ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
松浦果南は、私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!
「松浦果南ちゃんはね、私たちの一つ上の幼馴染なんだ」
俺たちしかいないバスで、千歌が桜内さんにもう一人の幼馴染の説明をしていた。
「家がダイビングショップをやってて、そのお手伝いをしてるからあんまり学校来れないんだよね~。最近学校で会ってないし」
「そうなんだ。二人の幼馴染ってことは、紫堂くんも?」
曜の補足を聞いて、桜内さんが俺の方へと視線を向ける。
「まあ俺もそうなるな」
「またまた、クールにとボケちゃって~!」
俺の返事に曜がニヤニヤしながら俺の右腕を肘で小突いた。その隣で千歌もニヤけている。
「曜ちゃんと私は知ってるよぉ? 私たち三人の中で一番櫂ちゃんが果南ちゃんにベタベタだったってこと。ねー、曜ちゃん♪」
「ねー♫」
「ぐ……」
「そうだったの、紫堂くん?」
「隠し事は良くないぞぉ」
「ホントのこと言っちゃいなよ櫂☆」
左から桜内さんが、右から幼馴染二人が詰め寄る。千歌と曜ならいざ知らず、なんで桜内さんまでこんなに寄ってくるのさ?
「黙秘権を行使します」
ケチー、と駄々をこねる幼馴染二人と、くすくすと笑う桜内さん。俺たち四人だけのバスは連絡船のある船着き場へと走る。
あの人の元へ。
「果南ちゃーん、来たよー!!」
千歌が目的地であるダイビングショップが見えた瞬間、走って中に入って行った。するとぴっちりとしたダイビングスーツに身を包んだ女性が顔を出した。
「お、千歌に曜。いらっしゃーい。それともう一人……」
女性は俺の方を見ると、にこりと笑顔を向けた。
「久しぶりだね、かい」
この人が松浦果南。俺たち幼馴染の中のお姉さん的存在。
「お久しぶりっす、松浦……、先輩……」
俺は目を逸らしながら彼女に挨拶した。それが不満なのか、少し頬を膨らませながら彼女は近づいてきた。
「もう、昔見たいに『果南ねえちゃん』って呼んでくれないの?!」
「もうそんな歳じゃないっすよ」
恥ずかしくってもう呼べないんだよ。
「わかった、じゃあ……」
そう言うと先輩はダイビングスーツのジッパーを降ろすと俺に向けて手を広げてきた。ダイビングスーツの中は、水着一枚と、とても際どい姿。
「おいで、昔みたいにハグしよ♪」
「しませんよ!」
何をしてるんだこの人は……。そりゃ昔はよくやってたけどさ。今あんなたわわとしたとこに突っ込んだらヤバイことになる。
先輩に意識が向かっていた俺は、後ろから迫る曜の気配に気がつけなかった。
「どーん!!」
勢い良く曜に突き飛ばされた俺はつんのめりながら先輩の胸へと――
むにゅっ――
飛び込んだ。柔らかさと共にどことなく感じる甘い香りと懐かしさ。そして先輩の両腕が俺の後頭部を撫でてくれる。
「あはっ♪ これこれ、これがやりたかったの~!!」
嬉しそうに果南ねえちゃんは俺の頭を撫でる。嬉しさが声色と撫でる手から伝わってくる。彼女の為に、もう少しこのままでいるか。あくまで彼女の為だ。
「櫂ちゃんばっかズルいー!! 千歌もー!」
そんな俺たちに童心を刺激されたのか、千歌が俺の後ろから抱きついた。果南ねえちゃんははいはい、と千歌もろとも撫でる。
「えへへ―♪」
甘え上手な千歌の嬉しそうな声。それはいいが、俺の後頭部に柔らかな感触が伝わってくるんだが。ねえちゃんとまではいかないが、千歌って胸大きかったんだな。ってそうじゃなくって!
