ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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桜色の約束

 音楽室の開いたドアから光と共にピアノの音がもれている。おれはそこにいる人物を予想しながらドアから音楽室をのぞき込んだ。

「♪――」

 目を瞑って歌を口ずさみながら梨子は歌っていた。その綺麗な旋律と歌声に、おれは声をかけられないでいた。

 歌い終えたのか演奏をやめて一息ついた所を見計らって前のようにドアを軽くノックする。

「あっ、紫堂くん!」

 おれに気づいたのかぱぁっと表情を輝かせる。おれはそれが嬉しくって音楽室の中へと入っていった。

「ピアノの綺麗な音が聞こえてさ。ちょっと見に来たんだ」

「ありがとう。せっかく学校にお泊まりになったんだもの、ちょっとピアノを弾いてみようかなって」

「こうやって改めてピアノを聞くのは、淡島のホテル以来だっけか」

「そう、だね……。あの時も紫堂くんと二人っきりで……」

 あの時は梨子と一緒に演奏することになって、梨子の手に触れてしまったっけ。それを思い出した瞬間、体温が上昇した。彼女の方を見ると、おれと同じなのか頬を赤らめて視線を逸らしている。

「い、いよいよだな、ライブ!」

「そ、そうだね! 今までがあっと言う間過ぎて、実感が湧かないよ……」

「緊張してる?」

 おれの問いに梨子は苦笑しながら首を傾げた。

「うーん、どうなんだろう。自分でもよくわからない感じかな」

「そうか。明日のライブ、ちゃんと見てるからな」

「あっ……」

 おれの言葉に梨子が言葉を漏らした。

「? どうかした?」

「あのね、衣装を着て踊ったり歌ったりするところを紫堂くんに見られるんだって思ったら――」

 梨子の顔が再び赤みを帯びる。

「ちょ、ちょっと緊張してきたかも……」

 緊張を解そうとしたんだが、逆効果だったかな。だとしたら余計なことしちゃったかもな。

 なんて思っていたのが顔に出ていたのか、梨子は優しく微笑んでくれた。

「でも大丈夫。それと同時にせいいっぱい踊ったり歌ったりするわたしを、紫堂くんに見て欲しいって思えるから」

「梨子……」

「そ、それでね紫堂くん……」

 安堵していると、梨子がもじもじとおれの方を改めて向いてきた。

「あ、あのね。わたし、す……、っ……」

 顔を赤らめて何かを伝えようとする梨子に、なぜだかどきどきしてしまって。彼女の続きをじっと待つ。

「っ……、付き合って欲しいの!」

「付き合う?」

 おれが反芻すると、梨子は顔を真っ赤にしたまま慌てたように言葉を続けた。

「そ、そうなの! わたし、作曲以外にも作詞もやってみようかなって考えててね! ラブソングなんて書いてみようかなーって思ってるの! でもわたし男の人との恋愛とか経験無くてーーいや、女の子ともないよ!? とにかく恋人関係の雰囲気を感じてみて、曲を作ってみたいと思ってるの。だから、ね?」

「……」

 つまりはこういうことか。ラブソングの作詞をしてみたいから恋人関係の雰囲気を味わってみたいから恋人役をしてくれってことなのかな。

「だ、ダメ、かな……?」

 不安そうにおれを見る梨子。このシチュエーションで恋人ごっこをしてくれと言われるとは思ってもなかった。夕日が沈みゆく音楽室というシチュエーションに期待しすぎたのかもしれないな。ちょっと残念に思ってしまった。

 でも梨子の頼みでもあるし、メンバーが困っていたら助けるのがマネージャーの勤めだ。出来る限り力になりたい。

「いいぞ。それで梨子の作る音楽がもっと良くなるなら、手伝わない訳ないだろ」

「紫堂くん……」

 それにしてもおれが、役作りとは言え恋人か。それに選ばれたのが嬉しい反面、本当の恋人じゃないってことが少し残念に思えた。って何を勘違いしてるんだおれは。これは梨子の作詞活動の一環なんだ、そんな浮ついた気持ちは捨てないと。

「じゃ、じゃあ明日のライブの後デートの日程とか決めよっか」

「デ、デート!?」

「仮とは言え恋人同士だし、ラブソングとかの参考に幾らかなると思ったんだけど……、ダメか?」

「そ、そうだよね! 仮にも恋人同士なんだしね! うん! 作詞とかの参考になるよね! ダメな訳ないよ!」

「あ、ああ。じゃあそれで決まりってことで」

「う、うん! 楽しみだなぁ……」

 今まであんまり聞かなかった梨子の早口に若干驚きつつも、楽しそうな彼女の表情に、それ以上何か言おうとは思わなかった。

「その為にも、ライブを絶対成功させなくちゃね」

「そうだな。楽しみにしてるよ」

「うん!」

 元気に返事する梨子の笑顔に、おれは目が釘付けだった。恋人役、ちゃんとやらないとな。

 

 

●●

 うわぁ、やっちゃった……。やっちゃったよぉ……。音楽室でピアノを弾いてたらまさか紫堂くんが来てくれるなんて……。これはチャンスと思って「好きですっ」って告白しようとしたら、こんなことになるなんて……。

 で、でもこれからよ梨子! なんとか恋人役を引き受けてもらったんだもの、デートをしてもっと紫堂くんの事を知るんだから!

 でも、紫堂くんとデートするって考えただけですっごいドキドキしてきたよ……。その反面、すっごく楽しみ。二人でお出かけなんて初めてだから。もっと紫堂くんの事知りたいな。

 その為にも明日のライブ頑張ろっと。紫堂くん、こんな地味な梨子だけど、応援して下さいね。

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