ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「どーして遅れるかなおれはっ!」
海がオレンジ色に染まり、空が藍色になりつつある夕方に、おれは走る。冷たい空気が肺を突き刺し、呼吸を困難にさせる。が、そんなこともお構いなしに走り続けた。一刻も早く彼女に逢いたくて。いつも千歌達と別れる道に、彼女は立っていた。おれは彼女に親しみのある名で呼んだ。
「果南姉ちゃん!」
その声に彼女は振り返り、優しそうに微笑んだ。
「あっ、かい……」
果南姉ちゃんのもとにたどり着き、近づくなり頭を下げた。
「ごめんね、今日果南姉ちゃんの誕生日だってすっかり忘れてて……、ホントにごめんっ!」
「大丈夫だよ、気にしてないから。ちか達に祝って貰ったし、かいは違う学校だし、仕方ないよ」
嬉しそうな声に顔を上げると、その笑顔には、どこか寂しさが残っていて。
「仕方ないもん、ね……」
そんな果南姉ちゃんの顔を見てたら居ても立ってもいられなくて。
「この埋め合わせはするよ。何だってするから」
「かい?」
そう言わないと気がすまなかった。昔も、今までも姉として慕っていた彼女のそんな顔は見たくなかったから。
「何だってする、ねぇ……?」
ちょっと意地悪そうな顔をしておれを見る。もしかして、曜の奴の影響受けてないか?
なんて考えていると果南姉ちゃんはスマホを取り出して画面をいじると、スピーカーを耳に当てた。
「あ、おじさん? 今日かいを借りてもいいかな? うん。今日おじぃ居なくてさ。うん! ありがと!」
通話を終えるとにやりと笑顔を向けてきた。
「――と言う訳で、今日から明日の朝までかいにはウチに来てもらうよ!」
うん。うん?
「ちょっと待って! なんでそーなるのさ!」
「いやー、今日おじぃが出かけちゃっててね、一人で過ごすのも退屈だったから。かいに一緒に居てもらおうって。おじさんには許可とったので」
果南姉ちゃんはおじぃと二人暮らし。そのおじぃがいないってことになると二人っきりで同じ屋根の下で暮らすことになる訳で。
「いやいや、それはマズいって!」
「どーして? 昔はよく一緒にお泊まり会とかしたじゃん?」
「あれは昔だからで、今は――」
「私と二人っきりは、いや?」
すっと近づき、おれを見つめる。だから、そんな寂しそうな顔しないでよ。逆らえないじゃんか。
「イヤじゃ――、ないです……」
「よしっ、決まりっ! いこっ!」
「ちょっ、引っ張んないでよ!」
果南姉ちゃんがおれの手を引っ張っていき、おれは彼女の家にお持ち帰りされるのでした。
「ただいまーっ。さ、かいもそんなとこに立ってないであがってよ」
「お、お邪魔しまーす……」
緊張しながら靴を脱ぎ、果南姉ちゃんの家にあがる。最後にこの家にあがったのは、中学生にあがる直前頃だろうか。あの頃から全然変わってないな。
「さて、どーやって埋め合わせしてもらおーかな……」
顎に手を添えて考える果南姉ちゃん。そして思いついたのかおれの方を見た。
「そうだ、かい。夕飯作ってよ」
「いきなりだね。っていうか果南姉ちゃん、おれが料理そんなに上手くないって知ってるでしょ?」
「私も手伝うから大丈夫だよ」
「大丈夫って……」
「いいから、かいの料理が食べたいんだよーっ!」
腰に手を当て、少しムクレる果南姉ちゃん。いつも大人っぽい彼女からは想像出来ないわがままっぷりが少し可愛かった。誕生日祝うの遅れちゃったし、一日言うこと聞くって約束だったから仕方ないか。
「わかったよ。その代わり、ちゃんと手伝ってよ?」
「うんっ。材料は冷蔵庫にあるから」
Yシャツの袖を捲り、冷蔵庫を開ける。流石松浦家、エビやら烏賊などの海の幸がたくさん入ってる。
「じゃあシーフードなチャーハンにでもしようか」
「うん、そうしよっか」
いつの間にか部屋着に着替えた果南姉ちゃんがおれの隣に立って夕食の準備を手伝ってくれている。
肩と肩が触れ合えそうな距離に意識が嫌でも彼女の方に行ってしまう。ポニーテールにして露わになっているうなじが何とも色気を保っていて。そんなおれの視線に気がついたのかこちらを向く果南姉ちゃん。
「かい? どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、ちょっと距離が近すぎやしませんか?」
「えーっ、そうかなぁ?」
「そうだよ」
「もしかしてかい、照れてる?」
図星だったことを悟られなくなくて、出来る限りの真顔を張り付けてやる。
「黙秘します」
「そっかー、えい、えいっ」
そういうと彼女はちょっかいを入れるようにおれの方に身体を軽くぶつけてきた。
「ちょっ、果南姉ちゃんっ! こっちは包丁持ってるんだから悪戯しない!」
今までの彼女ならしないことに少し混乱してしまう。果南姉ちゃん、どうしたんだろ?
