これはオソマつさんですね、間違いない
異常性癖の
唯一スカーの魔の手から逃れたと言われる更識楯無生徒会長の証言によれば、その人物は褐色の肌と切り傷のように残る白い肌が特徴であるという。
肌の色以外に情報はなし。
顔をじっくり見る暇もなかったようで、楯無生徒会長も肌の色以外の情報は持っていない。
全てが謎に包まれた、恐るべき襲撃者だ。
「奴はIS学園の生徒だけを狙っているぜよ。
事件が起こってから学園の出入りは常に監視されていた。
けれどスカーは捕まるどころか見つかってもいない。つまり……」
「スカーは学校と外を行き来していない人物。つまりこの学園の生徒ってことね」
エドと
恐ろしいことだ。
エド達視点、スカトロ趣味の犯罪者が気付けば横に居るという状況があり得る。
そして授業中に自分が、皆の前でオソマバーストを強要される可能性すらあるのだ。
「想像しただけで嫌になるわね」
「特に被害の多い一年生の被害者を並べていくと……
第一の被害者は田中円さん。第二の被害者は田中焔くん。
第三の被害者は田中美樹くん。第四の被害者は田中京子さん。
第五の被害者は田中真美さん。第六の被害者は田中明美さん。
第七の被害者は田中要くん。第八の被害者が―――」
「なんで今年の入学生、田中が異常に多いの?」
エドは被害者の名前を読み上げていくが、警備の最中にスカーと戦ったであろう人物を除くと、織斑一夏を除いた全員の名前が『タナカ』であるという共通項があった。
「一見、タナカさんばかり狙われてるように見えるけど……」
「次に狙われるのが誰かは分からんぜよ。
何せIS学園のタナカさんはもう全員胃腸か肛門の医者の世話になってるからな」
「被害状況が嫌すぎるっ……!」
「それに田中さんだけ狙ってたんなら一夏を狙った理由が分からんぜよ」
「ん、それもそうね」
織斑一夏。
彼だけが……彼女だけが、この被害者の中で浮いている。
そこにスカーの正体を知る手がかりがあるのかもしれない。
「『怖くてもう外を安心して歩けない』
『新しい
『ブリュンヒルデって名前が排便音に聞こえてきた』
と被害報告が次々と上がってきてるらしいぞ。やっべーぜよ」
「最後の風評被害的名誉毀損が致命的すぎない?」
早くスカーを捕まえなければ、織斑千冬が殺人犯になってしまう。
タイムリミットは、そう遠くないように思えた。
人の尊厳が奪われる事件が人の命が奪われる事件に変えさせてたまるかと、入学試験四位の頭脳を持つエド、エドよりかは強い中国の代表候補生の鈴が力を合わせ、事件解決に動いている様子。
「こっちのメイン戦力はお前だ。頼りにしてるぜ、アル」
「あんまり期待しすぎないでよ。スカー、あのタナカさんもやられたんでしょ?」
「ソマリアの国家代表操縦者、カックエー・タナカさんか」
エドと
鈴の後ろの席、エドの斜め後ろの席であるため、彼らは何度か会話したこともある相手だ。
「カナダの国家代表とホームグラウンドのカナダで対決、完勝。
スイスの国家代表とフランスの国家代表と一対一対一で対決、完勝。
カナダのオマン湖での戦いも、スイス・フランス間にあるレマン湖での戦いも伝説だ。
海上湖上問わず、水上であれば無敵の強さを誇る伝説の国家代表、カックエー・タナカ……」
「……ねえあんた、自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「え? オマン湖とレマン湖がどうしたって?」
「あーあー、分かった分かった!
