彼から始める救済生活   作:くさ餅

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※注意
あらすじの末尾でも書いてありますが、今ssはネタバレを大量に含みます。ご注意ください。

作者の妄想垂れ流しの世界にお付き合いください。


プロローグ 彼は世界敵に回す

 彼は

 

 彼は愛しき彼女のために尽くし、そして生涯をかけることを誓った。

 

 彼は愛しき彼女が、どうか救われるようにと願った。

 

 これまでの信用、信頼、名誉、親愛、すべてを投げ捨て、目の前にいる一人の男の胸にナイフを突き立てーー

 

「君は、なんでーー」

 

「救い出すためだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛しき彼女を、嫉妬の魔女サテラを」

 

 そう告げた彼を苦悶と驚愕の表情で見る『剣聖』ラインハルト・アストレア。

 人類において最強であり最後の砦であるその騎士の胸を、痩せ細り、刃こぼれしたナイフでいとも容易く抉る。

 

「俺を恨んでもいい。だけど彼女は恨まないでくれ」

 

 ふっ、と口から血を流す騎士から力が抜けーー

 

 その数日後、ナツキ・スバルは、全世界の敵となった。

 

 

 

✳︎

 

 

 

「スバルくんスバルくん!」

 

「お?」

 

 窓に差し込む暖かい日光に眠気を誘われる昼下がり。ロズワール邸にあるスバルの一室に、妙に嬉しそうなレムが飛び入ってきた。何かあったのか?

 突然の入室者に思案する俺のことはつゆ知らず、レムはベットへ腰掛けているところに見事なダイブを決めてくる。

 

「ちょ、レム! まず入ってくるときはノックをだな……っ!」

 

 意外と隠れ巨乳であるレムの胸に意識せざるを得なく、欠片も的を射ていない苦し紛れの注意をしてしまう。

 ……しかし、レムの胸、以前よりふくよかになってねえか?

 未知数の可能性に恐怖しつつ、やんわりとレムを押し返す。そこで不満そうな顔しないで。

 

「むぅ、スバルくんはレムに抱きつかれるのが嫌なんですか? 私が目を覚ました時は離して欲しくても離れてくれなかったくせに」

 

 「まあ離れてほしいだなんて微塵も思ってませんでしたけど」と顔を赤らめて付け足すレム。

 しょうがないだろ。願いに願ったレムの覚醒が叶ったのだ。嬉しくなかったわけがない。

 

「んなわけないない。ちょっといきなりのことで慌てただけだ」

 

 今度はこちらから、その華奢な身体を抱き寄せてやる。顔を幸せそうに蕩けさせ、胸元に頭をすりすりと擦り付けてくるのでちょっとくすぐったい。

 

「しかしレム、お前最近スキンシップ激しくないか? 決して嫌ってわけじゃないんだが」

 

「だって二回も救ってくれたんですよ? それどころか、レムは生涯の伴侶だって言うんですから、こうなってしまうのは仕方ないです」

 

「まだだからな。それは俺が安定した生活の土台を築けてからの話だ」

 

 一ヶ月前、魔女教大罪司教である『暴食』を担当していた三人、『悪食』のロイ・アルファド、『飽食』のルイ・アルネブ、そしてレムを奪った張本人である『美食家』ライ・バテンカイトスを俺が殺した。戦闘中、幾人もの記憶、名前が奪われるという激戦ではあったが、どうにか誰一人も犠牲者を出さずに済んだ。といっても戦ったのは、俺とユリウスにガーフィール、おまけ程度にオットーがいたぐらいなのだが。

 そしてその結果、『名前』と『記憶』が奪われていたレムは、エミリア、ラム、そして彼女自身を含む全人類から、その存在を取り戻した。

 もちろん『名前』を奪われていたユリウスもだ。あの時あいつが俺にいった感謝の言葉は、今思い返しても恥ずかしい。

 もちろんレムやユリウスだけではなく、世界中であいつらの被害に遭っていた人々も取り戻された。今思うと凄いことを成し遂げたもんだ。

 

 ちなみに余談ではあるが、俺が殺したのは『暴食』だけではない。

 『色欲』『憤怒』など、欠員であるらしい、強欲を除く魔女教大罪司教は全て滅された。なにがあったのかはおいおい話すとして、

 

「んでだ、レム。俺に用があってきたんだろ?」

 

