艦これーテンプレー   作:くれないのタコ

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ずいずい


1話目

 

ーーー提督が、鎮守府に着任しました!これより艦隊の指揮に入ります!

 

 

「…ん?」

 

目の前に広がる風景に、その男は瞼をぱちくりと上げ下げして呆然と突っ立っていた。

 

海。果てしない海が広がっている。空は雲一つない快晴で、爽快な潮の匂いが鼻を刺激する。

 

(…風が気持ちいい…)

 

男は何となしにそんなことを思ったりしてみて、そしてあたりを見渡した。

 

「…ここは…堤防?」

 

堤防。堤防だろう。海から陸伝いに作られた人工物は、波をことごとく遮る壁となって立ちはだかっていた。男はその上で、あほみたいに突っ立っていたらしい。

 

堤防のさらに向こう側には、木でできた…一昔前の学校のような建物が建っていた。その他にも工場のような様相の建物がいくつか連なっているようだが、その全容は深い木々に遮られて明らかにはならない。海からすぐ森へと移り変わっているようで、その中に紛れるように建てられているらしい。

 

「…俺、確か、志向のオフトゥンにくるまって眠ってたはず…なんだけど」

 

どうやらそうらしい。男の記憶では、自分の部屋の天井が最後に見た景色であるはずなのだ。

 

それが、どうしたことだろう。海だ。それも快晴の下の海だ。男は思いっきり新鮮な海の空気を肺に貯め込んで深呼吸した。

 

すがすがしい気分になれた。

 

「そういえば、最近仕事ばっかりで休みなかったもんなー。あ^-、癒されるぅ」

 

しかしそれどころではないのではないか。この男、非常にマイペースである。

 

「---さーん」

「…ん?」

 

ここで男は視界の端に、こちらに向かっている何かを発見した。そちらに目を向けてみると、小さな女の子が走ってきていた。

 

「司令官さん!」

 

目の前で止まったその少女は、肩で息をしながら男を見上げた。

 

「…えっと…君、誰だっけ?」

 

司令官さん、と呼ばれた男は、はて、と首をかしげて少女の全貌を眺めた。

 

雰囲気的にはおとなしそうな少女だ。目鼻立ちは非常に整っており、茶髪を赤い髪留めで、後ろで上へとアップにまとめていた。

 

全体的に幼さの残る容姿をしている。中学生なのだろうか、身に纏っているセーラー服がちょっとぶかぶかだ。

 

「…はぁ…、はあ…。司令官さん、司令官さん!」

「司令官さんって、俺の事?」

「うぅう…会いたかったのです、司令官さん!」

「届け君に俺の声ー…って、うおう」

 

飛びついてきた。

 

凡そ中学生であろう美少女が、飛びついてきた。

 

「うえぇぇぇん…!」

「…ふむ」

 

男はどうやら少女が落ち着くまでその身を少女に委ねることにしたようだ。

 

少女はぐいぐいと男の胸に顔を押し付けて、涙を流している。きっと男との出会いに何か思うことがあったのだろう。男はその真意こそまだ知らないが、まあ、そういう事もあるよねー、と少女の頭を撫で始めた。

 

そして、数分後。次第に落ち着きを取り戻し始めてきた少女の顔をのぞき込んで、男は小さく口を開いた。

 

「…ひっく、ひっく」

「…もういい?」

「ひゃ、あ、ごめんなさいなのです…私ったら…つい」

「べっつにー。気にしてないから、気にしないでいいよ」

 

男は面倒くさそうに手を振って、それで?と話を促した。

 

「君誰?司令官って俺の事?」

「…え?司令官さん、何も覚えてないのです…?」

「何のこと?」

 

声を震わせた少女に、男は少しだけ焦りながら首を傾けた。男は女の子を泣かせて楽しむような趣味はあいにく持ち合わせてないし、そもそも異性という存在そのものにあまり近づいたことが無いらしいので、こうして話しているのも面倒くさそうだ。

 

「私、電なのです!りゅー司令官さんは、本当に覚えてないのですか…?」

「あー…うん、あー、そういう…」

 

少女のーー電の言葉で、男はようやっと事態を理解…というか、把握できた。

 

「君、本物の電ちゃん?」

「…あの、私はいなずま、なのです。でんとは呼ばないのです」

「あだ名あだ名。うん、そっか。覚えてる、覚えてるよ。だから泣きそうな顔しないでねー」

 

面倒くさいし、とは口が裂けても言わなかった。

 

電、とは、『艦これ』と呼ばれるソーシャルゲームに登場するキャラクターの一人である。史実にも存在した駆逐艦『電』を少女の姿に擬人化した、『艦むす』と呼ばれる存在…であるのだが。

 

どうやら、目の前にその件の少女がいるらしく。

 

そして、先ほど電が口にしたりゅー、というのは実は、男が艦これをプレイしていた際に自分の名前として入力した名前それそのものである。

 

それを思い出すと同時に、男は改めてあたりを見渡した。

 

海。堤防。そして謎の建物群。

 

目の前には、電を名乗る少女の姿が。

 

「…なるほどねー」

 

どうやら、自分はゲームの世界に迷い込んでしまったんだな、と。男はこの時、ようやく理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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