世界最強の人類になっていた件について   作:矢野優斗

7 / 12
咎神の方舟Ⅱ

 世月 直日

 

 

 世界中に広がる戦争を止めるのに、具体的には何をするのか。前回のように戦場に介入するのはこれからも続けていくとカインは言った。だがそれだけでは根本的な解決にはならない。

 

 そもそもの原因は神々が永遠の生に退屈して娯楽を求めたことだ。ならば単純に神々を抹殺すれば万事解決するのだが、カインはそれを良しとしなかった。

 

 たとえ己を異境(ノド)へ追放した相手であっても、カインは決して復讐をしようとはしない。それどころか彼は神々をも救いたいと考えている。お人好しにも程があるだろう。

 

 だけど、そういう所がカインの良さだと思う。まだまだ付き合いは短いが断言できる。

 

 そんなカインが考案した問題の解決方法が『聖殲』。

 

 この魔術を用いて神々を不老不死の超常的存在から引き摺り落とし、寿命もあれば終わり()もある存在へと堕とす。これによって神々は身勝手に振る舞うことが出来なくなり、同時にいつか必ず死を迎えることで生に意味を見出すようになる。永遠の無聊を慰めるために人類を玩具にすることもなくなるだろう。

 

 しかしこの計画を実行するには足りないものが沢山あるそうだ。

 

 まずカインの純粋な力不足。彼は異境から現世へ帰還したばかりらしく、こちらの世界にまだ身体が馴染んでいない。そのため“聖殲”の本来の力が引き出せていない。精々がこの前戦場で見せた力が限界だそうだ。

 

 その慣らしも兼ねてカインはこれからも戦場への介入を続ける。無論、俺もそれに付き合う。大して出来ることはないが、囮役くらいは務まるだろう。

 

 続いて人類にとっての抑止力。“聖殲”によって神の座から引きずり降ろされた神々は寿命もあれば殺すことも出来る。しかし彼らの有する強大な力は健在。兵器がなければ弱い生物である人間にとっては依然脅威に変わりない。

 

 故に抑止力。神々から人類を守る絶対無謬の要塞が、世界の平和を保つ力が必要だ。

 

 ただし抑止力と言っても所詮は強大な力だ。使い方を誤れば人類同士の戦争が今度は人類VS神々という構図に変わるだけで戦争はなくならない。それはカインの望むところではない。

 

 抑止力をあくまで抑止力として扱うため、必要なのはカインの思想に共感する賛同者。戦乱の世を嘆き、真に平和を求める人々の協力が絶対不可欠だった。

 

 ただまあ、人々の賛同と協力を集めることに関してはそう難しい話ではないと思う。カインには人を惹きつける不思議な魅力がある。それでいて誠実で気さくな性格。カインが真剣に訴えれば、その言葉に心を打たれる人間はそれなり以上にいるはずだ。たとえ狂気に呑まれていたとしても、カインは誰であろうと隔りなく真っ直ぐ向き合うから。

 

 

 

 民月 意日

 

 

 戦争へ途中介入しては強制終了させ、世界各地をカインと転々と旅をしている。道中寄った村や町で少しずつカインの思想に賛同する人々を集める日々。気分はご老公様に付き従う従者ですね。

 

 着実にカインの夢を実現するための一歩一歩を踏めているだろう。この調子で民意を集めることが出来れば、“聖殲”実行の日も遠くない。

 

 だがその前に抑止力の開発をしなければならない。そちらはまだ殆ど進んでいないのが現状だ。まあ仕方ないよな。抑止力を作るにしても二人ぽっちじゃ無理がある。せめて国単位の協力者がいないことには当面抑止力の方には手がつけられないだろう。

 

 

 

 神月 々日

 

 

 俺は実際にこの目でカインの言う神々を見たことがあった訳じゃなかった。漠然と何者かの意思が絡んでいるとは直感していたものの、カインと出会うまでは疑念留まりだったのだ。

 

 それが今日、どういう風の吹き回しか俺とカインの前に姿を現したのだ。

 

 不老不死の神々。超常的な生命体というだけあって纏う雰囲気は人智を超えている。神気とでも言うべきか。滲み出る力はカインの操る異境の侵食とはまた別ベクトルの異質さを感じられた。

 

 人間でもなければ魔族でもない。それらの種を超越した存在。まさしく神。現世に生きる如何なる生物よりも高位の次元に存在している彼らに、尋常の手段を以ってしての干渉は不可能だろう。故にこその“聖殲”だけど。

 

 神は問うた、お前たちは何を企んでいると。

 

 カインは間髪入れず答える、争いのない世界を作ると。

 

 躊躇いないカインの返答を、神は馬鹿馬鹿しいとばかりに嘲笑する。しかしカインは罵られ嘲られようと泰然とした態度を崩さない。それは自身の言葉に絶対の覚悟を抱いているから。笑われようと蔑まれようと曲げるつもりはない、そんな強い意思の表れだ。

 

