ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

93 / 96
 流石に本ルート佳境ということもあり、執筆も大分時間がかかりました。お待たせしました。


8話:打ち上げ花火、上から見ても下から見ても――

 朝に家のチャイムが鳴り、戸を開けると曜の両親が立っていた。二人を見るなり、曜は飛びかかるように抱きついた。

「パパっ! お帰りっ!」

 嬉しそうに父親を抱擁する曜を見て、思わず頬が緩んだ。曜は意外とお父さん大好きっ子だからな。こうやって甘える姿は小さな頃から見てるし、懐かしさが脳裏を過ぎった。

「櫂くんもすまないね、こんなことになって。てっきりお父さんが声をかけてるもんだと思ってからね」

 申し訳なさそうに曜の両親が頭を下げた。それこそこっちが申し訳なくなってしまう。

「ああ、気にすることないっすよ。親父が後から言うなんてのはよくあることなんで」

 この数日間なんだかんだで楽しかったしな。逆におじさんとおばさんには感謝してる位だ。

「それで、その親父は?」

 おれの問いに二人が言いづらそうに目線を合わせた。

「それが、沼津に着くや否や、仕事があると言ってね」

 はーん、バックレた訳か。あの親父、帰ったら覚悟してろ。と、今は曜の両親との再会に水を差すのはよくないか。

「じゃあおれはこれで。それじゃ曜、またあとでな」

「うんっ、夕方にね!」

「おや、曜は櫂くんと何か予定があるのかな?」

「そうなんだ~。夕方の夏祭りにねーー」

 これ以上聞くと恥ずかしいので、おれはそそくさと自分の家へと引っ込んだのだった。

 

 

 少し暑さが落ち着き始めた夕方。オレンジ色の空に太鼓の音が混じって聞こえてくる。おれは自分の家の戸の前に立っていた。財布よし、スマホ問題なし、虫除けスプレーの準備もOK。あとは曜を待つだけだ。

「櫂っ、おまたせ!」

 そうして待っていると隣から声が聞こえてきた。水色の木地に、金魚が泳いでいるデザインーー、曜はそんな浴衣を着て家から出てきた。髪の毛は整えられていて、透き通った朱色のガラス細工が飾られていた。

「どう、かな……?」

 ちょっと顔を赤らめながら曜が聞いてきた。元気で活発ないつもとは180度も違う装いに、言葉を失う。

「櫂?」

「あ、ああ。すっごく似合ってると思う、ぞーー」

 あまりの綺麗さに皮肉る事も出来ず、素直な言葉が口から出る。それを聞いた曜は満更でもないような表情をする。

「そ、そっか……。せっかくだから着てけばってママがね、言ってくれたの」

 えへへといつも通りの笑顔を向けているハズなのに、見ていてドキドキする。曜も何だか恥ずかしそうに視線が逸らし気味だ。互いに沈黙が続き、何とも言えない空気が漂う。

「こ、ここにずっといるのもなんだし、早く行こうぜ! おれロクに昼飯食べてないからさ~」

「そ、そーだね! いこ!」

 曜が同意してくれたので、二人並んで夜道を歩く。特に話すこともなくただ曜が履いた下駄のカランコロンの音が響く。手を繋ぐべきかと迷っているが、それを中々切り出せない。おかしい、こいつと話すのにこんなに緊張したっけ。曜の浴衣姿が、おれを狂わせているのか?

 なんて切り出すのに迷っていると、車道側を歩いていた曜が沈黙を破った。

「ここら辺、この時間はとっても静かだね」

「そ、そらそうだろ。元々田舎だし、皆祭りに行ってるんだろきっと」

「それも、そうだね……」

 会話がそこで途切れてしまう。おれのアホ、そこからもっと話すこととかあっただろ! どうしてここで終わらせちまうんだ!

