トウカの森はトウカシティにほど近く、そしてカナズミシティへと行くために通る必要があるため、それなりに人の行き来は多かったりする。
ただ、単純にカナズミシティへ行くだけならば奥のほうにいく必要も無いので、本当の意味でトウカの森を探索するトレーナー、と言うのはあまりいない。
ゲーム的な話をするならば、この森は割と初期の頃に来ることになるのだが、キノココがいると言う意味で重要だ。
キノガッサとか言う悪魔を生み出す森、それがプレイヤーから見たトウカの森。
因みにこのガッサさん…………リアルなこの世界だと野生で存在する。
恐ろしいことに森の奥、ゲームだと行けない最深奥のほうに行くと、レベル五十六十のキノガッサがいるらしい。森の主、と言ったところか。
キノコほうし、とかいうくそチート技を積んだガッサを相手にするなど冗談でも嫌だ。
恐らくすばやさと相性の問題で、エアならば勝てるが、それでも被害が大きすぎる。
ゲームだと草むらを歩いているだけで襲ってくるポケモンだが、物音を立てないようにゆっくりと歩くと、実はそれほど遭遇率は高くない。
と言うわけで、抜き足差し足しながらゆっくりと歩いていく。
「…………居ないね」
「見当たらないわね」
自身の呟いた独り言染みた台詞に、エアが同調する。
シアも周囲を見ているが、何かを見つけた様子も無い。
「ここ、じゃないのかな?」
さすがにマボロシのやかた、と今回の騒動を関連付けるのは無理があっただろうか、とも思う。
今のところ方向以外に共通点は無い、だから森に入って何か証拠でもあれば確信も出来たのだが。
「…………森を抜けてカナズミに行った、と言う可能性が無いわけじゃないか」
寧ろそちらのほうが高いだろうと思う。
残りの子たちと、マボロシのやかた、そして今回の騒動、全部関連付けるのはさすがに虫が良すぎだろう。
「…………戻ろうか」
「いいの?」
「良いのですか?」
二人の言葉に頷く。
「さすがにこれ以上は確証も無しに深入りすべきじゃない…………素直にカナズミシティ方面に抜けて、それでも見つからなかったら父さんたちと合流しよう」
自分でも納得はできない、だがそれがベターな選択肢ではある。二人も何か言いたげではあったが、やがて頷いて納得し。
ふっ、と。
視界の中に何かが映った。
ふわり、ふわりと木々が朝日を遮り、一日中薄暗い森の中を何かが漂っている。
赤くて、青くて、時折白くなる何かが森の奥へと入って行く。
「……………………エア、シア」
「何」
「はい」
告げた言葉の音色で、二人が何かを感じ取り、即座に反応する。
「やっぱり予定変更だ…………奥に進む」
やっぱりこの森、何かある。そんな予感がする。
恐らくハルカはこの先にいる。
そんな確かな予感が芽生えていた。
* * *
ふわりふわりと浮かぶ光のようなものを追って、森を進むとソレがあった。
「…………マボロシのやかた、なるほどね」
確かにこれは館、そう呼ぶに相応しい。森の中、切り開かれた土地に巨大な建物があった。
周囲は鉄柵で囲まれており、唯一の入り口と思わしき門が開かれている。
「…………誘われてる?」
無警戒に、門の周辺には誰も居ない、何も居ない。
だがそれが逆に罠のように見えてならない。
「…………行こう」
数秒考え、やがて進むことにする。
何なのだろうこれは、こんなものゲームには無かった。そう思うと、急に不安を感じる。
この先には、自身の頭の中にある知識は通用しない。そうなれば自身は少し頭の回る程度の、本当にただの子供でしかない。
大丈夫だろうか、そんなことを思った矢先。
ぎゅ、と左右の手を握られる。
視線を向ける、エアとシアがそれぞれ片方ずつ手を取っていた。
何も言わない、けれど言わないからこそ、雄弁だった。
私たちがいる、そう告げていることがはっきりと分かった。
「…………うん、大丈夫」
それじゃ行こうか、呟くと同時、足を踏み出した。
門を潜り、敷地内に一歩を足を踏み入れる。
何も起きない…………罠かと思ったが、違ったか?
