この世に生を受けて早五年くらい
手が動かない、足が動かない、目をろくに開かず、体も、首も動かない。
なんだこれ、って頭だけはしっかり動いているのに、けれど脳からの命令は体には伝わらない。
いわゆる…………金縛りと言うやつだろうか、なんて考えて。
おぎゃあ、おぎゃあ、と言う赤子の鳴き声が耳に届いた…………と言うか、推定自分だと思われる体から発せられていた。
あれ?
と疑問に思ったのもつかの間。
直後、テレビの電源でも落としたかのように、ぶつん、と意識がシャットアウトされ。
次に気が付いたのは三歳の時だった。
そう…………三歳。
自身の記憶では自身は二十を超えていたはずなのだが。
だが三歳で間違いないのだろう、子供用の小さなケーキに立てられた蝋燭は三本。
そして自身の両脇には、両親と思わしき男女。
「三歳の誕生日おめでとう、ハルちゃん」
「おめでとう、ハルト」
ハルちゃん、ハルト。つまりそれが今の自身の名と言うことなのだろう。
音だけなら…………(多分)前世の自身の名と同じなのは偶然なのだろうか。
(多分)生まれ変わっても同じ名前とか…………つまりこれはソウルネーム!?
…………いや、まあ偶然だろうけど。
と言うか、意識が落ちる前はまだ赤ん坊だったのに、もう三歳…………その間の記憶が全く無いのだが、そうなるとこの体は一体どうなっていたのだろう。
①俺の意識が無かっただけで、普通の赤ん坊のように振る舞っていた。
②俺の意識が落ちている間だけ、別の誰かが赤ん坊やっていた。
③ずっと眠りっぱなしだった。
個人的には①だとすごく助かる。と言うか②だとすると、すごく厄介な話に。そして③は無いだろう、この両親の様子からして。
「なんだか反応が薄いわね?」
「眠いのか? ハルト」
「あらあら、良く寝るわねえ、この子…………食べる時以外ずっと寝てる気がするわ」
あ、①と③の合わせ技っぽい。本能で飯だけ食って、あとはひたすら眠ってる感じか。
良かった、憑依先の人格なんてものはなかったんや…………。
「あうあ?」
何か声を出そうとして、よく考えればずっと眠りっぱなしだったこの体だ、声帯はすでにできているのだろうが、上手く舌が回らない。
「あら、声を出したわ、珍しいわね」
「泣くことも滅多にないからなあ、ハルトは」
お父様、お母様、今まで良くそんな赤ん坊を普通に育ててましたね(戦慄)。
思わずつつ、っと両親から視線を逸らし…………そしてテーブルの上に固定された。
何か…………見覚えのある物体がある。
どうにも頭が上手く働かないせいで、すぐには出てこない。
赤くて白くて、スイッチのようなものがあるボール状の…………。
「おううあおうえ?」
モンスターボール? と言いたかった模様。くそ、舌が回らねえ。
だが両親には何か言いたかったことだけは伝わった模様。視線の先を辿り。
「ん? ボール?」
親父様がテーブルの上のボールを手に取り、スイッチを押す。
そして。
「シャァ!」
猿のような生物が出てきた。
いや、知ってる、名前なら知ってる。けど理解できない。
「ヤルキモノ、うちの息子だぞ~ほれほれ、可愛いだろ?」
俺を抱き上げ、ヤルキモノと呼ばれた猿に見せつける。
鳴き声を上げながら猿が俺を覗きこむ。
「ぽうぇおん?」
――――ポケモン?
