うちの鎮守府の未着任艦娘たち   作:安楽

9 / 9
2017春

 ローマは食器の水気を拭き取る作業の体勢で固まってしまった。此度の新規実装艦娘どもは、皆して海産物持参でやって来たのだ。重量の感じられる白い発泡スチロールを幾つも担いでの登場は、なるほど、その多くが日本の国内外を含めて北方に関連がある艦娘だからだ。

 北の海の幸を満載しての来客、聞けば「美味しいご飯が出ると聞いて」とちっこいのたちから元気に返されてしまい、まあいつものことかと、在来未着任組で調理の準備に取り掛かった。

 気を使って手伝おうとする春日丸に対しては、丁重に断ってお客様席に座らせた。

 しかしまあ、今回は数が多い。海防艦という新しい艦種の実装もそうだが、補給艦に改装空母にと、特殊な面々が顔を並べている。ロシア戦艦はまあ置いておくとして、それによって素材もかなりの量と種類が提供された。これは今月いっぱいここで飲み明かす算段だろうか。

 

 そんな中、活きが良いのかガタガタと微動する発泡スチロールを皆は見つけた。何かと思って蓋を開けた龍鳳が、そのままの姿勢と表情で固まった。中にはゴマフアザラシが生きたまま寝そべっていて、どこで芸を覚えたものか、集まる視線にヒレを上げて挨拶して見せたのだ。

 誰の仕業かとカウンターを見渡す未着任部屋の主たちは、まあ思った通りだと、神威が照れて頭をかいている姿を目の当たりにする。絞めて持って来いよと内心で突っ込んだ面々は、さすがにこれを絞めると海防艦の娘たちが泣くなと悟り(すっかりアザラシの可愛らしさに心奪われてしまったのだ)、即興で“名誉提督”というプレートをつくって首からかけ、帽子を被らせペット化することで素材になる運命を回避した。神威が不満そうに指を加えて見ていたが、次の機会次の機会と、龍鳳が宥めて梳かす。

 

 気を取り直して頭の中で献立を組み立てはじめたローマは、PC画面から聞こえてくる大淀の声に動きを止める。カウンター席の並んだ新規実装艦たちや、調理を開始したばかりの空母娘たちも揃って動きを止めていた。聞こえてくるのは、第一海域攻略完了を叫ぶ大淀の声。早速第一の難関が突破されたのだ。

 

 練度1の山城改二出現の噂にテンションかちあげた扶桑姉さまが、瑞雲とカ号観測機を組み合わせたまったく新しくもない対潜攻撃で潜水棲姫にトドメを差し、戦力ゲージを叩き割ったのだ。

 しかも技名、伊勢湾タイフーン。これには支援艦隊で動向を見守っていた日向も腕組みにっこりだったが、自分がそのフィニッシュを決めたかったものだと、いつまでも旗艦の伊勢に対してぼやいていたのだとか。

 

 それと、今回も敵側からクレームのお手紙が届きそうな予感がしていたので最初に断って置いた。龍鳳にもポストを開けるなと徹底してある。

 

「ちょっと、早くない!? 聞いていたのと違う!」

 

 焦り気味に問うてくる国後に、まあ世間的にはゴールデンウィーク真っ最中だし、前回スタートダッシュしくじったしで、今回は最初からトップギアなのだろうなと、ローマはそのようなことを告げて置く。

 先にも述べたが、何せ今回は新規実装艦が六隻もいるのだ。掘りに割く時間の確保は必須だろう。攻略自体をこの連休中に完了させておく算段かもと、隣りに出しゃばってきた鈴谷が告げると、国後は目にも明らかに青ざめて見せた。

 

「ご飯たくさん食べられないよね! それ!」

 

 「そこ?」と調理組が無言で返すも、新規組の内心は国後に倣ったものだろう。顔を見ればなんとなくわかる。そんな深刻な連中にお通しだとばかりに、ディアンドル姿のマックス・シュルツがビールとザウアークラウトをサーブしてゆく。

 早速乾杯する新規組の中で、やはりと言うか、ガングートがごねた。ウォッカは無いのかと無言で餌をねだる猫のような表情と仕草に、マックスはそれ呑んでからだとジョッキを指差しきっぱり返す。何か火花が散っているのが見えるが、こんなところで冬戦争の再来は止めて欲しいところだ。

 

