ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「ありがとうございました! これからも私たちAqoursをよろしくお願いします!」
千歌の声に万雷の拍手をする観客の中におれはいた。周囲はステージにいる彼女たちに対して感激の声をあげている。周りの興奮している様を見て、おれは心の中でガッツポーズをとっていた。
みんな、そのステージから見ているか? ここにいる観客全員がAqoursに目が釘付けなんだぜ。非公式とは言えマネージャーとして、友人、先輩後輩として誇らしいよ。
彼女達がステージから姿を消すと、いてもたってもいられなかったおれは、彼女たちの元へと走った。
「千歌!」
人数分のタオルを持ったおれはステージ裏にいた千歌達に声をかけるた。皆の顔は汗塗れではあるが、良い笑顔をしていた。おれの声を聞いた千歌の表情が急変した。
「櫂ちゃん、かいちゃーん!」
顔をくしゃっとしておれに抱きついてきた。おれは慌てて彼女を抱き留めた。
「おいおい、いきなりなんだよ」
「だって、ライブ大成功したんだもん! 嬉しくて嬉しくて私――」
「おぉよしよし、嬉しくて涙が出ちゃったか。いつまでも甘えんぼだな」
あやす用に千歌の背中をぽんぽんと叩く。落ち着いたのか身体を離して目元の涙を拭った。
「えへへ、ありがとね。櫂ちゃん」
「こっちこそ、素晴らしいライブをありがとな」
「櫂!」
曜の声に振り返る。曜は満面の笑みで右手を挙げた。おれもそれに応える形で右手を挙げると、勢いよくハイタッチした。
「お疲れさま、曜。ちゃんと見てたぞ」
「うん、ありがと。櫂が見てると思ってたから、頑張って踊れたよ!」
その言葉が少し照れくさくて、手に持ってたタオルを投げ渡した。
「とにかく、汗拭いておけよ。せっかくのいい笑顔が台無しだぞ」
「ヨーソロー!」
顔を覆い始めた曜を余所に、梨子に視線を向けた。
「梨子、おつかれ」
「あ、紫堂くんっ。わたしのことも、ちゃんと見てくれた?」
「もちろん。見ていたさ」
「よかったぁ、こんな地味なわたしでも見てもらえたんだぁ……」
ほっと胸をなで下ろす梨子に、おれはタオルを渡した。
「自分で言うほど、梨子は地味じゃないと思うぞ。少なくとも梨子が作った曲は、皆の心に残ったさ。おれもそうだから」
「紫堂くん……」
頬をぽっと赤らめながら口元をタオルで隠す梨子。それが可愛らしくて頬を緩ませていると、後輩二人が前に出てきた。
「かい先輩!」
「紫堂せんぱい!」
「お、ルビィちゃんに花丸ちゃん。よく頑張ったな」
「はい! ルビィ、先輩の為に頑張りました!」
「まるも! まるもせんぱいに見て欲しくて頑張ったずら!」
「おいおい、見てもらうべき人は他にもいるだろうが。ほら、タオル」
「あ、ありがとうございます! あの、先輩……」
タオルを受け取ったルビィちゃんが物欲しそうな瞳で見つめている。
「ん? どうした?」
「きょ、今日頑張ったご褒美に、その……、な、ナデナデしてくだしゃい! あっ、噛んじゃった……」
「そういうことなら、それっ。ダンスちゃんと出来てたよ。バテずに良く出来ましたっ」
「ふわぁあ……」
優しく、くしゃくしゃと頭を撫でてやる。ルビィちゃんも満更でもないのか、可愛い声を出していた。
「あ、ルビィちゃんズルいずら! せんぱい、まるにもして欲しいずら……」
「はいよ。花丸ちゃんの歌声、とっても綺麗だったよ。歌が好きなんだって気持ちが伝わってきたよ」
