、葛の葉は笑顔で応える。

「うむ!気に入った!妾は今日より『椿』と名乗ろうぞ!」

「うん!じゃあ、よろしく椿!」

「うむ!末長く共にしようぞ、奏!我が旦那様♪」

「いや・・・それ、もういいから」

二人の話がまとまったところに、付喪神達が手を擦りながら寄ってくる。

「あのー、旦那。俺らにもーそのー、名を頂けないでしょうか?」

「・・・そうだな。呼ぶ時『皿』とかは、ちょっとな。じゃあ〜・・・」

椿の時とは違って即座に思い付いたのか、奏はそれぞれを指さし、命名する。

「『皿』のお前!『サラー』!」

「へい!」

「『茶碗』!お前は、『ワン』!」

「は、はいー・・」

「最後に『スプーン』!女っぽいから『スプー』!」

「はい!」

「じゃあ、そういう事で!」

「「「ははぁーーっ!!」」」

余りにもかしこまって頭を下げてくる三匹に、奏は少しだけ後ろめたさを感じた。・・・与えた名前が、初めてやったRPGで適当につけたキャラクター名をそのまま与えたからだ。

(ま、まぁ、喜んでるし・・・、素材に絡んでるし・・・いいか)

喜びに跳ね回る付喪神達に、心の奥底で謝ってから、奏は蔵から出て行った。

 

 

「のうのう、奏〜?そろそろ腹が空いたぞ〜?」

「ん?あ、あぁ。もういいか・・」

思いに耽っていたところを現実に引き戻され、奏は台所へと移動する。コンロの火を消してから中を確認し、皿を出してからご飯を盛りつけ鍋の中身をかける。それを居間へと持っていき、椿の前へ1つ置いてから腰を下ろす。

「・・・なんじゃ?これは?」

「は?カレーだけど、知らね?」

「うむ・・」

添えられたスプーンで突っつきながら、椿は首を傾げる。それを見ながら笑みを浮かべ、奏は一口頬張る。椿も警戒しながら掬い上げ、口の中へと放り込む。

「・・・っ!旨ーっ!!」

その味が気に入ったのか、椿は行儀も気にせず皿の中のカレーを貪りだす。

「うまっ!うっま〜い!なんじゃ、これは?いつの間にこんな食べ物ができたのじゃ!うまーっ!」

「なんか、お前といると新鮮だな。テレビといい、カレーといい・・」

カレーを食べる椿を眺めながら、奏も残りに手をつける。すると、今迄黙っていた付喪神達が、奏の袖を引っ張り口を開く。

「あのー旦那。俺らにも、飯を頂けません?」

「・・・はっ⁉︎お前ら、飯食うの⁉︎」

驚く奏に付喪神達は一斉に頷く。それを横目に見ていた椿が、皿を舐めながら喋り出す。

「お主はそやつらに名をくれてやったのじゃ。それによりそやつらとお主の間に主従の契りが交わされた。その為、お主は主人としてそやつらを養ってやらねばならなくなったのじゃ」

「それで・・・、飯?」

「そやつらにとっては、それが糧で良いのじゃろう。場合によっては別の糧を要求される場合がある故、気軽に名などくれてやるなよ?」

その言葉に、奏は腕を組んで頷く。しかしある事に気付き、奏は椿の方を向く。

「まてまて!お前にも名前はつけたろう?じゃあ、お前とも主従関係になったのか?」

それを聞いた椿は、舐めていた皿をちゃぶ台に置いてから話し出す。

「妾は元々名を有しておった。新たに名をつけられたところで、主従の契りが成立するものか。それに、妾はお主の嫁となると宣言したのじゃ。望んでもおらん主従の契約など、成される筈がなかろう?」

「いや、なかろう?って言われても、俺詳しくないし・・」

「まぁ、追々必要になれば色々と教えてやろう。とにかく、契約したからには糧を与えぬと、そやつら死ぬぞ?」

それを聞いては知らぬふりも出来ないと、奏は立ち上がる。その目の前に椿は空の皿を突きつけ・・、

「おかわりじゃ!!」

と満面の笑顔を向ける。

苦笑してからそれを受け取り、奏は台所へと移動する。

奏がカレーを準備していると、なにかを思い出したように、椿が背中へと声をかける。

「そうじゃ。ちと忘れておったのじゃがな・・・」

「はぁ?」

「ここら一体、淀んだ空気を方々に感じる。放って置けば、お主の周りに災いが訪れるぞ」

「・・・・・・・・・・はい?」

悪戯な笑みを期待し椿へと振り返った奏は、その真剣な顔に緩んだ頬を引き締めた。

 

 




こういった話を書いてみたかったので、投稿してみました!

とりあえずこちらも、よろしくお願いします!
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