捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
「花陽ちゃん!比企谷君!2人の間にどんな事があってもファイトだよ!」 高坂穂乃果
それでは今回もよろしくお願いします。
「ど、どうぞ…………」
「お、おう…………」
恐る恐る、しかし、噛み締めるように部屋に足を踏み入れる。だって女子の部屋だぜ。総武高に俺以外、女子の部屋に入った事ある男いるのかよ。いるだろうな。何なら入った事ないのが俺と木材山と童貞風見鶏だけかもしれん。あれ、木材山?名前が違うような……むしろ誰だったっけ?
本来ならここで鼻で深呼吸をするところだが、ここは小町の部屋じゃない。いや、小町の部屋でもしたことないよ?ほ、本当だよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。
花陽の部屋の中は何というか、割と普通だった。こう、もっとファンシーでピンクな部屋をイメージしていたが…………ピンクは別にエロい意味じゃありません!
まあ、いい意味で普通って事だ。変わったところといえば、部屋の至る所にあるアイドルグッズや変なお米のキャラクターのぬいぐるみくらいだ。
「あ、あの……あんまり見られると、やっぱり恥ずかしいです」
「わ、悪い……」
「八幡さんの部屋はどんな感じ何ですか?」
「あー、この部屋のアイドルグッズがなくなったら俺の部屋みたいになる」
「シンプルなんですね」
「そ、そうか」
「…………」
「…………」
対して意味を成さないやり取りは、却って場の緊張を高める。
「そ、それよりPV見ていいか?」
「は、はいわかりました!」
ここはクールに非モテ3原則を心で唱えよう。
「ここの歌詞が凄く素敵なんですよ!!」
「お、おう……」
今更だが花陽はアイドルが大好きだ。夢中になっている。そう、夢の中と書いて夢中である。なので、アイドルのPVを見ている間は、現実の俺の事など全く意識していない。
要するに…………近い。
「ここの凛ちゃんの表情が最高に可愛いんですよ!」
ぐいっと顔が近づく。つーか花陽の頭部で画面の三分の一くらい見えない。目悪くするぞ。
「ここですよ!ここ……」
花陽がこちらを向くと、案の定、至近距離で目が合う。
「…………」
「…………」
「わ、私、飲み物取ってきます!」
とててっ!と部屋の外へ小走りで出て行く。顔を伏せていたので、表情まではわからなかった。
「ふぅ…………」
溜息をついて、こちらもこの妙な空気に飲まれないようにする。
流れっぱなしのPVをぼんやり見ていると、ある発見をした。
こ、これは…………
PVを巻き戻す。
画面に映っているのは、確か最上級生の絢瀬絵里さんと東條希さんだ。その2人の顔を確認して、俺はもう一度巻き戻した。
「おお……」
確かに…………揺れてる。軽く跳ねる振り付けの所で、万乳引力の法則が発動しているのだ。俺はドアが閉じていることを確認して、あと一回だけと心に誓い、巻き戻す。
「すごい……」
乳トン先生、アンタは偉大だよ。…………誰だよ。さてまだ誰も来る気配が…………
「八幡さん……」
嵐の前の静けさを思わせる声音にビクゥッと体が跳ね上がる。
俺は丁寧な所作を心がけ、振り返り、正座をした。
「何を見ていたんですか?」
そこには優しすぎて恐い笑顔の花陽がいた。
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