捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「それで……何故俺はここに呼ばれたのでしょうか」
花陽と並べてテーブルの前に座らされ、μ'sの視線を一身に浴びていた。わーい、モテ期到来だ-。ほら見ろよ、この園田さんの怪訝そうな表情!割とガチで怖い。何かのきっかけでこの前の事思い出すんじゃないかと……。
「比企谷君に花陽ちゃんとの事を出会いから今に至るまで、じっくり聞かせてもらいたいなぁ~って!」
「はぁ…………はっ!?」
突然の頼みに戦慄が走る。その手の自分語りはただただイタいだけな気がする。ソースは俺。奉仕部時代に何度ドン引きされた事か。
逡巡していると、向こうから声がかけられ、襖が開き、見覚えのある二人組が出てきた。
「はい、どうぞ」
お茶が丁寧に差し出される。湯気を発てているそれは、寒い時期にはありがたい。えっとこの子は……確かこの前見た高坂さんの妹だ。
「あ、どうも」
高坂さんの妹は、笑顔のまま俺と花陽を交互に、興味深そうに見てくる。不快ではないが、くすぐったい。
「ど、どうぞ!」
続いて、もう一人の女の子がお茶菓子が置く……確かこの子は絢瀬さんの妹だ。
もう小町とこの二人でアイドルユニットを組ませたい。俺はプロデューサー兼作詞家として不労所得を得る。なんて素晴らしい。
「どうも」
「ハラ……ショー……あわわ」
「亜里沙……」
絢瀬姉妹がうっとりと切なそうな表情を浮かべている。しかも何故かこちらに目を向けている。
それと反比例するように何故か周りの目は白けていた……ナニガオコッテイルノデショウカ?
「あ、え~と、それでね!」
気を取り直すように南さんが本題の説明を始める。
「はあ……ラブソングね」
「そうなんだよ~。それで、花陽ちゃんの視点からはある程度聞いたんだけど、今度は比企谷君からの視点から聞きたいなぁ~って♪」
南さんの目がやけにキラキラしている。何だこのほんわかめぐりんパワーに匹敵するふわふわオーラは……!
「おねがい♪」
ぐっ!やばい!ここにきて一色のようなあざと可愛さを出してくるとは!中学時代なら間違いなく騙されてた!
「ハチマンサン」
「はい」
いや、引っかかったフリしてるだけですよ。何というか、相手の手札を探る作戦ってやつですよ。まずは敵を知るところから始めなきゃいけないからな。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「比企谷君、お願いできるかしら?今後の為に……曲作りの参考にぜひ聞かせて欲しいの」
「私も…………聞きたいな」
絢瀬姉妹からも懇願される。
とりあえず花陽を見てみると、顔をぽっと赤くして、逸らされた。
「ねぇねぇ、凛が聞くのも今さらだけど、かよちんを初めて見た時、どう思ったの?」
星空が聞いてくる。お前かよ。お前が真っ先に聞くのかよ。
しかし、μ'sのため、何より花陽のためとあらば……
「…………可愛い」
「あうう…………」
言葉を搾り出したが、何この羞恥プレイ。はやくも帰りたい。
「すまん。やっぱ無理だ」
「そうですよ。比企谷君が困っているではありませんか」
「花陽も顔真っ赤よ」
「それよりアンタ!」
小さな子……もとい矢澤さんから指をさされる。行儀悪いぞ。
「約束は守れてるんでしょうね!!」
「に、にこちゃん……」
「もちろん」
自分から言いふらしてはいない。イレギュラーな出来事はあったが、矢澤さんが危惧するようなマイナスには働いてはいない。
「知らないかもしれないけど、花陽はそこそこファンもついてるスクールアイドルなのよ。これからも付き合っていけるの?」
「……俺は今の自分が花陽に釣りあっているとはおもいません」
おそらく予想外であろう俺の言葉で、部屋の中にしんと気まずい静寂が訪れる。安心しているのは、テーブルの下で手を握り合っている俺と花陽だけだろう。
気まずい空気を長引かせてもあれなので続ける。
「でも……一緒にいたいから……そのためには、何だってやります」
昔の自分が聞いたら、薄っぺらいと笑いそうな、飾り気のない本音を言う。
言葉に合わせてぎゅっと強く握られた手だけで、花陽の表情がわかる気がした。この温もりと安らぎに嘘はつけない。
厳しい表情をしていた矢澤さんは、俺の返事を聞いて、にっと満足そうに笑い、向かいにいる園田さんに告げた。
「聞いたわね、海未。今の参考にしといて」
読んでくれた方々、ありがとうございます!