 なんて考えていると。思い詰めている間におれよりも少し先を歩いていた曜の背中に、光が当たった。そしておれの後ろからは車の走行音が追いかけてきた。

「曜ーー」

 とっさに彼女の元へと駆け寄り、肩に手を置いて引き寄せた。車は難なくおれ達を追い抜いていった。

「か、櫂?」

「ちょっと車道側歩き過ぎだぞ。ちょっと危なかったから、さ」

「う、うん……ありがと……」

 顔を紅くして俯く曜。おれは今の構図を再確認してドキリとしてしまう。無我夢中で考えてなかったが、曜を抱き寄せる形になってしまっている。視界いっぱいに曜が写り、さっぱりとして少し甘い匂いがおれをくらくらさせた。このままじゃいけないと、肩に置いた手を離した。

「き、気をつけろよ。目の前で事故られちゃたまったもんじゃないしな」

「う、うん。気をつけるね……」

 いつもなら反発してきそうなものだが、曜はしゅんとしていた。が、すぐに柔らかい笑顔をおれに向けると手を差し出した。

「じゃあさ、櫂が手を繋いでくれる? そうすれば事故にはならないと思うし。ね?」

「し、仕方ねーな。おれをそっち側に引き込むなよ?」

 差し出された手を、おれはゆっくりと握った。すると曜はいつもと似た笑顔で返してくれた。

「ヨーソロ~。ちゃんと手綱を握ってよね?」

「じゃじゃ馬かお前は」

 おれもいつもに近いであろう笑顔で応えたのだった。

 

 

「うわぁ、すっごい賑わいだ!」

「時間も時間だしな、夕飯として買う人も多いんだろ」

 お祭り会場にたどり着くと、曜はうきうきとした表情を見せた。祭り囃が鳴り響き、出店の人々は声をあげて呼び込みをしている。その中をたくさんお祭り客が歩いている。

 そんな様を見て曜はおれの手を引っ張った。

「ほら櫂っ、いろんな屋台とか見て回ろうよっ!」

「そんなに急いだって屋台は逃げないだろっ」

「急ぐよ! こうしてる間にも食べ物は売り切れるかしれないんだから!」

「わ、わかったって! だからってそんなに引っ張るな~!」

「えへへ、曜ちゃんはね、焼きイカが食べたいであります! あとね焼きそばも!」

 会場に飾られた数々の提灯の灯にうっすらと照らされて、曜の満面の笑顔はまた魅力的に見えた。

 そんな彼女の笑顔を見ているとドキドキよりも、安らぎを覚えるおれがいた。彼女と、曜と祭りを楽しみたいと。

「全部は奢らねえからな! ちょっとは自分で持つんだぞ」

「ヨ~ソロ~!」

 おれの手を引っ張りながら曜は楽しそうに笑った。

 

「お、射的だ」

 綿飴を頬張っていた曜がぴたりと脚を止めた。射的屋の景品にはゲームのハードやらソフト、ぬいぐるみからプラモデルまで、たくさんの種類が置かれている。曜の視線は三津シーのマスコットキャラクター、うちっちーに向いているようだ。

「私、あれとりたい! おじさーん!」

 そのまま射的屋に歩み寄り、曜はお金を店の人に渡した。おじさんからコルクの詰まった銃を受け取って、構える。

「よーし、一発で眉間をぶち抜いてやるぞー!」

「ぶち抜くなよ……」

 おれのツッコミにえへへと笑うが、うちっちーに狙いを定めると表情を引き締めた。曜の奴、本気であのぬいぐるみが欲しいと見える。

「ていっ」

 かけ声と共に放たれたコルクは見事うちっちーの土手っ腹に命中する。が、少し後ろに動くだけで倒れはしなかった。曜はおじさんへと視線を向けるが、「倒さないとダメだからねぇ」と一蹴されてしまった。

 それで火がついたのか曜は何度もコルクをぬいぐるみに当てる。が、一押し足りないのか倒れるには至らない。ぬいぐるみ一つに必死になる曜の表情を見て、居ても立ってもいられなくなって。

「おじさん、二つ分いい?」

 曜が払った二倍の金を渡してコルク銃を二丁持った。曜の隣に立ち、彼女に声をかけた。

「曜、おれに合わせられるか?」

 二丁の拳銃をうちっちーに突きつけるおれを見て、曜はにやりと笑った。

「ふふっ、この曜ちゃんを誰だと思ってるのかな? 全然余裕だよっ」

「そうかよっ」

 おれ達は特に合図もなく同時にコルクを掃射した。放たれた三つのコルクはぬいぐるみに全弾命中して、台に座していたそれを崩れさせたのだった。

「おめでとさんー! はい、ぬいぐるみっ」

「ーーっ!」

 おじさんからぬいぐるみを受け取った曜は、嬉しそうな表情でおれを見つめた。そしておれのとこまで駆けてくるとーー

「櫂っ!」

 手を高く上げたのでおれも合わせてハイタッチした。

「ありがとねっ。櫂のサポートがなかったらもっと時間かかってたよ~」

「諦めるつもりなかったのかよ」

「もっちろん! 諦めという文字は曜ちゃんの辞書には存在しないのでありますっ!」

 ぬいぐるみを抱きながらにひひと笑う曜が可愛らしくて、頬が緩んだ。

 

