ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「曜?」
夕食を食べて各々別に過ごしていた夜。飲み物を取りに来たおれの耳には曜の「ふっ、はっ!」と声が聞こえてきた。気になったのでこうして彼女の部屋の前にいるのだ。
軽くノックすると、曜の「どうぞー」の入室許可が出たので戸を開けた。
「曜、何してんの?」
「見ればっ、ふっ、わかるでしょっ!」
「まあ解らんでもないがな」
言っている内にも曜は上体起こしを何度も繰り返している。おれの視線に気づいたのか、少し申し訳なさそうに運動を止めた。
「ごめん、もしかして上にも響いちゃってた?」
「いや、響いちゃいなかったが近くを通った時に聞こえて、気になったもんでな」
「じゃあ続けても問題ない?」
「ああ、いいぞ。おれは部屋に戻るから」
「あっ、そうだ!」
曜は身体を起こしてずいとおれに近づいてきた。らんらんと輝く眼がおれを見つめていた。
「櫂、よければ私の運動手伝ってよ!」
「手伝う? おれに何か出来ることとかあるのか?」
「もちろんだよ! 二人でしか出来ない運動とかもあるし!」
遊んでとせがむ犬の様におれを見る曜。そんな風に見つめる曜が可愛らしくて、ちょっとドキドキしてしまう。でも、彼女の力になれるのなら手伝ってみますか。
「しょうがないな、手伝ってやるよ。で、何すればいいんだ?」
快く了承すればいいものを、どうしてか偉そうに答えてしまう。こいつの事が好きなんだって解って、緊張を誤魔化そうとしてしまう。うーむ、何とかしないとな。
でも今は曜のトレーニングを手伝おうとしよう。
「じゃあ、また上体起こしをするから、足を押さえて欲しいんだ。ちょっとした負荷がかかるとまたいい感じに鍛えられるからね」
おれは頷くと、彼女の足を手で押さえて体重を少しかけた。曜はよし、と一層気合いをいれて運動を再開した。
「っ!?」
そこでおれは曜の今の格好を再認識した。曜の奴、運動しやすいようにスパッツとスポーツブラのみ、そんな格好でいた。異様に肌の面積が広くてドキリとしてしまう。上体を起こした曜の胸やら、汗に濡れた肌にイヤでも視線が向かってしまう。こ、これはまずいぞ。
「ん? ちょっと櫂、力が弱まってるよー! しっかり押さえてくれないと運動にならないじゃんかさー!」
そんなおれの緊張も知らず、曜が抗議の視線を送ってくる。いけない、押さえることに集中しないと。
「い、言われんでもわかってるっての!」
さっきよりも強めに押さえると「ならばよろしいっ」と曜は運動に集中し始めた。
「っしょ……、よいしょっと!」
胸板を脚に当てる度に、胸が膝あたりに柔らかく潰れる。そして彼女が再び床に背を置くとゆっくりと胸は形を戻す。なんというか、視線に困る。あいつ、こんなにも女の身体になってたんだな。今まで簡単にふれ合ってきたけど、ここまで裸に近い曜とふれ合うなんてことなかった。イヤでもドキドキしてしまう。
「そういえばっ、パパーーっ、お父さんから電話あったよ」
「ん? な、なんて言ってたよ?」
幸い曜が話題を提供してくれたのでそれに乗っかる。このまま無言で運動につき合ってたらおれがどうなったかわかったもんじゃない。
「明日には家に帰るって!」
「えーー」
その報せに、一瞬思考が止まった。おれの表情に曜も身体の動きを止めた。
「櫂?」
「そっか、良かったじゃんか。っていうかおやじの奴、おれには何の連絡もなしかっ」
「あはは、おじさんらしいね」
「放任主義が過ぎるっての……」
おじさん達が、曜の両親が帰ってくる。それはとても喜ばしいことだ。でもそれは、この曜との共同生活が終わってしまうことを意味していて。少し寂しく感じてしまう自分がいた。
「やっといつもの生活に戻るのか。教官殿のしごきから解放されると思うと、清々するな」
が、それを悟られまいと気丈に振る舞おうとして皮肉ったことを言ってしまう。同時に素直に言えない自分への嫌悪感が募る。そんなおれの内心を知らず、曜は頬を膨らませてこっちをにらんでくる。
「むぅ、そんなこと言うんだったら、抜き打ちでご飯食べに来るからね! ちゃんと自炊出来てなかったらおしおきであります!」
「勘弁してくれよ渡辺教官……」
「ふふふ、ならば日々精進するがよいっ」
「精進って言うけどさ、お前ハンバーグの作り方しか教えてねーじゃんか。他の料理も教えて欲しかったっての」
「っ、じゃあさ、またーー教えに来ても、いい?」
ぴたりとまた思考が停止する。また曜がここに来てくれる。今まで朝方に勝手に上がり込むことだってあったハズなのに、それが妙に嬉しくて。
「しょ、しょうがねえな。レパートリーがハンバーグだけじゃなんだし、もっと教えてもらおうか」
