ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
俺「こ、これはアニメからじゃねーし、生放送のネタからだし……」
完全に苦し紛れです。本当にありがとうございました。
「食材がない?」
おれは千歌のお姉さんからの報告を聞いて耳を疑った。
「そうなの。思ったよりも皆の滞在期間が長くって……。今から買い出しに行くから夕飯はなんとかなると思うんだけど……」
時計の針は11時を指していた。これからの昼食を何とかおれたちだけで済まさなければならないのだ。
「わかった。千歌たちには伝えておくよ。ごめん、迷惑かけて」
「いいのよ。頑張ってる千歌を応援したいのは櫂だけじゃないんだから」
お姉さんの言葉が嬉しくて、おれは一礼すると千歌達の元へと戻った。
「――と、言うわけでお昼はおれ達だけでなんとかしなくちゃいけなくなりました!」
おれはAqoursの面々9人が集まる部屋で食料がないことを報告した。
「それは、困りましたわね……。ここは一度各自の家に帰って食事を摂ってから再び集合するのがいいでしょうか……」
あごに指を当て思案するダイヤさんに善子が疑問をぶつける。
「それじゃあヨハネはどうするのよ。ヨハネは沼津と家から遠いし……」
「善子ちゃんはおらの家で一緒にご飯を食べるといいずら」
「ありがとうずら丸! あと私はヨハネよ!」
「お姉ちゃん、ルビィたちも家でご飯食べる?」
「ええ、そうしましょうか」
えーと、一年生とダイヤさんが一度家に帰宅か。さて残りの面々はどうしようかな?
「カイ!」
おれが考え事をしていると、鞠莉さんが手を上げてきた。
「ワタシにいい考えがあるの!」
「ハーイ、お疲れ様ー!! サンキュー!」
家で食べる組が旅館を後にした後、鞠莉さんが食料を運んできたトラックに手を降って見送った。彼女の足元には少し大きめのダンボール。
「それで鞠莉さん、この食材で昼飯を作るんですか?」
おれがダンボールに手を伸ばすよりも先に鞠莉さんがそれを持った。
「カイは触っちゃNoよ。ワタシが作ってあげる!」
「え、鞠莉さんの手料理ですか?」
「Yes! ワタシのフルコース、味わってちょうだい!」
こうして、おれ達は鞠莉さんの作るごちそうを食べることとなった。
「ねぇ、本当にいいの?」
後ろから果南ねえちゃんの声が聞こえる。おれの背中には彼女の柔らかな何かが当っているが、そこは気にしない。そしておれの下には梨子、曜、千歌。
「だって果南ちゃん、気にならない? 鞠莉さんの手料理?」
「そうだよ、あの鞠莉さんが手料理なんて、想像出来る……?」
「ひ、ひどい言われようだね、鞠莉ちゃん……」
残った果南ねえちゃん、千歌、曜、梨子とおれ達で厨房の入り口で鍋の前に立つ鞠莉さんを見つめている。
「果南ねえちゃんは、鞠莉さんの料理食べたことあるのか?」
「言われればないかも。遊びに行った時に紅茶を淹れてもらったことあるだけで、お菓子とかご飯とかはウェイターさんとかが持ってきてくれたし……」
「やっぱり気になるよ、果南ちゃん!」
と、おれ達の思惑を余所に、鞠莉さんの調理が始まった。
「んー、今日はシチューにしようかしら……」
《おっと鞠莉選手、この夏場にシチューを出すということを考えました。これはアリなんでしょうか、解説役兼旅館の娘の千歌さん?》
《正直悪手ですね。夏場のシチュー程熱くて食べられないものはありません》
《二人して小声でなにしてるの?》
実況風に会話する千歌と曜、ツッコミをいれる梨子に気づかず、鞠莉さんは鍋相手に呟く。
「えーと、取り敢えず美味しい物を入れていけば美味しくなるはずだから……」
先ほど運んだダンボールから食材を取り出して入れていく。特に切ったりもしないまま。
「金目鯛と、松阪牛と伊勢海老と伊勢海老と金目鯛と金目鯛と……」
その豪快の域を超越し兼ねない調理におれ達の体温がさっと下がるのを感じた。
《皆、取り敢えずツッコんでいいかな》
おれの問いに全員無言で返事をした。おれは鞠莉さんに聞こえない程度の音量で叫んだ。
《何だあの料理は!? って言うかあれは料理と言っていいものなのか?》
《ほ、ほら櫂ちゃん、ビッグアメリカってことで……》
《流石のアメリカンドリームも具を切らないほどビッグじゃねーよ! っていうか何であんなに金目鯛をぶち込むんだよ!》
《そ、それは櫂、鞠莉さん金髪だから……》
《ああ、これが本当のマリーゴールド……って馬鹿!!》
困惑するおれ達を余所に、鞠莉さんのマッドなクッキングは続く。
「調味料は、んーと、分かんないから日本酒を一升入れてっと……」
《そんなに入れたら酔っ払っちまうよ! 酒蒸しでも作りたいのかあの人? おれ達一応未成年よ?》
「それと、このマリー特性の調味料を入れて……」
鞠莉さんが懐から取り出した謎の液体が鍋へと入ると、鍋は謎の発光現象を始めた。後光のような光を浴びながらおれ達が口を開けながら果南ねえちゃんの方を向くと、彼女は黙って首を横に振った。
それを見て曜が台所から離れた。
《そ、そーだ! 私、魚を釣ってこようかなー!!》
《曜ちゃん、千歌も!》
《ふ、二人共わたしも!》
二年生は一斉にその場から去っていった。残されたのはおれと果南ねえちゃん。
《果南ねえちゃん、果南ねえちゃんは何処にも行ったりしないよね?》
昔こうやって上目遣いで見つめた時、果南ねえちゃんは折れてくれたっけ。今はその可能性にかけるっ!!