 夏祭りもあっと言う間に佳境を過ぎ、花火が打ち上がる時間となった。夕焼けの色と夜の暗闇の色が混じり合う空の下、おれ達は坂道を登っていた。

「ほら櫂っ! 早く行こっ!」

 嬉しそうに早足でおれを引っ張る曜。おれは彼女に引っ張られバランスを崩しそうになりつつも彼女についていく。

「よ、曜っ! 急いだって花火は逃げないっての!」

「花火は逃げなくても、花火を見る絶好のポジションはすぐ無くなっちゃうよー!」

「それはそうだが――!」

「どうせなら高い所から見たいじゃんかさー!」

 そう言っておれをひっぱる曜の足はどんどんと早くなっていって。

「いやもうここでも充分だろう」

「まだまだ! もっと高い所を目指そうよ!」

「おれは花火を見たいだけで山登りしたい訳じゃないっての!」

「何の何のここまで来たら――、きゃっ!」

 曜がバランスを崩し、尻餅をついた。曜はバランスを崩した際におれの手を離していたからか、おれも倒れることはなかった。

「曜!」

「いつつ…」

 曜は痛そうに腰を擦っている。おれは彼女の足に視線を向けた。

 浴衣から曝け出された脚は、どことなくいつもとは違った色気を醸し出していて。おれは邪念を追い出し、足に触れた。

「大丈夫か?」

「う、うん…」

「少し足動かすぞ。どこか痛む所はないか?」

 軽く足を動かしてみるが、曜は表情を歪めることはなかった。

「へ、平気みたい。どこも痛まないよ」

「そうか、良かった…」

 スクールアイドルでもあるが曜は飛び込みの選手でもあるんだ。こんなことで選手生命を絶たれると考えただけでもぞっとする。

「私は大丈夫だけど、下駄が……」

 脱げた下駄をよく見ると、鼻緒が千切れてしまっていた。もうこれでは坂道を登ることは出来ないだろう。

「欲張って高い所登ろうとするからだ」

「うう、言葉も出ないよ……」

「ホントに、しょうがねぇなっ」

 おれは曜に背を向けて屈んだ。

「櫂?」

「降りるにももうその様子じゃ歩けんだろ。何か踏んづけてケガでもされちゃたまったもんじゃなし。おぶってやるから、荷物ちゃんと持ってろよ」

「う、うん……」

 曜は素直に頷くと、自分の荷物を持っておれの背中におぶさった。背中に柔らかい胸の感触が伝わってくる。その柔らかさに身体が反応してしまう。

「櫂?」

「何でもないっ。降りるぞっ」

 おれはムラムラを振り払って少し早足で降り始めた。

「おぉっ、中々に早い~! それゆけ~」

「揺らすなっての! ハデに転びたいのか」

「えへへ、ごめんごめんっ」

 曜の少し無邪気な声にムラムラも収まり、おれは海に向けて歩き出した。

 

 

 海岸近くの道路にたどり着く頃には、すっかり陽は沈んで夜となっていた。花火を打ち上げるには丁度いい頃合いだ。

「櫂、ごめんね? 私のせいで……」

背中で大人しくしていた曜が、しゅんとした様子で声をかけてきた。

「なんだ、そんなこと。こんなのもう慣れっこさ」

「でもーー」

「気にすんなって。これくらいで負担を感じる程ヤワじゃないって。伊達にお前等の後ろを追っかけてきた訳じゃないからな」

 話しながら幼い頃の思い出が蘇る。千歌が突拍子もない事を提案して突っ走って、曜がそれに賛同して並んで走る。おれはそれを必死に追いかけて、おれを追い越した果南姉ちゃんが偶にこっちを振り返って励ましてくれる。幼い頃はいつもこんな感じで、危ないこととかやらかしてよく親父や千歌の家族とかに怒られたっけ。そんな経験に比べれば、これくらいどうってことない。