あんたあたしを恥ずかしがらせるためにわざと下ネタ言ってるわね!」
ちょっと赤くなった顔色を隠すため、鈴はエドのケツを蹴り上げた。
「痛っ、痔になってしまうぜよ」
「ならないわよ!」
鈴はエドの視線を逸らした隙に、教室のカーテンの裏に逃げ込み隠れる。
こいつ中三の時とやってること変わらねえな、とエドは思った。
「でもよくこんなに被害者の情報集まったわね」
カーテンの向こうの窓で自分の顔を確認し、赤くなっていないことを確かめた鈴が、カーテンの隙間から顔だけを出す。
そのままくるくると回り、カーテンを体に巻きつけ、鈴はかなり面白い格好になっていた。
身内相手にしか見せないような面白モーション。
こいつ中一の時とやってること変わらねえな、とエドは思った。
「会長に情報貰ったぜよ」
「会長? あのちょっと筋肉質な元女の?」
「そう、スカーの不意打ちを食らってもただ一人耐えたというあの会長」
更識楯無生徒会長。
ロシアの代表操縦者であり、日本の国防に携わる忍者であるとも言われる少女……元少女だ。
だが、一般的に女忍者はアナルが弱いとされている。
その例に漏れず男になった後の更識楯無もアナルが弱点であり、スカーには敵わないだろう、というのがIS学園生徒一同の見解であった。
だが楯無は、筋肉質な体に恥じない肛門の筋肉でその予想を覆した。
スカーとの戦いでも漏らさなかったのだ。
括約筋においてもIS学園最強であることを証明し、生徒達の尊敬を集めたのである。
「情報をくれてたんだ、更識生徒会長……通称、アナルストロング少将がな」
「その通称付けたやつ、ドラッグでもキメてたの?」
"楯無会長ってアナル弱そうだよね"という下馬評を覆し、その名は伝説となった。
流石は昔、北国で頂点を取った女で刀かつ姉というアームストロング要素の塊だった者といったところか。
「他の奴に任せるんじゃなく、俺達の手で一夏の仇、取ってやろうぜ」
「その心意気やよし! あんたのそういうところは結構好きよ」
エドとアルが事件解決に乗り出した理由はシンプルだ。友情。ただそれだけである。
特筆すべきこともない平々凡々とした中学校生活だったが、そこには確かな友情があり、それがエド達の"友の尊厳を貶められた怒り"を沸き立たせていた。
誰しも一度は、小学生の頃に布団の中で黄金のスプラッシュをぶちまけ、世界地図を描いたことがあるだろう。
だがもしも、ただの一度も尿意に負けず、前から意図しない黄金のスプラッシュをやらかしたことがない者が居たならば……その人間は、前方不敗の名を名乗るに相応しい。
オソマを漏らしたことがないのならば、その人間は後方不敗を名乗ってもいいだろう。
織斑一夏はもう後方不敗を名乗れない。
悲しみに満ちた悲劇であった。
「俺達で怪しい場所徹底して回るぜよ!」
「おー!」
エドが情報を元に怪しそうな場所に見当をつけ、アルが彼に付いて行く。
彼らは倒すべき敵を探すべく、力強い一歩を踏み出した。
だが、彼らは想像もしていなかった。
スカーを探しに行ったその先で、更なる脅威が生まれようとしていただなんて。
彼らがIS学園の校舎裏に足を踏み入れた先に、何かが居た。
「何か居る」
「何か居た」
「やっほー、束さんだよ!」
束さんだった。
「うーん、どうやって口封じしようかな?
