本作は非常に汚い場面がありますので心臓の弱い方はご注意ください
立教大学、空手部の部室である畳の部屋。
そこで、田所は目の前にある白い箱に入った複雑な機械をにらみつけた。機械の右上にあるデジタルタイマーは、ゆっくりと時を刻んでいる。
4.01……4.00……3.59……
時間は多く残されてはいなかった。田所は静かに鼻から息を吸い、口から吐き出す。
大丈夫、俺ならできる。
そう言い聞かせ、静かに自らの男性器を握った。
早朝、ベッドの上で眠る田所は、目覚まし時計ではなく、開いた窓の外から聞こえるセミの鳴き声で目を覚ました。
体を起こし、手を伸ばして窓を閉じると、セミの声は小さくなる。
目を擦りながら部屋を出て、階段を下りて洗面所に向かい、顔を洗い、歯を磨き終えると、次にリビングに向かう。
ドアを開けると、キッチンで朝食を作る母の背中が見えた。
「おはよう」
田所がそう言うと、母は振り返った。
「おはよう、ずいぶん早く起きたじゃない」
「セミがうるさくて目が覚めちゃってさ」
「ああ、そう。すぐに朝ごはん出すわね」
「うん」
そう言って、テーブルの前にある椅子に座り、頬杖をつきながらニュースが映っているテレビを見た。
――各所では、断水被害が甚大なようです。では次のニュースです。先日、下北沢駅で爆発事件がありました。犯人はゴミ箱に時限式の爆弾を仕掛けたと思われ、現在も犯人を――
「あら、すぐそこじゃない、怖いわねぇ」
母はそうつぶやいた後、田所の前にトーストとスクランブルエッグの載った皿を置いた。
「俺の使ってる駅じゃん」
「あら、あんたも気をつけなさいよ」
「うん、おかのした」
気の抜けた返事をした後、田所はトーストをかじった。
立教大学、昼休みを終えた三限目の講義室に入ると、前のほうに空手部の後輩である木村が見えた。
田所はそこまで行くと、隣に座った。
「よう、木村ぁ」
「ああ、先輩」
「朝のニュースみたか、爆発事件の」
「見ましたよ、確か先輩が使ってる駅ですよね」
「爆発した場所を見ようとしてか野次馬が大量にわいててさ、危うく電車逃して一限目遅刻するとこだったよ」
「野次馬って行っても、通れないほどじゃないでしょ。ぎりぎりで家を出るからですよ」
「まあ、そうだけど。それより今日、何月何日かわかるか?」
「え、7月の21日でしょ」
「そうだよ、つまり……な」
「何が言いたいんですか」
「鈍いなお前、ぜろ、なな、に、いち。つまり」
木村は何かを察したのか、鼻を鳴らすと首を軽く振った。
「くだらないですね」
田所はひじで木村を小突いた。
「何言ってんだ、お前もやってるんだろ。昨日もたまっちゃっててさ、新記録だしちゃったよ、でも810回はちょっとやりすぎたかも知れないけど」
「ひゃ、810!?嘘でしょ、テクノブレイクしますよ」
「俺の性欲なめてもらっちゃ困るよ~」
「ホント、底なしですね」
木村がそういい終わると同時に、ちょうど教授が入ってきて講義が始まった。
90分の講義が終り、ノートを直すと田所は立ち上がった。
「四限目も一緒だったよな、一緒に行こうぜ」
「ああ、すいません。僕、部室に忘れ物してて、取りに行くんで先に行っててください」
「何だよ木村ぁ、何忘れたんだよ」
「それが、携帯を」
「携帯忘れちゃダメだろ」
「はい」
「まあ、じゃあ先に行っとくわ」
そういって田所は講義室から出て、四限目の講義室へ向かった。
講義室に入ると、三限目を終えてすぐのため、中はがらんとしていた。
中央あたりに座り、スマートフォンでゲームをしていると、横から声をかけられた。
「先輩」
顔を向けると、後輩の遠野がいた。
「おお、遠野」
「隣いいですか」
「いいに決まってんじゃん、それよりさ、朝のニュース見たか?」
木村は空手部顧問の秋吉から借りた部室の鍵を使い、ドアを開いて中に入った。
密室のむっとした空気が顔を覆うと、いやな汗が流れた。
さっさと携帯とって出よう。
