ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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金剛色の約束

「やっぱりな」

 暗い廊下に生徒会室の上窓から光が漏れていて、おれは一人呟いた。ノックすると、「どうぞ」と澄んでいて簡潔な返事が返ってきた。おれが生徒会室に入ると声の主が視線を上にあげた。

「あら、紫堂さんじゃないですか」

 ダイヤさんは生徒会長の席に座って何らかの書類にペンを走らせていた。

「『あら、紫堂さんじゃないですか』、じゃないですよ。こんな時にも生徒会の仕事ですか?」

「こんな時、だからですわ。出来た時間は有効に使わないと」

「少しは空いた時間を学校の為だけじゃなくて、自分の為に使ったらどうです? 適度に休憩いれないと、いざって時大変ですよ?」

「それは、そうですけど……」

「ちょっと待ってて下さい。紅茶淹れますから」

「あっ、ちょっと!」

 このままじゃ埒が明かないな。無理矢理にでも休んでもらおう。湯沸かし器に水を注いで電源を入れる。が、どこを探しても紅茶の茶葉やらティーバッグが見当たらない。

「えっと、どこだ……」

 おれがもたもたしていると、後ろからダイヤさんのため息が聞こえた。

「もう、わたくしが淹れますわ」

 過程は情けないが、結果としてダイヤさんに休憩をとってもらうことに成功したのであった。

 

 

「全く、場所を把握してから言って欲しいものですわね」

「おっしゃる通りで……」

 ダイヤさんはおれを役員のであろう席に座らせると紅茶を出してくれた。う、我ながら本当に情けない。

「そんなにわたくしに休憩をとって欲しいのですか?」

「ええ。メンバーの体調管理もマネージャーたるおれの仕事ですから」

「あら、マネージャーなら紅茶がどこに置いてあるのかとかを把握しているものじゃなくて?」

「うっ、確かに……」

「ふふっ」

 してやったりと微笑むとダイヤさんは自分の席に座った。

「そう言えばこの間も紫堂さんとこうしてお茶をしましたわね」

「そうでしたね。あの時もダイヤさんに紅茶淹れてもらったっけ」

「わたくしの悩みも聞いてもらいました。あの時の紫堂さんのモノマネは今でも思い出したら笑ってしまいますの」

「えぇ、そんなに強烈でしたかね?」

「とっても。そうだ、またあのモノマネやって下さらない?」

「絶対嫌です」

 あの時のことを思い出す。ダイヤさんを励まそうと必死にやったけど、後々になってあれはないわーと自分でも思ったものだ。それをもう一度やるなんてとんでもない。

 なんて思ってたら、ダイヤさんは何かを思いついたようにパンと両手を鳴らした。

「そうだ、わたくし家で練習して、ルビィのモノマネが出来るようになったんです。見て下さいます?」

「えぇ?! ダイヤさん、家で何してるんすか……」

 苦笑いするおれを余所にダイヤさんは一呼吸入れると、その凛とした声からは想像もつかない声を出した。

《ぴ、ぴぎっ、おねえちゃん、おねえちゃんの分のアイスも食べちゃったの。ご、ごめんなさい……》

 そしてまた一息。そして一瞬の静寂が訪れたあと、おれの口から笑いが零れ出た。

「ぷっ、ダイヤさん……、そんな声も出せるんですねっ……」

「似てました!?」

「予想以上です……っ」

 いかん、腹が痛くてそれ以上の言葉が出ない。腹を抑えていると、ダイヤさんが嬉しそうな表情をする。

「よかったぁ。紫堂さんに喜んでもらって」

 その表情がとても可愛くて。ダイヤさんも女の子なんだなって改めて思えた。

「鏡の前でルビィのモノマネをして改めて実感しましたわ。声だけ似せても、わたくしはルビィのようにはなれないと。ならば紫堂さんが言ってくれたように、わたくしにしか出来ない輝き方をしようと思えましたの」

「ダイヤさん……」

 腹のよじれが治ったおれの手をとって見つめてくるダイヤさん。そのまっすぐな瞳にドキッとした。

「紫堂さん、本当にありがとう」

「い、言ってるでしょ。メンバーのコンディションを万全の状態にするのがマネージャーの仕事です。それに――」

「それに?」

「何ていうのかな、ダイヤさん何か放っておけないんですよ。こうやって時間が出来れば自分のことよりも生徒会のの仕事やっちゃうし、もう少し自分に時間を使ってもいいと思うから」

「紫堂さん……」

 ダイヤさんの手が、おれの手を更にきゅっと握ってきた。

「ありがとう、紫堂さん。でもこれは生徒会長であるわたくしの使命でもありますの。わたくしが生徒会長である内は完璧な生徒会でないと。ここだけは譲れません」

「……」

 それが彼女が選んだ意思ならおれにとやかく言うことは出来ない。なら――

「ですが――」

 そんなおれの思考をダイヤさんの言葉が遮った。

「紫堂さんが、もし良かったらですけど……、これからも手伝ってもらうことは可能かしら?」

 なら、おれは彼女を手伝って、少しでもその負担を少なくしてあげたいって思えた。

「お安い御用ですよ。おれで良ければ何なりと使ってやって下さいな」

「ありがとう、紫堂さん」

 そう言って笑うダイヤさんの笑顔は、誰のでもない、彼女だけの笑顔だったと思ったのだった。

 

 

●●

 せっかく出来た自由な時間。生徒会の仕事を少しでも片付けようと思ったらとんだお客が来ました。

 紫堂 櫂さん。気がついたらあの人はわたくしの傍に居てくれる。スクールアイドルの活動が関係ないことでも、力になろうとしてくれている。それが、とっても嬉しい。最近気づけば彼の事を目で追おうとしている自分がいる。嗚呼、わたくしはこんなに貴方に夢中になってしまったのね。

 紫堂さん、これだけわたくしを夢中にさせたのですから、次は貴方に、わたくしに夢中になってもらいますわよ? まず手始めに明日のライブでわたくしにしか出来ない輝きを見せてあげますわ!

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