ざあざあとバケツをひっくり返したかのような雨が。
ぽたぽた、と少しずつ、少しずつだが、止んでいくのが分かる。
そうして、徐々に空から引いていく雨雲を見ていると。
ぴちょん、と。
水が跳ねる音が聞こえた。
そうして音の聞こえた方…………後ろを振り返り。
そこに佇むスイクンを見やる。スイクンもまた、自身を見る。その視線に多分に警戒が含まれていることに気づき。
「……………………戦う気も捕まえる気も無い…………っと、これで良い?」
腰からボールを外し、足元に置く。雨でぬかるんだ土の上に置かれたボールがかたりと揺れた気がするが、多分気のせいだろう。
「……………………………………キャォ」
少しだけ警戒が薄れる。少なくとも、いきなり襲いかかってくるようなことはしないらしい。
それに、実機のように会っていきなり逃げ出すことも無いようだ。
恐らくそれは、ここがホウエンだから…………否、
スイクン。
第二世代金銀に登場した伝説の…………と言うとややこしいが、とにかく伝説のポケモンだ。
実機的には、種族値600以下の、いわゆる準伝説級のポケモン。
三世代…………ホウエンで言うところの、ラティアス、ラティオスのような幻のポケモンと同じ分類として扱われていた。
特徴としては、
ホウオウと言うジョウト地方の伝説のポケモンによって蘇った存在。
故に、ラティアス、ラティオスたちとは違い、明確なまでに世界中探し回っても一匹しか存在しないポケモンである。
だからこそ、目の前の個体は、ジョウトにいたはずなのだと分かる。
分かるからこそ、疑問が沸く。
「…………何でホウエンにいるんだ?」
そんな自身の問いに、スイクンが僅かな戸惑いの気配を見せる。
その理由を数秒考え。
「…………もしかして、何で自分がここにいるのか、分からない?」
その言葉に、スイクンが無言で返す。けれど僅かに動揺したその瞳を見ていれば、それが肯定だと理解できる。
どうしてスイクンがホウエンにいるのか。
実を言うと心当たりが無くも無い。
いや、自身の知識と色々と差異はあるが、けれど一応だが実機でも
すでに先ほどのジョウトにいた、と言う言葉と矛盾するようだが、事実なのだから仕方ない。
「…………よし、スイクン、行こうか」
「…………………………ォォ」
どこに、と言ったその視線に一つ頷き。
「トウカの森のさらに奥」
そしてそのさらに先。
実機時代、空からしか行けなかったその場所の名を。
「――――未開の地へ」
* * *
ORASに実装された新システムの一つとして、おおぞらをとぶ、がある。
“そらをとぶ”のひでんわざを自機操作仕様にしたようなシステムで、簡単に言えばホウエン中をポケモンに乗って好き勝手に飛び回れると言うものだ。
そして幻の場所を含めた一部のマップは、このおおぞらをとぶ、でしか行けない仕様となっている。
まあ普通に考えて、海上にぽつんと佇む孤島や、空の上の亀裂、暗雲などどう考えて普通に行けるわけない場所は分からなくも無い。
だがその中でも一つ。
未開の地、と呼ばれる場所がある。
実機をやっていた時から思っていたが。
完全にトウカの森と陸続きだ。と言うかむしろ、トウカの森を東に抜けた先、と言っても良い。
普通に考えて、この場所ならば歩いてでも行けるだろ、と思うのだが実機にはトウカの森から未開の地へ行く道自体が実装されていないため、おおぞらをとぶ、でしか行くことができなかった。
だが、現実に考えて陸続きの場所に歩いていけないなど、そうそうあるはずも無い。
スイクンが雨を止ませたお蔭か、通信も復活し、ハルカとミツルには先にトウカの森を抜けるように言ったので、後でカナズミで合流できるだろう。
それから、さすがにこの森の中を延々とマップ片手に迷子は勘弁して欲しいので。
「お、来た来た」
「来たじゃないわよ、いきなり」
実家から
子供の足でここまで二、三日と言ったとこだが、さすがエアである。呼び出して一時間と少々でここまで飛んできた。
ふわり、と上空から降り立ち、こちらへと呆れたような視線を向ける目の前の少女に苦笑する。
突然現れたエアに、スイクンが僅かに警戒を強め。
「ああ、大丈夫、こいつは俺のポケモンだから」
ぽんぽん、とその頭を叩くと、ずれた帽子を直そうとエアが両手で帽子を被り直す。
そんな自身たちの様子に、スイクンがまた一つ警戒を解く。
「…………何こいつ」
そしてそんなスイクンに今更気づいたらしいエアが、目を丸くして呟く。
「スイクン、だよ」
「……………………覚えがあるような、無いような」
