ポケットモンスタードールズ   作:水代

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雨音の森

「逃がすな!」

 土砂降りの森の中を男たちが走る。

 その行く先には、男たちから逃げ出すように走る一匹のポケモンの姿があった。

 とん、とん、とぬかるんだ森の道を、まるで危なげなく軽やかに走り、男たちを徐々に引き離そうとし。

 

「サメハダー!」

「キシャアアアアアアアアアアア!!」

 

 ポケモンの前方を塞ぐように、いつの間にか数人の男と男たちのポケモンたちが立ちはだかる。

 一瞬、ほんの一瞬だけポケモンが逡巡し。

 

「キャオオオオオオオオオオ!!!」

 

 吼える。足を止め、その全身から()を捻りだす。

 

 “ハイドロポンプ”

 

 捩じられ、まるでライフル弾のように貫通力を付けられた水の竜巻が前方に立ちはだかる男たちとそのポケモンたちを一瞬で吹き飛ばし、ねじ伏せる。

「おら、いい加減に観念しやがれ!」

「グラエナァァァ!」

「グルアアアアアアアアアアアア!!!」

 その隙に後方から追いつてきた男たちとポケモンが次々の攻撃を繰り出し。

 

 “あめのけっかい”

 

 放たれた攻撃の数々をまるで雨水が意思を持ったかのように集中的に撃ち落とし、その威力を削ぐ。

 未だ逃げるポケモンへと届く攻撃はほとんど無く、すぐさまポケモンは逃げ出す。

 

「くそっ! また逃げられた!」

「この雨をどうにかしないと、捕まらねえぞ!」

「確かゴルダック持ってるやつがいたはずだろ、連れてこい!」

「早くしろ! 逃げられでもしたら、リーダーに殺されるぞ」

 

 男たちが悪態を吐きながらその後ろ姿を追う。

 

 雨の森の逃走劇は未だに終わりを見せなかった。

 

 

 * * *

 

 

 走る。走る。走る。

 

 雨が滴り落ちる森の中を、ひたすらに走る。

 ぱっと見て回ったところに、特に異常は見受けられない。

 となれば、これよりさらに奥に入らねばならない、と言うことではあるが。

 

「…………うーん」

 

 前も言ったが、ナビが使えない。と言うこの状況で森の奥に不用意に進むのは、危険が伴う。

 無事雨の原因を突き止め解決し、雨が止んだならばそれでも帰れるのだが。

「見つからない場合、そのまま遭難…………かなあ」

 気軽に選択するには、リスクが大きすぎるのが困りものだ。

「…………さて、どうすべきかな」

 とは言う物の、ここまで見て回った限りで森に異常は見受けられないのも事実。

 このまま外周をなぞるように走り回っていても時間の無駄、と言う可能性も大きい。

「…………ソラノが居てくれたらなあ」

 呟くその名は、前世で使っていたポケモンの一匹。

 チルタリスのソラノだ。

 

 メインメンバーはエア、シア、シャル、チーク、イナズマ、リップルだったが、別にそれ以外のポケモンがいなかったわけでも無い。

 前にも言ったが、最終メンバーはともかく、それ以外のポケモンも大体は作るだけは作っているのだ。

 その中で、過去流行っていた天候パ対策として使っていた“ノーてんき”チルタリス。

 いたら恐らくもっと大胆に行動できただろうし、探索もぐっと楽になっていただろうと思う。

 だがいないものはいないのだから、仕方ない。

 この世界に自身と共にやってきたのは結局のところ、当時使っていた彼女たち六人だけだったのだから、仕方がない。

 

「…………腹くくるしかないかあ」

 ここでグチグチ言っていても何も解決しないのは事実。

 行くしかない、と意気込んだ、瞬間。

 

 PiPiPiPiPi

 

 電子音が鳴る。

 音の発信源を見やれば、マルチナビが着信を受け取っていた。

 開けばメッセージが一つ、内容は。

 

「……………………何?」

 

 ――――カナズミシティ周辺でアクア団の動きアリ。

 

「…………カナズミで、アクア団が動いた…………?」

 どういうことか、このタイミングで? 偶然? それとも必然か?