そう思い、足早に畳みの部屋に入っていった。更衣室が無いため実質ここが更衣室となっている。謎の布団が積まれてあり、元は教授たちが寝泊りするための部屋だったのではないかと、木村は推測している。
いつも荷物を置く場所を見ると、すぐに携帯は見つかった。
携帯を拾い上げ、とりあえず電源をつけようとした瞬間、後頭部に衝撃が走ったと共に、目の前が真っ暗になった。
「先輩、木村くん、きませんね」
隣で遠野がそう言うと、田所はうなずく。
「ああ、部室はそんなに遠くないはずなんだけどなー」
「急に外せない用事でもできたんでしょうか」
「そうかもな」
講義室内には人が集まり、教授が教卓に立った。
「はーい、じゃあこれから四限目の――」
瞬間、爆発音が教授の言葉をかき消すと共に、講義室が強く揺れた。
講義室内の人間、全員が固まる。
田所の脳裏に、下北沢駅の爆弾事件がよぎったと同時に、誰かが金切り声を上げ、全員がいっせいに騒ぎながら走りだす。
それを傍観していた田所の肩を遠野が叩く。
「先輩!何ぼーっとしてるんですか」
「あ……ああ、ごめん。急だったから」
「早く僕らも逃げましょう」
「そうだな、早く……ちょ、ちょっと待て」
「どうしたんですか」
不意に木村のことが気がかりになり、携帯を取り出して木村に電話をかける。
数回のコール音の後、電源が入っていないとのアナウンスがはいった。
「木村、電話に出ない」
嫌な予感がした。
「え」
「俺ちょっと部室、見てくる」
そういって走りだそうとすると、遠野に腕をつかまれる。
「ちょっと待ってください、大学の中は危険ですよ」
「わかってる、部室はすぐそこだから、ちょっと見るだけだからさ」
田所は遠野の手を振りほどいて、講義室から出て部室に向かった。
途中、後ろから遠野が追いついてきた。
「待ってください、僕も行きますよ」
「いいのかぁ?」
「もし木村くんに何かあったのなら、二人で担ぐほうが早いでしょ」
「それもそうだな。ありがとうな、遠野」
「いえ」
部室の前まで着くと、田所はすぐにドアを開けて中に入り、遠野もあとから続く。
畳みの部屋に入ると、木村が部屋の中央で倒れているのが見えた。
すぐに田所は膝を曲げて寄り添った。
「おい!木村ぁ!」
体をゆすると、木村はゆっくりと瞬きしながら目覚める。
「ああ……せ、先輩」
「どうしたんだ木村、何があった」
「携帯を……見つけたと思ったら……後ろから殴られて」
「殴られた?いったい誰がそんなことを」
「わ、わからないです」
「先輩!」
不意に遠野の声がして顔を向けると、遠野が真っ青な顔でドアの前に立っていた。
「どうした」
「ドアが……今、何か音がしたと思って、ドアを開けようとしたら、しまっていました」
「え……な、なんで。内側から開けられないのか」
木村が答える。
「無理です、学生が鍵を持って中に入って閉めてしまわないよう、内からは鍵を使えないようになってるんです。外からしかできません」
「そんな、いったい誰が」
「たぶん、僕を殴った犯人でしょう」木村は自分のポケットをまさぐる「やっぱり、僕が持ってきた鍵が無くなってます。僕が秋吉さん借りたのを盗んで閉めたんでしょうね」
「クソ!なんでこんなこと」
「わかりませんが、それを考える前にここから出ることを先に考えないと。先輩、とりあえず携帯で外から救助をたのんでください」
「おう、わかった」
田所はすぐにバックから携帯を取り出し、秋吉に電話をかけようとしたその時、携帯の画面を見て固まる。
「あれ、圏外だ。圏外になってる」
すぐに遠野も携帯を見る。
「僕もです」
木村は床に落ちている携帯を拾い上げ、画面を見た。
「ぼ、僕も」
田所は二人の顔を見た。
「そ、そんな。何で全員圏外なんだよ」
木村は静かに首を振る。
「たぶん、電波を阻害するジャマーを使っているんでしょう……そうなると今のところ、ここから脱出する手段はありません」
「な!……あ、いや、ドアを壊せば」
「ドアは鉄だし、周りはコンクリートです。素手で破壊するのは不可能だし、部室に壊せる道具なんてありません」