 待ちきれないちびっ子たちのためにと、カウンターに置いたロースターで殻のホタテを加熱し始める。貝の口が開き、落としたバターと醤油が気泡を発して食べ頃に仕上がってゆくその様を、うっとりと眺めるちびっ子たちが微笑ましい。ちょうど鈴谷がこの未着任部屋に居ることもあり、艦名北国由来の艦娘たちも話が弾んでいる様子だ。

 

 しかしまあ、時は無情。ひと品目のホタテのバター焼きに有り付こうとした国後のドロップが確定した。未だ第二海域の掘りが始まったばかりのタイミングでだ。

 

「あたしのホタテええぇぇ!」

 

 無念の絶叫を残して国後は鎮守府に着任していった。無念で深海棲艦にならないようにと、占守が「供養っす、供養っすよ?」と国後の分まで平らげようとするのだが、この姉艦は鬼か何かか。後輩の択捉にも分け前を与えて共犯者に仕立て上げているので菩薩か。

 なるほどと頷くローマには、すぐに龍鳳から控えめな突込みが来た。

 

 しかしまあ、亡霊でも何でもないのだが、着任したはずの国後が扉開けて普通に入って来て姉と後輩を威嚇しはじめたのだから驚いた。

 燃費が良いという理由から、早速遠征に借り出されているのだとか。

 

「で、途中で待ってもらって寄ったわけね。どうするの? 長距離練習航海30分以上かかったら提督ひっくり返るわよ?」

「大丈夫よ。どっちかっていうと、遠征時間よりも入渠時間や基地航空隊の疲労度見てるから……」

 

 しっかり自分の取り分平らげて去って行く当たり抜け目がない。貝ひもがいい感じに炙られた当たりでまた来るのだろう。

 そう思っていたのだが、今回の攻略速度は今までの比ではなかった。第二海域を早々に攻略した艦隊は即座に第三海域へ突入、神威をちゃんちゃん焼きから引きはがし、占守を石狩鍋から遠ざけて行った。折角素材を持ってきたというのに食べれず仕舞いとは気の毒だ。

 春日丸も目を離した隙に着任してしまっていた。

 

 先輩たちの分まで平らげるべきかと、目の前に並んだ大量の料理に真っ青になる択捉には、後でお弁当として持たせるから大丈夫だと窘めておく。その択捉も、第四海域の攻略を始めてしばらくして着任していったので、本当に今回は忙しないなと、ローマはため息だ。

 まあ、着任出来るか否かで戦々恐々とするよりはまだいいのだろうかと自問するも、それは当事者にしかわからない。

 

 早々に客が去ってしまったカウンター席を眺め、またいつもの面子でわいわいやるかと伸びをしたローマは、そう言えばまだロシア戦艦が居たなとそちらを向く。

 冬戦争が第四次に突入していた。銃殺刑だと酔っぱらってまくし立てるガングートに、同じく酔ったマックスが「やって見なさいな! 駆逐艦の装甲なめるんじゃないわよ」と、よくわからない返しで煽っている。

 酒が入ってつまみもあれば何年でも戦えそうな二隻に対し、しかしマックスあんたは給仕だろうと首根っこ掴んで次の配膳の用意をさせる。油断すると呑み始めるのは鎮守府の流儀か、それともうちのポーラがなんかやらかしたかと額を抑えるローマは、ふと、ガングートがこちらを見ていることに気付く。目が合うと、向こうはしゃっくりひとつした。

 

「ビールもなかなか悪くはない。日本のものより欧州方面の方が好みではあるがな」

「あら、ウォッカ叫んでごねてたくせに」

 

 知らんなと嘯くロシア戦艦は、杯を掲げて「そろそろか」と呟きひとつ。意味はローマにも理解できた。

 ノートPCから全作戦完了を告げる大淀の声が響き、今回の限定海域、その全工程を終えた証が画面に刻まれたのだ。

 今回の最終海域攻略報酬艦であるガングートをのっそりと立ち上がると、「向こうで待っているぞ」と笑みで告げて、早々に鎮守府に着任してしまった。酔って足元が覚束ないかと思いきや、力強い足取りに頼もしさを感じる。

 

「でも今回はさっさと終わったわね。一週間ちょっとだったし、各資材も25万を割らなかったしで……」

 

 後片付けして平常運転に戻ろうかと、うんとひとつ伸びをしたローマは、ノートPCの画面を見て動きを止める。

 第五海域のゲージを割った編成のまま、艦隊が再出撃を開始したのだ。支援艦隊も道中・ボスと両方が投入されている。まだ着任していない艦娘が居たかとカウンターを見渡せば、その向こうの面子が指差してくる。

