捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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ヒバリのこころ

「ふぅ……」

「す、凄かったね……」

 A-RISEのイベント終了後、会場を出た俺達はぐったりとしていた。とにかく熱い。会場の熱気にあてられて、気がつけば俺でさえも体を揺らしていた。慣れない事をした精神的な疲れと、慣れない動きをした肉体的な疲れは、俺と小町の体力をかなり削っていた。

「2人共~、飲み物買って来たよ~!!」

 1人だけ体力を削られるどころか、テンション上がりすぎて、ナチュラルハイになってる奴がいる。

「ありがとう、花陽ちゃん……」

「す、すまん、小泉。いくらだった?」

「いえ、いいですよ!そんな!」

「いや、そういうわけにはいかない。俺は養ってもらう気はあるが、施しをもらう気は無い」

「え、えーと、今日、付き合ってもらったお礼です!」

 そういって小泉は最高にやわらかな笑顔を見せる。

 その満面の笑みに、『え、何この子、俺の事好きなの?』などと中学時代のような勘違いをしそうになる。危うくフラれるところだった。

「そうか、ありがとう」

 ここまで言われては断れないので、礼を言って飲み物を受け取る事にした。

 僅かに触れた指先は、まだ会場の熱気を残しているように思えた。

 

「お腹空いたね~」

 体力が回復して食欲がわいてきたのか、小町が甘えるように言う。

「こんな時は定食屋で白米を食べたいな」

 日本人として当たり前の主張をすると、小町から脇腹をつねられた。

「バカ、お兄ちゃん!初めてのデートで定食屋なんてあり得ないから!」

 小泉に聞こえないよう、小声で叱ってくる。え、何これデートだったの?俺の初デートは妹同伴なの?

 小泉は何故かプルプル震えている。小町の言うとおり、定食屋はダメだったのか。しかし、そこまで怒らなくても…………

「ですよね!!!」

「「は?」」

 突然の小泉の大声に俺と小町は顔を見合わせる。

「やっぱり疲れた時は白米に限りますよね!!日本人に生まれた喜びを感じます!!」

「「……」」

 あー、そういえばこの前、電話でアイドルと同列に語ってたな。最後は熱く語りすぎた小泉が我に返って、何度も謝ってきた。まあ、気にしてないけど。

「じゃあ、小泉のおすすめの場所に行くか」

「そ、そうだね」

 ポカンとしていた小町も慌てて頷く。

「じゃあ、私について来てください!」

 小泉はおそらく滅多に見せないであろう、ドヤ顔をしながら、俺達を手招きしていた。

「これ、意外と相性いいかも……」

 小町は考え込むような顔で、何かブツブツと呟いていた。

 

「はぁ~、幸せ♪」

 お茶碗にこんもりと盛られた御飯をパクつきながら、小泉は幸せそうに頬を緩める。

「A-RISEのライブも素敵でしたし♪」

 初めてスクールアイドルのライブを観た小町も上機嫌のようだ。

「小町ちゃんにも気に入ってもらえてよかった!」

 賑やかに話す2人に対して、何となく思った事を言ってみる。

「2人もスクールアイドルできると思うけどな」

「「え?」」

 案の定2人して固まる。やっぱり言わなけりゃよかったのか…………。

「お兄ちゃん、さすがにシスコンすぎるよ……」

 小町は顔を赤らめ、目を逸らす。一方、小泉は……

「わ、わ、私にアイドルなんて無理です!無理です!」

 顔を真っ赤にしてわたわたと体を震わせている。

「いや、明らかに無理な奴なら言わねーよ。ただ、その、2人共、見た目ならまあ、その辺のアイドルには負けてないっつーか……」

「うわ、出た捻デレ」

 それはこっちの台詞だ。何なんだよその造語。オリジナリティありすぎて、少し感心してしまうじゃねーか。

 小泉の方を見ると、こっちは対称的なリアクションだった。

「あ、ありがとうございます…………」

 そう言って、小泉は小さい体をさらに縮こまらせた。




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