一人の少女が沢山居て、さまざまな事をしている。
襲われている、溺れている、楽しんでいる、喜んでいる。
それが、地平線の彼方まで続いているのだ。
もっとも、地平線と言って良いのか、判断に困る場所ではあったが。
「…これは?」
「誰かがこの少女を弄ったみたいです」
二人の少女…否、二人の女性がその光景を眺めていた。
「…直せるの?」
「さて、どうでしょう」
問われた女性は本を開く。
「…そんなにのんびりしてて良いの?」
「えぇ、まあ。ここは文字通り夢のような広さが有りますから」
ペラ…
「とは言え、このままだと好ましく無い」
「…それは見れば分かる」
「はぁ。このどうしようもない夢たちは加速度的に増えていってます。ねずみ算式に」
ペラ…
「あ…夢の国のね「それ以上はいけない」…そうですか」
ペラ…
「それで、どうにか出来るあては?」
「今、分かりました。…貴女が頼んだら、やるかもしれませんよ?稀神 サグメさん」
夢の支配人は尻尾を揺らし、人をおちょくるような笑みを浮かべる。
「…この素敵な夢が無くなるのは嫌だな?ドレミー・スイート」
片翼の女神は口元を手で隠す。
「あら、貴女がそう言ったら消えちゃうのでは?」
「ふふ、なら…こんな夢、さっさと消えてしまえばいい」
「最初からそう言えば良いのに」
本が閉じられる。
私の名前は霧雨 魔理沙。
私の自己紹介は後一言ですむ。
『普通の魔法使い』だぜ!
ま、異変には必ず解決に向かってるし、知らない方が少ない筈だしな。
「ん~、今日は…。そうだ、京都…じゃなくてアリスの家に行ってみるか、久し振りに」
箒の速度をあげる。きっと今なら天狗にさえ着いていける!
「クシュンッ…あやや、風邪ですかね?」
~○~○~○~○~○~
「よし、着いた」
箒を降り、玄関脇の傘立てに刺す。
「お~い!アリス!たか…遊びに来たぜ!」
大声で怒鳴る。ついでに扉を控えめにトントン。
「てんてんてん。返事がないって事は…」
入っていいってこと。
「そんじゃあ、お邪魔するぜ!」
扉を蹴破る。あ?鍵かかって無かったのか。全く、私だから良いとして、悪い妖怪とか泥棒に入られたらどうするつもりだったのか。
「…お~い、アリス~?」
おかしいな、何時もなら真っ先に人形で攻撃してきて、それを凌いでも口撃してくる。隙を生じぬ二段構えからのおもてなし。
「居ないのか?」
キョロキョロと家を見回し、軽くガサ入れしてから二階へ。
「おぉ?人形の邪魔が無い?」
こいつはラッキー。何がなんでも見せてくれなかった二階の探索が出来るぜ。
鼻歌を歌いながら階段を登る。
「うん?『私の部屋』?…アリスの自室か。てっきり下の作業部屋で寝てるのかと思ってたぜ」
なんてな。大体検討はついてたぜ。
「では早速、お邪魔しま~す…」
ガチャ。
鍵が掛かってないのか。不用心だな。
「ってう」
慌てて口を押さえる。
あ、アリス居るじゃねーか!しかも寝てるし!
でも、アリスの寝顔か。珍しいもの見れそうだな。
ソロ~っと近付き、寝顔を眺める。
「……相変わらず人形みたいな顔だな」
これがアリスを模した人形だって言われても私は信じるぜ。
イヤーしかし今こそ天狗の写真が欲しいぜ。
高く売り付けてやるのに。
「ん…朝…?」
「やべ」
起こしちまった。怒られる…だろうなぁ。今更逃げても仕方無い。
「…魔理、沙?」
「おう、そうだぜ」
「……」ブワァッ
「うわっ!な、何で泣くんだぜ!?」
「魔理沙ぁ…」
抱きついてきた。
な、なんだ!?寝惚けてるのか!?いや、アリスに限ってそれは無い。と思う。
よ、良かった。何も取ってないから前掛けのポケットには何も入ってない。 訂正、
「うぅ…これも夢なの?夢なのね?だったら甘えても良いわよね?どうせ無かったことにされるんだから」
「な、何言ってるんだぜ!?」
「ウワーーン!!怖いよぉ!寂しいよぉ!」
「お、おお、お、ま、その、よしよし、良い子良い子。魔理沙様が着いてるぜ」
何か幼児退行してる!?と、取り合えず泣き止むまで待とう、うん。
「怖い夢でも見たのか?」
「うん…うん…ずっと、ずっと同じ日を繰り返すの。やり直して、やり直して、やり直してやり直してやり直してやり直して、やっと一日が正しく出来たと思ったら、結局同じ日を繰り返すの」
「それは……怖いな」
正直良く分からない。寝て、起きたら同じ日?想像が出来ないぜ。
「だからきっと、これも夢なの。また寝たら、きっとまた
「大丈夫だ、大丈夫だぜ。私が居る。悪い夢はマスタースパークで吹っ飛んでくぜ!」
「うぅ……うん…う…ん…」スヤァ
「…寝たのか」
何だったんだ、今の。
~○~○~○~○~○~
「んん…」
あぁ…また…
でも、前回は魔理沙に会えた。慰めて貰った。
「お、起きたか?今度は怖い夢見なかったろ?なんせ私がここに居たからな」
「…え?…えぇ!?」
「どうした、変なものでも見たような顔して」
「な、な、なぁ!?っ!」
「お、おい!何処行くんだよ!」
下に降りる。カレンダーを確認。
「おいおい、どうしたんだぜ?さっきといい、今といい」
「魔理沙!」
「な、何だ?」
「今日は何日!?」
「えっと、長月の始まりだぜ」
………やっ…た…。やっと……やっと…!
「明日になったのね!」
「はぇ?」
「あぅ、きゅうあぁ!」
何を言っていいか分からなくて変な声が出てきた。
けど、気にならない。思わず魔理沙に抱きつく。
「またか!」
「やった!明日よ!魔理沙、今日は明日なのよ!」
「わ、訳が分からない…ぜ」
そしてアリスはそこから長い間、かなり恥ずかしい事をしたのを元にからかわれることになった。
「何をしたんだ?」
「彼女に必要なのは『時間』。幸い、ここは無限の時間を
「…ナルホドワカラン」
「三日ほど前に一緒に見た夢の台詞ですね?珍しい外の世界の」
「そうでh…す」
「顔が赤いですよ?」ニヤニヤ
「うるさい。結局何をしたんだ?」
「並列を直列に。つまり、夢の中で夢を見させました。代償に、ここから一年間、夢を没取ですけどね」
「…纏めた、と?」
「そういう事です。何千何万何億もの夢を、無理矢理一つにしました。これで彼女は明日を迎えられる。私たちは今夜を静かに過ごせる。さあ、ウィスキーなんていかがですか?夢の中で酔うのも、また一興ですよ?」