捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
夏休み最終日。
明日からの学校生活を思い浮かべ、暗澹たる気持ちになりながらも、儚い現実逃避の為に読書をしていると、電話が鳴り出した。
誰からか確認し、すぐに通話ボタンを押す。
「花陽か、どーした?」
「あ、夜分遅くにすいません。その……夏休み最終日に八幡さんは、何をしてるのかな、と思って……」
「あ-、何だか明日が学校だなんて信じられなくてな。本の世界に逃げていたところだ」
「あはは……らしいですね」
「そっちは何してたんだ?」
「あ、こっちはですね、午前中から練習してたんですけど、途中から皆、ラブライブの結果発表が気になりまして……」
「そういや今日だったな。で、どこが優勝したんだ?」
「もちろん、A-RISEです!」
「ああ、そっか」
「はい!他のアイドル達も本当にすばらしかったんですけど、A-RISEは頭一つ抜きん出てました!」
「……まあ、俺みたいな素人にでもなんか違うって思わせるくらいだしな。そういや、あのセンターの人元気かな?」
「綺羅ツバサさんですよ!忘れちゃったんですか?」
「わ、忘れるわけないだろ……忘れたっていう方が忘れてるんだよ!」
「それは絶対に違うと思います……」
「まあ、あれだ。少し気になっただけだ」
「…………そうですか」
「へ、変な意味ではなく」
「そうですか!」
「ああ」
「でも、何となくですけど、八幡さんって年上の人から好かれそうですよね。こう背が高くて、格好良くて、頭が良くて、白衣の似合いそうな……」
「やめて本当にやめて頼むからやめてあり得ないあり得ない」
「は、はい……どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。星空や西木野は元気か?」
「はい、相変わらずですよ」
「じゃ、じゃあ、綾瀬さんや東條さんは……」
「八幡さん?」
「あ、UFO」
「八幡さん!ごまかし方が雑すぎます!」
「い、いや、その……花陽のチームメイトなんだから、体調を気にするのは当然だろ?花陽にとって大事な人は俺にとっても大事な人だ。疚しい気持ちなど微塵もない。ないったらない」
「一瞬いい話に聞こえましたけど、八幡さんが気にしているのは体調ではなくカラダだと思ったので、やっぱりいい話にするのは無理です。ごめんなさい」
「な、なんか違うキャラになってないか……」
「き、気のせいです!でも八幡さんって絵里ちゃんや希ちゃんは気にするのに、同じ3年生のにこちゃんの事はあまり聞いてこないですよね?」
「まあ、それは、あれだ。俺から言わせんな」
「むぅ……」
「2年生組は元気か?」
「ついでに聞いてる気しかしません……」
「まあ、それはさておき、ウチから割と近い場所に新しい定食屋ができていてな……」
「ご、ごまかそうとしてませんか?でも、そのお店には行きたいです!」
「新曲のPV撮り終えたら……まあ奢らない事もない……」
「は、はいっ、じゃあ明日からも頑張ります!」
「おう」
「じゃあ、もう寝ますね。おやすみなさい」
「おやすみ」
……俺も寝るか。
あ、もう9月になってる。
俺は部屋の明かりを消し、目を閉じ、夏休みの出来事を一から思い返した。少しでも夏休みを引き伸ばすためのささやかな抵抗だが、案外悪くなかった。