7月10日、バケツをひっくり返したような、ゲリラ豪雨に近い夕立に降られ、急いで部室に戻ろう、と笑い合う声が響くグラウンド。
部室では、マネージャーからタオルと冷たい水が配給され、体から出た水分を補給する。
「雨だなぁ」
「うん。雨だね」
部室の中は人口密度が高く、外と変わらないくらい蒸していた。
部室の窓から外を見る人が2人。
1人は自分と、その隣にいるもう1人は、敏捷至極バカ、ハッチこと、八尺巫女子だ。
「なー、キャップー。なんでよりによって雨が降るかよー。折角ベースランの練習だったのによー!」
「しょうがないよ。こんな土砂降りじゃあ、練習はできないな」
むぅ、とハッチは頬を膨らませ、軋む窓を両手で開けた。
「止みそうにないなー。なんかする事ないのかー?」
「部室じゃあ特に練習する事ないな」
ハッチはカバンからチョコレート味のプロテインを取り出し飲み始めた。
すると、んーんー言いながら肩をぽんぽん叩いてきた。
「ハッチ、せめて飲み込んでから言おうね」
「…ごくん。キャップ!アタシ考えたんだ!裸で練習すれば、練習にもなるし、シャワーを浴びる手間が省けるんじゃねーか?」
「えっ……?ちょ、」
「よっしゃあ!ちょっと練習してくるぜ!」
そう言うとハッチはユニフォームを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっとストーップ!
流石にそれはマズイって!」
アンダーシャツが半分くらいまで脱がれたところで手が止まった。
「えー、なんだよー。名案だとおもったんだけどよ」
「名案……っていうか、うん。ちょっと流石にそれはだめだね」
ちぇー、と言ってユニフォームを着始めた。
雨粒が外のバケツを打ち付け、テンテン、と音が鳴っている。
窓から見える山は、すっかりと厚い雲に閉ざされてしまった。
30分後
「晴れたなぁ!」
「さっきの雨が嘘みたいだ」
「やっと練習できるよー」
「誰かー、田中島知らな……田中山知らないかー?」
地面を打ち付けていた雨は、地面を照りつける日差しに変わり、清々しい天気になった。
「よーし、今日はまだ土がぬかるんでるから、外周するぞー」
大きい返事と共に、一斉に校門へと走り出した。
「キャップー、お前いつから偉そうになったんだよー」
「いや、俺キャプテンだし……」
「あれ?そうだったか?」
「活動報告書いてるのは俺でしょ!」
「はー、まあいっか。それじゃお先〜」
うおおおおお、と言いながらハッチは一気に先頭に躍り出て、ここからは見えなくなってしまった。
足だけはメチャクチャ早いんだよなぁ……。
頭の方は、……うん。相変わらず。
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ハッチの評価が5上がった。
敏捷ポイントが30上がった。
監督の評価が5上がった。
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「よーし、全員集まったな。今日は見ての通り校庭は使えないから、コンクリートの空いてるところで遠投をやってくれ」
はいっ!と返事をし、ボールとグローブを一斉に取りに行き、各々練習を始めた。
「箭内くーん、一緒にやらないッスかー?」
「おう、いいよー」
とてとてと走りながら声を掛けてきたのは、野球愛無双無双丘、川星ほむらだ。
「それじゃあ俺からいくよ」
「はいッス!」
「シュッ、パシッ!」
「シュッ、パシッ!」
「シュッ、パシッ!」
ボールは綺麗な放物線を描き、二点の間を行ったり来たりしている。
(放物線ってこういうのを言うんだよなぁ、って、模試の勉強してないじゃん…思い出すんじゃなかった…)
来週に控えた物理の模試のことを考えてしまって、意識に隙間ができたその時、
「シュッ、スポーン!」
「げっ、大暴投!」
すっぽ抜けたボールは植え込みの方へと飛んで行ってしまった。
「ほむらちゃんごめん!」
「大丈夫ッスよー」
(勉強の事は後回し…にしちゃいけないけど、今は野球の事を考えよう!)
「箭内くん、どうかしたッスかー?」
「いやぁ、模試の事を考えててね…
それより集中だ!頑張ろう!」
「ほむらも負けないッスよ〜!それっ!」
「シュッ、パシッ!」
「シュッッ、パシッ!」
「シュッッッ、パシッ!」
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ほむらちゃんの評価が5上がった。
筋力ポイントが22上がった。
敏捷ポイントが11上がった。
技術ポイントが11上がった。
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いつの間にか遠投練習位離れていたとき、6時の時を告げるチャイムが流れた。
「よーし、今日はここで終わりにするぞー。
ダイヤモンドの前全員揃ったら挨拶して解散だー」
「「はい!」」
みんながぞろぞろと解散していく中、俺はもう一度部室に戻り、今日の活動報告を書くことにした。
おそらく数十年前から変えられていないであろう、軋むロッカーを開け、活動報告書を机の上にどっかと置いた。
「ええっと、今日の天気はっと…」
電車の時間まではまだ余裕があったので、たまには丁寧に書いてみることにした。
黙々と書いていると、がちゃり、とドアが開いた。
振り返って見たそこには、ほむらちゃんの姿があった。
「どうしたほむらちゃん。忘れ物でもしたの?」
「あはは〜、そうなんッスよ。
課題の提出を忘れちゃって」
「課題を忘れるって、ほむらちゃんらしくないなぁ。それはそうとなぜここに?」
と言うと、ほむらちゃんは俯いてしまった。
「あ、あの……一緒に帰らないッスか……?
いつもの電車に……間に合いそうにないッスから」
「おお、いいよ」
「あ、ありがとッス!」
なぜ俯いていたのかがわからなかったが、学校をあとにすることにした。
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『4番線、塔場街、九里方面行きの電車が参ります。危ないですので、黄色い線の内側でお待ち下さい』
アナウンスとともに、まだ少し明るい西の山から赤色のラインを引いた電車が来た。
「一本違うとここまで人が少ないんッスか」
「そうか、ほむらちゃんはこの時間は初めてだったね」
『森久保〜森久保〜』
ちらちらとサラリーマンであろう人達が降りてゆく。それと入れ替わり、発車した。
「あれ?ほむらちゃん座らないの?」
こんなにガラガラなのに、なぜ座らないかがとても疑問に思ったのだ。
「あ、あはは…そうッスよね」
「そうだよ、座りなよ。立ってても疲れるでしょ」
「そ、それじゃあ……隣、いいッスか……?」
「おう、全然いいよ」
ゆっくりと、ほむらちゃんは隣に座った。
それから暫く、タタンタタン、という電車の音だけが耳に残った。
「そういえばほむらちゃん、今日はどうしたの?なんかいつもと違うけど」
なにか違和感を
「え?そ、そうッスか?」
感じていたけど
「なんか変だったよ」
「な、なんでもないッス!ほむらはいつものほむらッス!」
勘違いだったのかな?
「まあ、なんでもないのなら良かったよ」
いつもの元気なほむらちゃんとは何かが違う。
だが、今日のこの違和感は据え置くことにした。