「お? 今ポケモンって言わなかったかこの子?」
「あら、やっぱりアナタの子ですね」
自身を抱きながら笑いあう両親の言葉すら、今は耳に届かない。
ポケモン、知っている、その名前を、その言葉を知っている。
けれどおかしい、それはフィクションだったはずだ、現実にはそんなもの存在しない。
ゲームの中の世界の生き物だったはずなのに。
「…………シャッ」
ヤルキモノが、おっかなびっくり、と言った様子でそっと手を伸ばしてくる。
ただそれを見ている、見ていることしかできない。赤子の自分には、その凶悪な爪が伸びてくることを見ているしかできない。
そっと、頬にその手が触れた。温かった、きっと向こうも同じことを感じたのだろう。
今目の前にいるこの生物は、生きているのだと、実感させられた。
* * *
誕生日からそのままさらに時を加速させて二年。
晴れて五歳となった。さすがにあの誕生日以降は意識が途切れていきなり数日後、とか数週間後、とかそういうことは無くなった。
と言うわけで、まず始めたのがポケモンについて知ること。
そしてその中で一つ、ゲーム時代のポケモン世界には無かった驚愕の要素があることが分かった。
それの名をヒトガタと言う。
ヒトガタ、それはポケモンの遺伝子異常から発生した突然変異だと言われている。
ヒトガタ、その名の通りの人形(ひとがた)。文字通り人の形をしたポケモン。
それが初めて確認されたのはもう十年以上前だ。それだけの時間が経てば、最早それは見慣れた日常の一部でしかない。昨今のトレーナーからすればヒトガタの存在は珍しくはあっても、それでも偶にならば見かける程度のものでしかない。
つまり、人の形をしたポケモンがいるらしい。
「…………萌えモンじゃん」
と思わず呟いてしまった自身は悪くないだろう。
萌えモンと言うのは、ポケモンを元にした改造ゲームで、ポケモンの全てが擬人化されている。
まさに、人型のポケモンと言われれば萌えモンに相違ないだろう。
と言っても、擬人化絵は別に公式ではないので、同じポケモンでも数多くの種類があるしそのどれに当てはまるのか、それとも全く別なのかは知らない。
と、言うのもヒトガタはとある理由により野生にはほとんど見つからない、見つかってもすぐにトレーナーによって確保されるからだ。
ここからは自身の推測を交えた話になるのだが。
有り体に言って、
6Vと言うのはゲーム時代の用語になるが、ポケモンには全て個体値と呼ばれる数値が割り振られている。
ポケモンの能力を現す【HP】【こうげき】【ぼうぎょ】【とくこう】【とくぼう】【すばやさ】の六つのステータスにそれぞれ0~31の数値で割り振られており。
0に近いほど能力が低く、31に近いほど能力が高いとされる。
要はポケモンの才能とでも呼べるものである。
Vとはこの個体値が31、つまり最大値の能力に対して付けられる呼び方であり、ポケモンの才能はこのVの数で決まっていると言っても過言ではない。
ゲームでもそうだったが、この世界の住人のほとんどはこの個体値を大よそ程度には理解しても具体的な厳選を行うことはしていない。逆にプレイヤーはそれをガンガン行うことでより強大な個体を得ていく。方法はいくつかあるのだが、一番ポピュラーなのはまあ遺伝だろう。つまり、強いポケモン同士で卵を産ませ、才能を引き継がせていく方法。だが必ずしも遺伝してくれるとは限らないし、自身のやっていたゲームでも最終的には運に頼るしか無いのが現状であり、引き継げなかった子供はひたすらボックスを埋め尽くし、最終的には
現実でやれば外道間違いなし、ロケット団なんて目じゃないレベルの悪党である。
まあそれはさておき、何が言いたいかと言えば。
6Vとはつまり、六つのステータス全ての才能が振り切れている、その種族最高の能力を持ったポケモンのことを指す。
ヒトガタとは恐らく、全てこれなのだと推測する。
先ほど言ったヒトガタが野生に滅多にいない理由はほぼほぼこれだ。
ヒトガタのポケモンは強い。とにかく強い。他の野生のポケモンとは比べものにならないほどに。
どのヒトガタであろうと、例外無く、野生のポケモンにも関わらずトレーナーが育成したポケモンと同じかそれ以上の強さを誇る。
6Vなんて例外過ぎる例外、普通に野生で出会えるはずがない。少なくともゲーム時代では野生のポケモンを乱数調整無しで6Vでゲットしようなど、天文学的確率に等しい。
確率は簡単だ32分の1を6度試行し、全て同じ32になる確率を考えれば良い。
だがだからと言って、5V4V3Vが簡単に出るかと言われてもまたそうでもない。
どころか、野生のポケモンの大半が1Vの才すら持っていないことが大半なのだ。
トレーナーのポケモンと言うのも大本を辿れば野生のポケモンからきている。
事前に個体値を測ることができない以上、トレーナーの持つポケモンの大半が0V、つまり個体能力値が最高値のものが一つも無いポケモンばかり。
だったのは今も昔の話。
サーチ機能、と言うのがポケナビに付いた昨今では、高い個体値を持つポケモンを捕獲せずとも発見することに成功している。科学の進歩である。
遭遇時点でサーチが対象を検証し、その能力値を星三つで評価する。
ゲームで言うならば、オメガルビー、アルファサファイアで実装された機能である。
つまり、サーチ実装以前と比べて才能を秘めたポケモンを見つけやすくなり、トレーナーの扱うポケモンの質も遥かに向上し。
それでもなお、ヒトガタには敵わなかった。
少なくとも、同じレベルであっても、サーチで星3つの最高評価を得たポケモンでさえヒトガタに鎧袖一触で倒されてしまう。
そしてヒトガタはかなり希少ではあるが、決して存在しないわけでも無く。
そして何よりも、本当に極々稀ではあるがトレーナーが孵すポケモンの卵からも生まれることがある。
すくなくとも5V,希少性から考えると6Vくらいなんじゃね?