 「ミー?」と自らを指さし怪訝な顔をするローマは、鈴谷がノートPCをちょいちょいと操作して、ウィキの画面に移動する様を怪訝な表情で見守る。

 

「姐さん、今回ドロップ枠に入ってますよ?」

 

 

 ○

 

 

 ローマの掘りが始まった。

 とは言うものの、丙難易度でゲージ割ってしまった後であるため、攻略時のようなルートは通れない。

 一度潜水艦たちの蠢くマスへ突っ込んだ後、渦潮を経由して戦艦棲鬼を要する敵艦隊との交戦が待ち構えているマスへ。その後、防空一度あってからのボスマスだ。

 艦隊は水上打撃部隊、大和型二隻を要し、そこにアイオワとローマの姉艦であるイタリアが旗艦となる。

 2カメに向かって延々と「ローマあ、今から行くわあ!」と大手を振っている姉イタリアの姿に、ノートPCの前に陣取ったローマは顔を覆って悶えはじめる。

 

「姐さんが悶えている……。さすがは姐さんの姉御。大姉御……!」

 

 鈴谷がわけのわからない事をのたまいながら、フライドポテトの盛られた大皿をテーブルに置いて、ローマの隣りに座って観戦モードとなる。

 特大サイズの炭酸飲料をのカップを抱えているのだが、今から映画でも見る気なのか。反対側の龍鳳もお茶の用意しながら座るのはなんだ。

 自分の堀が実況観戦のネタにされるのは居心地が悪いものだなと思う反面、これまで着任していった彼女たちの気持ちの、ほんの少しでも理解できたことは、まあ悪いものではないなとため息だ。

 

「しかしまあ、資材の減りがすごいわね。大食いの戦艦四隻で連戦して、支援艦隊も道中・決戦も毎度出撃って……」

「安定した航路確保と対象撃滅のための布石ですよ。道中撤退した方が資材が無駄になってしまいますし、ボスから確実にS勝利を取れないとドロップ判定のテーブルに乗りませんから。……あ、でも、A勝利でもドロップしましたっけ?」

 

 方針を再確認するかのような龍鳳の物言いに、ありがたく頷くローマではあったが、それにしても資材の減少は著しい。燃料などはあっという間に20万を割り、このまま掘りを続ければやがて回復困難なレベルにまで落ち込むであろうことは想像に難くない。

 そして、これが行われているのは自分のためだと考えると、さすがに気後れのような感情も抱こうものだ。

 試行回数を重ねたところで、ドロップはあくまで可能性。確実ではないのだから。資材を使い果たすまで、あるいは限定海域の有効期限ぎりぎりまで粘ったとしても、ドロップしない可能性というものは確実にあるのだ。

 

 そんな心境でPC画面を見守るローマの両隣、片や茶をしばいてのほほんとする龍鳳に、片や口いっぱいのフライドポテトを炭酸飲料で流し込む鈴谷。

 完全に観戦モードで居られるのは軽く苛立ちを覚えるものだが、それもまあ仕方がないかと画面に向き直る。これまでの艦娘たちとて、今のローマを同じ思いでこの時間を過ごしてきたのだ。

 だからどうしたとそれらの思いを突っぱねることもできたが、ローマはそうしなかった。

 郷に入っては郷に従え、と言うわけではないが、恐らくこの時間はもう二度と来ないのだと、そう悟っていたからこその沈黙だったのか。

 

 数日後、ローマのドロップが確定した。

 画面に映し出された自分の姿に軽く目を見張り、そして小さく安堵の溜息。直後、両舷側と後方から皆してクラッカーを鳴らしてくれたせいで、ローマはソファから飛び上がってわあわあ騒いで、手近にいた鈴谷の背中に平手打ちしてサプライズの手打ちとした。

 敬礼と共に「お勤めご苦労様です!」などと追加でほざいてくれたので「わたしいつからカモッラになったのよ」と追加で尻つねっておいた。

 

「じゃあ行くわ。今までお世話になりました」

 

 日本式にと会釈しようとしたローマに、付き合いの長い龍鳳が「また向こうで」と先んじて腹の辺りに抱き着いてくる。

 そうだ、ここにいる艦娘たちは、ローマ以外皆、鎮守府に着任しているのだ。両方にパスを持っている娘たちの中で、例外はローマだけだった。それが、今日で終わる。

 龍鳳には早く二隻目の大鯨が来ることをと、祈りを込めて抱擁を。

 黒い方のサラトガにはお互い肩を竦めて見せる。微々たるが夜戦火力の貴重さを買われ、鎮守府では未だに白サラトガを運用している以上、彼女の着任が果たされるかどうかは、未だ定かではない。しかし、そのことに関しては寂しさはないとのことだ。

