捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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  それでは今回もよろしくお願いします!


チェリー

 玄関のドアを開けると、小町がパタパタと駆け寄ってくる。じんわりとくる暖房の温かさが気持ちいい。

「おっかえり~!」

「ただいま」

「お邪魔します、小町ちゃん」

「花陽ちゃん、いや、お義姉ちゃん。そんな遠慮しないで♪」

「あはは……」

「そうよ。花陽ちゃん」

 小町に続き、母ちゃんがリビングからぬっと出てきた。見たところ、小町とのんびり年末を過ごしていたようだ。

「母ちゃん、帰ってたのか」

「年末はね。お父さんは明け方になるけど」

 さすがは一人前の社畜……いい年迎えろよ。

「こ、こんばんは!こ、こ、小泉花陽です!あの、八幡さんには仲良くしてもらってます!」

 母ちゃんは笑顔で手をひらひら振り、少し慌て気味の花陽を落ち着ける。

「そんなに畏まらなくて大丈夫。うちのバカ息子をもらってくれるなんて……ねえ、小町。本当なの?こんな可愛い子が……」

 母ちゃんは小町にガチの質問をしていた。おい。さりげなく泣くな。俺が泣きたくなるから。

「お母さん、奇跡って起こるんだよ」

 小町が事実を言う。反論の余地がない。確かにその通りだ。

 母ちゃんは眼鏡の下の涙を指先で拭いながら、花陽に向き直る。だから泣くな。

「花陽ちゃん。このバカをよろしくね」

「いえ、こちらこそ。八幡さんは素敵な人ですから」

 ついに母ちゃんが泣き崩れた。おそらく素敵な人というフレーズに衝撃を受けたのだろう。感動のシーンっぽいが、なんか釈然としねえ……。

「さ、お母さん。二人っきりにしてあげよう?」

「そうね……八幡。アンタ、花陽ちゃんを泣かすんじゃないわよ」

「わかってるよ」

「よしっ!じゃあ思う存分いちゃついてきな」

 初めて気づいたが、身内からそんな事を言われるとひたすら気まずいので、止めていただきたい。

 俺と花陽は一呼吸おいて、自室へ向かった。

 

 年を跨ごうとしているのもあまり気にならなくなり、ベッドの上に並んで腰かけ、他愛ない話をする。

「素敵なお母さんですね」

「今のやりとりに素敵さの欠片も見当たらなかったがな」

「そうですか?よく似てるなって思いましたけど」

「まじか……」

「あ、あと20分で今年が終わりますよ」

 時計に目をやると、11時40分だ。紅白歌合戦はどっちが勝ったんだろうな。まあ、いいか。

「八幡さん。今年は八幡さんにとってどんな年でした?」

「言わなくてもわかるだろ?」

「…………」

 言葉にして欲しそうに頬を膨らます花陽を見ながら改めて確信し、素直に言うことにした。

「これまでの人生でダントツに最高な年だよ」

「私もです。ダントツですね」

 最近、こうやって素直な感情を見せてくれるのが、たまらなく嬉しい。

 窓の外に目をやると、さっきよりも白く見える。明日はきっと素晴らしい雪景色なんだろう。新春って言葉が嘘くさく見えるくらいの。

「八幡さん」

「?」

「出逢ってくれてありがとうございます」

「……何でも先に言うなよ。立つ瀬がなくなるだろ」

「さっき言ったじゃないですか」

「あ、ああ」

 公園でのプロポーズ。

 とても現実的ではないし、俺らしくもない。

 ただ、勢いだけではない。気持ちに嘘はない。

「叶うのはもう少し先だけどな」

 言いながら花陽の髪を撫でる。

「もう、叶ってますよ」

「そうなのか?」

「はい。私は……八幡さんのものです」

 その甘ったるい言葉に、部屋の空気が変わるのを感じた。

「全部上げますから……」

 花陽をいたわるような動作でベッドに横たえ、覆いかぶさりながら、見つめ合う。

 そして深々と降り積もる雪に目をやり、部屋の明かりを消した。

「じゃあ、俺も俺の全部をやる。花陽……」

「はい……」

 熱い吐息が混ざり合うのが感じられた。

「明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます」

 

「八幡さん……大好きです」

 

 




  読んでくれた方々、ありがとうございます!

  動きのある話はここで終了し、残る劇場版までは、のんびりとした感じになると思います。
  戸塚と凛の話もそろそろ…………。
  ここまでお付き合いいただいた方々、本当にありがとうございます!そして、今後もよろしくお願いします!

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