「いや、でもだな」
「先輩、ちょっと」
「もし、近くに爆弾があったら!」
「先輩」
「俺たちは!」
「先輩!ちょっと静かに!……何か……聞こえませんか?」
木村がそう叫ぶと、田所は黙った。
すると、かすかに電子音がするのがわかった。
遠野が震えながら言う。
「こ、この音は」
木村は静かに立ち上がると、隣にある脱衣所を指差した。
「こっちからですね」
田所はゆっくりと近づき、脱衣所のドアを開くと、部屋の真ん中に白いはこが置かれてあった。静かに膝を曲げ、両手をそえ、ゆっくりとふたを開けると。そこには複雑に入り組んだ機械があった。右上には赤色のデジタルタイマーがあり、ゆっくりと数字を小さくしていた。
「木村ぁ……これって」
木村と遠野も脱衣所に入りそれを見る。
「時限爆弾、でしょうね。タイマーを見るに、後六分で爆発するみたいです」
遠野は手に持っていた携帯を落とした。
「そ、そんなぁ。じゃあ、僕たちは」
はっとして、田所はバックの中をまさぐる。
「そうだ、俺ハサミ持ってきてるから、配線を切って」
木村が田所の手をつかむ。
「待ってください、爆弾の素人が配線を切って解体なんて無理ですよ。この爆弾が配線を切ることによって解体できるものとは限りませんし、そもそもドライバーがありません」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
「落ち着いてください。爆弾に関してはちょっと知識があります。基本的に日本で作れる爆弾なんて、たかが知れてます。たぶん、水につけることによって、火薬を湿らせることが可能なはずです」
「な、なるほど」
田所は箱を持とうとするが、木村が止める。
「待ってください、動かしたりかたむけることによって起爆するかも知れません、動かさないでください」
「おお、わかった」
田所は手を離し、隣にある風呂場のドアを開ける。
近くにある桶を取り、シャワーノズルをそこに向けてレバーを引く。
だが、水が出ない。
田所はノズルを叩いて、何度もレバーを動かす。
「クソ!なんで……あ、もしかして、断水!?」
木村は苦い顔をした。
「そういえば、この辺で断水が多いと聞きましたが……まさかこんなときに」
「クソ」田所はノズルを床にたたきつけ、その場で座り込んだ「……このまま、死ぬのを待つしかないのかよ……ちくしょう」
遠野は肩を震わせると、下を向き、泣き出した。
「僕まだ、まだ死にたくない」
数秒間、どうしようない空気の漂う静粛が訪れた。
そんな中、木村は静かに深呼吸した後、言う。
「先輩」
うつむきながら田所は答える。
「何だ」
「今日、何月何日でしたっけ」
顔を上げて、木村を見る。
「お前、何言ってるんだ」
「今日、何月何日でした」
「おい!」田所は立ち上がり、木村の胸倉をつかむ「こんなときにふざけてる場合か!」
「先輩、これしか方法は無いんです」
「は?」
「今日は7月21日……昨日、810回もしたんですよね」
「お前……もしかして、俺に……あの箱を浸すほどのアレを量をしろっていうのか!」
「それしか方法はありません!……今、この状況で液体を生み出せるのは、先輩だけです……先輩……お願いします……07ってください」
田所は頭を抱えた。確かに、この状況、打開策は45りまくり、白濁液をあの箱いっぱいにするしか方法は無かった。
こうして悩んでいる間にも、タイマーの数字は進んでいく。
「先輩」遠野がかすれたような声で言う「お願いします。僕たちを助けてください」
田所は眉を寄せ、目を閉じるとうなづいた。
「ああ」
田所はズボンとパンツを脱いで、爆弾の前に立った。
4.01……4.00……3.59……
田所は静かに鼻から息を吸い、口から吐き出す。
大丈夫、俺ならできる。
そう言い聞かせ、静かに自らの男性器を握った。
「うおおおおおおお!」
雄たけびを上げ、ひたすらに45った。
たのむ、出てくれ!大量に!箱を浸すほどの!俺の一生分の白濁液を!