「かいが照れてること認めないからだよー」
「ありゃ、バレてた?」
「うん、バレバレ。知らなかった? かいって嘘つくと右頬がひくひくするんだよ?」
「え、うそ?」
おれは思わず右頬を触った。が、おれの頬は痙攣してない。その様を果南姉ちゃんはにやりとして見ている。
「嘘だよっ。でも、嘘つきは見つかったみたいだね」
もしかしておれ、鎌を掛けられた?
「果南姉ちゃんには叶わないなぁ」
「そりゃ千歌達のお姉さんだから」
それからも果南姉ちゃんにしては少し積極的なスキンシップを受けながらおれは夕飯を作ったのだった。
「ごちそうさまーっと!」
両手をぱんっと合わせる果南姉ちゃん。おれはその食器を流しへと運んだ。
「お粗末様でした。どうだった味は?」
果南姉ちゃんはんー、と少し考えるとにっこりと笑って答えた。
「んー、まあまあかな?」
「作らせといてそれ?」
「冗談だよ。少し上達したんじゃない?」
「おれのウチだってたまに親父が家に居ない時だってあるんだ、嫌でも料理は覚えるよ」
最近は何とか自分でも美味いって思えるもの作れるようになったし。何より誰かに、果南姉ちゃんに食べてもらって「美味しい」って言って貰えるのは嬉しい。
「さてと、そろそろお風呂に入ろうかなー」
おれが皿を洗っていると立ち上がって伸びをする果南姉ちゃん。そしておれを見るとにやりとした。
「かい、一緒に入る?」
「なっ!? 何言ってんのさ!」
そう言っておきながら彼女の肢体を見てしまう。すらりとした四肢に、大きな胸部。そんなモデルみたいな体つきをした彼女と一緒にお風呂なんか入ったらおれはーー
「冗談だよー。もうかいったらそんなに顔真っ赤にして。何想像してるのさ?」
「いやだって果南姉ちゃんがそんなこと言うから……」
「ふふ、それじゃあ入ってくるね。あ、そうだーー」
一度台所から出て行きかけて果南姉ちゃんは足を止めてこっちを向いた。
「後で入って来ても、いいんだよ?」
「入りませんからっ!」
おれの言葉にまた笑って今度こそ彼女は姿を消した。どうしてだろう、今日の果南姉ちゃんはいつもよりも積極的だ。誕生日だからかな? まぁそんな果南姉ちゃんも可愛いからいいか。
「んで、お前はいい加減落ち着け!」
おれは先ほどのやりとりで興奮してしまった下半身の自分自身を叱りつけると、皿洗いに没頭した。
「ふーっ、いいお風呂だったぁ……」
皿洗いを終えてお茶を淹れてくつろいでいること十数分、果南姉ちゃんが戻ってきた。少し濡れた髪がどこか色っぽくて直視出来ない。
「さ、かいも入ってきなよ」
「うん、そうさせてもらおうかなーーってよくよく考えたら風呂あがったときの服とかないじゃん」
風呂あがった後に制服は着たくないからな。どうしたものか。
「あー、それは心配しなくてもいいよ。かいがお風呂入ってる間に着替え用意しておくから。安心して入ってきなよ」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
おれは果南姉ちゃんの厚意に甘えて、風呂に入ることにした。
●●
「じゃあ着替えはここにおいとくね。あ、制服洗っておこうか?」
「ありがとー、じゃあ上のYシャツだけでいいから」
「はーい」
私は風呂場にいるかいに向かって声をかけた。そしてかいのYシャツを手に持った。
「あ……」
汗で少し湿ったかいのYシャツ。これを、かいが着てたんだ。そう思うだけでちょっとドキドキする。
「かい……」
風呂に入ってる本人に聞こえないように小さく呟き、そのYシャツをぎゅっと抱きしめる。汗で濡れてるけどそんなに不快感はない。むしろかいのだと考えると、嬉しい位だ。そんな顔を寄せて臭いを嗅いでいると――
