ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
1話 始まりのピアニッシモ
「梨子?」
紫堂くんの言葉でふと我に返った。いけない、今は明日のデートの打ち合わせをしてたんだった。
「ど、どうしたの紫堂くん?」
「いや、さっきから梨子からの返事が無かったからさ。具合でも悪いのかなって。どうする? 明日じゃなくてもおれは構わないけど……」
「ううん! わたしは大丈夫だから!」
言えないよ、電話越しとはいえこうして二人きりでお話出来るのが嬉しくてぼーっとしてたなんて。向こうは恋人のフリだと思って協力してくれてるんだもん、ちゃんとしなくちゃ。でも、フリじゃなくて本気に思って欲しいな……。
「そっか。でも待ち合わせ場所、本当に沼津駅でいいのか? おれが迎えに行こうか?」
その言葉にドキリとした。デートってだけでも緊張するのに迎えにきてくれるってことになったらもう眠れないよ・・・。
「だ、大丈夫! 待ち合わせ場所に行くまでの心境とかも参考にしてみたいから!」
「わかった、梨子がそれでいいなら。それじゃ明日、沼津駅で」
「う、うんっ、楽しみにしてるね!」
紫堂くんに「おやすみなさい」と言った後、通話を切った。わたしは大きく息を吐くと、ベッドに横たわった。
「紫堂くん……」
星形のクッションをぎゅっと抱きしめて彼の名前を呟いた。明日はデート。ラブソングの作詞のためという名目で紫堂くんがつきあってくれる。彼からしたらなんちゃってデートかもしれないけど、わたしからしたら本物のデートみたいで、ものすごく緊張してしまう。落ち着くのよ梨子。明日の為に服は選んだし、身だしなみはばっちりなんだから。多分。でもでも、「気合い入れすぎ」って思われちゃったらどうしよう。やっぱり少し地味に、それはそれで「デート楽しみにしてないのか」って思われちゃうかもだし……。うわーん、緊張して眠れないよぉ……。
◇◇
沼津駅前でくぁ、と大きく欠伸をする。あまり良く眠れなかった。女の子と待ち合わせるのは何度も経験したけど、デートってことになるとまた意味合いが違ってくる訳で。三年生の先輩方とのデートは水族館見学の途中で発生したイベントであって、最初っからデートという目的での待ち合わせなんて生まれて初めてだ。うわ、さっきから心臓がドキドキしっぱなしだ。ぴしゃりと頬を叩いて自分に活をいれる。しっかりしろおれ。作詞もやりたいっていう梨子の力になるって決めたんだ。しっかり恋人役をしないと。
「紫堂くん!」
遠くから梨子の声がした。声の方を向くと急ぎ足で彼女が近づいてきた。
「お、遅くなってごめんなさーー、きゃっ!」
足がもつれたのか梨子がバランスを崩した。おれはとっさに彼女にかけよって抱き留めた。
「おっと。大丈夫か?」
「う、うん。平気……」
えへへと苦笑いする梨子を立たせて向かい合った。見ると、肩で呼吸しているのが解る。そんなに急いで来たのか。
「ごめんね、紫堂くん……。その……、待った?」
「いや、おれも今来たとこ。でもそんなに慌てる必要は無かったんだぞ?」
「だって、楽しみにしてたから……」
ごめんなさい、と目を伏せる梨子。それだけ楽しみにしてくれてたのか。その表情にどきりとしてしまう。
「楽しみにしてくれてたのなら、恋人冥利につきるな」
「あっ、うん……」
少し頬を染めてはにかむ梨子にまたどきりとして。どうしてこんなにドキドキするんだろう?