 俺の胸板に頭をスリスリするのに夢中で、本来の目的を忘れているだろうレムを現実に引き戻す。

 

「あ、そうそう、もう調査が済んだんです。それを報告に」

 

「調査、というとあの件か。どうだった?」

 

「はい。ラインハルト様がいなくなったことにより王都は混乱の最中にあります。流しておいた情報で、スバルくんが殺したと言う民衆もいますが、まだ噂の域を出ていないかと」

 

 先ほどとは打って変わって、仕事モードのレムが、ピシッと背筋を伸ばしてそう報告してくる。

 

「噂程度か……。とりあえず、『ラインハルトを殺したのはナツキ・スバルだ。』と、誰に聞いてもそう答えられるぐらいに頼む」

 

「了解しました。スバルくん」

 

「まあ、万が一俺が殺したと信じてもらえなかったとしても奥の手はすでに打ってあるからな。時間次第だ」

 

「ですね、スバルくん」

 

 そう言って笑い合う二人。そこには会話の内容にはあまりにも釣り合わない、二人がロズワール邸で暮らしていた時のような自然の笑顔だった。

 

 しかしもう二度と、あの頃の日常は訪れない。

 

 

✳︎

 

 

「うぇ......えっく……」

 

 カーテンが閉まり、灯りもついていない薄暗い部屋を、一人の少女の嗚咽が支配する。

 

「なあ、なんでだよ。お前は最強の騎士とやらじゃなかったのかよ......。アタシの騎士じゃなかったのかよぉ......っ!」

 

「フェルト様......」

 

 もうピクリとも動かないラインハルトの亡骸に少女、フェルトが泣きついていた。彼に対して、いつも罵倒や文句しか言ってこなかった彼女のそれも信頼の裏返しだったらしく、その赤い瞳から流し続ける大粒の涙がそれを如実の表していた。

 

 昨日、この一週間姿をくらましていたラインハルトが、死体として発見された。

 その身体は驚くほど綺麗なままで、発見した捜索隊の数名は全員、気を失っていると思ったそうだ。

 その死体は泥一つ付いていない、外傷ももちろん、まるでそこにゆっくり寝かされたかのような状態で死んでいたらしく、普通はおかしいと思うだろう。

 だが彼の場合は違った。最強の騎士である彼には、身体を抉られ、原型を留めていなかったことよりも、呪い、呪術の一種で殺された方に信憑性があったのだ。

 結果、それは王都を含む周辺地域全てへ瞬く間に広まり、激震させた。

 

「フェルト様、非常に残念ですが今回の王選、辞退していただく形になるかと」

 

 暗い雰囲気の中、部屋の隅で佇む一人の老骨からそんな声がかかった。フェルトの身の回りの世話をする執事だ。

 フェルトの身を守れる人物がいなくなったわけではないが、ラインハルトとという最強の盾であり矛を失ってしまった彼女のことを案じてそう提案したのだが、ただでさえスラム街で暮らし感情で動いていたフェルトには逆効果だった。

 キッと彼を睨む。

 

「おい、今は王選なんて関係ねぇだろ。アンタは自分の主人が死んで悲しみもしねえのかよ」

 

 フェルトの最後の一言に、皺の寄った彼の顔がピクリと動いたが、それでも流石はプロか、すぐに表情を元に戻す。

 

「フェルト様、騎士であるラインハルト様がいなくなられた今、貴女はこの国で一番危険な状態にあられます。このままだといつ襲われるかわかりません。ここは一つ、王選の辞退を表明し、この件が落ち着くまでしばらく隠逸されてはーー」

 

「なあ!!」

 

 ついに耐えれなくなったフェルトが、彼の胸ぐらを掴む。慌ててメイドが止めに入ろうとするが、当の執事がそれを制した。

 

「フェルト様、私めはご主人様にこう言い遣わされております。『僕に何かあったら、フェルト様を王選から辞退させるよう進言してくれ』と、私はそれを命令通り動いているだけでございます」

 

「そんな話今しなくてもいいだろーが! アタシはそのご主人様が殺されてなんでそう職務を全う出来るのか聞いてんだよ! 悲しくねえのか! 復讐したくねえのか! あいつのことどうにも思ってーー」

 

「思ってますとも!!!」

 

「......っ」

 

 突然の叫びに怯むフェルトを気にも留めず、彼は己の内をさらけ出し続ける。

 