「ずらぁ……」
もう一方の手で撫でてあげると、花丸ちゃんもうっとりとした表情でおれのよしよしを受け入れてくれる。なんだかいけないことをしてる雰囲気になるな。
「シドー、何してるの。このヨハネにも何か言うことがあるんじゃないの?」
「あ、善子。おつかれー」
「ヨハネっ! ってゆーか対応がかるーい!」
「じゃあどうして欲しいんだよ」
「そ、それはっ……」
善子が少し顔を赤らめて視線を逸らす。もじもじとして、善子らしくない感じだ。すると、花丸ちゃんが意味深な笑顔をした。
「もしかして善子ちゃん、せんぱいによしよしされたいずら?」
「なっ、リトルデーモンに労われるなど、堕天使のは、恥なんだから!」
「んじゃせんぱい、おらとルビィちゃんをもっとよしよしして欲しいずら」
おれがそれに応えて二人の頭を撫でていると、善子はぐぬぬと表情を歪めた。
「そ、そーよっ! 私だってシドーに誉めてもらいたいの! とゆーことで誉めなさいよっ!」
「よしこちゃん素直じゃないんだからー」
「ヨハネよっ!」とルビィちゃんを睨む善子の前に立ち、おれはスイッチを入れながら会釈した。
「堕天使ヨハネ。我が共犯者よ。今宵の宴で更に配下のリトルデーモンが増えることであろう。これはそれを祝しての、共犯者からの福音だ。受け取ってくれ」
ぽふ、と手に頭を乗せて優しく撫でてやる。最初は驚いた顔をしていた善子だが、受け入れてくれたのか目を閉じてリラックスした表情を見せた。
「なんだかんだで一番善子ちゃんが嬉しそうずら」
「ーーっ! 気安いのよリトルデーモンにくせにっ! で、でも一応受け取っておくわ!」
そして小さく「ありがと」と呟く善子。それと同時にスイッチが切れ、自分が言った事が脳内を駆けめぐる。うわ、おれなんちゅー恥ずかしい台詞言ってたんだよ……。
「かい、私たちへの労いがないんだけど?」
「そうデースっ!」
果南姉ちゃんと鞠莉さんがおれの前に出てきた。
「タオルで足ります?」とタオルを差し出すが、それを受け取った上で果南姉ちゃんは両手を広げてきた。
「足りる訳ないでしょー。ほら、おいで。ハグしてあげるから」
「いやそれ労う側の言葉なんじゃ……」
「いいからほらっ。こうしてかいをハグ出来ることが私にとっての癒しなんだから」
これは部員を労う為の行為なんだ、何もやましいことはない。そう観念して果南姉ちゃんに近づいた。するとぎゅっと優しく抱きしめられた。
「はーっ、やっぱりこれ落ち着くなーっ」
「果南姉ちゃんがリラックスしてくれて何よりです。それとライブお疲れさま。ちゃんと見てたから」
「うん、ありがと」
きゅ、と抱きしめる力が少し強くなる。柔らかさと同時に暖かさをどこかに感じ取った。
「カナンだけずるーい! ワタシもー!」
頬を膨らませて鞠莉さんが両手を広げていた。これ、鞠莉さんにもやらなくちゃいけないノリか。
「はい、今いきますよ鞠莉さ、んっ!?」
おれが行こうとした瞬間に鞠莉さんが抱きついてきた。果南姉ちゃん以上に強いハグに思考が停止する。
「んーっ! ライブの後にはカイをハグするに限るわねっ!」
「んな仕事の後のビールが旨いみたいなノリで言わんで下さいよ!」
「あら、なぁに? ビールみたいにカイをいただいちゃっていいの?」
「んなこと一言も言ってねー!」
鞠莉さんの唇がおれに近づいていく。待ってくれ、ファーストキスぐらい自分で決めさせてくれっ!