「あ、それと、どうかな? 出来る限りおしゃれしてみたんだけど……」
梨子はその場でひらりと回ってみせた。ジーンズ地のジャケットに、桜色のワンピース。おれが今まで一緒にいた女の子とはひと味違った可愛らしさだった。そうだ、服を誉めるのも彼氏の勤めだよな。
「ああ、すっごく似合ってる。綺麗だ」
「ーーっ!!」
その言葉に嬉しそうな笑顔を向けてくれる。そんな表情を見せてくれるとこっちも嬉しいな。よし、こんな感じで彼氏として振る舞っていこう。
「それじゃあ改めて、今日はよろしくな。素敵な歌詞が作れるといいな」
「あ、う、うん! よろしくお願いしますっ」
行儀良くお辞儀する梨子に、おれは手を差し出した。それを見て、梨子は首を傾げた。
「紫堂くん、これは?」
「これはってーー、恋人同士のデートなら、手を繋ぐのがセオリーだろ?」
ほら、と促すと梨子は恐る恐る手を握ってくれた。細くてすべすべした、柔らかい女の子の手。ぽっと温かみを帯びたその手をきゅっと握り返すと、おれ達は並んで沼津の町を歩き出した。
●●
うう、紫堂くんから手を繋ごうって言ってくれるなんて・・・。思っても無かったよ。良くて一緒に肩を並べて歩く位に思ってたから心の準備が……。
なんて思っても彼と繋いだ手は離れようとしなかった。大きくて少し堅さを感じる、男の子の手。しかも好きな人の手だもん、握っていたくなるのも仕方ないよね。
このドキドキが紫堂くんに伝わってるのかな。伝わって欲しいようで欲しくないような……。
なんて思いながら緊張で上手くしゃべれないまま、二人で沼津の街を歩いて暫くして。わたし達は喫茶店に入ることにした。
「ごめんな、沼津って東京に比べてなんにもないだろ?」
苦笑いしながら席に座る紫堂くんに続いてわたしも座った。
「大丈夫。静かな街だし、わたしにぴったりだよ」
「静かなのはいいけど、その分デートスポットもないし。そこんとこ不向きな街だよホント」
「地味なわたしには、丁度いいかも。ゆったりとしててーー」
「梨子」
紫堂くんがわたしの手をとってきゅっと握った。
「そんなに地味地味言わない方がいいぞ。恋人が自分を卑下してちゃおれも悲しいし。何より自分で言うほど梨子は地味じゃない。むしろ綺麗だと思ってるくらいだ」
「紫堂くん……」
彼の言葉が嬉しくって熱のこもった視線で見つめていると、紫堂くんの顔がぽっと赤くなった。それを見てたこっちの体温も上がってきて。
「って彼氏なら言うと思う! 参考にするといいんじゃないかな!」
「う、うん! そうだね! あ、ありがと……」
恥ずかしくなってお互いに目を逸らしてしまう。わたしはテーブルに貼られたメニューを見てそれを指さした。
「ちゅ、注文しよっか! 外暑くって喉カラカラだよ!」
「そ、そうだな! すいませーん!」
紫堂くんが店員さんを呼ぶのをちらと見つめる。さっきのあの言葉、あれは紫堂くんの本音だったのかな? それとも恋人役として? どっちなんだろう……。
「梨子は何飲むか決めた?」
「あっ、うん! じゃあこれをーー」
紫堂くんに呼ばれて慌ててメニューをあまり見ずに指さして注文する。店員さんは少し目を見開くと、微笑んで下がっていった。よし、今がチャンスかな。
「じゃあ注文したものくるまでに、幾つか質問いいかな?」
「質問?」
紫堂くんが首を傾げた。
「紫堂くんは今恋人役をやってもらってる訳だけど、恋人の好きなものとか知りたいって思うじゃない? その為の質問ですっ」
「ああ、なるほどね。好きな食べ物とか聞いて、作ってあげるとかよくあるシチュエーションだもんな。じゃあ幾らでも質問してくれよ」
部活動として一緒にいるだけじゃ、まだまだ紫堂くんのことよくわからないもの。もっと色々なことを知って、もっと紫堂くんのこと好きになりたいな。丁度良い機会だし、いっぱい聞いちゃおうっと。
「じゃあまず、紫堂くんの好きなものをーー」
持ってたメモ帳が文字でいっぱいになった頃、店員さんが戻ってきた。
「お待たせしました、アイスティーのストレートとーー」
「はい、おれです」
紫堂くんが手を挙げてそれを受け取る。あれ、そういえばわたし何を頼んだっけ?
