ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
おれは浦ノ星女学院への道を自転車で駆けていた。何故おれがこうして自転車を漕いでいるのには理由がある。
学校が終わり、家に帰ろうと思っていた矢先に曜から一通のメールが届いた。「放課後浦ノ星に来て! 忘れたら怒るぞ!」と書かれていた。アイツが機嫌を損ねるとまあ面倒なことになるのは明らかなのでおれは自転車を走らせた、に至るのだ。
そして走りながら一つの考えを巡らせていた。今日はバレンタインデー。女の子が男の子にチョコを上げる日だ(違かったりするけど)。わたくしとて一人の男。貰えるんじゃないかなーって日中そわそわしてた訳で。そんなイベントも無く、今日一日を終わってしまいそうになってた矢先に曜からのメール、期待しない訳がない。もしかして、曜以外の皆からも貰えるかも? と考えていると、校門に立っている曜の姿が見えた。
「あっ、櫂!」
おれを見るや否や、表情を明るくさせる。おれは彼女の目の前で降りると、少し呼吸を整えた。
「おまたせ。それで、おれをここに呼び出して何の用だ?」
「えへへ、それはナイショ! ほら、ついてきて!」
曜の案内で通されたのは下駄箱。おれも彼女達の練習に付き合ったりしてるからここには見覚えがある。
「ほら、ここに靴入れてあがったあがった!」
曜が開けてくれた下駄箱に靴を入れて、おれは校内へと入っていった。
曜に案内された教室で待たされること暫くして、引き戸が開かれた。
「櫂ちゃん、お待たせー!」
千歌が元気な顔を見せて、思わず頬が緩んだ。千歌に続いて他のメンバーも教室に入ってきた。何故か皆後手に何かを持っている。おれは逸る心を抑えて平静を装って千歌に問いかける。
「それで、おれを学校まで呼び出して何だよ?」
「紫堂くん、今日は何の日か知ってる?」
梨子の問いにドキドキしながら答えた。
「何の日って、今日は世間一般的にはバレンタインデーだな」
「そうずらっ。という事で――」
「かい先輩にチョコを作ってきました!」
ここまでは予想範囲内だ。だが落ち着け紫堂 櫂。ここで食い入ってはナメられる。あくまでクールにいこうぜ。
「へ、へー。それは嬉しいな。ありがとな花丸ちゃん、ルビィちゃん」
「喜ぶのはまだ早いわよシドー! リトルデーモンたるシドーの為に皆で手作りしたんだから!」
善子の言葉に期待を高まらせる。今まで千歌や曜、果南姉ちゃんからは貰ってはいたけど、9人と大人数に貰えるのは初めてだから素直に嬉しかった。
「それじゃあ前フリはコレくらいにしておいて……」
「紫堂さんにあげるとしましょうか」
果南姉ちゃんとダイヤさんの言葉を聞いて皆頷き、後ろに隠していたものを取り出した。皆が持っていたものは――。
「升?」
米を量る時に使う升を持っていた。全員。その意外性におれが瞬きしていると――、
「カイ、大事なイベントを忘れてるよ?」
「大事なイベント?」
「イェス! 2月は節分もあるんだよ!」
「という事で、豆をチョコでコーティングしてみましたー!」
ここでおれがおかれている状況を整理してみよう。
1.節分ということでチョココーティング豆を持っている。9人が。
2.その9人がおれの目の前にずらりと並んでいる。
3.バレンタインはチョコをあげるイベント。
ここから導き出されるアンサーは。
「ようやく櫂にも理解出来たみたいだね。でも、ちょっと遅かったかもね!」
曜はにやりと笑うと升から豆を幾らか握って、勢い良くおれに投げつけた。
「それー! 節分あーんどバレンタインってことで櫂ちゃんにチョコ豆を投げつけろー!」
「ごめんなさい紫堂くん、えいっ!」
「ちょっとすけべな紫堂せんぱいにはチョコっとしたお仕置きずらー!」
「い、痛くしませんからっ! え、えーいっ!」
「少し生意気でエッチなリトルデーモンにはお灸を据えなくてはね!」