「鞠莉っ、何やってんのさっ!」
幸い、果南姉ちゃんが彼女の後頭部にチョップをおみまいしてくれたお陰でおれの初めては奪われずに済んだ。
「いったーい! カナン、何するのよー!」
「それはこっちの台詞。お姉ちゃんの目の黒い内はかいには手を出させないよ」
「むきーっ!」
「落ち着いて下さいよ鞠莉さん。ちゃんと鞠莉さんの綺麗なダンスは見てましたから」
「ホント!? Really?」
おれが頷くと、今までの軽いノリとは違った、少し違った雰囲気の鞠莉さんがいた。
「嬉しい……。アリガトね、カイ!」
「は、はい……」
「いつまでステージ裏にいますの? そろそろ着替えますわよ」
いつもと違った鞠莉さんの様子にドキッとしていると、ダイヤさんの凛とした声が聞こえてきた。おれは彼女に近づき、タオルを差し出した。
「お疲れさまです、ダイヤさん」
「紫堂さんも、わたくし達が認めたマネージャーだとしても他校の非公式部員なんですから、すぐさま来るのは少しマズいのではなくて?」
「あー、そうかもしれませんね……」
ダイヤさんの言い分ももっともだ。こうやっておれが軽々しく彼女達に近づくのを、これから出来るであろうファンが見たら面白くないし、彼女達の風評も傷つくかもしれない。でもーー
「すいません、ダイヤさん。でもダイヤさん達のライブを見てたら居ても立ってもいられなくて。一番に感想言いたくて。ダメ、ですか?」
「ダ、ダメとは言ってませんけど……、それで感想は?」
「ステージで踊るダイヤさん、綺麗でしたよ。華があるっていうか、歌声も素晴らしかったです」
「っ、と、当然ですわ! わたくし、素材がいいですもの!」
顔を赤らめてそっぽを向くダイヤさん。鞠莉さんの「ダイヤ照れてるー!」の言葉に、きっと彼女を睨みつけたのだった。
「ねー、櫂ちゃんに締めの言葉言ってもらおーよ!」
「え、おれが?」
千歌の突然の提案に面食らう。皆一人一人に何か言おうと考えてはいたけど、これは考えてもなかったぞ。
「皆はいいのか? マネージャーでステージに立ってもないおれが言って?」
「何を今更、ですわ」
「水くさいわよ、カイ!」
「かいも私たちの仲間なんだから」
「そうよ、シドーは私たちのリトルデーモンでもあるんだから!」
「ずら。ここまで来たら紫堂せんぱいも道づれずら」
「先輩の言葉があったらルビィ、もっと頑張れると思うんです!」
「うん、わたしも紫堂くんの声を聞きたいな」
「櫂、ここまで言われてるんだから、応えなきゃ男が廃るよ?」
「櫂ちゃん!」
どうやら9人全員賛成のようだ。皆、おれの事を仲間だと思ってくれてるんだな。話を聞くか、練習の手伝いくらいしかしてないこのおれを。じゃあそんな皆の期待には応えないとな。
「じゃあ僭越ながら……」
軽く目を閉じて、少し考えを纏めると息を吐き出した。
「皆、今日のライブ本当にお疲れさま。皆一人一人輝いていたと思う。けどここで終わりじゃない、そうだろう?」
9人に疑問を投げかけると、皆頷いてくれた。
「ならここが、Aqoursの新しい出発点だと思う。ここからもっと多くの人に見てもらって、もっと輝いていこう。その為なら、おれは幾らでも力を貸すよ。男であるおれがこの台詞を言うのはおかしい気もする。だけど言わせてくれ。おれを、ラブライブに連れて行ってくれ!」
「「おーっ!」」
皆の歓声が一つとなって、おれ達はもっと強い絆で結ばれたと思う。
「ねぇ櫂ちゃん、最後の台詞って甲子園ネタだよね?」
「言わないでくれ千歌、自分でも恥ずかしいって思ってるから……」
本来はこの話は存在せず、そのまま一人一人の分岐シナリオへと進む予定でした。ですが流石にライブがどうなったのかを無視したまま進めるのはいかんだろと考えて作りました。櫂がどのヒロインとのルートを選択しても違和感の無い様にするのに大分苦労しました。どの推しの方でも、満足して頂けたら嬉しいです。
さて、次回から分岐シナリオになります。最初は、曜ちゃんから書いていこうと思います。櫂とは幼馴染故にちょっと手こずっていましたが、面白いアイデアが浮かんだのでそれを書くのが楽しいです。
ご意見ご感想、お待ちしてます。