捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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ホタル

「まったく……君という奴は何を考えているんだか……」

「…………」

 

 あれからどうやって宿に帰ってきたのか、全然記憶にない。そもそも現実があやふやで、今、俺がいるのが宿なのかすら疑わしく思えてきそうだ。そのくらいに何もかもの輪郭がぼやけている。

 ただ、とりあえずの現実を認識してみると、どうやらここは平塚先生の部屋らしい。帰ってきた俺を見た平塚先生が、慌てて自分の部屋へ連れて行き、宿から包帯やらをもらい、手当てをしてくれた……気がする。

 

「まあ、骨折などの心配はない。ただ少しの間、痛みはするがね」

「……うす」

「何があったかはあえて聞かないよ。ただ自分の事はもう少し大事にしたまえ」

 

 言いながら、先生は俺の頭をくしゃっと撫でた。

 

「君の事を大事に思ってる人間は、君が思うより多いよ」

「…………」

 

 言葉は返さず、頭を下げと部屋に戻った。

 

 *******

 

 部屋に戻ると、わかりきったことだが、葉山達は既に帰ってきていた。

 俺の右手の包帯を見て、ぎょっとしていたが、お互いに言葉を交わす事はせず、あとは昨日と変わらぬ時間が流れた……なんて事はなく。

 

「八幡!その右手、どうしたの!?」

 

 驚いた表情の戸塚が可愛らしく駆け寄ってきた。

 

「いや、転んだだけだよ」

 

 俺は、不安そうな戸塚に苦笑いしながら、定位置の隅っこで、言い訳し続けていた。

 そして、皆が寝静まってから、スマートフォンの画面を開く。

 花陽からの着信はなかった。

 

 *******

 

 修学旅行最終日。

 もう、帰るだけの日。適当なお土産を選び、購入したら、帰りの新幹線の時間を待つだけだ。

 先程、海老名さんとすれ違った際に声をかけられたが、言葉が出てこないようだったので、俺の方からその場を離れた。

 由比ヶ浜も俺の手を見て、すぐに俯いて離れていった。

 俺は……ただ一人の事だけを考えていた。

 右手の痛みの分だけ、強く、強く。

 

 *******

 

 家に着く頃には、すっかり空も暗くなっていた。

 

「お帰り-!……って何その手!?」

「転んだんだよ」

 

 左手で小町の頭をぽんぽんとしてから、自分の部屋へ行く。少し眠りたかった。

 荷物を置き、ベッドに体を投げ出すと、習慣的な動作で携帯の画面を開く。

 花陽からメールが来ていた。

 一呼吸置いて開く。

 

『こんばんは。今日帰って来るんですよね?お疲れさまです。もしよかったら、明日電話していいですか?』

 

「…………」

 

 真っ暗な部屋に、ほんのりとした明かりを放ちながら、その文章は心を締めつけた。

 ごめん、ごめん、ごめん…………。

 嘘つきな臆病者は、大事な人はもちろん、自分すら傷つけるのが怖かった。


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