ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「は?」
思考が停止する。今、何と言った?
「お父さんもお母さんも定期船に乗っていっちゃったみたいで今日一日一人で過ごさなきゃいけないんだけど、せっかくだし櫂の所で久々にお泊りしようかなーって」
「久々のお泊りって……、何年前の話だよ」
確かに曜の父親は定期船の船長をやってるし、母親もたまに家を開けることが多かったから不備に思った親父がウチに泊まらせたことはあったけど……。それも俺たちが小学生の時だ。今は俺たちは年頃の高校生。俺もこいつと一つ屋根の下一夜を共にするとなったらどうなることやら。
「それに、親父がどう言うか……」
すると、俺のスマホが揺れた噂をすれば親父からのメールだ。
開いてみると「すまん、今日飲みに行くので家を空ける。飯はテキトーにやっといてくれ☆」という50過ぎの父親らしからぬ文面だった。
「あの親父ぃ!!」
「ん? どうだったの?」
ひょこっと曜が横から画面を見る。吐息がかかる距離まで近づいて来ている。ち、近い。
文面を把握したのか、彼女は離れるとにこりと笑顔を俺に向けた。
「じゃあ、一度帰って荷物持ってくるね♪」
俺はもう逆らう気力すらなかった。
「おっ邪魔しまーす」
それから暫くして、曜が俺の家に来た。何故か制服のまま。
「なんでお前制服のままなんだよ」
「だって、めんどくさかったんだもん~」
頭を掻きながら苦笑いする曜。しっかりとしてるけど、どこかずぼらだったりするんだよな。
「上がれよ。そろそろ飯作るから」
「あ、いいよ。私が作るから!」
「作ってくれるのか?!」
正直、料理はそんなに得意じゃないから助かる。曜は荷物を下ろすと台所へと向かった。
「うん。久々に作りたいし、ハンバーグでいいよね?」
台所にあったであろうエプロンを結び、こちらを覗いてくる。なんかいいな、エプロン姿。
「ああ。一番美味いのを頼む」
「アイアイサー!」
びしり、と敬礼すると曜は台所へと消えていった。そこから聞こえる鼻歌が、どこか心地よかった。
「あぁ、美味かった」
部屋に一人、ベッドに腰掛けて腹を擦る。皿を洗おうとしたら、『皿を洗うまでが料理人の仕事! 櫂は先に部屋に戻ってて!』と言われた。なんだそりゃ。
なんて考えていると、ノックの音が聞こえた。
「どーぞ」
返事をしてやると、すすすと少し恥ずかしそうに曜が入ってきた。
「どうした?」
「久々だし、一緒に寝ようかなーって思ってさ」
「は?」
待ってくれよお嬢さん。もう俺たち高校生よ? いくら幼なじみとは言え、それは認められない。
「ちょ、ちょっと待て! 他にも部屋があるだろう!」
「だって櫂の家、お父さんと櫂の部屋以外倉庫みたいじゃん」
俺と親父以外の部屋は漁に使うものを保管しておく倉庫だ。しまった、幼いころは気が付かなかったが俺の家は誰かを泊めるには適してない家だったのか!
「居間とかがあるだろ? わざわざ俺の部屋なんかで……」
俺がそこまで言うと曜の瞳がゆらゆらと揺れた。
「櫂、私と一緒がそんなにイヤ……?」
涙声で言わんでくれ。逆らえないじゃねえか。
「わかったよ。俺の押入れにある布団使って――っておい!」
俺が少し視線を逸らしていたのをいいことに、曜は押入れを物色していた。
「あの曜さん!? キミは何しとるんかね?!」
「いやー、そこまでして寝かせたくないってことはエッチな本の一つや二つあるのかと」
そう言って再び頭を押し入れに戻す曜。そして俺に向けられる、曜のお尻。何だ、俺は試されているのか?
流石の俺もここまでされれば堪忍袋の緒が切れる訳で。
「このっ、いい加減に――」
「きゃっ」
俺は強引に彼女をお姫様抱っこするとベッドに押し倒し、上に乗りかかった。
「ごめん……」
少ししゅんとして俺を見つめる曜。わかればよろしい。
「……」
それでも曜の視線が変わることはない。俺は冷静さを取り戻し、自分の状況を再確認した。
これ、俺が曜を押し倒した形になってるじゃんか。そう意識した瞬間、心臓の音が体内を木霊する。気のせいか、曜の頬も朱に染まっていて。
押し倒されている曜は全く抵抗を見せない。いいのか? これは同意と見てよろしいのか? 俺は頭を垂れようとして――
『ただいまー』
突然の親父の声に身を引き剥がした。ナイスタイミングだ親父! 今だけは感謝する!「お、俺親父の様子見てくる!」
そう言うと俺は階段を転げ降りた。
結局その夜、俺と曜は同じ部屋で寝ることになった。俺がベッドを譲ろうとしたが、曜は布団で充分と言ってくれた。
「櫂」
ベッドの下から曜の声が聞こえた。俺は起き上がらずになんだ、と声をかけた。
「て、繋ご?」
俺は黙って左手をベッドの下へと向けた。そして柔らかく優しい感触が伝わってくる。
「懐かしいね、昔もこうやって手を握って寝てたよね」
「何年前の話だよそれ。でも懐かしいな」
「うん」
それだけの会話。その後訪れるのは秒針の音だけが支配する世界。でもその沈黙はすぐ破られて。
「おやすみ、櫂」
「ああ、おやすみ、曜」
俺は意識を手放すまで、左手に残った人肌を握り続けていた。
夢を見た。俺の隣で笑っている女の子。その笑顔が眩しくて。
「――」
その子の名前を呼んだ。と、同時に頬に強い衝撃。
「いでぇ!?」
痛みに目を覚まし、飛び起きる。そして降り注ぐ笑い声。
「あははっ、おはよう、櫂! また寝坊寸前だぞー!」
その笑顔に毒気を抜かれ、俺の頬も緩んだ。
「おはよう、曜」
こうして俺の一日がまた始まった。
いやー、曜ちゃんは何やらせても違和感ないから本当に動かしやすい。二次創作的にはいい子です。