「も、もうそろそろ本題に入っていいっすか!?」
名残惜しくもあるが、俺は身体を離した。
「あはは……」
「櫂のばか……」
桜内さんは苦笑いし、曜にバカにされた。曜、お前が発端だろうに。
先輩のレクチャーを受け、いよいよシュノーケリングが始まろうとしている。
「ごめんね、私の為にレクチャーまで」
ボートで移動中、桜内さんが申し訳なさそうに俺に話しかけてきた。
「曜と千歌ならともかく、俺だって久しぶりなんだ。再確認出来たから問題ないさ。それより潜れそう?」
「うん。先輩の教え方が上手いから、もうすぐにでも潜れそう」
笑顔で答える桜内さん。なんか、ダイビングスーツ姿が異様に眩しい。
と、考えているとボートが止まり松浦先輩の声が響いた。
「到着っと。じゃあここから飛び込むよー」
はーい、と二人の幼馴染が立ち上がる。俺たちも立ち上がり海を見下ろす。青く透き通った水面が俺たちを迎えている。ふと隣を見ると、桜内さんからは少し怯えの表情がにじみ出ていた。
「大丈夫?」
「う、うん。いざ飛び込むってなると少し怖いね」
「誰だって最初はそうさ。誰かと手を繋いで飛び込んだらどうだ?」
「じゃあ紫堂く――」
「梨子ちゃん! 私たちと一緒にいこ!」
千歌がぎゅっと桜内さんの手を握った。それに曜も続いて、桜内さんを中心にして飛び込む形になった。
「あれ、かいは手を繋がないの?」
松浦先輩が俺の方へと近づいて来る。
「いやいいでしょ。俺がいなくても三人なら――」
「じゃあ私が――」
そう言うなり先輩は俺の両手を握った。スラリとしていて、スベスベな手が俺の手を包む。
「ちょっ! 俺はいいですって!」
「かいは、私と一緒じゃいや?」
少し悲しそうな目で俺を見る先輩。うう、そんな目をされちゃ断りようがない。
「嫌じゃ、ないですけど……」
「じゃあ……、そぉれっ!!」
「おわっ!!」
俺の返事を聞くや否や、先輩は海へと飛び込んだ。俺は引っ張られるように海へと吸い込まれていく。
「よーし、じゃあ千歌たちもー!!」
『それー!!』
俺たちに続く形になって千歌達三人もダイブした。
最初に来る苦しさに慣れ、目を開けると一面の蒼。蒼い空間が俺たちを迎えてくれた。それを見て思い出す、よく四人で潜った思い出。
握られた手に意識を向け、果南ねえちゃんの方を見る。彼女は俺の方を一瞥するとにこりと微笑んでくれた。よくこうして潜って彼女を見ると、微笑んでくれたっけ。懐かしいな。
果南ねえちゃんの視線が千歌達へと向けた。千歌と曜にとっては慣れたことだろうが、桜内さんにとっては始めての体験。不測の事態が起こらないようにと見守っているのだろう。
当の本人を見ると、目を丸くしてただ目の前の蒼をただ見つめていた。彼女には何が見えて、何が聞こえているのだろうか。それは俺にはわからない。
浜辺でウエットスーツの上半身を脱ぎ、一息。シュノーケリングを終えた俺たちは先輩の店の近くの浜辺で遊んでいた。
「いっくよ曜ちゃん!」
「わぷっ! やったな!」
「えいっ!」
「梨子ちゃんまで! よーし、逆襲だ!」
水着の美女三人が水を掛け合ってはしゃいでいる。なんとも眼福な光景だ。そんな中、頬に冷たさが襲った。
「冷たっ!!」
「何呆けて見てるのさ、かい」
俺にペットボトルを差し出す松浦先輩。俺がそれを受け取ると、彼女は俺の隣に腰掛けた。
「どうだった、久々の海は?」
「気持ちよかったですよ」
何となくそっけない反応で返してしまう。昔はそれこそ彼女を「果南ねえちゃん」と呼んではいた。彼女が高校生になった頃だろうか、彼女のウエットスーツ姿を見て、妙に意識したのがきっかけで少し距離を置いてしまったのだ。
後悔が混じった思い出を払拭するかのように俺はペットボトルの水を一気に飲み干した。冷たさが身体に染み入る。
「それより、千歌が無理言ってすいませんでした」
「幼馴染の頼みだもん。問題ないよ。それよりも――」
彼女の寄りかかり、彼女の身体の重みがすっとのしかかる。
「久しぶりにかいに会えて、嬉しかった」
少し涙声混じりの言葉に、言葉遣いが昔に戻る。
「そっか、寂しかったんだね。ごめん。実は――」
理由を言おうとする俺の唇を彼女は人差し指で制した。
「言わなくてもいいよ。その代わり、昔みたいに『果南ねえちゃん』って呼んで欲しいな」
上目遣いで俺の瞳を覗き込んでくる。その瞳に吸い込まれようとするのを何とか堪える。
「も、もう昔みたいじゃないんだ、そんな風にはもう呼べないよ。でも――」
「でも?」
俺は固まった表情を解し、昔彼女に向けたであろう笑顔に近い顔を向ける。
「こうやって二人きりの時は甘えさせてもらおうかな、果南ねえちゃん」
それを聞くと果南ねえちゃんはぷふ、と笑いを零す。
「もう、勝手なんだから。でも、それでこそ甘やかしがいがあるな」
「何だよそれ――」
すると突然俺たちの顔面に塩水が掛けられた。
「あ、あちゃー……」
千歌の顔がみるみる青くなっていく。果南ねえちゃんは千歌を笑いながら睨みつけると、俺の手をとった。
「やったなぁ……。よーしかい、反撃開始だ!」
果南ねえちゃんの手に引かれて、俺も水かけに参戦した。それから俺たちは日が沈むまで浜辺でめいいっぱい遊んだ。
気が付くと主人公が梨子ちゃんの為に行動をしたり、絡もうとしちゃうんだよね。神の見えざる手が働かすぎないように頑張ります。