ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「う、もう朝か……」
いつも起きるよりも早い時間、ダルい足取りで階段を降りる。昨日の出来事のせいで一人で悶々としたり、何度も寝返りをうつはで全然寝付けなかったな。
曜との別れ際の出来事をふと思い出す。あいつの声に振り返ったと思ったら、キスされてて……。キスした後の曜の笑顔がとっても可愛らしくてーー
「ーーっ、更に悶々としてどうすんだおれ!」
雑念を祓おうと両頬を叩く。今日は登校日だ。学校へ行って少し一人で考えてみよう。
おれは気分を落ち着けると、台所へと足を運んだ。
「ーー」
「あっ……」
早起きは三文の得とはよく言うもので。いつもより早く家を出ると、家を出る曜に出会った。
「お、おはよう」
「お、おはよう……」
曜はおれを見ると顔を紅くして視線を逸らした。おれも気まずさを覚えて何て言おうか迷っていると、曜の方から話しかけてきた。
「きょ、今日は早いんだね。ほら、いつもこの時間ならまだ寝てるじゃん」
「ま、まぁな。実はあんまり寝付けなくてさ」
「あっ、そっか……」
おれの寝不足の原因が理解出来たのか、申し訳なさそうな顔をする曜。そのままおれに背を向けて走り出そうとする。
「じゃ、じゃあ私、急いでるから!」
「あっ、曜!」
おれの言葉を聞かずに、そのまま曜は駆けだしてしまった。小さくなる曜の背中をおれは追いかけられずにいた。結局その背中が見えなくなるまでおれはそこに立ち尽くしていた。
「いつもは勝手に借りてくのにな……」
そう一人呟いて、おれは自転車に跨がった。
●●
うう、やっちゃった。何をやってるんだ私は。櫂の顔を見た途端に逃げちゃった。
だって、昨日の今日だもん。昨日の夜ついに櫂に、その、キスしちゃったんだもん。家に戻った後、すっごいドキドキして。どんな顔で会えばいいのか全然わからなかった。それで会わないように櫂が起きてないであろう時間に学校に行こうと思ったら、櫂の奴も早起きしてたし。櫂の顔見てたら昨日のドキドキが戻ってきちゃって。視線が合うのも恥ずかしくなって思わず走って逃げちゃった。うう、この渡辺 曜、一生の不覚。
でもキスだけじゃダメだよね。せっかく勇気を出したんだもん。自分の気持ちを、櫂に「好き」って言葉を伝えなくちゃ。あ~っ、その場面を想像するだけでドキドキするよぉ~。やっぱり、伝えるの辞めようかなぁ……
◇◇
その日の授業は、どうも身が入らなかった。先生に名指しされても上の空だったり、気がつけば授業が終わってたなんてこともあった。まさかこんなにも頭の中が曜のことでいっぱいになるなんて思ってもなかった。
それだけ自分にとって彼女が存在になっていたんだって改めて思い知った。その気持ちを伝えようとすることを、おれは戸惑ってしまった。今までの関係ではいられなくなることが怖くて、切り出せなかった。
そうしている間に、曜からのキスを受けた。そして互いに気まずくなって顔すら合わせられないでいる。もしかしてこのまま、あいつと疎遠になってしまうんじゃーー
「ーーっ!」
頬を叩いて邪念を追い払う。それだけは、絶対にイヤだ。あれが曜の気持ちなら、おれもその気持ちに応えなきゃいけない。だから今度はおれから伝えよう。おれの中にある、好きって気持ちを。
●●
「あ、もうこんな時間……」
机に突っ伏していた顔を上げると、空は夕焼け色に染まっていた。そっか、HRの後水泳部の練習に顔を出す気になれなくて、誰もいない教室で時間を潰してたんだっけ。
「帰らなきゃ……」
溜息を吐いて教室を後にした。夕焼けに染まる廊下は人気が無く、寂しさと怖さを感じた。
ーーこんな時に櫂がいてくれたらなーー
ふとそんなことを考えてしまい、ドキリとした。何を考えてるんだ私、櫂の顔を見ただけで緊張して逃げ出した癖に。こうやって居ない時だけあいつのことを欲してしまう。隣に居て欲しいのにいざ近づくと自分から逃げてしまう。矛盾もいいとこだ。
そんな私の口からは、乾いた笑いと溜息しか出なかった。
俯いて学校の門を通ると、ちりんちりんと自転車の鐘が聞こえてきた。音の方へ視線を向けると、幼なじみが自転車に腰掛けていた。
「よっ」
「櫂? どうしたのさ、こんなとこまで?」
予想してなかった櫂の登場に、ドキドキする。
「まぁその、うん、あれだ」
櫂は少し言葉を探すように視線を逸らすと、ぽんぽんと自転車の後ろを叩いた。
「迎えに来たってとこだな。ほれ、帰るぞ」
「う、うん……」
私が大人しくそれに従って腰を下ろすと、櫂はゆっくりと自転車を走らせた。
自転車が坂を駆け下りて、周りの景色が流れていく。私は櫂の背中に軽く掴まりながら彼に大きな声で話しかけた。
「珍しいねー! 櫂から迎えに来てくれるなんて!」
「そうか? いつもの事だろ。それにお前、おれが自転車で登校してると解ったら、迎えに来いって連絡するだろー!」
「そう、だね……」
「いつも」と言う櫂の言葉にちくりと胸が痛んだ。そっか、もう櫂は「いつもと同じ日常」に切り替えようとしてるんだ。昨日の出来事を見なかったことにして。
それが普通だよね、うん。いきなりキスされたら誰だってどうしていいかわからなくなるもん。櫂がいつも通りに接しようとするのも理解出来る。何やってたんだろ私。こんな、こんな想いする位ならーー
「それにさ」
下り坂が終わり、流れてく景色が緩やかになる頃に櫂が呟いた。徐々に自転車のスピードが落ちていき、浜辺の近くで止まった。
「ちょっと曜と話がしたくてさ」
◇◇
「話ってなんなのさ櫂」
少し落ち込んだトーンで曜が尋ねる。そんな彼女の顔を見るだけで心臓がドキドキする。落ち着け紫堂 櫂。昨日のことについて自分の気持ちを伝える、簡単なことじゃないか。
「曜、昨日のことなんだけどさーー」
「あ、あのことなんだけどさ、忘れてくれてーーいいから」
おれの言葉を曜が遮った。え、今なんて言った? あのことを、忘れろって?
