ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
ヒグラシが鳴く時間帯になっても、むしむしと暑い。そんな夕暮れの道を一人歩く。視界におれの家が入ると、自然と頬が緩んだ。あのおれ達の家に帰れば、あいつがいる。おれの帰りを今か今かと待っている彼女が。今日は散々悩んで買ったお土産があるんだ、あいつのぱぁっと輝く笑顔を見れたら仕事の疲れなど吹き飛んでしまうだろう。でも本当に喜んでくれるのだろうかと半分不安にもなる。やっぱり別の、そうーー、指輪とかネックレスでも良かったんじゃないか。
そうこう考えている内に家に着いてしまった。ここまで来たらなるようになれ、と覚悟を決めてドアを開けた。夕陽に照らされた玄関で「ただいま」と呟く。が、待っていたであろう人物は来ない。いつもならぱたぱたと犬のように嬉しそうな顔で来てくれるんだけどな。今回はパターンBか。
ダイニングに入ると、中央にあるテーブルに突っ伏して寝る女の子。おれは彼女のみかん色の髪をそっと撫でた。
「ただいま、千歌」
おれの声に反応したのか、千歌はぴくりと身体を動かした。そしてゆっくりと上体を起こすと寝ぼけ眼でおれを見つめる。
「あ・・・櫂ちゃん……」
改めておれを認識したのか、眠たげな眼は瞬く間に嬉しさを纏う。
「櫂ちゃん! おかえりなさい!」
おれが帰ってきたのが嬉しいのか、飛び起きておれに抱きついてきた。が、すぐに頬を膨らませておこりんぼな表情を見せる。
「今日は遅かったね~。待てずに千歌ってば寝ちゃってたよ~」
怒った顔も可愛いなこいつは。おれは彼女を優しく抱きしめた。
「ごめんな。今日はいつもよりも話が長引いてな。それに、お土産も買ってたから」
「お土産!?」
その言葉を聞いた瞬間、拗ねてた千歌の表情はぱぁっと輝いた。ころころと変わって可愛らしいし、見てて飽きない。
「夕飯食べてからプレゼントしてやるよ。もしかして、もう夕飯食べちゃってたか?」
「ううん、まだだよー。櫂ちゃんと一緒にご飯食べたいんだもん、先に食べる訳ないよ」
「そっか、待たせてごめんな。着替えたら食べよう」
おれが優しく頭を撫でると千歌は嬉しそうにそれを受けてくれた。
「うんっ! 待ってるからね、あ・な・た♪」
「その呼び方は止めてくれ、恥ずかしいから」
「えへへっ」
そう笑う千歌の左手の薬指には、指輪がきらりと輝いていた。
千歌とつき合って数年後、おれは彼女にプロポーズした。あの時の涙を浮かべながら了承してくれた彼女の顔は、今でも覚えている。それからおれの家で千歌は暮らすようになった。実家の方は千歌のお姉さんが継いだので特に問題にはならなかった。まぁ夕方まで千歌は旅館の従業員として働いている訳なんだが。
「それでね、お姉ちゃん達ってばヒドいんだよ! 『まだ叔母さんにはなりたくないから子供は作るな』って!」
「お姉さん達の冗談だろ。気にするなって」
「だってぇ……」
むう、と頬を膨らませて不満そうな千歌。拗ねたり、頬を膨らませても可愛い。
「ほら、今日の主役がそんな拗ねた顔してちゃダメだろ?」
「あっ、そーだった……」
気づいた千歌がえへへと頭を掻いた。おれはビールの入ったグラスを掲げた。
「誕生日おめでとう、千歌」
「うん、ありがと櫂ちゃんっ」
千歌の嬉しそうな顔を見て、おれはかちんとグラスをぶつけた。
夕食を食べ終えて、おれは足下に置いてあった紙袋を取り出した。少し渡すのを躊躇うが、千歌に差し出した。
「千歌、誕生日プレゼントだぞ」
「わーい! 待ってましたーっ!」
プレゼントの言葉に今日一番の眼の輝きを見せる。二十歳を超えてもこの無邪気な表情が出来る、千歌が可愛らしい。
「ああ、千歌が欲しいって言ってた、松月のみかんどらやき10個セットだ」
「やったぁーっ! ありがとー!」
らんらんとした目で紙袋を見つめる千歌。嬉しさのあまり、紙袋に頬ずりをし始めた。
「これで、家での激務にも耐えられるよぉー! みかんどらやき10個で千歌は10年戦える!」
「流石にそれは大げさすぎだろ……」
「それ位嬉しいってことだよー! 櫂ちゃん、本当にありがとうっ!」
千歌はそのままおれに抱きついておれを上目遣いで見つめてきた。「ちゅーっ!」と目を閉じながらキスをおねだりするので、おれもそれに応えて唇を重ねた。が、すぐに千歌は顔を離して無邪気に笑いかける。
「ねね、櫂ちゃん。お風呂入る?」
「んー、そうだな。最近暑かったし、汗を流しておきたいな」