そう思った瞬間。
きい…………ばたん、と突然門が閉じる。
「…………逃がさない、ってことかな」
押しても引いてもびくともしない。ゲームだったら完全に進むしかない状況だ。現実である今ならばエアに飛んでもらえば超えられそうだが…………。
「止めておこうか」
「良いの?」
「うん、多分だけど、そう言うところにも対策があるような気がする…………」
少なくとも、そう簡単に帰してもらえそうには無さそうだ。
「それに…………全員ぶっ飛ばしてやれば全部解決だしね」
そんな自身の言葉に、珍しくエアがくすり、と笑みを零す。
「同感ね…………やる気十分みたいで安心したわ」
「心配してくれてたの?」
「な、なな、そんなはずないでしょ! ていうかいつまで握ってるのよ」
ぎゅっと、握ったままの手を握り返しながらそう尋ねると、エアが顔を赤らめて狼狽える。
「不安なんだけどなあ…………握ってちゃダメ?」
「う…………うう………………」
「だ、あ、め?」
「う…………もう、好きにしなさいよ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くエアに癒される。
「もう、マスター…………エアをあまり苛めてあげないでくださいね」
そしてそんな自身をシアが嗜めて…………。
先ほどまでの不安は一掃されていた。
くすり、と笑って二人の手を強く握る。
「行くよ、二人とも」
「ふん」
「はい」
開かれた扉へと突入する。
中は薄暗く良く見えないが…………。
ばたん、と背後の玄関の扉が閉まる。
まあ分かっていたことだけに、別に驚きは無い。
そして真っ暗闇となった館の内側から次々と刺さる視線、視線、視線、視線、視線。
ゴーストタイプのポケモンたちの巣窟か何かだったらしい、自身が見たのはここに帰ってきたゴーストポケモンのおにびか何かだろうと予想する。
そして直後。
ぼっ、ぼっ、ぼっ、と突如、次々と館の中に飾られた
明かりに照らされ、現れたのは広い広い玄関ホール、そして。
「…………ほら、おいでになった」
いきなりボス戦か、なんて内心でバカなことを考えながら。
「おやおや…………ようこそ、諸君」
低い、バリトンボイスが空間に反響した。
こつん、こつん、こつん。
硬い石の廊下を叩きながら歩いてきたのは、一人の男。
白いシャツに黒のスラックスの上からまっ黒な外套を羽織り、シルクハットを被った
トレーナーか? その理性的な声の響きからそんな風に思う。
「おや、随分と年若いトレーナーだ…………それにしては良く懐いたヒトガタを連れている」
告げられた言葉の意味を即座に理解し、思わず目を細める。
この男…………
ヒトガタポケモンの外見は本当に人によく似ている。萌えモンは翼や尻尾、など一部元となったポケモンの特徴が残っているものも多かったが、ヒトガタポケモンは本当にそう言ったものも無く、完全なヒトガタだ。
故に初見で二人を見て、それが人間ではなくヒトガタであると察するのは、困難を極める…………はずなのだ。
ただの人間ではない、それは分かる、だったら何なのか、と言うのは分からない。
「ふむ…………まあ折角の客人なのだが、今日のところはお帰り願おうか、別にお客人を招いていてね」
そう呟きながら視線を逸らし…………その視線の先を追えばそこには。
「ハルカちゃん!」
生気の無い瞳でじっと立ち尽くす、探していた友人の少女がそこにいた。
名前を呼んだことで男がおや、とこちらを見る。
「知り合いかね…………なるほどキミはこの子を探しに来たのか。良くぞこの場所にたどり着いた、と言いたいところだが、残念ながらそれは困るのだよ」
呟きつつ、男が懐から何かを取りだし、こちらに向けてくる。
「…………コイン?」
と、紐。何か見覚えがある。と、言うかまさかこれ。
「エア、シア、見るな!」
咄嗟に目を瞑り、それを直視しないようにする。
男がほう、と驚いた様子で声を漏らした。
「キミはこれを知っているのだね…………とは言え、知識は十分ではないようだ」
男の声と共に、ヒュンヒュンヒュン、ビィィィィィ、と