いっちゃんのお友達だっけ、エドモンド本田君」
(あ、これアカンやつや)
束がエドと鈴を見るなりポケットに手を入れ、ちょっと考える様子を見せてから手をポケットから出したのを見て、エドはぶわっと吹き出す汗を抑えきれない。
九死に一生を得た、気がした。あのポケットの中には、一体何が入っているのか。
「つか、俺のこと覚えてたんですか」
「ぜよぜよ言っててウザかったしね。よく覚えてるよ」
「!?」
「まあそれ抜きにしても君のことは覚えてるよ。
ぶっちゃけ、世界に一人のレアモノだし、ちょっと同情できなくもないし……」
「レアモノ……?」
「シャラップ! 黙れ! 何でもしますから!」
「いや束さんとしては君に何でもされてもたかが知れ……ううん、なんでもない」
エドはどうやら、
束が秘密を漏らさないと知り、エドは安堵の息を吐く。
「ねえ、あれ何かしら?」
「あれって……あれ、なんだあれ本当になんだあれ」
そして鈴が指差した先に、目立つ光の玉がプカプカと浮いているのを見て、エドは数秒前までの自分がそんなことにも気付かないほど、余裕を無くしていたのだと気付かされた。
気付けば束はいつの間にか、右手に何かが入った七本の試験管と、左手にISコアに似た謎の大型機械を持っている。
「ぜよぜよ君。錬金術の基本は?」
「質量保存の法則と自然摂理の法則……『等価交換』ですよね」
さも当然のように特に理由もなく錬金術に詳しい彼と彼女ら。
束の意図が読めないため、エドは素直に質問に答える。
「なら、女の子が女の子だった頃に持っていたもの……
肉体はともかく、精神の構成要素だったものは、どこに行くのかな?」
「え?」
「……まさか」
エドはピンと来なかったようだが、同じ少女であり、元正統派ISヒロインである鈴にはピンときたようだ。束にはそれが分かったようで、陽気な笑みに一瞬知性を浮かばせる。
そう、錬金術の基本は等価交換なのだ。
Aをaにする、一を壱にすることこそが基本であり、0から1は生まれず、1を0にすることはできない。それが世界の法則だから。
「箒ちゃん達が男になって、箒君達の中に居られなくなった感情が、『これ』だよ」
「は?」
例えば『ヒロイン特有の嫉妬心』。そういった感情は、ヒロインがヒロインでなくなった時点でヒロインの中には居られない。
「そう、箒ちゃん達がまだ女の子だった頃!
言い換えるなら、彼女達がヒロインだった頃!
ヒロインとしての彼女らが持っていた心の要素は、全てここにある!」
ISヒロインが男になり、ISヒロインでなくなった瞬間、ISヒロイン全ての中に大なり小なりあった"ヒロイン特有の感情"は……元ヒロイン達の体から抜け出し、IS学園の片隅で、今や新たなる生命体として顕現しようとしていた。
「『
惚れた異性の鈍感さに向けられる、暴力を伴った理不尽な怒り。
『
惚れた異性も、勝利の栄光も、新たな力も、何もかもを求める欲求。
『
思春期特有のバカみたいに色恋一直線な恋愛感情。
『
メシウマの者とメシマズの者が入り混じった高度なハーモニー。
『
好かれたいと思うけど、ありのままの自分を好きになって欲しいから、自分をよく見せるための偽装は特に行わない……という怠け。
『
"まあ最終的には私を好きになってくれるよね?"という無自覚の思い上がり。
そして『
他の大罪ことごとくを凌駕し、他の大罪と複合することもある、最強の大罪……!」
そう、彼らの前に浮かぶ光の玉こそが、ISヒロインに共通して存在していた感情の集合体。
「あだだだだ! あ、あれを見てるとあたしの胸が痛む!」
「なんてことぜよ……こんな大罪が、たった六人の中に押し込められていたってのか!」
この世界を構成する真理の一角だ。
「束さん! あんたはこれを何に使おうってんだ!」
エドがそう問うた瞬間、束の声がこれまで以上に上ずっていき、反比例して目が死んでいく。
「この世界の法則を壊すために使うのさ!
箒ちゃんが目を離した隙に箒くんになっちゃうような世界は壊れていいよ!
ちーちゃんがちーくんになったのは目眩がしたよ!
いっくんがいっちゃんになって、うちの母が男になって離婚した時は吐き気がしたよ!」
「Oh……」
「というかね、あのね、いつ自分が男になるかもしれないってちょっと怖すぎるかなって」
「人格破綻者のマッド女が、世界の残酷さの前にまともなことを言い始めたぜよ……」
束は死んだ目のまま七つの試験管を放り投げ、試験管と光の玉が衝突した
「ハッピーバースデイ! ホムンクルス達!」
光が弾ける。
そうして、篠ノ之束が望んだ、世界の法則を捻じ曲げるための存在が誕生した。
【ボーコーフェイス】
常に平然とした表情を保ち、上の口に動揺を漏らさず、下の口に漏らすスキル。
波一つ立たない水面のような上の顔と、ナイアガラの滝のような下の顔の両立が特徴。
これを見た時、あなたはニヒルにこう言うべきである。
「へへ、下の口は正直なようだな」
そう言えば、ハードボイルドにこう返ってくるだろう。
「ああ、俺の鈴口は正直者でね」
これができる男の『友達の作り方』だ。
なお、この後書きは本編に一切関係がない。