「果南姉ちゃん? どうかした?」
「ひゃぁっ!」
突然聞こえてきたかいの声に、びっくりして声をあげてしまう。追い打ちをかけるようにかいが不思議そうに問いかけてきた。
「そ、そんなに驚いた? 何か出ていく気配がしなかったからまだ何かあるのかなーって」
「いやあの、えっと……」
かいのYシャツをぎゅっとしてたなんて言えるわけもなくて。必死に頭を回転させて言い訳を考える。
かいのYシャツをぎゅっとしてたなんて言えるわけもなくて。必死に頭を回転させて言い訳を考える。
「だ、だいぶ服のサイズ大きくなったんじゃないかなーって思ってさっ!」
「あー、果南姉ちゃんの家に遊びに来たのも大分前だからね。着るものも大きくなるさ」
良かった、変に思われてないみたい。なんてほっとしてるとかいが問いかけてきた。
「どう?果南姉ちゃん。おれは少しは大きくなったでしょ?」
それは服の大きさに関しての問いだったのかもしれない。その問いに私は近頃のかいの背中を思い浮かべて答えた。
「うん、大きくなってるよ。かいは。もう私よりも・・・」
答えながらかいのYシャツをさっきよりもぎゅっと抱きしめた。
◇◇
「ふう、さっぱりした」
おれが居間に戻ると果南姉ちゃんは待ってたと言わんばかりの表情でおれを迎えた。
「待ってたよかい」
「待ってたって?」
おれが近づくと果南姉ちゃんは少し顔を赤らめながらとんでもない提案をしてきた。
「ねぇかい。膝枕してくれる?」
「はぁ!?」
何を言いやがりますかこの姉様は。
「いやふつー女の子がやるもんでしょそれって」
「私はかいに膝枕してもらいたいんだよー」
「いやでも……」
「いいからーっ」
頬を膨らませる果南姉ちゃん。これ以上異を唱えてもしょうがないのでおれは彼女の近くに正座すると、自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「はい、どーぞ」
「へへ、ありがとー」
ぽす、と膝に果南姉ちゃんの頭が乗っかった。頭の重みが下半身に伝わる。心地よさそうにしてる彼女の表情を見ていると、あんまり重く感じなかった。
「使い心地はいかがですか、お嬢様」
「うーん、ごつごつしてて固い?」
「やらせといてそれ?」
「でも――」
果南姉ちゃんは手をおれの頬へ添えた。
「不思議と落ち着く、かな」
柔らかな笑顔と手から伝わる温かさにつられて頬が緩んだ。
「じゃあ暫くこのままでいようかな」
「うん、そーして♪」
おれ達はそのままゆっくりと二人の時間を過ごした。
それからどれ位時間が経っただろうか。ふと時計を見るともう寝てもいい時間になっていた。
「あの、果南姉ちゃん。そろそろ寝る時間だけど」
「……」
「果南姉ちゃん?」
視線を彼女に向けると、果南姉ちゃんは小さな寝息をたてて寝ていた。
「すぅ、すぅ……」
「そんなに男の膝枕が気持ちよかったのかね。おーい」
「んぅ……」
呼吸をする度に胸が揺れる。小さな頃の憧れだった果南姉ちゃんのそれは、青少年には刺激的すぎる描写な訳で。むらむらとする気持ちを振り払い、彼女を起こさないようにお姫様抱っこする。彼女の部屋に連れて行き、ベッドに横たわせる。
「ん……」
余程疲れていたのか、運んでいる最中も全く起きなかった。そんな彼女の頭を一撫ですると、おれは部屋をあとにした。
「おやすみ、果南姉ちゃん」
タオルケットを拝借すると、おれはソファに横になり眠りについた。
つんつん。
頬を突かれる感触を感じて意識が目覚めた。瞼から透過する明るさからどうやら朝らしい。誰だ?
