ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
外の空気を吸おうと屋上に顔を出すと、沈みゆく夕日を見つめる女の子がいた。
「……」
黙って立つ彼女の頭の右側にはシニヨンが一つ。間違いない、善子だ。ただただ夕日を見つめていて、おれの存在にはまだ気づいてないようだ。 おれは彼女に近づき、隣に立った所で一言呟いた。
「今日は、風が穏やかだな」
善子はようやくおれの存在に気づいたのか、少し驚いた表情をするも直ぐにそれを元に戻した。
「ええ、明日の嵐の前の静けさのようね」
「して、堕天使様は明日にそなえて力を蓄えている所と見えた」
「そうよ。逢魔が刻は堕天使がこの世界で唯一力を貯めることが出来る時間だもの、大切にしなくちゃね」
「して、本音は善子?」
「ただ、風に当たりたかっただけよ。ーーって善子言うな!」
「ぷっ」
「ふふっ」
互いにおかしかったのか、頬が緩み笑いあう。やっぱこいつといると、笑顔が絶えないな。
「いよいよ明日だな」
「ええ、このヨハネの存在を、外界へと発信する良い機会だわ」
「ふっ、楽しみだな。堕天使ヨハネが現界するその時が」
「そう、楽しみにしていて頂戴、リトルデーモン。このヨハネが光り輝く時を」
「堕天使なのに光り輝いちゃうのかよ」
「いいじゃないのよ別に!」
頬を膨らませて抗議してくる善子。あんまり緊張はしてないみたいだ。
「明日に向けて、準備は万全か?」
「当然でしょ。練習はもちろん、脳内でのライブも完璧なんだから。さっきも一人で練習してたんだから」
おれはふふんと胸をはる善子の頭を、軽く小突いた。善子は涙目で頭を押さえながら抗議の目線を送ってきた。
「いたーっ! なんで小突くのよーっ!」
「明日本番だってのに必要以上に身体を動かすんじゃありませんっ。それで明日転んだりしたら大変だろうが」
「ふっ、このヨハネに忠告するなんて、貴方も立派になったのねリトルデーモン。マネージャー気取りかしら?」
「マネージャーだよ」
再びさっきよりも優しく小突く。再び頭を押さえて少し涙目になる善子。
「二度も殴ったわね! パパにも殴られたことないのに!」
「殴られずにスクールアイドルになったヤツがいるか!」
「何よソレ!」
「おれも知らん!」
気がつけば二人で漫才をしてしまっている。そうして互いに笑い合う。こいつといると、何だか楽しくてたまらない。
「まぁ何にせよ、あんまり身体には無理させんなよ」
「それは、リトルデーモンとしての忠告なのかしら? それともマネージャーとして?」
「どっちもだ」
その言葉に善子がきょとんとした表情をする。おれは彼女に近づいて言葉を紡ぐ。
「もし、本番で善子が倒れたりしたらって考えただけでおれは怖い。その後善子はもう一度立ち上がれるのか、二度と起き上がれないんじゃないかって――」
「シ、シドー! ちょっと……近い……」
顔を赤らめて顔を背ける善子を見て、今おれが何をしていたのか理解した。
「わ、悪い、つい心配で……」
身を離して善子に謝る。彼女に接近し過ぎたことが、以前砂浜で倒れ込んだ時の記憶を蘇らせる。あの時の善子の身体の柔らかさが脳裏を過り、身体を熱くさせた。
「ま、全く。み、身の程を知りなさいよねっ……。もう……」
善子も善子で、顔を赤らめている。その雰囲気に、なぜだかおれの胸はドキドキしていて。
「こ、これはリトルデーモンに躾が必要なようね」
「し、しつけ?」
「そう、更にヨハネ好みのリトルデーモンに調教してあげるんだから!」
そう言うと善子はびしりとおれを指差した。
「シドー、ライブが終わったらヨハネの買い物に、付き合ってもらうわよ。堕天使のリトルデーモンに相応しいアイテムやら、儀式に必要なものをいっぱい買うんだから!」
「え、要は荷物持ちやれってことかよ!」
「まぁ、そういうことになるわね♪」
笑顔でいい返事をしやがる。何とかして断ろうと口を開くと、善子がそれを遮った。
「断ろうとしても無駄よ。アナタはもう呪いにかかってるもの!」
「呪い?」
「忘れた? 皆に前にシドーに浜辺で押し倒されたって言ってもいいのよ?」
「あっ!」
そうか、善子の奴、それでおれを脅す気か! あれがバラされればおれは皆から冷たい目線で見られるどころか、マネージャーから外されるかもしれん。善子め、堕天使って言うよりも悪魔だぞ。
そんな考えが表情に出ていたのか、善子の表情が不安げになる。
「べ、別にそんなにイヤって言うなら考え直してあげるけど……」
その表情はちょっと寂しさも含んでいて、胸がちくりと痛んだ。そうだ、いつも楽しく冗談を言い合ってる間とは言え、善子も女の子。女の子の悲しむ顔は見たくない。ここは善子に付き合うとしよう。おれはスイッチを入れて、それっぽいポーズをとった。
「何を言っている堕天使ヨハネよ。誰がイヤだと言った。お前がそれだけ我と行きたいというのなら付き合ってやろうではないか」
「し、シドー……!」
善子の表情がぱあっと明るくなった。その嬉しそうな顔に、少しドキッとした。こいつ、こんな表情もするんだな。そのドキドキを悟られないように言葉を続ける。
「しかし、この我を買い物に付き合わせるというのなら、相応の対価を求めるぞ」
「ふっ、堕天使ヨハネがリトルデーモン一人を満足させられないと思っていて? 見てなさい、必ずアナタの総てを満たしてみせるわ!」
「ならば、期待しているぞ。契約者よ。ならばこそ、明日は成功させなければな」
「そっちこそ、約束忘れないことね。堕天使ヨハネの活躍、しかとその眼に焼き付けることね!」
おれ達は意味不明なポーズをとったまま、互いに笑い合った。その不気味とも思える笑い声は、曜の連絡が届くまで屋上に響いたのであった。
●●
うぅ、誘っちゃった……、シドーを。っていうかこれってデートじゃない? その場のノリで言っちゃったけど、これ完全にデートじゃないの!
でもシドーも楽しみにしてるって言ってくれたし、満足してもらえるようなデートプラン考えなくちゃ。うわ、なんだか緊張してきた。リトルデーモンのくせに、こんなにヨハネをどきどきさせるなんて。この借りはこのデートで必ず返させてあげるんだから!
その為にも、明日のライブは絶対成功させなくっちゃ。ライブを成功させて、胸を張ってシドーとのデー、買い物をするんだから!
だからシドーちゃんと、ヨハネの輝きを、見ているのよ! 堕天使ヨハネとの約束なんだからね!