ポケットモンスタードールズ   作:水代

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まっとうにやれば強いほうがまっとうに勝つ理屈

「イシツブテ!」

 ジムリーダーが最初に出したのは、イシツブテ。ホウエンでもよく見かけるメジャーな『いわ』『じめん』タイプのポケモンだ。

 『いわ』タイプ専門のこのジムならば、まあ多分いるだろう一匹。

 

 そして、こちらが出すのは。

 

「…………出番だよ、ヴァイト!」

「ギャーォ!」

「…………フカマル、ですか。なるほど」

 

 ジムリーダーが呟きと共に笑みを浮かべる。

 フカマル、それが自身の三体目のポケモン。

 野生のラルトスだったエルやサナと違い、師匠であるハルトさんが卵をくれ、自身が孵したポケモン。

 

 ――――どう育てるかはミツルくんに任せるよ。

 

 卵から孵った時、告げられた言葉を、今でも自身は覚えている。

「ヴァイト、“あなをほる”!」

「遅れは取りません、イシツブテ、“いわおとし”!」

 

 基本的な話、『いわ』ポケモンと言うのは体重が重い。だからその分、速度はどうしても遅くなる。

 と言っても体重自体比べれば実は基本的にはフカマルとイシツブテにそれほど差異は無い。むしろややフカマルのほうが重いくらいだ。

 だがイシツブテには無く、フカマルにあるものがある。

 

「ギャッ!」

 その場でヴァイトが高速で穴を掘り進め、すぐさま地面へと潜っていく。

「ゴオオオォォォォ」

 

 “いわおとし”

 

 直後、イシツブテが放った岩が直前ヴァイトが居た地面へと落ちる。

 そして。

 

「今だ! 突き上げて!」

「ギャー!」

 

 “あなをほる”

 

 ほんの一瞬の間に、イシツブテの足元まで穴を掘り進めたヴァイトが、真下から飛び出し、全力でイシツブテにぶつかり、同じ体重の相手を大きく吹き飛ばした。

 

 フカマルにあってイシツブテに無い物とは、つまり、パワーだ。

 とは言っても、単純な攻撃力ならイシツブテのほうが高いだろう。何せあの岩の体躯だ。普通に殴られただけでも痛そうだ。

 だがフカマルには『ドラゴン』タイプ特有のタフネスとパワーがある。その体の重さを補って余りあるパワフルさは、イシツブテから絶対の先手を取れるだけのスピードを生み出す。

 

 そして。

 

「トドメだ! “りゅうのいかり”!」

「耐えて反撃ですわ、イシツブテ“たいあたり”」

 

 イシツブテが再び岩を生み出し、こちらへと放とうとして。

 

「ギャォォォー!」

 

 “りゅうのいかり”

 

 それよりも早く、大きく息を吸い込んだヴァイトが、“りゅうのいかり”を放った。

 “りゅうのいかり”は少しだけ特殊な技だ、と習った。

 相手の強さは一切関係無く、どんな敵にでも同じだけのダメージを与える技、らしい。

 イシツブテは物理攻撃には強いが体力自体は低いので、これで押し切れる、そう考え。

 

()()()()()

 

 “いわのいちねん”

 

「ゴオオォォォォォォォォ!」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………あっ」

 

 短い呟き、耐えられるはずの無い攻撃を耐えられた。その事実が一瞬思考を止め。

 

「反撃です!」

「ゴオオオオオォォォ!」

 

 “たいあたり”

 

 その頑丈なら体でヴァイトを吹き飛ばす。

「ギャッ」

 短い悲鳴を上げながら、ヴァイトが地面を転がり…………ヨロヨロと立ち上がる。

 

 “きゅうしょにあたった”

 

 今の一撃が不味い角度にもらった一撃だと理解できる。そしてそんな一撃をもらってしまったヴァイトの体力が残る少ないことも。

 いくら『ドラゴン』タイプのタフネスぶりをもってしても、まだヴァイトは進化すらできていない子供なのだ。その体力にも限界はある。

 立ってはいるが、すでに戦える状態ではないのは明白だ。

 

「これで…………」

 

 ジムリーダーがふと、呟く。

 

 ――――これで、私の勝ち。

 

 そう告げようとして。

 

「――――ええ、これで、ボクたちの勝ちです」

 

 “さめはだ”

 