《っ……!》
果南ねえちゃんは歯を食いしばりながらおれの視線から逃れる。
《ごめん、おじいが一人でご飯食べれてるかどうかわからないから、帰るね……》
果南ねえちゃんまでもがおれに背を向けて去ってしまった。
《この裏切り者ぉー!!》
我ら生まれは違えども、死する時は同じという桃園の誓いは何処へいってしまったのか。おれの嘆きを知らず、鞠莉さんの殺人クッキングは続く。
「~♪」
マズい、これは二重の意味でマズい。彼女の料理が完成するまでにここから逃げなくては。おれの命がマズい!
と、台所から背を向けて、歩き始めようとした時だった。
「カイ、美味しく食べてくれるかな~♪」
その言葉に足が止まった。視線を再び厨房へと向ける。作っている内容はともかく、鞠莉さんはとても嬉しそうに料理をしていた。一番食べてもらいたい人のことを想いながら。
「ハートを掴む前にまずは胃袋を掴まないと! カイ♪、待っててね♪」
おれは厨房を後にした。
「ハーイ、お待たせ♪ マリーの特製シチューシャイ煮スペシャルよ♡」
そう言って彼女が盛りつけてきたのは、七色に輝きを放つシチューらしき煮込んだ何か。おれはこれを食さなければならない。
ああそうだよ、おれは女の子が悲しむ顔を見たくないんだ。おれがこいつを食うことで鞠莉さんの笑顔が守れるなら本望だ!
「で、では……、いただきます……」
恐る恐るスプーンでソレを掬う。掬っても尚そのシャイ煮とやらは輝きを失わない。こりゃアレだな。滅茶苦茶美味いか、食ったら爆発する類の代物だ。
ええいままよ、と覚悟してソレを失わない口に含んだ。そしてかつてない衝撃がおれの中を突き抜け、一言漏らした。
「美味い」
この名状しがたいどろっとしていてべちゃべちゃした何かは食感こそ微妙だが味はもったりとしていてしつこく、絡みつく。だがそれがクセになる。これは前者だったか。
「美味しいですよ鞠莉さん!」
思わずシチューにがっつくおれを見て鞠莉さんの笑顔がさらに輝く。
「ホント!? 全部の具材が溶けこむまで煮込んだ甲斐があったわね!!」
うおォンとおれは叫び声をあげながらシチューを平らげてしまった。気のせいか鞠莉さんが輝いて見える。あれ、鞠莉さんってこんなに魅力的な人だったっけ。鞠莉さんだけでなく周囲の空間も、おれ自身も輝き、その輪郭を消していく。
そして、おれの世界は白に包まれた。
ふと眼が覚めた。天井がある。そして隣に見えるのは心配そうにおれを覗き込む鞠莉さん。おれ、布団に寝てるみたいだな。
「カイ! やっと目が覚めたのね!!」
「あれ、鞠莉さん。おれ……」
おれが何か言い切る前に、彼女はおれの胸元へ顔を埋めた。
「ごめんなさい! ワタシのせいでカイが……」
涙ぐむ彼女の話によると、おれは一口食っただけでぶっ倒れてしまったらしい。それじゃあおれは幻覚を見ていたのか? 恐るべき破壊力だったんだな。おれは胸元を濡らしてくる鞠莉さんの肩を掴むと、彼女を離した。
「大丈夫ですよ、鞠莉さん。さっきのはその、ちょっと刺激が強すぎただけですから」
「でもっ!!」
いつもの彼女からは想像出来ない涙目に、ちょっとドキッとした。今のおれに出来ることは――
「鞠莉さん、まだ食材は残ってますか?」
「え、ええ。残ってはいるけど……」
困惑する鞠莉さんにおれは笑顔を向けた。
「よし、じゃあ今度は一緒に作りましょう。一緒に作って、一緒に食べればもっと美味しくなりますよ」
「一緒に、作ってくれるの……?」
「えぇ。おれも料理はあんまり得意じゃないですけど、二人で頑張ればなんとかなりますよ!」
おれの言葉に鞠莉さんはようやく笑顔を見せてくれた。
「ええ! 夫婦で始めての共同作業よ!」
「夫婦の、ってとこは否定する!」
「もう、照れてるの? カワイイわね!」
「う……」
「さぁ、二人だけのシャイ煮を作るわよ!」
「あ、シャイ煮を作ることは確定なんすね!」
二人だけの厨房で、おれ達は調理を始めた。
「かい、鞠莉の料理はどうだった?」
皆が戻ってきて、果南ねえちゃんが真っ先に聞いてきた。おれはバンソコウだらけの指でVサインをして笑顔で応えた。
ふと思いついてしまったシャイ煮回。ニコ生が先だから。いいね?
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