「ふっふっふ、実はもう沸かしてあるのだー!」
「そうなのか? 気がきいてるな、千歌」
得意げな千歌の頭を優しく撫でる。千歌はそれを目を瞑って幸せそうに受けている。
「えへへ~。あ、じゃあ、一緒に入っちゃう?」
何を思いついたのか、千歌は少し顔を赤らめながらおれを見つめてきた。その表情から、彼女の狙いが何となく理解出来てしまう。
「ひ、一人で入ります……」
むぅ、と膨れる千歌。千歌と一緒に風呂に入る、それはとっても魅力的ではあるけれど、そのまま風呂で盛り上がって致してしまう気がするからな。せっかくの誕生日なんだ、そういうのは夜中でいいだろう。
「ほら、後にアレ、してやるからさ」
「あっ、そうだね……」
「アレ」という言葉に千歌はさっきよりも頬を紅くさせると、大人しくなった。どうして一緒に入るよりもドキドキしてるんだか。千歌のさじ加減はよくわからん。おれは苦笑しながら洗面所へと足を向けた。
コンコン、とおれの部屋の戸が叩かれた。どうぞ、と戸に向かって声を投げかけると寝間着に着替えた千歌がやってきた。解かれた髪はしっとりと濡れており、彼女が風呂から上がってすぐということを示している。
「えへへ、櫂ちゃん。その、お願い出来る?」
そう言って千歌はバスタオルとドライヤーを取り出した。
「ああ。おいで、千歌」
おれが手招きしてやると、嬉しそうにとことこおれの脚の間に腰掛けた。バスタオルを千歌の頭に乗せて、少し力強くくしゃくしゃと拭いてやる。
「ちょっと痛いよ櫂ちゃん~」
「これくらいいつもやってるだろ」
「そうだけど~、いたたっ!」
「もう大人なんだから、少し位我慢しなさいっ」
痛がっているのが冗談と知りながら満遍なく髪に付着した水分をタオルに吸収させる。偶に風呂上がりの千歌の髪を乾かす作業をおれはすることにしている。こうすると、千歌がとっても嬉しそうな顔をしてくれるし、おれも千歌とふれ合う機会が増えるのは嬉しいからな。
あらかたふき取ったので、ドライヤーのスイッチをONにして優しく撫でながら髪を乾かしていく。
「ん……」
千歌の気持ちよさそうな声が洩れる。気持ちよくなってくれているのが嬉しくて、その頭を優しく撫でた。が、それと同時に少し不安になった。
「千歌」
「ん~?」
千歌がこちらを向く。おれはドライヤーを止めて彼女を見つめた。
「本当にいいのか? こんな誕生日で。ほら、普通ならどこかに食事に行ったりとかするし、プレゼントだって比較的手に入れやすい松月のどらやきだったり。全然特別じゃないじゃんか。こんな代わり映えのしない誕生日でいいものかと不安になってさ」
「櫂ちゃん……」
千歌は優しく微笑むと、立ち上がっておれを抱きしめた。千歌の柔らかさと温もりが伝わってきた。
「素敵なプレゼントならね、もう貰ってるよ」
「え?」
「千歌はね、こうして櫂ちゃんと一緒に居られるだけで十分なんだ。幼なじみで、ずっと大好きだった櫂ちゃんに好きだって言って貰えて、その、結婚までしたし……」
微笑みながらも千歌の顔はぽっと紅く染まる。恥ずかしそうに、言葉を探すそぶりを見せながら彼女は言葉を紡いでいく。
「櫂ちゃんと過ごす毎日が、千歌にとってはかけがえのないものなんだ。そう、千歌は毎日プレゼントを貰っているのだ! だからね、そんなに気にすることないんだよ」
「なんだよそれっ」
思わず可笑しくて吹き出してしまう。千歌はそれを見て少し拗ねた表情を見せる。
「あっ、笑ったな~。そんな櫂ちゃんは、こうだっ!」
おれを抱きしめていた千歌の手がおれの脇へと差し込まれた。そこで指が暴れだし、こそばゆい感覚がおれを襲った。
「ちょっ、千歌! くすぐりはやめろって! あははっ!」
「うりうり~! 大事な所で笑っちゃう櫂ちゃんなんてこうしてやる~!」
「悪かった! おれが悪かったって! 降参するー!」
わかればよろしい、と千歌がくすぐりを止めてくれる。呼吸を整えておれは彼女の頭を優しく撫でた。
「ありがとな千歌。おれと一緒にいることをそれだけ大切にしてくれて。いつも隣に居てくれる千歌が、大好きだ」
おれの告白にぽっと顔を紅くするも、すぐにそのまま満面の笑みを返してきた。
「うんっ! 千歌も櫂ちゃんのこと大好きだよっ! もっと、もーっと千歌に素敵なプレゼントをちょーだいっ!」
おれはそれに応える形で千歌をぎゅっと抱きしめるのだった。
千歌ちゃんは多分かなりストレートに「好き」を伝えるタイプの子だと思うので、素直な言葉を選びました。そのせいか妙に書いてて恥ずかしかったです。
感想お待ちしております。