いつもは艦これものを中心に書いていますが、基本的には本物の軍艦を動かすのが好きです。そういう意味で、はいふりは燃えるアニメでした
かなり架空戦記に片足突っ込んでいるかと思いますが、どうかお付き合いいただけますと幸いです
蒼い人魚姫
二〇〇一年十月二十六日。
母なる海は、静寂の暗闇に満ちていた。風はなく、波は穏やかである。前方海面を睨む見張り員からは、艦の進路に、特に問題は認められない旨が報告されていた。
もっとも、それは見える範囲に限った話だ。
夜間航行を続ける軽巡洋艦“最上”の艦橋にて、作戦の指揮を執る宗谷真雪大佐は、海と同じように静かな瞳で、電信室からの報告を待っていた。搭載された対水上レーダーが、そろそろ接近しつつある艦影を捉えるはずだ。
程なく、電信室から報告が上がった。
『艦影捉えました。方位二七三、距離四三〇(五万三千メートル)。中型艦三、小型艦五。目標の武装船団と思われます』
―――捉えた。
ここ数か月に亘って、トラックと日本本土を結ぶ輸送船団が、謎の武装集団による襲撃を受ける事件が続出していた。海運立国の日本にとって、中継国トラックを通して行われるアメリカ、オーストラリアとの交易は、南方航路や中東航路と並んで重要な貿易ルートだ。その安全確保が、急務とされた。
日本の交易路を防衛する。それが真雪、そして“最上”含めた海上貿易網護衛組織、海上沿線警備隊の役目だ。
母港とする横須賀を出港した彼女たちは、武装船団が活動の拠点としている小笠原諸島沖―――かつて西之島があった海域に、“最上”単艦で進入している。
被っている制帽の位置を確認した真雪は、長年の海上勤務で鍛えられたよく通る声で、全艦に通達した。
「全艦合戦用意。第四戦速、面舵三二、針路二七三。後続艦に通達、作戦開始」
“最上”が突入していく海域から少し離れたところに、海上沿線警備隊、海上警備艦隊の本隊が控えている。その艦隊に向け、電信室から暗号電が飛んだ。
『第四戦速、よーそろー』
「面舵三二、針路二七三、よーそろー」
機関室の機関長と舵を握る航海長から返事がある。新造ほやほやのガスタービン機関が唸りをあげ、強烈な加速度を“最上”に与えた。速力を速めていく“最上”がその艦首を右に振ったのは、それから十秒ほどしてからだ。排水量一万トンを越える“最上”の動きは、普段俊敏な新鋭艦に乗りなれている身としてはいささか鈍重にも感じる。
海上警備艦隊の主力艦は、最新鋭艦で構成されている。ではなぜ、真雪は“最上”を作戦の中核に据えたのだろうか。
真雪の乗り込む“最上”は、今年の三月に竣工したばかりの第四代目だ。対水上レーダーや機関部などは、初代と大幅に違う新鋭のものを搭載している。とはいえ設計は古く、また基本的な性能は変わっていないため、最新鋭艦に比べれば見劣りする。作戦の中核に据えられるほどの戦闘能力はない。
それでも“最上”が選ばれた理由の一つには、面の制圧力が上げられる。最新鋭艦群は、基本的に一、二門しか砲を積んでおらず、残りの武装は噴進弾か噴流弾、そして自衛用の多連装機銃CIWSだ。最新鋭レーダーと射撃指揮装置によって統制されたその攻撃は正確無比だが、広範囲にばらまいて敵の頭を押さえる面の制圧力には欠ける。その点“最上”は、六〇口径一五・五サンチ砲を三連装五基十五門も搭載しており、日本が保有するあらゆる艦船の中で最も面の制圧力が高い。射撃指揮装置もそこそこの性能があり、間違って当ててしまうという事態もまず考えられない。武装船団の制圧という、無差別攻撃を行うわけではない今回の作戦には、むしろ“最上”の方が向いていると、真雪は判断したのだ。
二つ目として挙げられるのが、装甲だ。武装船団は七・六サンチ砲と推測される砲を保有している。装甲の薄い新鋭艦では、大きな被害を受けかねない。実際、二か月前に実施された作戦では、警告のために接近した海上警備艦“村雨”と“露雨”がこの七・六サンチ砲を数発被弾し、半年間のドック入りを余儀なくされていた。その点“最上”は、軽巡洋艦とはいえ艦体規模が重巡洋艦のそれと同等であり、装甲も厚い。七・六サンチ砲程度では、びくともしない。