 ヴァイトに直接ぶつかったイシツブテが、特性によるダメージを受ける。

 イシツブテとて元はギリギリのところで耐えていたのだ、これで倒れる、そう考え。

 

「ゴォ…………オォォォ」

 

 それでも倒れてなるものか、と歯を食い縛り。

 

 『ゴツゴツメット』

 

 ヴァイトに持たせていた道具の効果で、さらにダメージを受け。

 

「ゴォォォ…………ォォ…………ォ…………」

 

 ずどん、とその体が地に落ちた。

 ジムリーダーがその光景を、瞬きと共に見つめ。

 

「…………ええ、そう…………負け、ですわね」

 ふう、とため息一つ吐き。

「お見事ですわ」

 

 そう告げた。

 

 

 * * *

 

 

 目の前に繰り広げられた、ふつーのバトルを見て。

 これが普通のポケモンバトルだと言うことに違和感を感じている自分はすでにこの世界に慣れ切っているのかもしれないと改めて自覚した。

 とは言っても、ツツジのほうは一度だけトレーナーズスキルを切ったので、後でダメ出ししておくとして。

 

「ミツルくんやっぱり、予想外に弱いね」

 

 と言うか、自身の想定通りの展開から外れると途端に調子を狂わせるタイプだ。

「どこかで修正しないとダメかもね」

 この世界におけるバトルは初見殺しの連続だ。上に行くほどその要素は強まって行く。最も、それはお互いさま、と言うことも十分あるので、実際はそれほど大きな差異は生まれはしないはずだが、それでも一度相手のペースに陥ると、そのまま抜け出せなくなることも多い。

 だから、少しでも早く相手の手を読み、正確な返しを打つこと、それこそがこの世界で上へと登りつめるために必要な要素になる。

 ミツルのように、自分の予想通りの展開にならないだけで調子を崩すようでは、裏特性、トレーナーズスキルが絡んだだけで立ち行かなくなる可能性もある。

 

 結局のところ。

 

 正直過ぎるのだ、指示が。

 

 だから、変化を混ぜられると途端に追いつかなくなる。

 

 まあこの辺りは経験を積んでいくしかないことなので。

「やっぱりこの旅の間に最低二百戦はしてもらわないとダメだなあ」

 ミツルは夏のリーグ出場を狙っているらしいので、今から約三か月ほどと言ったところか。

 一日二試合以上のペースで進めていかなければならないと考えると、カナズミジムでの経験は大きな糧となることは間違いないだろう。

 

 まあミツルのこともそうだが、今年に限って言えばそれ以上に問題なのが。

 

「マグマ団に動き無し、か」

 

 ジム戦中にナビに送られてきたメッセージを読みながら、呟く。

 カナズミシティにおけるアクア団の動きは沈静化し、今は鳴りを潜めている。

 そしてマグマ団のほうは今現在、不気味なほどに動きも無い。

 とは言っても活動していない、と言うことは無いだろう。

 すでに両団ともグラードンとカイオーガの存在は知っていると考えるべきだろう。

 

 キンセツシティのカジノ襲撃事件がその証明となっている。

 

 実機には無かった事件だが、ある意味自身が誘発した事件でもあるので、これはそれほど問題無い。

 ただ、すでに実機の流れはそれほど当てにはしない方が良いだろうとは思っている。

 ここは現実だが、実機と同じ状況ならある程度同じような結果が残る。それは分かっている。設定…………と言うと嫌な感じもするが、そこにいる人間の思考も、状況設定も同じなら、同じように動く。実機時代の知識はその程度には正しいが、けれど自身か、それとも自身以外の誰かが実機と違う状況を用意すれば、違う結果が生まれる。現実なのだから、それは当たり前だ。

 

 そしてすでに自身が実機とはかなり状況を変えてしまったため、ここから先、両団がどう動くは予想しきれないところがある。

 とは言っても、一つだけ絶対に変えられない部分と言うものはある。

 

 アクア団のカイナシティでの潜水艦強奪事件だ。

 

