ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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海色の約束

「あっ、かーいっ!」

 特にアテもなく外を歩いていると頭上から果南姉ちゃんの声が降ってきた。視線を上へと向けると果南姉ちゃんがプールのフェンス越しに手を振っていた。

「果南姉ちゃん、なんでそこにいるのさ?」

「ダイヤに頼んで鍵を借りてきたんだ。ちょっとプールを眺めてたくてさ。かいもおいでよ!」

「りょーかい」

 おれは回り道をしてプールへの入り口へとたどり着いた。下駄箱には果南姉ちゃんのものであろう靴が置いてあったので、その隣に自分の靴を置いてプールサイドへと入った。

「かい、こっちこっち」

 果南姉ちゃんは飛び込み台近くに腰を下ろして足をプールに浸している。おれはそんな彼女の隣に腰掛ける。

「お、ちょっと狭いか?」

 飛び込み台の間は案外広くなくて、果南姉ちゃんの肩が触れ合ってしまう程だ。

「どうする? もっと広いとこいく?」

 おれの提案に彼女は首を横に振った。

「ほら、私の方にもうちょっと寄ればいいじゃない」

「いやでも……」

「私とかいの間柄でしょ? 遠慮しないのっ」

「はい……」

 おれは果南姉ちゃんの指示に従って少し彼女に近づいた。肩が触れ合う距離になると果南姉ちゃんが体重をおれの方に預けてきた。

「ふふ、懐かしいね。昔はかいの方から寄りかかってきたよね」

「いつ頃の話をしてんのさ。それっておれが小三のころのやつじゃないか」

「あの頃のかいは可愛かったなぁー。あ、今でも可愛いよ?」

「可愛い言われても反応に困るよ……」

「そうだね、ごめん」

 そう言うと果南姉ちゃんは視線をプールの水面に向けた。パシャパシャと足を上下に動かし、水面を波立たせる。おれはそんな様をずっと見続けて、おれ達の間には沈黙が訪れた。

「ちかには、感謝しないとね」

 どれくらい互いに無言だったろうか。不意に果南姉ちゃんが口を開いた。

「ちかがスクールアイドルを始めるって言って、梨子をウチに連れて来なかったら、かいとまた仲良くなれなかったかもしれない」

「あ……」

 最近果南姉ちゃん達と過ごしているせいで忘れていた。おれは、最初は彼女を避けていたんだ。初めて「女性」を意識したのが果南姉ちゃんだっで、昔から一緒に遊んできた果南姉ちゃんをそういう目で見てしまった自分がイヤで、彼女に申し訳なくて、距離をとってしまったことも。

「あの時はホントにごめん。おれ――」

 頭を下げようとするおれに、手を置いて頭を撫でてくれる果南姉ちゃん。

「いーよ、謝らなくて。今はこうしてまた仲良く出来るんだもん。それだけで十分」

「でもーー」

「じゃあさ、今度ウチのお店の手伝いをしてよ。そんなに申し訳なく思ってるなら、ね」

「え、果南姉ちゃんの手伝い?」

 果南姉ちゃんの家はダイビングショップを経営している。そこの手伝いをしろってことか。

「もちろんかいさえよければ、だけど。いい?」

「あぁ、うん。おれでいいなら」

「やたっ」

 嬉しそうに小さくガッツポーズをとる果南姉ちゃん。嬉しそうに笑う今の彼女は年上に見えないくらい可愛らしかった。

「私は店番午前中だけだからさ、お昼食べたら一緒に海で遊ぼうよ。久々にね」

「あぁ、いいね。千歌達も誘ったら楽しそう――って果南姉ちゃん?」

 不満そうにする果南姉ちゃんを見て、言葉が止まってしまう。あれ、おれ、何かいけないこと言ったかな?

「かいっ、私はかいと二人っきりで遊びたいんだよっ」

「あっ、そうだったのか。ごめん……」

「かいの鈍感っ」

 ぼすっと頭をおれの肩に預けてくる。今日の果南姉ちゃんなんだか積極的じゃないか?