 そんな彼の態度に気圧されたのか、神はそのまま何を言うでもなく俺たちの視界から消え去った。あいつ本当に何をしに来たんだ? まさかただ茶々を入れにきただけ? 神々って本当に暇なのな。

 

 問答を終えたカインは少し疲れた様子だった。彼らにも理解して貰えたら良かったんだけどね、と苦笑しながらカインは言う。

 

 あんなに馬鹿にされても相手のことを思いやれるあたり、流石カインだと思う。俺なんてあいつが嘲笑したあたりで次元超えてぶん殴ってやろうとしてたもの。多分縮地使えば殴ろうと思えば殴れる。

 

 しかし神々、神々ねぇ……。先の問答の様子を見るとカインの方がよっぽど神様らしいんだよなぁ。もしも神様選挙なんてものがあって、有権者が全人類だったらカインがブッチギリで勝つ気がする。ただの妄想に過ぎないけど。

 

 それより問題は神々が姿を現したこと。今まで戦場へのテコ入れや介入はあったものの、ここまで直接的な接触は初めてだ。これが意味するのは神々がカインの行動に警戒を始めたということ。

 

 連中は何らかの形で俺たちにちょっかいを掛けてくるだろう。これからはそちらも警戒しないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 国月 持日

 

 

 カイン……やっぱお前は凄いよ。本当に国一つ変えてみせるだなんて、普通はできない。疑ってた訳ではないけどさ、それでもこれには驚愕を禁じ得ないわ。

 

 ここ数年、俺たちはとある国、俺の元いた世界で言うところの日本に当たる島国の戦争に介入し、賛同者を集めながら端から端までを渡り歩いた。

 

 出会った人間の全てがカインの理想に共感してくれた訳じゃなかった。中にはカインを以ってしても狂気を払うことが出来なくなった者、カインが元は神々であると知って拒絶した者も大勢いる。

 

 それでもなおカインを支持してくれた人は数知れず。最終的に一国のトップすらも味方に付け、協力関係すら取り付けたのだ。

 

 見方によってはカインが一国を掌握したといっても過言ではない。しかも基本的に話術のみで。それがどれだけとんでもないことなのか自覚しているのだろうか。いや、カインに掌握とか支配的な思いは微塵もないのだろうな。カインはそういう男だ。

 

 国という味方を得たカインは予てからの計画の一つ、抑止力作成に着手することに決めた。

 

 作るものは超巨大海上要塞。場所は龍脈の関係で太平洋のど真ん中に建造する予定らしい。ちょっと設計図と構想を見させて貰ったけど、アレだね、スケールが半端じゃないわ。面積にして国の一つや二つと同等って時点で色々可笑しい。より多くの人を収容し、守る為ってのは分かるけどさ。

 

 レヴィアタンもそうだけど、神々って総じてビッグスケールを好むのかな。それに要塞の名前もそれっぽいし。

 

 

 

 ──“方舟”。人類の希望と世界平和の願いを載せて大海原を往く方舟だ。

 

 

 

 建月 造日

 

 

 “方舟”の設計にはカインが異境の地で得た幾つもの技術が注ぎ込まれている。損傷しても自己修復する機能とか、その他外敵から身を護る為の機能など様々。勿論、攻め込んできた相手を撃退する為の砲塔や外壁にも高度なテクノロジーが流用されている。

 

 一言、ガチートじゃねえか。

 

 ま、まあいいんじゃない? 設計図見る限りあくまで専守防衛を主としているためこちらから攻め込む類の兵器は一切ないし、人類を守るという一点においては十分すぎる機能だと思うよ。でも此奴まで使うのか……。

 

 ナラクヴェーラ。神々が人類の戦争をより激化させる為に与えた兵器(玩具)。カインはこれを大幅に改造、カスタマイズして様々な用途に用いれるようにして抑止力の一部に組み込もうと考えているそうだ。

 

 確かにあの虫型駆動兵器は強力だし、何もしなくても神々が無限に吐き出してくれるから数は揃えられる。でも制御とか出来るのか? ……出来るそうです。

 

 何でもナラクヴェーラは解析してみれば非常に単純な構造で、与えられた命令をその通りに実行しているだけの半自律兵器。ハッキングしてプロトコルの書き換えをしてしまえばこっちのものになる。それでいてカインの手に掛かれば改造もカスタムもお手の物。強力な即戦力となるらしい。

 

 ただしあくまでこれらも抑止力。兵装や武装内容は一新して障壁を張ることや人の輸送に重きを置いた代物に変える。一応迎撃機能程度は残すが、それ以上の兵装は引っ剥がす積もりとのこと。

 

 それなら俺も文句はない。ナラクヴェーラを集める作業にも手を貸そう。

 

 という訳でここ最近は専らカインと戦争地帯に飛び込んで大立ち回り。台所に出没するGの如く無限に湧き出すナラクヴェーラを機能停止させ、その間にカインがハッキングする作業を繰り返しております。

 

 ハッキングしたナラクヴェーラに関しては太平洋ど真ん中の深海にて待機という指示を出して放置。“方舟”が完成した際に引き上げる算段だ。それまでは只管ナラクヴェーラを掠め取っていく。