「イチゴジュースのラバーズデコレーションスペシャルです」
「ーーっ!?」
思わず二度見してしまった。店員さんの視線がわたしに向いている。どうやら注文したのはわたしだったみたいで。小さく手を挙げた。
「ではごゆっくりどうぞ♪」
にこやかな笑顔と共に店員さんは去っていった。わたしの目の前にはピンク色のドリンクが一つ。そこまでは良かった。紫堂くんのそれよりも大きいグラスにささったストローはハートを象っていてその先端は二つに別れていた。
これってもしかしてよくマンガとかで見る、恋人二人で飲むっていうものなんじゃ……。
「うわ、こりゃすごいな……」
紫堂くんも驚きの表情を隠せないでいた。
「え、えっとね! あの、慌ててメニュー見ないで頼んだっていうか! 狙って頼んだわけじゃないっていうか……」
もう自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきたよ。早く飲みきってしまおう。
「ん……、あれ?」
ストローをくわえて中身を飲もうとするけど、思うように飲めない。もしかしてこれ、二人でくわえないと飲めないのかな? そうして飲むのに苦戦していると。
「こうしないと、飲めないんじゃないか?」
紫堂くんはそう言うと、もう一方のストローをくわえた。そして息を吸うと、液体がストローから口へと流れ込んできた。
「うん、これで正解だったみたいだな」
にかりと微笑む紫堂くん。近い、顔が今まで以上に近いよぉ・・・。緊張した身体は、ジュースの味など解る訳もなく。全然味とかよく解らなかった。
視線が彼と合うと、ようやくこの状況が理解出来たのか紫堂くんの顔も真っ赤に染まった。
「わ、悪い! 距離、近かったよな!」
「う、ううん! メニューをよく見ないで頼んだわたしが悪かった訳で、紫堂くんは全然……。あ、ちょっとお水もらうね・・・」
火照った頭を冷やしたくて、近くにあったコップを掴んで一気に飲み干した。冷水が喉を通過して身体中に行き渡るのを感じた。ふぅ、これで少し落ち着けたかなーー
「あ、それおれが飲んでたやつーー」
「ーーっ!!」
こ、これ紫堂くんのだったの!? つ、つまりこれって間接キスになるんじゃ……っ! 再び体温が上昇してしまう。火照った頭で彼を見てしまう。
「おれは問題ないけど、梨子はいやじゃないか?」
「わ、わたしはいやじゃないけど……。いやじゃ、ないけど……」
「梨子?」
紫堂くんが心配そうに見つめてくる。顔がぽおっとして、ふらふらとしてきた。いけない、ここで倒れたらーー
そう思う頭とは裏腹に、私の意識は途絶えた。
◇◇
「ん……」
沼津駅前の人の座れる所で待つこと二時間位だろうか。おれの膝の上で梨子は目覚めた。
「し、紫堂くん? あれ、ここは……?」
「沼津駅前。あのあと梨子、目をぐるぐる回して倒れちゃったんだぞ?」
「え、そう、なの……?」
梨子が起きあがって辺りを見渡す。外は橙色に染まっていて、時間の経過を表している。それを見て、梨子の顔面が蒼白に変わる。
「ごめんなさい、紫堂くん……。わたし、折角紫堂くんが協力してくれてるのに、上手く喋れなくて。それにこんなーー」
梨子のせいじゃない、と言っても、俯いて小さく「ごめんなさい」と声を振り絞るだけで。そんな彼女の目には涙が溜まっていて。そんな彼女の顔は見たくなくて。
「また今度、デートしよう」
「え?」
梨子が顔をあげてこっちを見る。
「たった一回のデートじゃよくわからないと思うぞ。何度もデートしたり、デート以外でも一緒にいて、そうしてく中で生まれる感情とかがラブソングの歌詞とかの参考になるんじゃないかな」
「紫堂、くん……」
梨子がうるうるとした瞳で見つめてくる。その視線が恥ずかしくて、誤魔化すようににやりと笑ってやる。
「それに、梨子の寝顔が拝めたんだ、役得と思っておくよ」
「も、もうっ! 紫堂くんっ!」
ぽっと赤くなって抗議の視線を向ける梨子。が、すぐに嬉しそうな顔を見せた。
「じゃあ、また今度付き合ってくれる?」
「もちろん。それと、今度一緒に学校から帰ろうぜ。校門前まで迎えに行くからさ」
「いいの?」
「ああ。恋人と一緒に帰るってのもカップルあるあるだろ?」
「ありがとう……」
梨子はベンチから立ち上がると、こっちを振り向いた。
「じゃあ、わたし帰るねっ」
おれが送ってくよと言うと、「それは今度の楽しみにとっておきますっ」とくすりと笑った。
「じゃあね、紫堂くんっ」
そしてそのまま小走りに去っていった。おれは彼女に言ったことを思い出すと、ぼっと顔が熱くなるのを感じた。おれ、かなり恥ずかしいこと言ってなかった!?
でも、おれと手を繋いで顔を真っ赤にする梨子を見て、すっごいドキドキして。もっと梨子のそばにいたいって思った。だから「また今度」って言ったんだ。
「うーん、自分で自分のことがわからなくなってきたぞ……」
この感情は、恋人役としてのものなのか、おれ自身のものなのか。それを見定めたい。そう思うのであった。
実を言うと、次の回も執筆は完了してます。でも他のキャラも執筆していきたいので、もう少し待ってて下さいね。
感想お待ちしてます。