加えて。三つ目の理由としては、“最上”が直径六一サンチという大型の魚雷を搭載できることにあった。四連装発射管が片舷二基八射線。次発装填装置あり。この魚雷が、今回の作戦では大きな役割を果たすこととなる。
『“日向”より入電、貴艦の健闘を祈る』
今回の作戦を指揮する、海上警備艦隊第二艦隊旗艦“日向”―――“日向”型ヘリ母艦一番艦から、返信があった。後続する第二艦隊本隊の役目は、“最上”制圧後の武装船団乗組員確保にある。
『距離、四〇〇。目標船団に動きなし。こちらには気づいていない模様』
「了解」
電信室が上げた報告に、真雪は短く答える。それからチラリと、先ほど合わせたばかりの自らの腕時計を確認した。
第四戦速で突き進む“最上”が武装船団を攻撃範囲内に捉えるのは、二十数分後だ。さらに夜間であることを考慮すれば、距離はもう少し縮めたい。最終的に戦闘行動を起こすのだとすれば、それは四十分弱ほど後になるはずだ。
軽くシアーのかけられた“最上”艦首で、艦の前進に伴う波が起きる。一万トンを超える艦体は海面を砕き、まるでベールのようにさざ波をまとわせながら、目標船団へと接近していった。
「探照灯用意。接近して呼びかける」
距離三万まで接近したところで、真雪は新たな指示を出した。“最上”には、大型の探照灯が設置されている。照射距離は一万メートル程度だが、交信と警告のための発行信号として使用するなら、二万メートルもあれば十分だ。
この探照灯に加えて、作戦開始にあたり、後方に控えた本隊から発艦したヘリによる音声警告も行う。内容はどちらも、速やかな停船と臨検の受け入れを求める、定型的なものだ。
武装船団が大人しく従うなどという楽観的な考えは、“最上”艦内の誰一人として持っていない。海の上で油断することがどれだけ危険なことかを、彼女たち―――ブルーマーメイドと呼ばれる女性艦船勤務者たちは知っていた。それを知らずして、彼女たちはここに立つことを許されていない。
『距離、二五〇。目標に動きなし』
数分が流れ、さらに距離が縮まる。二万五千メートルの距離なら、艦橋トップから水平線上に船団が見えるはずだ。ただ、夜間であるために、それは叶わない。海軍時代には、夜間見張り員と呼ばれる特殊要員がいたが、今の時代にはそぐわない人員だ。
「赤外線カメラ、感度はどう?」
夜間特化の見張り員の代わりに、現代艦船において夜間航行時の安全確保と索敵を担当するのが、レーダーそして暗視カメラだ。メインマストに設けられたそれらから、真雪たちは闇の向こうの艦影を捉えることができた。
程なく、見張りから報告が入る。
『船影見ゆ。数、六。無灯火で航行中』
報告を受けた真雪は、表情を険しくする。本来、夜間無灯火の航行というのは、非常に危険なものだ。真雪たちもよほどのことがない限りやらないし、まして民間の人間がやる機会などまずない。それなのに、武装船団は夜間航行をこなしている。
元艦船勤務者、あるいは特殊な訓練を受けた人間であることが窺えた。そしておそらく、この武装船団は単なる海賊とは違って、明確な統率と目標をもって、船を襲っていたはずだ。
―――その辺を考えるのは、後にしましょう。
ブルーマーメイド―――海上沿線警備隊員に求められているのは、海上交通の安全確保だ。海の警察官などとも言われるが、その職務は一般的な警察とは違う。捉えた武装船団乗組員の取り調べ等を行うのは、最終的には陸(海上都市含める)で引き渡すことになる、本物の警察だ。
武装船団の目的については、いずれ警察が明らかにすることだろう。そのためにも、真雪たちは犯人を生きたまま捕らえなければならない。決して、船諸共沈めてしまうなどということがあってはならないのだ。
「艦長、呼びかけを開始します」