「おーい、朝だよ~」
つんつん。
再びのつんつんと少し大人びた声に瞼を開く。そこには起きたのが嬉しかったのか、笑顔を向ける果南姉ちゃんがいた。
「あ、やっと起きたね。寝坊助だよ?」
「あ、おはよ、果南姉ちゃん」
「うんっ、おはよっ」
果南姉ちゃんは笑顔を向けると立ち上がって台所へと向かった。
「待っててね。すぐ朝ごはん作るから」
「あ、うん……」
おれの抜けた声にすぐさま翻して額をつついた。
「いつまで寝ぼけてるの? ほら顔洗ってきなよ」
その声に従っておれは洗面所で顔を洗った。冷たい水が思考を研ぎすませてくれる。鏡を見ながらおれは昨日の彼女の様子について考えた。
昨夜のあれは、本当に果南姉ちゃんだったんだろうか。あんなにおれに夕飯を作れや、膝枕してくれだと言っていた彼女。そして今日はもういつも通りのしっかり者の果南姉ちゃんだ。そのギャップの差に頭がついて来ない。誕生日だったからなのかな。
「かーい? 朝ごはん出来たよ~。一緒に食べよー」
「今行くよー!」
考えても答えが出るもんじゃない。おれはそう言い聞かせて居間へと戻った。
テーブルにはアジの開きやタコサラダなど、海の幸が多めの朝食だ。
「じゃあ、いただきます♪」
彼女の笑顔を見ながら、おれは朝食を摂ることにした。
「昨日は、ありがとね。かい」
朝食を食べ終えて彼女の家を出る間際、おれは果南姉ちゃんの声を背中で聞いた。振り返ると少し顔を赤らめて頬を掻いている果南姉ちゃんがいた。
「えっと、その……。昨日はだいぶ我儘言っちゃったかなーってさ。ベッドまで運んでもらっちゃったみたいだし、後から申し訳なくなっちゃって……。誕生日だし偶には誰かに甘えてみるのもいいかなぁってさ……」
やっぱり、昨日のもちゃんとした果南姉ちゃんだったんだな。そんな彼女をおれだけが見れた、それが嬉しくって。
「あれ位、我儘にも入らないよ。むしろおれは今まで果南姉ちゃんに、その、甘えてた時もあったし、お世話になったもん。少しでも恩返し出来たなら、いいんだけど」
「かい……」
果南姉ちゃんは嬉しそうに笑うと、両手を広げた。
「じゃあさ、最後の我儘、聞いてくれる?」
「うん」
「ハグ、しよ?」
「うん……」
彼女に歩み寄り、その抱擁を受ける。身体の柔らかさ、温かさが伝わり、懐かしさがこみ上げる。
「それと、これは昨日のお礼っ」
そう言うと彼女はおれの額に唇を触れさせると、ちゅっと小さく音を立てた。え、これって?
「え!? あ、あの。果南……、姉ちゃん?!」
混乱するおれを余所に、彼女は抱擁を解くとおれから離れた。その顔は、少し紅くなっていて――。
「ありがとうかいっ。今までで最高の誕生日プレゼントだったかも!」
ばいばい、と手を振って自分の家に走り去ってしまった。キスされた額を触れる。うわ、何だか熱い。冬の寒さがまた丁度良く、心地よい気分だ。
「誕生日おめでとう、果南姉ちゃん」
おれはそう呟くと自分の家への道を歩き出した。
家に帰るや否や、朝帰りしたおれを親父や曜がひたすらに問い詰めてきたのは別の話だ。
気づいた事がある。この主人公、いっつも遅れてるぞ。ルビィちゃんの時も、ダイヤさんとの初詣デートでも今回でも! 何なの、おれの引き出し少なすぎねぇか? と、自分の可能性の少なさに絶望する今日此頃。
そしてお知らせ。僕にはバレンタインは実装されてない、更にはネタも浮かばなかったのでバレンタイン回を書くつもりはありませんでした。が、来ちゃいましたよ創作の神様が。という訳でバレンタイン回書きます! さあさあタイムリミットは4日。間に合うのか。乞うご期待です。
ご意見、ご感想、お待ちしてます。