捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「はっ、私は……何を……」
やっと園田さんが目覚めて、キョロキョロと周りを見回した。
「海未ちゃん!」
「心配したよ~」
高坂さんと南さんがそのぼんやりとした寝ぼけた顔を覗き込み、安堵の声を漏らす。
現在、控室にはμ'sと総武高校メンバーが集まっている。皆、気絶した園田さんを心配していた。ちなみに俺と花陽はひたすら気まずい。かといって細かい事情を説明するわけにはいかない。
「まったく、心配かけないでよね」
「海未ちゃん、具合悪いん?」
矢澤さんと東條さんもほっとした表情を見せるが、一瞬だけ、東條さんがこちらを見て、にやっと意味ありげに微笑んだ気がした……まさかな。いくら彼女にスピリチュアルな力があるとしても……。
「海未、大丈夫?病院行く?」
絢瀬さんが穏やかな声音で問う。それを園田さんは首を振って断った。
「いえ。体は何ともないのですが……おかしいですね。何も思いだせません……」
「え、本当!?」
「本当か!?」
「え、ええ……どうしたのですか?二人共……」
「「……いや、何でも」」
ぐいぐい詰め寄る花陽と俺に園田さんがたじろぐ。今のやりとりで星空と西木野は何かを察したのか、呆れたような笑顔で俺と花陽を見ていた。
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そうこうしている内に、やがてイベントは終わり、日も傾きかけているので、もう解散する事にしたのだが、途中まで一緒に歩こうという事になった。
材木座が先頭を歩いているが、鎧や兜が重くて疲れたのか、ガッチャガッチャという音に混じって、ゼェゼェ息が荒くてやかましい。戸塚は星空や西木野と話ながら相変わらずの天使ッぷりだ。そろそろスクールアイドル活動を始めた方がいい。ファンクラブ会長になる準備はできている。
そんな事を考えながら花陽を見ると、彼女もこちらを見ていて、どちらからともなく口を開いた。
「危なかったな」
「危なかったです……」
皆と少し離れた場所で花陽としみじみ呟く。
はい。正直に言えば、葬られるかと思いました。
それと、さっきまでの行為を思い返すと、やはり恥ずかしい。俺ってあんな風になっちゃうのかよ。外では自重しよう。
隣の花陽を見ると、さっきまでの火照りは姿を潜め、いつものおっとりした小さな女の子に戻っていた。
……俺がどうこうより、花陽があんな変貌を遂げるのも、驚きかもしれない。
まだ体中に残る感触を噛み締めながら、秋風に吹かれて、熱を冷ます。
「あ、それ、つけてくれてたんですね」
「ああ」
花陽は俺の手を取り、手首につけた黒のリストバンドを愛おしそうに眺める。この前、泊まった時に渡されたやつだ。
「八幡さん、あの時は気づかないふりしてましたよね♪」
「あ、ああ、まあ……」
リストバンドをつけているのが嬉しいのか、その口調は弾んでいた。
そのことを心地良く思いながら、花陽がμ'sに入った頃を思い出す。
気づかないふりか……確かに。
あの時から……いや、もしかしたら出会った時から花陽に夢中になっていたのかもしれない。
「八幡さん」
「どした?」
「また観に来てくださいね」
「……ああ」
「ふふっ、ありがとうございます♪」
花陽はやわらかく微笑むと、一瞬だけ手をきゅっと握って、前を歩く星空達に交じって談笑し始める。その背中を眺めながら、あと何回、花陽のアイドル姿が見れるのだろうと考えてみた。全て脳に焼き付けておかねば。
「ヒキガヤ君」
戸部が話しかけてきて、甘やかな思考が遮られる。
「今日は誘ってくれてありがとな」
「別に、人数多い方がいいと思ったんだよ」
肩組んでそんな事言ってると、また擬態忘れた海老名さん来ちゃうだろうが。
そういや、こいつも変わるって言ってたな。どんな姿を思い描いているかは知る由もないし、また、知らなくていい。誰かにベラベラ話すものでもない。
それに俺だって変わっている途中なのだから。
数秒間吹き抜けた風は、少しずつ近づいてくる冬の足音のように聞こえた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!