「おい曜、何を言ってーー」
「昨日のことは忘れてって言ったの。ほらアレは、なんていうかーー、場の空気に酔ったみたいな? だから大した意味は無くてーーだから、ね?」
そう言って笑う曜。でもその笑顔はどこか無理してるみたいで。おれがいつも見てる笑顔よりどこか悲しげで、辛そうだった。違う、おれが見たいのはそんな笑顔じゃない。
「曜ーー」
「いやー、昨日の花火はとっても綺麗だったよねー。この曜ちゃんも気分が昂揚しちゃってたよー」
「曜ーー」
「お互いあのことは無かったことにしてさ、今まで通りにーー」
「曜っ!」
少しきつめに声を荒げると、曜がびくりと肩を揺らした。その隙に彼女の肩を掴んだ。
「か、櫂?」
「ったく、ちっとは人の話を聞けっての」
そのまま頭に軽くチョップを入れてやると、頭を押さえた。
「ご、ごめん」
「それにな、おれはあのキスを、イヤだなんて思ってもないっての」
「え?」
「むしろ、嬉しかったんだ。そりゃされた時は寝るまで記憶が曖昧だったさ。でも横になって改めて『曜にキスされたんだ』って思ったら、すっげードキドキした」
「……」
曜は顔を赤らめながら視線を落としている。今なら言葉による遮りも無いだろう。伝えるなら今だ。
「ドキドキする位、曜の事が好きになってたんだ。幼なじみって関係から、おれはもっと進んだものになりたい」
「櫂……」
「だからさ、曜がよければなんだけどおれとーー」
そこから先は再び遮られてしまった。たださっきと違うのは言葉ではなく、物理的にだ。
「んっ……」
曜がおれの首に腕を回して、飛びつくように唇を重ねてきた。昨日は驚いて解らなかったけど、キスってこんなにも甘いんだな。
「よければも何も、私だって櫂のこと好きだよ! こんなにも嬉しいことないよ!」
「曜……」
曜の「好き」と言う言葉に胸の奥がじんとした。ああ、おれ達は両想いだったんだな。嬉しさのあまり視界が少し潤んでいる。
「ふふっ、櫂ってば目がうるうるしてるぞ~?」
「そういうお前だってそうじゃんか」
えへへと無邪気に笑う曜の目の端からは綺麗な滴がぽろぽろと落ちていて。
「じゃあさ、櫂。お互いの涙を誤魔化すのにとっておきな方法があるんだけど?」
「とっておきな方法?」
「そう。えいっ」
曜は笑うとぎゅっと抱きしめてきた。おれの顔の横に、曜の顔が乗っかる。なるほど、これなら互いの顔は見えないな。それにーー
「櫂、すっごくドキドキしてるね……」
「当たり前だろ。好きな子とこうやってくっついてるんだから。曜こそ心臓の音がスゴいぞ?」
「櫂のスケベ……」
「いやこれはスケベじゃないだろっ」
互いに笑い合う。付き合っても、そう簡単には今まで幼なじみな雰囲気は変わらないな。でもそれでいいんだ。すぐに変わらなくてもいい、ゆっくりと変わっていけばいい。曜と手を繋いで肩を並べていけば、どんな風になっても楽しくやっていけそうだから。
「これからもよろしくね、櫂っ」
「ああ、こちらこそ」
二人で見つめ合ってゆっくりと顔を近づける。唇の感触を味わうかのようにキスをした。
この先にどんな荒波が、どんな嵐が来ようと、二人で乗り越えよう。おれ達の航海は、まだ始まったばかりなのだから。
この様な終わりで本当にすまない……。
9人分の分岐ルートを書いたのが5月。そして現在は9月。一人に時間かけすぎでしょう。もうアニメ始まっちまうがな。予想以上に手こずったので、今後は複数のキャラを同時進行で執筆していきます。この四ヶ月間曜しか書いてなかったから他の子の書き方忘れてるかもしれんし。
実は善子と梨子のルートの第一話は執筆が完了してるので少し間を開けたら投稿しようと思います。その前に梨子ちゃんの誕生日回を書かねば。去年はキャラ回を当てることで誕生日回としてちゃんと書いてあげられてなかったからね。全力で書きますよ。
では感想お待ちしてます。