 おおよその検討として、グラードンは『えんとつやま』、そしてカイオーガは『かいていどうくつ』に存在するだろうと予想している。

 と、なると、陸路で行けるグラードンはともかく、深海奥深くに眠るカイオーガは、絶対に“ダイビング”の秘伝技か、潜水艦が必要になる。

 とは言っても“ダイビング”はそれほど便利な技でも無い。正確には()()()()()()()()()()()()と言ったところか。

 第一に荷物の重量制限がある。それにポケモンによって潜れる深度の違いと言うのがある。それ以外にも呼吸なども含めいくつか問題があり、個人がほぼ何も持たずにその辺の深いところを軽く潜るだけならともかく、海の底深い海底洞窟の入り口をさ迷って探すようなことは、ほぼほぼ自殺行為に等しい。

 と、なれば潜水艦の存在はほぼ必須だろうと思う。

 特に実機ではアクア団はリーダーのアオギリだけでなく、手下も含めて大勢で洞窟に突入していたのだ、あれだけの数の人間で海底洞窟を目指すなら“ダイビング”は現実的ではない。と、なれば潜水艦を奪取するしかない。

 

 こればかりはどのタイミングで来るかは分からないが、少なくともある程度…………最低自分たちで完成できる程度まで造り終えた辺りで来るだろうと思っている。

 と、なればまだ一月か二月は問題無いだろうと思う。

 

 できるなら潜水艦の造船自体を取りやめさせたいのだが、さすがのチャンピオンでもトレーナー以外の、造船所の人間にそんな命令できる権限なんて無いし、そもそも造らなかったからと言って、アクア団が独自で造らないと言う保証は無いのだ。

 だったらまだ強奪される可能性を見逃すほうが、いつ海底洞窟に行くのかのタイミングも分かりやすくて良い。

 

 マグマ団については『えんとつやま』自体をリーグ側に要請し、リーグトレーナーを配置してもらっている。

 今はまだ巡回のみだが、その内本格的に警備態勢も取ってもらう予定だ。

 

「…………やっぱチャンピオンって良い身分だね」

 

 ポケモンと言う存在がとてつもなく大きいこの世界において、ポケモンバトルをするトレーナーの頂点と言う立場は非常に強い。

 強権を発動すれば、リーグに属するトレーナー…………それこそ四天王だって動かせる。

 大抵のことはできるし、給料だってもらえる。と言ってもはっきりとした職ではないので、前世で言うところの名誉職に対する年金的な扱いのものだが。

 そして何よりも信頼が重い。チャンピオンと言う存在の口から語られた言葉は、荒唐無稽に思えてけれど無碍に扱われることは無い。

 そうしてホウエンリーグにマグマ団とアクア団の動きを調べさせ、自身の言葉の裏付けをさせ、ようやくホウエンリーグ…………ひいては、ホウエンのポケモン協会を動かすことにも成功した。

 

 とは言っても、結局強権と言うのは無理を生じさせる。

 通常の業務に加えてのこのホウエンの危機に対する対処もさせているのだ。

 これ以上の引き延ばしは出来ない。

 

 それにいつ自身がチャンピオンで無くなるかもわからない。

 

 少なくとも、誰にも負けるつもりはないが、それでも負ければチャンピオンと言う強権も無くなる。

 それでリーグや協会がこの件から手を引くわけではないが、それでも自身の思惑から逸脱するだろうことは確かだ。

 ホウエンの危機はグラードンとカイオーガ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 α(始り)Ω(終わり)を乗り超えても、Δ(その先)があるのだ。

 

 だからこそ、今年中…………できれば、チャンピオンリーグ前に片を付けたい。

 

 そのためにもまずは…………。

 

 

 * * *

 

 

「取りあえず、デボン(うち)の荷物を盗もうとした不届き者がいたから適当に追い払ったけど…………なるほどね、あれがキミの言ってた連中かい?」

「…………その荷物ってカイナへ届けないといけなかったりする?」

「おや、良く知ってるね」

「…………なるほど、そっちも進行中か。そこまでは予想通り」

 

 デボンコーポレーション。

 ホウエン最大級の会社の名だ。

 日用品からトレーナーグッズまで幅広くやっている。

 特に本社のあるカナズミシティでは、デボンコーポレーション製の新商品が真っ先に店に並ぶため、新商品の情報が市場に出回ると、そのためだけに遠方から人がやってくることすらもあるほどの人気を誇る。

 ぶっちゃけ、ハルカが言っていた新作のボールの情報などがこれに当たる。

 

「キンセツシティのほうはどうなってる?」

「問題無いよ、リーグトレーナーたちが常時見張っているし、時折ボクも参加しているからね…………以前の件でさすがに懲りたらしい、様子を見に来る人間はいるけれど、手を出す度胸のある人たちは居ないようだね」

