捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
どうしてこうなった……。
俺はさっきまで甘々なひとときを過ごし、これからその余韻に浸りながら家に帰ろうと思っていたのに……。
「…………」
「…………」
何故か俺は戸部と喫茶店に来ていた。しかもこいつ、自分から誘っておいて、さっきから一言も話さない。さらに、まだ顔を赤らめている。何なの?こいつ俺の事好きなの?ほら、さっきから向こうの席の、海老名さんの同胞らしき女子二人組がチラチラとこっち見てるじゃんか。
「……それで、俺に何か用があるんじゃねーの?」
このままでは埒があかないので戸部を促す。
すると、奴は顔をゆっくり上げ、気まずそうな愛想笑いを浮かべた。
「いや……なんつーか……さっきの子ってさ、ヒキタニくんのカノジョ?」
「ああ……てか、見たんなら……わかるだろ」
「い、いやー、駅前でキスとかー、っべーわ。い、いつから付き合ってんの?」
「ああ……昨日から」
「へえー、そうなの?昨日からとかフレッシュすぎてマジやべーわ」
間違いなく本当の用件とは関係のない話題だろうが、会話したことで徐々に舌が回りだしてきたようだ。戸部は運ばれてきたコーヒーを飲み、肩の力を抜き、さっきよりリラックスした姿勢になった。
「ね、どこの学校の子?うちの学校じゃねえべ?なんつーか、アイドルみたいに可愛かったけど」
「東京の方だよ。つーかお前……気にしてないのか?」
「ん?」
「修学旅行中の事だよ」
「あ、あー、あれかー……」
いつもの軽薄なノリに戻ったと思ったら、俺の言葉でまたシリアスに戻る。なんか申し訳ない。だが、この辺りの出来事が、戸部がわざわざ俺を喫茶店に誘った理由なのだろう。
「ごめんっ!」
いきなり立ち上がり、頭を下げられる。ガタッという音が割と大きく響いたが、店内に客が少ないのが幸いだった。
「……何だよ、いきなり」
俺は告白の妨害はしたが、謝られるような事はされていない。予想外すぎる行動に戸惑っていると、戸部は座り、静かに語り出した。
「あれ……嘘だったんだろ?」
「…………ああ」
さすがにさっきのを見られては言い訳できない。
窓の外に目をやると、人並みはさっきと同じように、どこか規則的に行き交う無機質な流れに見えた。ベルトコンベアに運ばれているみたいだ。
戸部はゆっくりと話を続ける。
「なんつーか、ヒキタニくんは色々知ってたんだろ?」
「…………」
沈黙で肯定しておく。知らなきゃいい事などいくらでもあるのだから、知る必要もないだろうに。しかし、こいつは自分で気づいてしまった。
「それでさ、わざわざ俺らの為に……」
「勘違いすんな」
そこだけは全力で否定しておく。
「俺はクラスの人間関係とかどうでもいい。今回は奉仕部として効率のいいやり方で事を収めただけだ。同情される筋合いはねーよ」
「…………」
戸部はポカンと俺を見ている。
「……俺はスクールカースト最底辺だが、本音を言い合える奴等がいる。今はやりたい事もやるべき事も山積みだ。勝手な憐れみ押しつけられても迷惑だっつの」
半年前なら鼻で笑ったような言葉を、心からの本音として吐き出しながら立ち上がる。
「あ、ヒキタニくん!」
背を向けると戸部から呼び止められたので、一応顔だけ向ける。その表情からは、修学旅行の時のような、何かを求めるひたむきさが見て取れた。
そして、彼は口を開く。
「俺の……友達になってくんねーかな!」
……………………は?
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