「こりゃいっぱいビシバシこき使ってやらないとね。覚悟しといてよー?」

「お手柔らかにお願いします……」

「その分、午後はいっぱい遊ぼうねっ」

「う、うん。でもその前に――」

「わかってる。ライブ、でしょ?」

 果南姉ちゃんは頷くと自身に満ちあふれた表情を見せた。

「この為に練習してきたんだもん。大丈夫、私たちならやれるよ」

「うん、果南姉ちゃんなら、皆なら出来るよ」

「ありがと、かい。一つお願い、いいかな?」

「ん?」

 果南姉ちゃんはおれの目の前で両手を広げてみせた。あぁ、そういうことか。

「ハグ、しよ?」

「うん」

 そう答えるとおれは近づいた。ぎゅっと優しく果南姉ちゃんの両腕がおれを包み込む。おれの胸板に彼女の柔らかな胸が触れる。それだけでドキドキしてきた。

「あれ、かい。もしかしてドキドキしてる?」

「そりゃそうだよ。果南姉ちゃんみたいにキレイな人にこうされれば誰だってこうなるって」

「そういうもん?」

「そういうもんです」

「へぇー。ってことはさ――」

 そういうと果南姉ちゃんは抱擁を解いておれの顔を見つめた。おれの視界いっぱいに果南姉ちゃんが映っていて、さらにドキドキした。

「かいは私のことキレイって思ってくれてるってことだよね?」

「ーーっ!!」

 その言葉に体温が上昇するのを感じた。その様を見て、果南姉ちゃんが嬉しそうに笑った。

「図星なんだ。かいは素直だねー♪」

 なんかさっきから果南姉ちゃんにやられっぱなしだな。よし、ここは少し仕返ししてやらないと。

「思ってるもなにも、おれは果南姉ちゃんが中学に上がった時からキレイだって思ってたよ。キレイ過ぎて、会いに行くのを躊躇うくらいに」

「ふぇっ!?」

 今度は果南姉ちゃんの方が赤面する番だった。恥ずかしいのか視線を下に落とす様が可愛らしい。

「あれ、なんだか果南姉ちゃんもドキドキしてない? これでおあいこだね」

「も、もうおしまいっ!」

 そういって果南姉ちゃんは少し乱暴に身体を離した。そしてそのままの勢いで立ち上がった。

「う、うんっ! 大分明日のライブへの充電出来たかな! ありがとねかい! 私、ちょっとようのとこ行ってくるね!」

「あ、果南姉ちゃん!」

 おれの言葉も聞かず、彼女はそのままプールサイドを駆けていった。「プールサイド走るのは危ないよー」というおれの言葉はそのままプールサイドに溶けていった。

 

 

●●

 まさかかいから反撃を受けるなんてね。うわー、今でも心臓がドキドキしてるよ。私は歩くスピードを落とした。陽はすっかり沈んでいて、夜空には少し星がちかちかと輝き始めている。そんな空の下、一人私は歩いている。

「かい……」

 幼なじみの男の子の名前呼んで、きゅっと胸を抑えつけた。小さな頃から一緒にいたかい。あの頃は小さくて可愛かった。でもこの間手を繋いだり、さっきハグした時に気づいた。もう「男の子」じゃなくて「男の人」なんだなって。いつの間にか背も抜かれちゃったし、気がついたら大きくなってた。

 そんなかいの事を想うだけで、胸が締め付けられるし、ドキドキする。好きな人のことを考えると、こんなにドキドキするんだね。

「もうお姉ちゃんじゃ、いられないのかもな――」

 そう一人で呟いて、即座に頬を叩いて活を入れる。

「らしくないぞ松浦 果南! 今はライブに集中だ!」

 そうだ、今は目の前のライブに集中しないと。かい、私の踊ってる姿をかいに見て欲しいな。そしたらもっと輝けると思うから!

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