捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

43 / 129

「え!?比企谷が!?そ、そう…………おめでと」川崎沙希

   それでは今回もよろしくお願いします。


不死身のビーナス

 花陽の話は10分程度で終わった。

 だがその短い間で、花陽と星空の顔が沈んだものになり、先程までの明るさが取り繕ったものであるように思われた。

 もちろん2人だけではない。2人とすっかり友人関係が出来上がっている小町も、実はμ,s発足当初からのファンだという戸塚も、同様に悲しそうな表情をしている。

 俺も言葉が上手く出てこない。表情がどうなっているかはわからないが、先程までの心の明るさに陰りを感じた。

「私…………何もできなくて…………」

「凛も…………」

 泣きそうな顔の2人を見ながら、話の内容を反芻する。正直、解散にまで事態が発展しているのは、予想外だった。だが、μ,sの発起人である2年生メンバーがバラバラになってしまっては、それも仕方ないのかもしれない。そもそもμ,s結成の目的が、音ノ木坂学院のスクールアイドルとして有名になり、注目を浴び、入学者を増やし、廃校を防ぐというものだった。目的自体は達成している。

「なあ、2人共。もし、仮にこのままμ,sが解散したら、どうするんだ?」

「お、お兄ちゃん!」

 小町が止めようとするが、μ,sの事に関しては、部外者の俺ではどうにもならない。仮に俺がμ,sのメンバーを集めて、薄っぺらい言葉を並べても大した意味などない。下手すりゃ黒歴史のワースト更新、ゴーストタイプのポケモンにだいばくはつを使うくらいの無駄死にである。

 なので、2人の気持ちを聞いておきたい。

「…………私は…………」

「…………よくわからないにゃ…………」

 きっと花陽も星空もμ,sをとても大事に思っている。俺なんかが思うより遙かに。でも、それと同時に、μ,sをなくしてしまったら、自分は何をすればいいのか、自分のこれからの学校生活にどう価値を見出すのかが、わからなくなっているのはだろう。…………特に花陽は。彼女の全ての過去を知っているわけじゃない。だが、μ,s加入前の発言を思い返せば、それは明らかだ。μ,sがなくなれば、自分は何もないと『勘違い』するんだろう。

 …………そんな事はないのに。

「あの…………」

 花陽がおずおずと口を開く。

「八幡さんならこんな時、どうしますか?」

「何もしない」

「そ、即答だね」

 戸塚が可愛らしく苦笑する。

「で、でも…………」

「まあ、聞け。俺は2人以外に会った事はないから、完全に第三者視点だが、南さんに関しては、既に向こうに行く準備まで出来ている。てことは本人の意思が覆らない限りどうしようもない。高坂さんの方は、続けようと思えば続けられるが、これももちろん本人次第だ。ついでに言えば、当初の目的は達成しているから止める理由もない」

「そ、そんなこと!」

 星空が何か言いかけたが、花陽が手を握って制した。

「気分を悪くしたならすまん。まあ、あれだ。俺が言いたいのは…………」

 2人としっかり目を合わせた後、ゆっくり告げる。

「俺は……2人を……応援してる」

 言い淀んだのは、全く俺らしくもない言葉だったから。

 あまりに無責任な言葉だったから。

 それでも伝えたかった。

 花陽の方を見ると……………………微笑んでいた。

 その微笑みに心が溶かされたように、言葉が溢れ出す。

「花陽は、自分は何もないみたいに言ってたが、そんな事はない。現に、俺みたいな奴でも、お前らを

見てたら、まあ、元気にはなる。だから……何もないとか言うな」

 今、自分の顔が、羞恥で赤く染まっている事を感じながら俯く。自分の言葉が事態の解決にはならない事をしりながら。

「……ありがとう、ございます」

 花陽がぽつりと漏らす。顔を上げると、花陽と星空は目に涙を溜め、小町と戸塚はこちらを見て頷いた。

「私……ずっと、自分に自信なくて……でも、μ,sに入って、やっと自分が輝ける場所が見つかったと思ったのに……」

「かよちん……」

 もしかしたら、俺は初めて、本当の小泉花陽を見ているのかもしれない。普段は大人しく恥ずかしがり屋で…………でも本当は自分を変えたくて、輝きたい一人の少女を…………。

「私……何もなくはないんですね…………」

「ああ、それだけは保証してやる」

「小町も、何があっても花陽ちゃんと凛ちゃんを応援するよ!」

「僕も、星空さんのダンスや小泉さんの歌声が好きだから、応援するから、頑張って!」

 涙が頬を伝い始めた2人は、見つめ、頷き合い、抱き合った。

 たまに何事かと見ている人もいたが、気にならなかった。

 季節外れの青臭い春の真っ只中に、俺達はいた。

 

「ふーっ、すっきりしました!」

「まさか、最後にもう一回乗りたいなんて言い出すなんてな…………」

 夕方になり、俺達は帰路についていた。トドメのウォータースライダーは俺のHPをすっからかんにした。

 5人いるから、見学にまわろうとしたが、俺と花陽だけ乗って、あと3人が見学していた。しかも、写真に撮ってたような……。

「八幡さん」

「どした?」

「あの、これからも、私の事……見ててくださいね!」

「む、胸の事?」

「ち、違います!八幡さんのばか!」

 あぶねー。めっちゃ期待したわ-。

 

 後ろの方……

「ねえ、あの2人、本当に付き合ってないの?」

「はい、兄がヘタレなもんで……」

「本当にじれったいにゃー!」

 

 さらに後ろの方……

「え?……ヒッキー?」

「結衣ー、行くよ-?」

「あ、うん!……まさかね」




 読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。