 

 今日の日記はここで終わろう。締めにこの一言を──

 

 

 

 

 

 

 

 ──────いくぞ神々。兵器の貯蔵は十分か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで五十機目か……」

 

 六脚全てと灼熱の光線を放つ触覚を粉々に粉砕されたナラクヴェーラを見上げて、道士服を着込んだ白髪の青年──京矢はげんなりと言った。

 

「なあ、あと何機奪うつもりなんだ?」

 

「希望としては、五百は欲しいかな。“方舟”全土を覆う障壁を張るにはそれくらい最低限必要になるよ」

 

「百鬼夜行ならぬ百機ナラクヴェーラか……」

 

 頭上、丁度ナラクヴェーラの頭部に位置するあたりから降ってきた返答に青年は心底嫌そうな顔をした。それを察してか、ナラクヴェーラにハッキング作業をしていた男──カインが少し申し訳なさげに眉を下げる。

 

「ごめんね、こんな面倒事に付き合わせて」

 

「気にするな。面倒だけど、文句がある訳じゃないしな」

 

 そう言って京矢は首を巡らせて周囲を見渡す。

 

 京矢とカインがいるのはついさっきまで血肉が飛び散り、怒号が飛び交う戦場だった場所だ。今は人っ子一人いない。争っていた者たちは敵味方関係なく既に逃走した後だ。

 

 逃走の原因は無論、この二人が横槍を入れたことで武器や兵器の悉くを失ったからだ。人間は余りに脆い。そのため武器や兵器で武装しなければ戦うことも出来ない。約一名例外を除くが。

 

「……よし、書き換え終了。時が来るまでは深海で待機するようにね」

 

 プロトコルの書き換えを終え、創造主を変えられた神々の兵器は破壊された六脚を修復すると立ち上がり、ゆっくりと命令された地点に向けて歩みを進めた。

 

 遠ざかっていく機影を暫し眺めたのち、

 

「それじゃあ、帰りますか」

 

「そうだね。“方舟”の建造状況も気になるしね」

 

「そんな一日二日で進むものでもないだろ……ないよね?」

 

「どうかな?」

 

 ふふっと愉しげに笑うカインに、京矢は顔を引き攣らせる。

 

 カイン主導に現在進行形で建造している超弩級海上要塞は人類の進んだ科学技術を以ってしても十年単位の工期が必要となる代物だ。

 

 しかしカインには異境の地で得た莫大な知識と高度な魔術がある。それらを以ってすれば工期の短縮など造作もない。事実、カインが現場で指揮を執っていた際の建造ペースは異常だった。

 

 その光景を目の当たりにした京矢曰く、「鋼材やら何やらが空を飛んでカーニバル」だそうだ。全く言っている意味は分からないが、とんでもないことになっていたというのはヒシヒシと伝わってくる。

 

 そんな無茶苦茶やらかすカインが含み笑いを浮かべている。それ即ちまた度肝を抜くようなことを企んでいるに違いない。数年近い付き合いだから分かるというものだ。何をやらかすかは想像もつかないが。

 

 自分を棚上げして友人のぶっ飛び加減に呆れの吐息を漏らしつつ、京矢はカインを連れて縮地で跳ぼうとして──

 

「──京矢」

 

「分かってる」

 

 いつになく真剣な表情のカインに返事をする。

 

 京矢とカインの視線の先、戦場となった荒野を此方に向かって歩いてくる小柄な影があった。

 

 影は二人の十歩手前まで来ると歩みを止め、静かに目を合わせてくる。

 

 小柄な少女だ。日の光を浴びて色を変える金髪を靡かせ、揺らめく炎のような碧い瞳が二人を射抜く。真っ直ぐと、決して捉えて離さないようにじっと。

 

 一見するとか弱そうな印象の少女であるが、しかし京矢とカインの表情は険しい。少女が放つ人外の気配に気づいているからだ。

 

「君は一体、何者かな?」

 

 意を決してカインが誰何する。少女はその問いにまるで用意されていた言葉を話すように淡々と答えた。

 

「我は其方らの監視者。三人の真祖と神々の手によって創り出された第四の真祖。──────創造主の命に従い、汝らを監視する」

 

 少女から告げられた言葉に、京矢とカインは驚きに顔を見合わせた。そろそろ神々が何かしらの介入をしてくるだろうと予測していたが、まさかこんな儚げな少女を監視に送り込んでくるとは思ってもみなかったのだ。

 

 唖然とする男陣とイマイチ状況を理解出来ていない少女。その光景は端から見ればいっそ滑稽にも映っただろう。

 

「……取り敢えず、戻ろうか」

 

「……そうだな」

 

 何処か疲労の色を滲ませた顔色で頷き合うカインと京矢。そんな二人を怪訝そうに吸血鬼の少女は首をこてんと傾げた。

 

 

 これが後に語られる咎神と世界最強の人類と謳われることになる仙人が初代第四真祖と邂逅した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




これはTSになってしまうのだろうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。