「でも花火、いい場所で見たかったのに……」

「そう悪くはないと思うぞ」

「えーー」

 ひゅるるるー

 そう言う曜の言葉は打ち上げられた花火の音で遮られた。

「わぁ……」

 どん、と一際大きな音が響き、曜の感嘆の声が後ろから聞こえた。どうやら花火が始まったみたいだ。打ち上げる場所に比較的近かったのか、おれ達の遙か頭上で花火は次々と咲いていった。

「すごい、綺麗だね……」

「だな。高い所から見る花火も綺麗だろうけど、こうやって下から見上げる花火も悪くはないだろう?」

 曜は黙って天上に咲く火花の芸術を見つめている。ふむ、せっかくだしおれも花火を見たいな。

「曜、少し下ろすぞ」

「あ、うんっ」

 丁度バスの停留所があったのでそこのベンチに二人で腰を下ろした。ひゅう、どん、ひゅう、どん、と花火が打ち上げられる音と炸裂する音が混じり、ぱらぱらと弾ける音が間をおいて聞こえてくる。

 その音で再び幼少期に想いを馳せる。皆で浴衣を着て、こうやって花火を眺めたっけ。花火が音を立てるのと同時に千歌が「どっかーんっ!」って叫んで、それに同調する様に曜も「どーんっ!」って千歌と一緒に跳ねる。それを果南姉ちゃんと二人で眺めて笑い合った、懐かしい思い出。

 あの頃無邪気にはしゃいでた彼女に視線を向けると、うっとりとした表情で花火を見上げている。あの頃の面影を残しつつも、女の子らしい表情にドキドキしている自分がいた。

「ん? どうしたの?」

 おれの視線に気づいたのか微笑を含めておれを見つめる曜。告白するには悪くないロケーションなのだがーー

「な、なんでもねーよ」

 思わず彼女から目を逸らしてしまう。未だ曜との関係の変化に怯えている自分が情けない。

「変な櫂っ」

 おれの小さな溜息は、花火の爆音にかき消されたのだった。

 

「あ、もう大丈夫だよ」

 花火も見終えて再び曜を背負って家にたどり着く頃には、8時になっていた。

 曜はおれの背中から自分の家の玄関前に降りると、ニコリと笑顔を向けてきた。

「櫂、夏祭り誘ってくれてありがとね。すっごく楽しかったよ!」

「どういたしまして。二人きりで祭り行くのも悪くないな」

「そう、だね……」

 そう言ってはにかむ曜の表情は少し照れていた。こ、このタイミングなら言ってもいいんじゃないか。自分の気持ちをーー

「じゃあ、そろそろ帰るね。ここまで背負ってくれてありがとっ」

 柔らかな笑顔でおれに敬礼してくる曜。しまった、また仕損じたか。どうもタイミングが合わないな。

「ああ。また明日な」

 残念だけど、今日は諦めるか。大丈夫、明日があるさーー

「櫂」

 背中からおれを呼び止める曜の声が聞こえた。振り向くと、曜がおれの首に腕を回してーー

「んっーー」

「っーー!?」

 唇に、柔らかい感触が伝わってくる。視界には眼を瞑る曜がいっぱいに写っていて、その柔らかいものが彼女の唇だと少し遅れて理解出来た。でも何で? 何でおれ、曜にキスされてるんだ?

 混乱して反応出来ないでいる内に、曜はおれから離れた。

「今のはーー、さっきのお礼だよっ」

 少しとろけた表情で曜ははにかむと、裸足で家へと駆けていった。残されたのは、呆然と立ち尽くすおれ一人。

 

 その後の記憶は、ほとんど覚えていなかった。




 さぁさぁ曜ルートもクライマックス、ここまで話が伸びるとは私自身思ってもいませんでした。恐らく後一話で終わると思うので、どうかお付き合い下さいませ。
 曜ルート終わったら幾つかのルートを並行して作成していきますよ。一人だけ重点的に書いてるとね、飽きるんですよ。より良い文章を作る為にも、気分転換は必要ですからね。

 感想お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。