「雨…………アクア団…………カイオーガ…………嫌な符合だなあ」

 そもアクア団の目的とは、カイオーガを使って雨を降らせ、海を増やすこと。

 雨とアクア団と言う符合がどうにも嫌な予想をさせる。

「急ぐか」

 ざあざあと降り注ぐ雨空を見て舌打ちを一つ。

 

 そうして森の奥へ向けて走り出した。

 

 

 * * *

 

 

 ポケモンは走る。

 走り、走り、走る。

 後方で追いつこうとする男たちがぬかるんだ道に足を取られているのに比べ、そのポケモンの足取りはひたすらに軽い。

 

 だがどれだけ走ろうと完全に逃げ切ることができない。

 それは一重に森全体を包囲するほどの人間たちの数もそうだが、それだけならばポケモンにとって問題になるはずも無かった。

 北風と共に去っていくと言われるほどの伝承を持つポケモンにとって、人間から逃げることなど酷く容易いことのはずだったから。

 

 だからこそ、問題はそこには無い。

 

 最大の問題は、自身を引き付ける不可思議な力である。

 引きつけ、この地に縛り付けるおかしな力によって、自身はこの森から出ることができない。

 それが未だに人間たちを撒けず、挙句こうして雨の結界によって時間を稼いでいる原因に他ならない。

 

 そもそもの話、ポケモンはこの森がどこなのかが分からない。

 ポケモンが知る森と言えば、一つしか無いはずだが、けれどこの森の空気はポケモンが知る森とは別物であると告げている。

 だからここは、全くの異邦の地だった。

 どうして自身がここにいるのか、ポケモンは分からない。

 文字通り、気づけばここにいたから。

 

 すでに三日、不眠不休で逃げ続けているが、いい加減限界が近いことも理解している。

 さして争いを好まない性質だけに、ポケモンは今日まで逃げ続けていたが、けれどいい加減それも限界だと言うことも気づいている。

 初日は森から出られない事実に気づけず。二日目はしばらく相手してやれば人間たちも諦めるだろうと楽観し。

 そして三日目、この結果である。

 ならばもう遠慮することも無いだろう。

 争いは好まないが、野生のポケモンだ、いざとなれば牙を剥くのも自明の理。

 

 ぴたり、とポケモンが足を止める。

 

 そうしてしばらく待つと、後方から男たちが追いついてきて。

 

「ようやく…………観念…………しやがったか!」

「ふう…………ふう…………追いついた、ぞ!」

「はあ…………グラエナ! はあ…………行くぞ!」

 

 息も絶え絶えに、けれど男たちがさらに追加でモンスターボールを取り出し。

 

「キャオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 “おいかぜ”

 

 ごう、と風が吹き荒び、一瞬雨が吹き散らされる。

 けれど直後降り注いだ雨が風に交じって暴風雨となり替わり。

 

「キャオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 水の支配者が天に向けて、吼えた。

 

 

 * * *

 

 

「…………今、声がしたな」

 

 人の、では無く、何らかのポケモンの声。

 と言うか、どこかで聞いたことがあるような。

「…………何のポケモンだっけ?」

 さすがに声ですぐ分かるのはピカチュウとタツベイとボーマンダだけだ。

 だが少なくとも、今生で聞いた覚えは無いので、恐らく実機時代だろうと予想する。

 対戦で戦ったポケモンか? この森にいる、と言うことはキノガッサか何かだろうか。

 否、そんな感じじゃない。もっと、何かこう、抽象的だが…………凄みのある声だった。

 声に威圧感があると言うべきか。

 

 恐らくこの雨と無関係と言うことは無いだろう、と予測する。

 

「なら行くしかないな」

 声のしたほうへと走り出し。

 

 直後。

 

 ズドン、ズドン、ズドドドドドォォォン

 

 森を揺るがす爆音が響き渡る。

「っ何が起きてる!?」

 分からない、が少なくとも何かが起きている。

 走る。森の木々を避けながら、ぬかるむ道に足を取られないように注意を払いつつ。

 

 木々の隙間を抜け、そうして見る、見る、見る。

 

 ――――そこに青の獣がいた。

 

 

 * * *

 

 

 紫のたてがみと青と白の模様の体の獣のようなポケモン。

 

 知っている。自身はそれを知っている。

 

「…………なん…………で…………?」

 

 知っているからこそ、分からない。

 何故それがここにいるのか。

 それは本来ジョウトにいるはずのポケモンだ。間違ってもホウエンにいるはずの無いポケモン。

 

「……………………スイクン」

 

 呟いた声に、青の獣…………スイクンがぴくりと反応した。

 よく見れば、周囲にはアクア団らしき服装の男たちが大量に倒れ伏している。

 どうやらスイクンを捕獲しようとして失敗したらしい。

 