「あ…………う…………嘘…………だろ」
直後、全身から力が抜けていく。体中が気だるさに包まれているようだった。
「エア…………シア…………耳…………塞げ…………」
どさり、と館の石畳の床に崩れ落ちる。
「目を逸らし、耳を塞ぎ…………それで戦えるのかな?」
嘲笑している、と言うよりはこちらの反応を期待しているかのようなその笑みに。
「し…………ね…………ばあか!」
ごろり、と転がってエアの裾を掴む。エアの視線がこちらへと向けられ。
「るあああああああああああああああああ!!!」
エアが咆哮し、館全体をじしんが襲う。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と館全体が鳴動するような勢いで揺らされ、さしもの男も立っていられず、どすん、と尻もちを突く。
音が止むと同時に、体の気怠さが徐々にだが抜けていく。完全にではないものの、立って起きれる程度には回復する。
「分かった、分かったぞ…………お前…………
さいみんポケモンスリーパー。こいつが今回の事件の犯人だと、ほぼほぼ確信する。
「やれやれ…………バレてしまっては仕方ない」
幼女に襲い掛かったり、子供を浚ったり、可愛いポケモンを連れ去ろうとしたり、公式でネタにされているロリコンこと、ロリーパー…………じゃなかった、スリーパー。
「エア…………お前ならすばやさで抜ける、最速で抜けて一撃でぶち殺せ」
その言葉に、エアが前に出て…………。
「おっと…………降参だよ」
スリーパーが持っていた振り子を床に起き、両手を挙げた。
「…………どういうこと?」
「言葉の通りだ…………彼女も返そう、今はまだ催眠術で眠っている意識も、次第に目を覚ます」
じろり、と視線をスリーパーに向けたまま動かさない。
そんな自身の様子に、スリーパーが用心深いね、と苦笑した。
「分かった本当のことを言おう。キミたちに助けて欲しいんだ」
「…………
「ああ…………この館のゴーストポケモンたちは、みんな
「…………どういうこと? それに彼女って、誰?」
「ああ…………彼女は」
瞬間。
男の背後の廊下、蝋燭の照らす玄関ホールとは真逆に、一切の光の届かない闇の内側より。
「が、がああああああ!!!」
スリーパーが絶叫し、そのまま正面の階段から転げ落ちてくる。
闇の内側より…………
少女が現れた瞬間、玄関ホールにいた全てのゴーストポケモンたちが我先にと逃げ出す。
そうして一匹、逃げ遅れたゴースが、少女の視線に止まり。
「シャァァァァァァァァァァァァ!!!」
こつ、こつ、とストライプ模様のソックスの上から履いたブーツが床を叩く。
黒を基調としたランタンスリーブのテールカットの上着と紫を基調としたアンガジャントシャツ。淡い紫のチュールスカート。胸元に付けられたリボンを揺らしながら。
紫がかった髪の色、頭の上にぴょこんと跳ねたサイドポニーが印象的だった。
そして何より。
少女の後頭部で結ばれた
「キシャシャシャシャ」
少女が嗤う。
命の燃え尽きていく様を、嘲笑う。
「…………まじかよ」
思わず呟くその言葉は、誰に対してなのだろうか。
目の前の少女に対してか、こんな状況になった運命に対してか、それとも根本的にこの世界に対してか。
「……………………シャル」
シャル、それが自身が彼女に対して付けたニックネームだ。
もし彼女が自身の知る彼女だとすれば、だが。
まあ間違い無いだろう。
シアの時に何となく気づいたが。
野生のヒトガタだろうと、人の言葉を話す。それはスリーパーが証明している。
故に、目の前で残忍に嗤う少女は…………かなりの確率で自身の手持ちの一体。
シャンデラちゃん可愛い!
自分が擬人化ポケモン書きだした最大の要因です。
そして何気に初めての♂の擬人化。
仕方なかったんや…………公式でロリーパーなんてものが存在するから(
そして探した擬人化絵で渋いダンディスリーパーがいたので思わずやっちゃった。
あと、シャンデラちゃんが仲間になったら半分はそろうし、一人一回ずつコミュ回みたいなのやりたい。