「あのお方は、私が小さい時からずっとお世話させていただいてきました! 十五年! これだけの間接してきたのに悲しくないわけないでありましょう! ええ、復讐したいですとも。殺人犯を血祭りにしてやりたいところです。ですが!」

 

 一拍

 

「そのご主人様の命令だからこそ、私はフェルト様に王選の辞退を進言いたします」

 

 たとえどれほど復讐心に駆られても、主人への愛情ゆえ、その御心を尊重する執事の姿にさすがのフェルトも勢いが衰える。

 

「その、悪かったよ......何も考えてなかったのはアタシの方だ。だけどな、アタシは王選を辞退なんてしねえ。これだけは決定事項だ」

 

 それでも彼女はそういった。

 

「フェルト様......っ!」

 

「ラインハルトの命を奪った理由が、アタシを王選から脱退させるためだった可能性もあるだろ? もしそれが当たってるとして、王選から辞退しないアタシを見たら相手はどうする、確実にこっちを潰しにくるだろ? でもあいつを殺したやつだ、ここの屋敷にいる兵士程度じゃはも立たねえだろう。だけど、そんなやつを生かしといたら、それこそ世界の終わりだ。アタシという罠にかかった獲物にありったけの戦力をぶつけるんだ。どうだ、やる気はないか?」

 

 さっきまでの泣き顔は何処へやら、ククク、と不敵な笑みを浮かべる彼女に、彼はザッと跪く。

 

「お、おう、なんだよいきなり」

 

 思わず一歩後ろに下がり狼狽するフェルト。

 

「フェルト様、貴女を命をかけてお守りいたします。ですからその作戦、是非とも私めに参加する許しを」

 

 こうべを垂れて、そう懇願する。

 

「あ? そんなことか? アンタが参加するのなんて当たり前だろ。ほら、弔い合戦ってやつの始まりだぜ!」

 

 右手を上に打ち出し、暗い空気を払拭するような極めて明るい声で宣言するフェルト。

 

「まずは情報収集だ。噂でもなんでもいいから、聞き出してこい!」

 

 彼女の復讐劇が今始まる。

 

 

✳︎

 

 

「しかし、本当になにもねえな......」

 

 一人の男が、草むらをかき分けながらそうゴチる。

 

「そりゃあな、あのラインハルトさんを殺した相手がそうそう証拠なんて残すわけねえだろうし」

 

「おい、お前ら! ぶつぶつ言わないでさっさと探せ!」

 

 少し離れたところにいる、この二人とは少し身なりの違う男が怒鳴ってきた。

 

「は、はいっ!」

 

 騎士である男に、警吏である彼らは反論出来るわけもなく、再び草むらをかき分け始めた。

 

 ラインハルトが殺害されていた森の中で彼ら警吏と、証拠物品の捜索など管轄外である騎士ら五百人体制で、なにか手がかりがないものかと、身体を泥まみれにして探していた。

 

「うっ......」

 

 しかしもうそれも限界、すでに六時間も四つん這いの体制でいる彼らは、いくら鍛えているといっても辛いものがあった。

 腰に鈍い痛みが走った、一人の警吏が立ち上がり、伸びをする。

 

「あー、もうさすがに身体がもたねえ、腰なんてバッキバキだわ......ん?」

 

 木に青々と茂る葉の中に、キラリと光るものが映った。

 もしかすると! と思い、バッと木に飛びつき、猿のように木を登っていく。ちまたでは警吏ではなく、軽業師と言われている彼には造作もないことだった。

 光ったと思われるところに着くと、それはあった。

 

「......なんだこれ」

 

 見たこともない、白い箱のようなものに、彼は首をかしげるしかできない。

 

 その謎の物体は、王都で情報収集を始めたフェルトにより明らかにされることになる。

 彼女曰くそれは、その時を切り取り凍結させる魔法器らしい。とあるところで操作方法を見ていた彼女が開いた画像フォルダには黒髪の青年が、今は亡きラインハルトにナイフを突きつけるものが写っていた。

 

 白鯨討伐に最も貢献し、水門都市の窮地を救った騎士スバルは、最重要危険人物として世界中に指名手配されることになる。それが当の本人であるスバルの思惑通りとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プロローグでした。
いかかでしたか?正直自信ないので感想等々いただけると嬉しいです。

ではでは
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