「…………キャオォォ」

 

 スイクンが唸る。

 こちらを見て、威嚇する姿に、敵視されているその事実に気づき。

「待て、待て、待て?! 言葉、通じるのか知らないけど、待て、俺は敵じゃない」

 両手を上げて、後ずさる自身に、スイクンは視線を外さない。

「…………スイクン、だよな…………? なんでホウエンにいるんだ」

 呟く声に、スイクンが目を細め。

 

 

「フゥーアッハッハッハッハァァ!!」

 

 

 雨音を切り裂き響く笑い声と共に、森の木がずどん、と音を立てながら吹き飛んだ。

「っ…………何だ」

 咄嗟にボールを構え、数歩後退する。

 そして雨の森の向こうから出てきた一人の男が見て、驚愕する。

 

「ナンダナンダァ? テメェらぁ、まーだ遊んでヤガルのかヨォ?」

 

 どすん、どすん、と地響きのような足音を立てながら現れたのは、上半身が半裸の筋肉マッチョだった。

 男がスイクンを見、そしてこちらを見る。

「ナンダァ? 何でガキがいやがル?」

 うん? と首を傾げるが、けれどすぐにガハハと笑い出し。

「マーイイカ。どーせ全員ツブしちまぜば同じことヨ」

 にぃ、と男が笑い、その巨大な手に不釣り合いなほどに小さなボールを取り出し。

「ブッツぶせぇ! シザリガァ! ゴルダック!」

「逃げろ、スイクン」

 即座に状況を理解する。こいつらが何をしに来たのか。そうして自身が何をすべきか。

 そうしてスイクンへ目配せしてやれば、何かを察したのか、そのままスイクンが足早に立ち去って行く。

 

 故に。

 

「ちっと出番が早くなったが…………まあいいや」

 

 ボールを手に取り。

 

「暴れろ、ルージュ」

 

 投げた。

 

 

 * * *

 

 

 原作において、マグマ団、アクア団はそれぞれ一人のリーダーと二人の幹部を中心として構成されていた。

 とは言う物の、三世代ルビーサファイアではぱっとしなかった幹部たちだったのだが、六世代オメガルビ-アルファサファイアでは誰だよこれ、と言うレベルでの別人への変貌を遂げ実際自身もやっていてかなり驚いた記憶がある。

 

 で。

 

 問題は。

 

 目の前の半裸のマッチョ。

 

 自身の記憶違いでなければ。

 

「…………アクア団のウシオか」

「アァン? オレっちのことを知っているノカ?」

 

 その言葉に、ふっと笑う。

 

「お前こそ…………俺を知らないのかよ」

 

 にぃ、と笑い。

 

 どん、とルージュが一歩、足を踏み出す。

 それに反応するようにシザリガーがその手に水の塊を生み出し。

「シザリガー、ブッツぶセェ!」

 

 “クラブハンマー”

 

 そのハサミの中に生まれた水塊ごと、ハサミを振り下ろす。

 同時、ルージュもまたその手の中に光の珠を生み出し。

 

 “ダイレクトアタック”

 

 “きあいだま”

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ドォォォォン、と水が弾け、光が弾け、互いが弾かれ後退する。

「くっ…………あははは」

 全身を弾けた水に、そして雨に濡らしながら、ルージュが嗤う。

「うわあ…………」

 こいつもアースと同じ(セントウキョウ)か、と思わず天へ嘆いても降り注ぐ雨に顔を打たれるだけだ。

 まあ今は良いだろう。

「ルージュ…………やれ」

「あいさ」

 

 “つながるきずな”

 

 両の手に黒い球をふわりと浮かび上がらせながら、ルージュが先ほどを超える速度で疾走する。

「ぬっ?! シザリガー、叩きツブせェ!」

「もう、遅いわよ!」

 

 “ダイレクトアタック”

 

 シザリガーを目掛け、大きく跳躍。

 中空で両の手をぱん、と合わせ、黒い球を混ぜ合わせ。

 

 “ナイトバースト”

 

 両手の中の漆黒をシザリガーに()()()()()()()

 

「…………うーん、さすが性格やんちゃ、だなあ」

 