と言うのが自身の意見。
そしてヒトガタ全てがそういう共通項を持つと言うことは。
高個体値のポケモンのみがヒトガタになる。
と言う結論に達せざるを得ない。
つまり。
萌えモンはエリートの証だったのだ!!!!!
と、言う冗談はさておき。
以上がジョウト地方からホウエンに引っ越ししている自身がトラックの中で読んでいる本についての内容を自分なりに推測してまとめた結果である。
ドドドドドド、とエンジンの音が止まる。
どうやらついたらしい。
「着いたわよ、ハルト」
トラックの外から母親の声、荷台のカバーの隙間から顔を覗かせれば。
森の中に切り開いたような平野に家が点在している。
ミシロタウン、元プレイヤーからすれば別の言いかたもできる。
始まりの街。
ルビーサファイア、もしくは、オメガルビ―アルファサファイアにおける主人公の初期位置。
っと、主人公でもう一つわかったことがある。
自身の父親だ。
どっかで見た事あるな、と思っていたのだが。
センリ、と言うらしい。
ああ、うん道理で聞き覚えあると思ったら。
ジョウトからこちらホウエンにまで引っ越してきて、ジムリーダーをやるらしい。
つまるところ。
自分…………どうやら立ち位置的に主人公らしい。
* * *
自宅、と言うか初めての自室。
ゲームだと一階の台所、と二階のプレイヤーの自室しか無かったが当然ながらリアルのこの世界だと父親の部屋と母親の部屋、トイレや風呂場などちゃんとある。
お父様、お母様が同じ部屋じゃないのは、ジムリーダー業が安定するまでは忙しく、度々家を空けるだろうから、と言うのと、まだこちらに引っ越してきたばかりで自身の弟か妹を作らないための配慮らしい…………すみません、そんな生々しい話しないでください。多分、五歳児には分からないと思ったのかもしれないが、中身二十歳超えてるんで。
ついでにお隣さんに挨拶してきたら? と言われたので、家を出る。
そう言えば、ゲーム初期のイベントでそんなのあったよなあ、と思いながら歩いていると。
どん、と誰かにぶつかった。
「え…………あ、ごめんなさい」
少し考え過ぎていたらしい、前から人が来ていることに気づきもしなかった。
ぶつかったのは十歳前後くらいの少女だった。
全体的な印象としては、赤と青と言った感じだろうか。
赤いラインの入った青い帽子と、子供の背丈に合わせた青いコート、コートの裾は何故か怪獣か何かの足を彷彿とさせるデザインとなっていた。
髪の青さと瞳の赤さが対照的で、とても印象的だなと感じる。
原作キャラではない、と思う。少なくとも、こんなキャラがいたら忘れるはずも無いだろうから。
けれど、少女が自身を見たまま動かない。
赤く綺麗な瞳を大きくし、目を限界まで見開いて。
「……………………」
何かを呟いた。
わなわなと震えている、明らかに普通じゃない。
「あの…………大丈夫、ですか?」
もう一度声をかけると、少女がはっとなり…………やがて、きっ、とこちらを睨む。
「えっと…………え?」
なんで睨まれてるの? と言う疑問に答えは無く、やがて少女がふん、と鼻を鳴らして去っていく。
「…………えー…………なんだったの?」
イベント、じゃないよなあ、と首を傾げつつ、お隣さん家を目指して歩いていく。
それが自身と彼女の
可愛い! 可愛い! シャンデラちゃんの擬人化イラストがくそ可愛い! 可愛すぎる! 紋々とする、悶えるうううううううううううううううううう。
ならば書くしかねえだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!