数分間ひたすらに力の限り45り続けたが、少しも出る気配は無かった。
それもそのはずである、そもそも0721とは何かに駆られてするものではない。性欲を見たいしたいという意思から行動するものであるから、今、死に直面してただ白濁液を出すためだけに0721するというこの状況は、もっとも0721するのに適していないと言える。
出ないのではない、出せないのだ。
2.37……2.36……2.35……
いつの間にか、田所は45りながら涙を流していた。
どうして自分が死ななくてはならないのか、そしてどうしてこんなときに45っているのか、どうして出てくれないのか。
自分のことが不憫でならなかった。自分のさまが非常に醜く思えた。
涙を流し、嗚咽を漏らしながら45る。
「たのむ!出てくれぇ!出てくれえええ!!」
性器にその兆しは無い。
2.00……1.59……1.58……
「なんで!……いつもバカみたいに出るのに、何で今日出ないんだよ!」
「先輩!」
遠野が隣にやってくると、下半身を出して45りだした。
「遠野、お前」
「僕、先輩みたいに大量にはできませんけど、発射する勢いはすごいんです。僕もやりますよ
木村も、下半身を出して45る。
「僕は出るまで大体2時間はかかります。けど、今は出します。出して見せます」
「お前ら」
手を止めている暇は無かった。ひたすらに3人で45り続けた。
理由はわからない、だがさっきよりも出そうな気がした。股間の奥から力がわいてきた。
タイムリミットが1分を切ったときに、田所は確信した。
出る。それも大量に。
田所は叫んだ。
「うおおおおおおお!出ろ!出ろ!吐き出せぇ!俺の最大を!もう……もう一生でなくていい!今……ここで……ありったけの!すべてを……」
刹那、頭の何かが切れた。
蛇口、それを思い切りひねったかのごとく、尿道から出ているとは思えないほどの大量の白濁液が出る。
あまりの量に遠野と木村は一歩下がるが、田所はそれを出しながら頭上の宙をじっと見ていた。
どぼどぼと音を立てて箱に溜まっていく白濁液は、すぐに爆弾を沈めた
箱にそれがみちると、でるのは止まった。同時に、田所はその場で倒れ、遠野がすぐに肩に手をまわして支える。
「先輩」
田所の目は半開きで、意識がもうろうとしていた。
「あ……あ、と……遠野……爆弾は……」
「大丈夫です、先輩のアレで沈みました」
「よ、よか……あ」
「よくないゾ」
畳みの部屋から声がし、振り返るとそこには、銃を持ち、こちらに銃口を向けた三浦が立っていた。
遠野は聞く。
「み、三浦さん。何を」
「もしかして……あんたか」
木村がそう言うと、三浦は鼻を鳴らした。
「フン、そうだゾ。下北沢もここの爆破も、そしてここにお前らを閉じ込めたのも全部、俺だゾ。ま、本当は部室を爆破した後、お前たちを殺そうと思っていたんだけどな。けど、勝手に集まってくれて好都合だったゾ」
「何で、そんなことを」
「お前ら二人は、いつも俺のことをばかにしていたゾ。木村はことあるごとに間違いを指摘してくるし、そこの汚い田所はため口を使うし命令してくる。そんなお前らに復讐するためだゾ」
遠野は言う。
「そんなことのために?」
「お前は知らないんだゾ。いつも池沼とののしられる俺の苦しみを。まあ、お前に話してもわからないだろう。わからないまま、お前はこのイカ臭い部屋で死ぬんだゾ」
木村は三浦をにらみつけた。
「先輩、こんなことしても、警察に捕まるだけですよ」
「お前らを殺せるんなら、喜んで豚箱にはいるゾ。じゃあ――」
瞬間、白い線が三浦の胸を射抜いた。
三浦が胸に手を当てると、そこには血がにじんでいた。
「なん、後……少し……で」
三浦はその場に倒れた。
木村は何が起きたかわからず、遠野を見ると、遠野は性器を強く握っていた。
「遠野、お前」
「僕のは……勢いがすごいんですよ」
「すごすぎだろ……あ、それより先輩だ、先輩!」
遠野は田所の体をゆすった。
「先輩!死なないでください、先輩」
田所は何の反応も示さなかった。
木村はうつむく。
「そ……そんな」
遠野も田所の肩に頭を当て、泣いた。
「先輩……何で」
「おい」
声がし、顔を見ると、かすかに目を開けていた。
「勝手に……殺して、くれるなよな~……たのむよ~」
そういって田所は小さく笑うと、二人もつられて笑った。
木村は泣きながら言う。
「先輩……びっくりさせないでくださいよ」
「そうですよ、もう」
田所は小さく息を吐く。
「俺たち……生きてるんだな」
木村はうなづいて答える。
「ええ、先輩のおかげで」
「そうかな」
遠野は言う。
「そうですよ」
「うん、そうか……でも……もう0721は……一生しなくていいかな」
こうして彼らは助かった。
今でもイカ臭い部室に入り、鼻をつまむたびに遠野と木村は思い出す。
大量の白濁液で自分たちを救った。彼の顔を。