「エッチかどうかわからないけど、これも行事だし、皆で決まったことだから。悪く思わないでよね、かいっ」
「し、紫堂さんったらこんなに皆に破廉恥なことを……、見損ないましたわっ!」
「カイーっ! いざオカクゴー!」
「ぐあーっ!」
9人の美女から投げられるチョコ豆の弾幕を受けて、おれは断末魔をあげるのだった。
「ったく、なんでおれがこんな目に……」
よろよろと廊下の壁伝いに玄関までたどり着いた。酷い目にあった。ある程度の豆なら「散弾ではなぁ!」と切り抜けられたと思ったが、10分近く9人から投げ続けられたら堪ったもんじゃない。オマケに剣林丹雨の様な豆を受けきり地に倒れ伏しているおれに「じゃ片付けはお願いねーっ!」と全員逃げるように去っていってしまったのだ。おれは一人散らばったチョコ豆を掃除するハメになってしまったのだ。
ふと、じわりと視界が歪んだ。慌ててその目を拭う。そうだ、これはバレンタインってことで浮かれてたおれへの罰なんだ。おれはこれを甘んじて受けて明日への糧にしなくてはならないんだ。そう思うことにした。そうでないと今年一個もチョコを貰えなかった現実に押し潰されてしまいそうだったから。
ため息を付きながら自分の靴がしまってある下駄箱を開けた。そこには――。
「……」
9つの個性溢れるチョコが入ったビニールの袋があった。それぞれには一言メッセージが書かれて紙が入っていて。
『いつも千歌達を見守ってくれてありがと! 櫂ちゃんから元気を貰ってます! これからも一緒にいてね♪ 高海 千歌』
『大好きな紫堂くんへ――、って大好きってそういう意味じゃなくて! でも嫌いでもないから勘違いして欲しくないっていうか……っ、とにかく、梨子の気持ちを受け取って下さいっ! 桜内 梨子』
『櫂へ。どーせ誰からもチョコ貰えないって泣きべそかいてそうだからチョコ、あげるね。曜ちゃんに感謝するんだぞ! これしか作るつもり、ないんだからね? 渡辺 曜』
『紫堂せんぱい、ハッピーバレンタインずら! こんな端っこにいるまるを見てくれて本当にありがとうです。ルビィちゃんと一緒に作ったこのチョコ、受け取って欲しいずら♪ 国木田 花丸』
『かい先輩、あの、チョコです! 受け取って下さい! 花丸ちゃんと一緒に作ったから味には自信ありです♪ 自信ありすぎてちょっとルビィ達もつまみ食いしちゃいました。 黒澤 ルビィ』
『シドー! この暗黒でビターなチョコを受け取りなさい! ヨハネだけのリトルデーモンでいなさいよね! あと、来月にちゃんとお返ししないと堕天させちゃうんだからね! 貴方の堕天使・ヨハネ☆』
『かい、ハッピーバレンタイン♪ 毎年かいにはあげてるから新鮮さはないかもしれないけど、今年はいつも以上に愛情、詰まってるからね♪ 松浦 果南』
『紫堂さん、こちらわたくし特製のチョコになりますわ。本来なら気持ちは物に込めずに直接伝えるのがわたくしですが、貴方に何かを贈りたいと思ってしまったの。貴方がわたくしをこうさせたのよ? わたくし達のこと、どうか見守って下さいましね♪ 黒澤 ダイヤ』
『カイ! ワタシは手作りは何度やっても失敗しちゃったから高級チョコを贈るわね! 皆と違って手作りじゃないけど、カイへの気持ちは誰にも負けないんだから! あ、あとチョコ豆の残りもあげるわね。 I Love You♡
小原 鞠莉』
「みんな……」
再び眼が湿っぽくなってしまう。これ見よがしに下駄箱の下に置いてあった紙袋に皆の気持ちを仕舞い、靴を履き替えて学校をあとにした。
自転車で駆け下りていると坂の終わりに人影が見えた。誰かを待つ、9つの影。おれはそこ目掛けて声をかけた。
「あっ、おーい、櫂ちゃーん!」
その影の一人が手を振って迎えてくれる。おれは更にペダルを漕ぐ力を強めたのだった。
と、こんな感じのバレンタイン回でした。これを期に、皆さんも推しの子からのチョコ受領のイベントを妄想してはいかがでしょうか?