 ルージュがまだゾロアの時の話。

 性格やんちゃ、と言うのは『こうげき』に上昇補正がかかる。

 とは言え、弟のノワールが完全に物理アタッカーにすくすくと育っていたので、さてどうしたものか、と考えた。

 面倒な話だが、実機と違って現実には好みや適性、と言うものが存在する。

 ノワールの性格はさみしがり。姉弟揃って物理アタッカー偏重なのだが、ルージュはどうも性格の割りに物理技より特殊技のほうが覚えが良かった。

 外見を見れば分かるだろう、ノワールはそのゾロアークの爪を太刀と言う形で顕現させた。

 逆にルージュは爪を持たなかった。導士服と着物を足したようなこの世界において奇抜なその外見だけ見ればこいつが近接戦闘なんて違和感しかない。

 だから最初は特殊メインで物理もできる両刀型、と言うので育てる予定だったのだが。

 

 性格やんちゃが遠くからちまちま攻撃するだけ、なんて性にあっていなかった。

 

 そうおかしな話でも無い、先ほど現実だから好みと適正があるとは言ったが、好みと適正が必ずしも合致することも無いのもまた現実だからだ。

 特殊技に関してはルージュは天才だった。威力が同じはずの物理技と特殊技を比べたら2、3割ほど威力が変わるぐらい特殊技に関しては天稟があった。

 だが性質がそれを許さなかった。本人曰く、直接ぶん殴らないとつまらない、のだ。

 

 だから、折衷案を出した。

 

 特殊技と言うのは基本遠くから放つものだが、別にそれに拘る必要も無い。

 だったら特殊技を展開して直接叩き込めばいいじゃないか。

 

 と言うわけでこの問題児が生まれた。

 

 

 “ナイトバースト”によって生み出される破壊力にシザリガーが吹き飛ばされ、一瞬で戦闘不能になる。

 そしてそれを狙ったかのように、隙を伺っていたゴルダックが動き出し。

 

 “じんつうりき”

 

  放たれた一撃は、けれどルージュには届かない。

「オォ? ナンデだ?!」

 驚いたように目を見開くウシオにけれど答える義理は無い。

「ルージュ」

「了解」

 

 “ダイレクトアタック”

 

 “ナイトバースト”

 

 抉り込むようにして、黒を纏ったルージュの拳がゴルダックに突き刺さり。

「グァ…………ガァァ…………」

 強烈な一撃に急所を突かれたゴルダックが一瞬で沈んだ。

「オイオイオイオイオイオイ…………マジかヨ」

 ウシオが目を見開き、驚く。そして視線を周囲に向ければ、雨に沈む団員たちと、すでに居なくなったスイクン。

「…………こりゃァ、引き際だナ」

 一歩、男が後退し。

「たのしかったゼェ…………またヤリあおう、全力でナ!」

 五、六人はいた団員たちを軽々と肩に担ぐと走り去っていく。

「追わなくていいの?」

「そっちは良いや…………先に片づけないといけないこともあるし」

 

 ふと周囲を見る。

 

 雨の降りしきる森。

 

 そして姿を見せないスイクン。

 

「この森をまた探さないといけないのか…………面倒くさ」

 

 ずぶぬれの濡れ鼠となった自身を見て一つ嘆息した。

 

 

 

 




名前:ルージュ(ゾロアーク) 性格:やんちゃ 特性:イリュージョン 持ち物:きあいのタスキ
わざ:????、わるだくみ、ナイトバースト、きあいだま


特技:????
分類:????
効果:????

裏特性:ダイレクトアタック
自身が特殊技を使用した時、自身の『とくこう』に『こうげき』の半分を足してダメージ計算する。ただし、攻撃技が全て直接攻撃になる。命中が100未満の攻撃技の命中が100になる。



ウシオさん口調わっからん、変じゃなかったですか?
オレ持ってるのオメガルビーなんで、今一登場シーン少ないんだよな、ウシオさん。






おまけ


スイクン Lv150 特性:プレッシャー
わざ:ハイドロポンプ、めいそう、オーロラビーム、おいかぜ、しんそく、エアスラッシュ、ぜったいれいど

裏特性:めぐるきたかぜ
場が『おいかぜ』状態の時、自身の『ひこう』技の威力を1.5倍にし、ターン終了時に任意で交代、逃げることができる。

アビリティ:みずのしはいしゃ
場に出た時、天候を『あめ』にする。

アビリティ:あめのけっかい
天候が『あめ』の時、受けるダメージを半減し、毎ターン終了時最大HPの1/8分HPが回復する。

アビリティ:じゅんすい
自身への『でんき』タイプの技を無効化する。

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