うちの鎮守府の未着任艦娘たち   作:安楽

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〇〇、大鳳、恵方巻き

 武蔵の着任から二週間と経たずに大鳳の大型建造が成功した。

 大鳳の「かごめかごめ」が功を奏したのか、あるいはあきつ丸の「とおりゃんせ」が無効化されたのかは定かではないが、当然エクササイズは間に合わなかった。80年代臭いレオタードをぐっしょりと濡らした大鳳は床に五体を投げ出し憔悴しきった顔で震えている。短期集中コースがかなり体にキているのだ。改二待機中の荒潮(大鳳やサラトガ同様にレオタード姿だ)が笑顔で装甲空母をつっつく様を誰も止めようとはしない。最早慣れだと言わんばかりの雰囲気だ。

 

「どうせ衣装でバレないわよ。貴女は通常と改造以外に衣装の差分無いから大丈夫でしょう? そもそも今、冬だし。脱がないでしょ」

 

 最早キッチンがパーソナルスペースとなってしまったローマが辛口に攻めるが、これも最早慣れだとばかりに他の者も動じない。新参者の荒潮改二が動じていないのは慣れではなく素質があるからだろうか。

 

「……イタリアのピザ女にひどい事言われてるのだけれど? ハロウィングラとかなか卯コラボグラとかあるからって調子に乗ってない? 私にだってチャンスはあるわ。レーベもマックスも期間限定グラ実装されているのよ? 来年の夏は私も……! だから先生! 先生どうかお願いします!」

「それまでに体、絞れるといいですねえ……」

 

 現実逃避から限定グラを妄想し始めた大鳳に、龍鳳が現実を突き付けて釘を刺す。限定グラ満載の龍鳳に言われてことが余程ショックだったのか、うつ伏せから仰向けにぬるりと体勢を入れ替えた大鳳が、哀れな軽空母を捕縛して絞め技を見舞い始める。同様に限定グラ皆無の荒潮も、助走付けて笑顔のボディプレスから寝技に参加。期せずしてスパッツ艦娘同盟チームで二対一という構図。龍鳳の側に着くかと思われたサラトガは何故かラウンドガールの格好でセコンドの真似事を始めてしまい、龍鳳はいつものように孤立無援だ。救いを求めてキッチンの向こうに視線を彷徨わせれば、「ほら、私ゴングだから」とばかりに鍋持って待機しているローマと目があった。キッチンタイマーの残り時間はまだまだたっぷりと残っている。

 

「げ、限定グラ仲間だと、思っていたのに……!」

「頑張って。あと二分半よ」

「ふええぇぇぇぇ……!」

 

 三分間、みっちりねっとり締め上げられた龍鳳がゴング代わりの鍋を打つ音と共に解放され、そのまま昼食の流れとなった。パスタが茹で上がるには丁度いい時間だったらしく、しめじと豚肉とほうれん草の和風ペペロンチーノがサーブされる。めんつゆの風味を帯びた湯気の上から各々がかつおぶしと刻み海苔を振りかける中、大鳳はメモ帳に目線を落として深刻そうな顔だ。

 横から大鳳の手元を盗み見た龍鳳が「ああ」と苦笑いする。メモは大鳳のセリフリストだ。

 

「……長らく未着任部屋で寝っ転がっていたせいで、大鳳本来のしゃべり方を忘れていたってわけね?」

 

 スープとサラダを纏めて持ってくるローマに渋い顔で返す大鳳だが、まったくその通りなので言い返すことが出来ない。ついでに言えば声も酒焼け気味だ。龍鳳に倣うように横からメモを覗き込んだ面々の反応もまた渋い。「こんなイケメンなセリフを?」「ガスだどうだなど一度も聞いたことがないです」「このHENTAIを見たかった? oh、編隊!」などと半ば公開処刑が始まってしまい、ローマの「食べれ」と静かな一喝で食事に戻った。

 

「貴女も他人事じゃ済まされないわよ、ローマ。いずれは貴女も鎮守府に着任して提督や他の艦とやり取りする必要が出てくるのだから、今の内から予習を……」

「それこそ、今まで忘れていた人に言われたくないわね」

 

 フォーク咥えながら憮然とした表情をする大鳳、ローマは眉を立てる事無く澄まして見せる。ただ「まあ、反応に困ったら目付き悪くして不機嫌なふりすればいいだけだから……」と小声で呟くのを皆聞き逃さなかった。皆が感情の抜け落ちた半眼で見つめるも、ローマのひと睨みには敵わないあたり、この未着任部屋での力関係もだいぶはっきりしたものだ。