 

 別れの挨拶をさっぱりと済ませたローマは、未着任部屋の扉に手をかける。

 振り向いて部屋を見回したのはほんの少しの時間だけ。それだけで充分だった。

 これから鎮守府に着任して目まぐるしい時間が流れたとしても、この部屋でのことは忘れたくても忘れられるはずがないのだから。

 

 

 ○

 

 

 道すがら、背中に気配を感じて振り向けば、鈴谷とZ3が後ろを着いて来ていた。

 鈴谷は改二での任務を終えたために航改二に、Z3はレべリングを終えてツヴァイだ。

 振り向いたローマと目を合わせないようにと、衣装のリボンを直したり帽子の位置を直したりするふたりに呆れた視線とため息を送ったローマは、すぐに進行方向へと向き直って、気持ち速足で去ってゆく。

 

「ああ、ちょっちょ、姐さん! あーねーさーん! 舎弟を置いてくなんてひどいっすよ!?」

「舎弟にした覚えはないわ。そもそもカモッラじゃないって言ってるでしょう」

「でも何気にここ、三国同盟よね?」

 

 Z3の何気ない発言に、ローマと鈴谷は「確かに……!」と固まった。

 固まっただけで、すぐに歩き出したが。

 

「でも、姐さんが着任したから未着任部屋閉鎖すかね? まだりゅほとサラっちいるけれど」

「あのふたりはどっちも本体が鎮守府に居るから、そうなるかもしれないわね。まあ、もしもまた未着任部屋に灯りが灯るとしたら、限定海域で取りこぼしが出た時かしら」

「それはあまり喜ばしい状況とは言えないわね。提督の運が尽きたのか、それとも攻略や堀りに割く時間が取れなくなったか、いずれかの状況に置かれているということだから……」

 

 憮然とした表情でその悪い未来を述べるZ3に、しかしローマは大丈夫じゃないだろうかと淡く希望を抱く。

 楽観する癖が付いたという部分もあるが、未着任は未着任で楽しくやっていけるはずだ。自分や、これまでの面々がそうであったように。

 

 先に着任した彼女たちは今頃どうしているだろうかと、ふとそんなことを考えた矢先、待ち構えていた者たちの存在にようやく気付いた。

 鈴谷とZ3が背中を押すのを背後に睨み返しつつ前へと進めば、かつてあの狭い部屋で飲み明かした面々が勢ぞろいと来た。

 戦艦や空母組はほぼ練度90を超えているし、酒匂に至っても50超えだ。

 

「それなのに、なんであんたはまだ改にもなっていないのよ」

「ま、待ってたんですよ! ローマが着任するのを!」

 

 失礼なと顔を赤くする親潮の姿が懐かしい。

 まあ、待っていてくれたのだというのならば、これから練度上げに付き合ってもらおうではないか。

 この鎮守府のレべリングスポットは4-2、西方海域はカレー洋沖だ。駆逐艦二隻が渦潮回避に必須となる以上、未改造の親潮がレべリングも兼ねて編成に組み込まれることは時間の問題なのだ。

 

「それよりも、まずは歓迎会の方が先みたいですよ?」

「なあに? わたしまたご飯作る役じゃない」

「貴女も座って飲み食いすればいいのに……」

 

 そう、苦笑する親潮に、しかしローマは首を横に振る。

 それは自分の得手で、好ましい役割なのだ。協力者ならばいつでも誰でも大歓迎だが、仕事全てを奪われるのは性に合わない。

 向こうで姉や同郷の艦娘たちも待ち構えているのだから、ここはひとつ、自分の実力をこの鎮守府に知らしめる必要がある。

 そうしてローマは、いつも未着任部屋でそうしていたように、衣装の袖を優しく丁寧にまくり上げ、その両方共をバンドで止めた。

 

 

 




 あとがき

 「描けば出る」と言う噂・都市伝説のようなものが艦これにはあるのだと、よく耳にします。
 ならば「書いて出す」と言う感じで行こうかというのが、本作の目論見のひとつでもありました。
 その目論見は此度、見事果たされましたので、本作はこれにて一応の完結という形を取らせて頂きます。

 ご愛読、真にありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。