後ろに控えていた副長―――知名さやか中佐が、真雪に具申した。今回の作戦にあたって、真雪が彼女を副長に指名したのだ。五期後輩にあたる彼女は、昔から人の機微によく気づき、真雪を的確にサポートしてくれる、信頼できる部下だ。
「始めて頂戴」
「了解しました」
さやかの指示で、電信室があらゆる通信帯での呼びかけを始める。言語も、日本語、英語、フランス語、中国語と切り替えての発信だ。さらに、探照灯の明滅による発光信号も送る。
しばらくして、上空を羽音が通り抜けていった。後方の“日向”から発艦したヘリだろう。船団上空に到達したヘリが投光器で船団の一隻を照らし、スピーカーで呼びかけを行う。
それでも、相手方からは何の反応も得られなかった。完全にだんまりを決め込んでいた彼らは、やがて船尾を泡立たせ、現場海域から立ち去ろうとし始めた。
「現在距離は?」
「二〇〇です」
「追いかける。最大戦速、面舵二〇、針路二九三」
この時点で真雪は、実力による制圧を決断した。
『最大戦速、よーそろー』
「面舵二〇、針路二九三、よーそろー」
機関長と操舵手からの返事を聞き届け、真雪は続けて指示を出す。
「電信室、“日向”に通信を繋いで。艦橋へ、直接お願い」
『了解』
優秀な人員が集められているだけあり、電信員も新型通信機器への慣れが早い。しばらくして、艦橋のスピーカーが“日向”と繋がれた。
「宗谷です」
『白瀬です。状況を聞きましょう』
“日向”座上の第二艦隊司令長官、白瀬摩耶少将が直接出た。真雪はすぐに、用件を話し始める。
「目標の船団から、応答はありません。逃走を始めたため、海上警備法第三十二条第四項に基づき、威嚇射撃による警告を行います」
それはすなわち、次からは攻撃を開始するぞという意味だ。スピーカーの向こうで、白瀬が頷く気配がした。
『いいでしょう。不審船団に対して、海上警備法第三十二条第四項に基づいた威嚇射撃を行ってください。以後は、宗谷大佐の権限で、模擬弾の使用を許可します』
「わかりました」
通信は短く終わった。この後のために、回線は維持しておくよう電信員に伝えて、真雪は前に向き直る。
「砲術長。各砲塔、一番砲に模擬弾を装填」
『各砲塔、一番砲に模擬弾装填!』
真雪の指示を、射撃指揮所にいる砲術長が復唱する。一番から五番までの各砲塔に命令が伝えられ、弾火薬庫の第一層から揚弾された模擬弾―――威嚇用の炸薬の少ない砲弾が装填された。
『一番から五番まで、模擬弾装填よし!』
「警告後、一五〇で発砲。目標は船団正面、距離〇五の位置」
『目標、船団正面、距離〇五!』
海上沿線警備隊の砲術科員が一番力を注ぐ訓練が、「当てない砲撃」だ。一見、その本来の目的と矛盾しているようにも思えるが、当てない砲撃は、当てる砲撃よりもはるかに難しい。本来の目的ではないからこそ、十分な練度が必要なのだ。
射撃レーダーと連動した指揮装置が、船団先頭船への諸元を導く。それに、砲術科員が修正を加え、船団正面への旋回角と腑仰角を算出した。それらのデータが、各砲塔へ送られると、それに基づいて砲塔が旋回し、一番砲の砲身をもたげる。
「距離、一七〇」
「威嚇射撃の警告を始めます」
さやかの言葉に、真雪は静かに頷いた。
これで何らかの反応がなければ、真雪たちは発砲する。夜闇の向こう、気配だけがひしひしと感じられる武装船団に、真雪は目を向けた。だがしかし、彼女の視界は、横たわる深淵に遮られて、何かを捉えることはなかった。
劇中で書かれることのなかった、「来島の巴御前」エピソードから書いていこうかと
なんかこう・・・すべてはここから始まった的な?スターウォーズのエピソード1から3的な?
一話だけ投稿しといて何なのですが、作者がリアルな航海に出るので、一か月ほど投稿が滞ることになるかと思います。航海中に書き溜めるので、帰ってきたらできるだけ短い頻度で投稿していこうかと思っています
(連載五個掛け持ちなんだけど・・・大丈夫かな・・・)