 

「そんな事よりこっちはこっちで忙しいの。もうすぐ二月でしょう? にぽんの風習でこの時期はお豆投げたり、えほーまーきでチャンバラーするから、その準備をしなくちゃ」

「あらあ、ローマさんに間違った日本観植え付けた人ー、だれかしらー?」

 

 荒潮の頬に手を当てての疑問に、龍鳳が「ミス・ジャーマンです」と耳打ちする。ミス・ジャーマン事、現ビスマルク・ドライは着任以来鎮守府を多分に騒がせているそうだ。龍鳳と意識が繋がっている大鯨経由の話では、つい先日も入渠場から暁を山賊担ぎして鎮守府内を全裸で疾走する姿が目撃されている。なんでも暁の尻の蒙古斑を虐待の痕だと勘違いして、提督に直談判しに行ったのだとか。

 どこかで聞いたような話だなと、大鳳とローマは表情を消してフォークを食む。その後誤解はすぐに解けたものの暁が心に負った傷は深く、しばらくのあいだビスマルクが暁の舎弟としてご機嫌取りに奔走する姿が見られるだろうというのが大鯨の予想だった。

 

 その話に納得した様子の荒潮は何を思ったのか、ローマに間違った日本観を新たに吹き込んでゆく。ビルマルクの件があるので半眼で話半分に聞いていたローマだったが、恵方巻きの由来に関する彼是に話しが及ぶとボイルした蛸のように頬が茹で上がってしまう。横で聞いてたサラトガも「oh my god……、oh my god……!」と口元を抑えながら興奮しているのだが、どうしたものだろう。

 

「にぽんの卑猥文化ここに極まれりね。さすがはHENTAIの国……!」

「欧州圏もわりとそういうの多いと思いますけれど……。というか恵方巻き、今年もやるのですね?」

 

 龍鳳の苦笑い気味の問いに「当然」と返すローマは、昨年から暖めていた恵方巻きのレシピを取り出す。確かイタリア風サラダ巻にすると意気込んでいたなと思い出す龍鳳は、大鳳が「それ、食べたかった……」と項垂れてテーブルに突っ伏す様を見る。直後、ローマに「さっさと食べれ」と一喝されて即座に食事に戻るあたり、よく飼い慣らされたものだと感心するしかない。笑顔で細やかなメモを取る荒潮にも末恐ろしいものを感じる。

 そんなに食べたいならば今から試作をつくると立ち上がったローマを視線で追いつつ、龍鳳はひとつ不安があったものが杞憂だった事を確信する。先日のアップデートでイタリア重巡のザラが大型艦建造にて建造可能となり、未着任部屋の一同声を揃えて「なんでローマじゃないの!?」と叫んで項垂れるという場面があった。その報よりすぐ、ローマはいつもの様にピザ生地に感情を込めはじめたのだが、これは長く尾を引くのではないかと懸念していたのだ。

 

 しかし、当のローマは至って元気だ。鼻歌交じりに酢飯の用意を始める後ろ姿は、特に不満を感じているものではないのだと、少しばかり長い付き合いとなってしまった龍鳳にはわかる。親潮の一件で吹っ切れたのか、あるいは別の考えを抱くに至ったのか。ともかく彼女は以前の様に心かき乱すような事は無くなった。怒りのピザ生地回しが気持ち丁寧になってしまったのは、それはそれで残念ではあるのだが。

 そして、同じくローマの後ろ姿を眺める大鳳も、穏やかな表情で微笑んでいた。彼女も龍鳳と同じ不安を感じていたのだろう。ローマをこの部屋に残して行く事に引け目を感じていたのかも知れないが、今はもうその様子はない。先に着任していった仲間たち同様、向こうで彼女を待ち受ける気でいるのだろう。

 

 

 さて、ローマ作・イタリア風恵方巻きだが。味こそ悪くはなかったものの、やはり色物巻きの感触は拭えず、皆苦笑いとなった。作った当人であるローマですら「これは微妙ね」と笑い出してしまったのだから、そうなのだろう。先の荒潮の入れ知恵のお陰か、各々恵方を向いて無言で食べ進めるのが憚られたため、ローマがあらかじめカットしていたものがサーブされた。まあ、荒潮が「あらあ、提督のご立派様が、綺麗ななます状に……」とぶっこんだせいで、しばし食事が中断したのは、ここだけの話。

 

 

 

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