section-パワプロ女子-   作:斉藤まゅ

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section1-川星ほむら- 〜1〜

7月10日、バケツをひっくり返したような、ゲリラ豪雨に近い夕立に降られ、急いで部室に戻ろう、と笑い合う声が響くグラウンド。

部室では、マネージャーからタオルと冷たい水が配給され、体から出た水分を補給する。

 

「雨だなぁ」

 

「うん。雨だね」

 

部室の中は人口密度が高く、外と変わらないくらい蒸していた。

部室の窓から外を見る人が2人。

1人は自分と、その隣にいるもう1人は、敏捷至極バカ、ハッチこと、八尺巫女子だ。

 

「なー、キャップー。なんでよりによって雨が降るかよー。折角ベースランの練習だったのによー!」

 

「しょうがないよ。こんな土砂降りじゃあ、練習はできないな」

 

むぅ、とハッチは頬を膨らませ、軋む窓を両手で開けた。

 

「止みそうにないなー。なんかする事ないのかー?」

 

「部室じゃあ特に練習する事ないな」

 

ハッチはカバンからチョコレート味のプロテインを取り出し飲み始めた。

すると、んーんー言いながら肩をぽんぽん叩いてきた。

 

「ハッチ、せめて飲み込んでから言おうね」

 

「…ごくん。キャップ!アタシ考えたんだ!裸で練習すれば、練習にもなるし、シャワーを浴びる手間が省けるんじゃねーか?」

 

「えっ……?ちょ、」

 

「よっしゃあ!ちょっと練習してくるぜ!」

 

そう言うとハッチはユニフォームを脱ぎ始めた。

 

「ちょ、ちょっとストーップ!

流石にそれはマズイって!」

 

アンダーシャツが半分くらいまで脱がれたところで手が止まった。

 

「えー、なんだよー。名案だとおもったんだけどよ」

 

「名案……っていうか、うん。ちょっと流石にそれはだめだね」

 

ちぇー、と言ってユニフォームを着始めた。

 

雨粒が外のバケツを打ち付け、テンテン、と音が鳴っている。

窓から見える山は、すっかりと厚い雲に閉ざされてしまった。

 

 

30分後

 

 

「晴れたなぁ!」

 

「さっきの雨が嘘みたいだ」

 

「やっと練習できるよー」

 

「誰かー、田中島知らな……田中山知らないかー?」

 

地面を打ち付けていた雨は、地面を照りつける日差しに変わり、清々しい天気になった。

 

「よーし、今日はまだ土がぬかるんでるから、外周するぞー」

 

大きい返事と共に、一斉に校門へと走り出した。

 

「キャップー、お前いつから偉そうになったんだよー」

 

「いや、俺キャプテンだし……」

 

「あれ?そうだったか?」

 

「活動報告書いてるのは俺でしょ!」

 

「はー、まあいっか。それじゃお先〜」

 

うおおおおお、と言いながらハッチは一気に先頭に躍り出て、ここからは見えなくなってしまった。

 

足だけはメチャクチャ早いんだよなぁ……。

頭の方は、……うん。相変わらず。

 

 

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ハッチの評価が5上がった。

 

敏捷ポイントが30上がった。

 

監督の評価が5上がった。

 

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「よーし、全員集まったな。今日は見ての通り校庭は使えないから、コンクリートの空いてるところで遠投をやってくれ」

 

はいっ!と返事をし、ボールとグローブを一斉に取りに行き、各々練習を始めた。

 

「箭内くーん、一緒にやらないッスかー?」

 

「おう、いいよー」

 

とてとてと走りながら声を掛けてきたのは、野球愛無双無双丘、川星ほむらだ。

 

「それじゃあ俺からいくよ」

 

「はいッス!」

 

 

「シュッ、パシッ!」

 

「シュッ、パシッ!」

 

「シュッ、パシッ!」

 

 

ボールは綺麗な放物線を描き、二点の間を行ったり来たりしている。

 

(放物線ってこういうのを言うんだよなぁ、って、模試の勉強してないじゃん…思い出すんじゃなかった…)

 

来週に控えた物理の模試のことを考えてしまって、意識に隙間ができたその時、

 

「シュッ、スポーン!」

 

「げっ、大暴投!」

 

すっぽ抜けたボールは植え込みの方へと飛んで行ってしまった。

 

「ほむらちゃんごめん!」

 

「大丈夫ッスよー」

 

(勉強の事は後回し…にしちゃいけないけど、今は野球の事を考えよう!)