「むぅ、生意気な生徒であります。これはもっとビシバシ教える必要がありそうであります! シゴキがいがありそう!」
「ほう、じゃあちゃんとしごける為には準備出来る場所が必要だな」
「? うん……」
「この部屋残しとくから、好きに使えよ」
「いいの?」
曜が驚いた表情でおれを見る。せっかく片づけたんだし、このまま放っておいてまた倉庫として使われるのも忍びない。
「ああ。だからさ、また来いよ。それでおれが完璧に自炊出来るようになるまで教えてくれよ」
「うんっ、この曜ちゃんにお任せだよ!」
嬉しそうに敬礼しながら笑う曜。おれもそんな彼女の表情を見て、頬が緩む。突然訪れる、悪くないムード。こ、これは言うべきなんじゃないのか、自分の気持ちを。「「自炊の仕方どころかおれの為に毎日飯を作ってくれ」」とか言ってもいいんじゃないかこれは? そう考えてーー
「そ、そういえばさ曜。明日は夏祭りじゃんか。一緒に行く相手、決まってる?」
結局ヘタレた。うう、我ながら情けない。でも仕方ないじゃないか。今までの関係のままでいたいというブレーキが働いてしまった結果だ。おれは悪くない。
曜はんー、と天井を仰ぎ見て考えた。
「特に、決まってはないかな。特に予定がなければ千歌ちゃん達と一緒に行こうと思ってるよ」
「そっかーー、ならさ、おれと二人で行かないか?」
「え?」
いや、おれは何を言ってるんだ。これってとどのつまりデートのお誘いってことになるんじゃないのか? デートってあれだ、付き合った男女がするものなんじゃ? いや、この夏祭りを機会に曜に気持ちを伝えるってのもアリか?!
なんて考えているとーー
「うん、いいよ」
曜は二つ返事で了承してくれた。間髪いれずの返事におれの脳内処理が追いつかない。
「マジでか?」
「マジで」
「ホントに?」
「ホントに」
おれの問いに素直に頷く曜。そしてにかりと笑顔を見せた。
「どうしたの櫂? そんなに驚いちゃって。私と櫂の間柄でしょ? 小さな頃から二人で行ってたじゃん。後から千歌ちゃん達とも合流してさ」
「あ、ああ。そうだったな」
「もしかして誘うのに緊張してた? 全く、紫堂くんはウブでありますな~」
このこの~、とおれを肘でつついてくる。曜の奴は全然緊張してないみたいで。変に意識してたおれがバカみたいだ。
「う、うるせーよ。どうせ暇だろうしと思って誘っただけだってーの」
「はいはい、そういうことにしといてあげる♪」
そう笑って曜は立ち上がって戸に手をかけた。
「ちょっと汗流してくるね。予想以上にはかどったよ。ありがとね櫂」
「どういたしまして……」
「あ、女の子の部屋漁るなよ~?」
そう言って彼女は脱衣所へと向かってしまった。一人部屋に取り残されて溜息をつく。そうだな、まだ伝えなくていいか。この夏祭りが終わってからでも、いいか。そう思うことにした俺だった。
●●
脱衣所で身に纏っていたものを脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。流れ出るお湯が肌についた汗を洗い流してくれる。
「おれと二人でいかないか、ね……」
櫂が言ってくれた言葉を思い出して肌が、身体全体が熱くなる。櫂が私を夏祭りに誘ってくれた。それがとてつもなく嬉しい。
「もう、私ったらバカ曜なんだから……」
それと同時に自分の言動を悔いてしまう。またいつも通りの反応で返してしまった。もっと嬉しいって気持ちを櫂に見せるハズだったのに、今まで通りに振る舞ってしまう自分がいる。何度も櫂に告白しようとしてるのに、最後の最後でブレーキをかけてしまう自分が忌々しかった。
「夏祭り、かーー」
櫂と二人で夏祭りに行くーー、そう考えただけでちょっとにやけてしまう。ちっちゃい頃から櫂と二人でお祭り会場まで行って、千歌ちゃんや果南ちゃんと合流した事は何度もあった。でも今回の様に櫂から誘われたのは初めてだ。櫂と二人きりで夏祭り。これってもしかしなくてもデートだよね。うわ、改めて考えると緊張してきちゃった。
「っていうか私何してたんだろ……」
緊張を覚えたのと同時にさっきまで櫂としてきた事を思い出して、体温が上昇した。私、ほぼ下着同然の格好で櫂と二人で過ごしてたんじゃん。もしも櫂が私に興奮してーー
「ってこのバカ曜は!」
その思念を振り払おうと、シャワーを冷水に切り替えて頭を冷やす。今は明日の夏祭りのことに集中しないと。
そう考えて私は気合いをいれる為に勢いよく両頬を叩いたのだった。
曜ルート、これで七割から八割が終わりました。見立てではあと二、三話で終わるかも? 早く終わらせて次の女の子に移らなくては。
感想お待ちしてます。