「ジョウト地方の伝説の一体だよ」
「……………………何でそんなのがホウエンにいるのよ」
それは正直、自分が知りたい。
まあそれはさておいて。
「エア、飛んで」
「…………はあ、いきなり来いって言うから何かと思ったら、そういう事」
なんだかエアがジト目で見てきているような気がするが、多分気のせいだろう。
「よしじゃあ…………スイクン、ついてきて」
自身の言葉に、スイクンがじっとこちらを見て。
こくり、と頷いた。
まだ多少警戒はあるようだが、少なくとも当てが無いうちは着いてきてくれる、と言ったところだろうか。
「じゃ、行くわよ」
「よろしく」
短い言葉のかけあいと同時、ふわり、と体が浮遊感に包まれる。
昔のようにエアに抱えられて浮かび上がっていたらさすがに怖かったかもしれないが、逆に今はエアにおぶさるようにしてもたれかかっているので、大分心に余裕がある。
まあ
「で、どこ行くの?」
「トウカの森から東に向かって進んで…………あんまり高く飛び過ぎないでね、スイクンが見失うといけないし」
伝説のポケモン、と言うカテゴリーではあるが、実際の能力的には準伝説、つまりまだ比較的常識的な部類に入る。
エアが全力で飛行したら或いは見失ってしまう可能性もあるかもしれない。
大よそ自身の体感だが。
実機時代での強さ的に、準伝説は種族値合計が+100~200されていると思った方が良い。
レベル上限の高さに加え、種族としての格のようなものがその他ポケモンとは一線を隔す。
精神論か、もしくは単純な能力値かで上回ることが出来なければ絶対に勝てない、そう言うある種の理不尽さを含んでいるのが準伝説種だ。
そしてそれをとことん突き詰めた存在が伝説種である。
まあそれは余談だが。
エア…………と言うか、ボーマンダと言う種族と比べれば実のところ合計種族値ならばスイクンよりボーマンダのほうが高い。
けれど、恐らく同じレベルのボーマンダを育成しても、スイクンには劣るのだろう。単純な相性だけではない、それこそが種族としての格の差、と言ったところか。
メガシンカ、恐らくそれをすることによって、その差が大きく埋まる。
自身のとっておき。オメガシンカ、あれで恐らくその差が
と、言われたら準伝説種は確かに手の届く存在だ、と思うかもしれないが。
反動が大きすぎて、1手分使っただけでエアがボロボロになるほどの代償をもらう行為までして、ようやく一手分だけこちらが優勢を取れる。
と考えれば、やっぱり準伝説種だって十二分に化け物である。
特に、スイクン、エンテイ、ライコウなどはジョウトの伝説から直接力を分けられた存在なのだ。
同じ準伝説枠のラティアス、ラティオスとは比べものにならない。
「…………まあそれでもデオキシスのほうが強いんだろうなあ」
少し遠い目をしながら呟き。
「…………何か言った?」
自身の独り言にエアがこちらを向いて。
「何でもないよ」
呟く頃には目的地はすぐ目の前に迫っていた。
* * *
丸い輪っかだった。
一言で言えば。
「……………………うわあ」
思わずげんなりとした表情をしてしまったが、無理は無いと思う。
実のところ、ポケモンと言う世界は二種類存在すると言われている。
正確には初代から数えて七世代目まで。
リメイク作品を除けばそれぞれ別地方を描いているので分かりにくいが、実はだいたいが前作以前と繋がっている。特に同じ陸続きの地方であるカントーとジョウトを中心とした初代と第二世代金銀は分かりやすいだろう。トキワシティジムリーダーの存在や、ロケット団の存在、そしてシロガネやま最奥のトレーナーの存在など完全に前作との関連性を絡めたストーリーとなっている。
一方三世代、ルビーサファイアに入ると途端に前作までの話題と言うのはほとんど無くなっている。
探せば無くは無いが、実際にはほとんど新しいストーリーだ。
四世代、五世代もまた同じである。
だがそれでも、五世代までは
公式がそう明言したわけではないのだが。
一般的な区切り方として。
六世代ORASでその存在を匂わすキャラクターが存在し、その仮説が信憑性を帯びる。
つまり、初代、金銀の主人公たちがロケット団と戦ったのも、ルビーサファイアエメラルドの主人公たちがマグマ団、アクア団と戦ったのも、ダイアモンドパールプラチナの主人公たちがギンガ団と戦ったのも、ブラックホワイト、ブラック2ホワイト2の主人公たちがプラズマ団と戦ったのも全部全部全部。
と言っても、この世界で同じ事件が起きているかどうか、と言うのもあるが。