 

「箭内くん、どうかしたッスかー?」

 

「いやぁ、模試の事を考えててね…

それより集中だ!頑張ろう!」

 

「ほむらも負けないッスよ〜!それっ!」

 

 

「シュッ、パシッ!」

 

「シュッッ、パシッ!」

 

「シュッッッ、パシッ!」

 

 

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ほむらちゃんの評価が5上がった。

 

筋力ポイントが22上がった。

 

敏捷ポイントが11上がった。

 

技術ポイントが11上がった。

 

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いつの間にか遠投練習位離れていたとき、6時の時を告げるチャイムが流れた。

 

「よーし、今日はここで終わりにするぞー。

ダイヤモンドの前全員揃ったら挨拶して解散だー」

 

「「はい!」」

 

みんながぞろぞろと解散していく中、俺はもう一度部室に戻り、今日の活動報告を書くことにした。

おそらく数十年前から変えられていないであろう、軋むロッカーを開け、活動報告書を机の上にどっかと置いた。

 

「ええっと、今日の天気はっと…」

 

電車の時間まではまだ余裕があったので、たまには丁寧に書いてみることにした。

黙々と書いていると、がちゃり、とドアが開いた。

振り返って見たそこには、ほむらちゃんの姿があった。

 

「どうしたほむらちゃん。忘れ物でもしたの?」

 

「あはは〜、そうなんッスよ。

課題の提出を忘れちゃって」

 

「課題を忘れるって、ほむらちゃんらしくないなぁ。それはそうとなぜここに?」

 

と言うと、ほむらちゃんは俯いてしまった。

 

「あ、あの……一緒に帰らないッスか……?

いつもの電車に……間に合いそうにないッスから」

 

「おお、いいよ」

 

「あ、ありがとッス!」

 

なぜ俯いていたのかがわからなかったが、学校をあとにすることにした。

 

 

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『4番線、塔場街、九里方面行きの電車が参ります。危ないですので、黄色い線の内側でお待ち下さい』

 

アナウンスとともに、まだ少し明るい西の山から赤色のラインを引いた電車が来た。

 

「一本違うとここまで人が少ないんッスか」

 

「そうか、ほむらちゃんはこの時間は初めてだったね」

 

『森久保〜森久保〜』

 

ちらちらとサラリーマンであろう人達が降りてゆく。それと入れ替わり、発車した。

 

「あれ?ほむらちゃん座らないの?」

 

こんなにガラガラなのに、なぜ座らないかがとても疑問に思ったのだ。

 

「あ、あはは…そうッスよね」

 

「そうだよ、座りなよ。立ってても疲れるでしょ」

 

「そ、それじゃあ……隣、いいッスか……?」

 

「おう、全然いいよ」

 

ゆっくりと、ほむらちゃんは隣に座った。

 

それから暫く、タタンタタン、という電車の音だけが耳に残った。

 

「そういえばほむらちゃん、今日はどうしたの?なんかいつもと違うけど」

 

 

なにか違和感を

 

 

「え?そ、そうッスか?」

 

 

感じていたけど

 

 

「なんか変だったよ」

 

 

「な、なんでもないッス!ほむらはいつものほむらッス!」

 

 

勘違いだったのかな?

 

 

「まあ、なんでもないのなら良かったよ」

 

いつもの元気なほむらちゃんとは何かが違う。

だが、今日のこの違和感は据え置くことにした。

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