一応過去の記事を調べたことがあるがそれらしい記事は一切無かった。
自身も一応ポケモンの時系列と言うのを見た事があるが、さすがにそんな十二年も前のこと思い出せるはずも無く。
で、ここまで長々と語って何が言いたいのかと言えば。
今現在、この世界での現時点では。
まだゲームの主人公たちの誰もが
初代、金銀はともかく、三世代以降はストーリー上に伝説のポケモンががっつりと絡んできてそれを倒すか捕獲するかが必須となっていた。
つまり、原作同様のストーリーがあるなら必ず伝説のポケモンが一度は登場しているはずであり、そんな話は聞いたことが無い以上、原作ストーリーは現時点で展開されておらず、伝説のポケモンたちも一匹たりとも捕獲されていない、と言うこと。
そして。
実機ORASでは伝説戦後、ホウエンの各地で
公式がXYとORASの四作で、
いや、カロスなどまだカントーの三鳥が飛びまわってミュウツーが洞窟に引きこもっているだけだからいいのだが。
ORASに登場する伝説、準伝説はホウオウ、ルギア、スイクン、エンテイ、ライコウ、グラードン、カイオーガ、レックウザ、レジロック、レジアイス、レジスチル、デオキシス、ディアルガ、パルキア、ギラティナ、ユクシー、エムリット、アグノム、ヒードラン、レジギガス、クレセリア、コバルオン、テラキオン、ビリジオン、トルネロス、ボルトロス、ランドロス、ゼクロム、レシラム、キュレムの以上三十体だ。
これにまだ幻枠でラティアスやラティオスが追加される。
元からホウエン、と言うか三世代にいた伝説、準伝説を抜けば二十三体、それだけの数の伝説、準伝説が他所の地方からホウエンに集中することになる。
多すぎである。
実機にいたからって、別にこの世界でもそうなるわけではない、かもしれないが、なるかもしれない、と言う可能性を考えると、頭が痛くなる。
と言うか、それぞれに遭遇条件みたいなものが存在しており、だから普通は出会わないはずだったのだが。
…………こんなところにスイクンがいるせいで、その仮説も揺らいでしまっている。
いや、まさか、と言いたい。本当に嘘だと言って欲しい。
目の前に存在する空中に浮かぶ丸い輪を見て、思わず嘆く。
輪の中は黒い渦が巻いており、一寸先すら見えないほどの闇だ。
そもそもが他地方にいるはずのスイクン含め、伝説たちがホウエンにいる理由がこれだ。
原作でもこの輪について一切の説明は無かったが、けれどポケモン映画のお蔭でその存在だけは知っていた。
そも空間を跳躍して物体を引っ張って来るなどと言う芸当、並のポケモンに出来ることではない。
可能性としてパルキアならあり得るかもしれないが、パルキアならこんな輪っか残さない。
だから、可能性はもう一つなのだ。
実機時代、結局そのポケモンは映画での配布以外で見かけることは無かった。
だから、正直その可能性は考えてなかったのだが。
よく考えれば、現実として見ればアニメも実機も同じ設定から生まれた世界なのだ。
実機の図鑑にも登録でき、ちゃんとデータとして存在する以上、そいつはこの世界にも存在しているのかもしれない。
リングの中の空間を歪め、あらゆる物質をテレポートさせると言う幻のポケモン。
実機時代、自身のデータでついぞ見ることの無かったそのポケモンの名は。
「…………いるのか、フーパ」
呟いた言葉に、けれど輪は何の答えも返さなかった。
ふとした思い付きでホウオウ、ルギア、スイクン、エンテイ、ライコウ、グラードン、カイオーガ、レックウザ、レジロック、レジアイス、レジスチル、ラティオス、ラティアス、デオキシス、ディアルガ、パルキア、ギラティナ、ユクシー、エムリット、アグノム、ヒードラン、レジギガス、クレセリア、コバルオン、テラキオン、ビリジオン、トルネロス、ボルトロス、ランドロス、ゼクロム、レシラム、キュレムがホウエンで一斉に争い出す展開を思いついた。
どう考えてもホウエン最後の日です、本当にありがとうございます(
ヒガナも隕石どころじゃなくなるぜ(
レックウザ出てきても収集がつかない事態。
あー…………やべえ、フーパなんかだしたらどう考えたって展開広がるだけなのに、どうして思いつきで話を広げてしまうんだろう。四章100話で終わるだろうか(戦慄
積みゲー消化してたら一週間空いててびっくりした。
ところで面白そうなパーティ型思いついたので、またその内対戦募集するかも。
あといじっぱ6Vミミッキュが9匹余ったのでその内配布するかも。
追記:バレンタイン絡めながら、そのうちエアちゃんたちとデートな番外編書くかも。