 

 デボンコーポレーションの社長の名を、ツワブキ社長と言う。

 そしてその息子の名前を、ツワブキ・ダイゴと言う。

 つまり、デボンの本社ビルに背を預けている自身の隣にいる男の名である。

 自身がダイゴからチャンピオンの座を奪取した後、おおよそ一月ほど後のことだろうか。

 ツワブキ・ダイゴはデボンコーポレーションにいた。社長子息であるのだから、それほど不自然なことでも無い。将来的なことは分からないが、ダイゴが社長を継ぐ可能性だってあるのだから。

 そんなダイゴに会いに行き、そしてシキ同様協力を仰いだ。

 元々原作でも主人公と共に立ち向かってくれる正義感のある人間だ。当然と言わんばかりに協力してくれることになり、今に至る。

 

「今のところは問題無し、か」

「アジトの場所さえ割れればこちらで抑えることも出来るんだけどね」

「アクア団の場所はミナモシティと分かってはいるけれど、詳細な場所は不明。マグマ団に至っては痕跡すら無し…………さすがに自分たちの急所となるアジトは丁寧に隠されてるからね」

 

 実機知識ではミナモシティの東の水辺から明らかに怪しい洞窟が見えていたが、あんなあからさまに怪しい場所が現実にあるはずも無く、どうやら入り口は丁寧に隠されているらしい。

 どうにか探し出せないかと、アジトに帰る団員を追跡しようとしたことがあったが、どうやら外にいる団員は完全に外用のメンバーとしてアジト内の団員とは区別されているらしい。

 そしてミナモシティ内のどこかにべつの入り口があるらしく、そちらから物資の搬送などは行われているらしく、完全に足取りが掴めない状況である。

 

「ミナモシティって言うのが厄介なんだ…………人が多すぎるし、都市がでかすぎる。外の人間も入り混じってて、正直どこに何があるかなんて、誰も把握しきれていないのが現状だし」

「さらにホウエンの玄関であるミナモを封鎖、なんて真似できるはずも無いし、何か事件でも起こせば観光都市ミナモの名に大きな傷が付く…………なるほど、確かに厄介だね」

 

 何よりも厄介なのは、アクア団もマグマ団も、普段の活動ではあの特徴的な服を着ていないのだ。

 実機ではいつでもあの団員とすぐに分かる制服らしきものを着ているが、現実でそんな一発でばれるような服着ている阿呆は滅多に居ない…………まあ七年くらい前にそんなバカがいたような気がするが、自身はもう忘れたので知らない振りをする。

 あの特徴的な制服で無くなると、途端に個性が薄れてしまうため、ミナモシティを根城にしていることは分かっていても、どこにいるのか全く分かっていないのが現状だった。

 

「…………取りあえず、一緒に旅している仲間次第だけど、そう遠くない内にキンセツシティには寄るはずだし、一度様子を見に行こうかな」

「そうだね…………ボクのほうも、一度ミナモシティのほうへ行ってみる」

 

 その後、一通りの情報交換をし、別れようとしたところで。

 

「ああ、そうだ…………一つ良いかい?」

 ダイゴの言葉に振り返り、何事かと首を傾げる。

 そんな自身に一つ苦笑し。

「いや、頼みたいことがあってね…………先ほど荷物を奪われそうになった、と言ったけれど。確かにキミの言う通り、カイナシティのとある造船所へ届ける物なんだ」

 そんなダイゴの言葉に、何となく言いたいことを理解する。

「…………うん、まあ察してくれたみたいだね。どうやらこれはやつらにとっても必要なものらしい。だったら余計に渡すわけにはいかない。と、なれば、一番安全なところに保管すべきだよね?」

 

 一番安全なところ。

 

 つまり。

 

「チャンピオンが持っているならば、このホウエンで一番安全な場所と言えるね」

 

 頼めるかい?

 

 そんなダイゴの言葉に苦笑し。

 

 是、と答えた。

 

 

 

 




トレーナーズスキル(P):いわのいちねん
HPが残り50%以下の時、『ひんし』になるダメージを受けた時、必ずHPを1残す。



公式大会開催。
ダブルバトルってあんまやらないんですけど、取りあえずで適当にやってみたら4戦4勝。
だいたい全部合わせて20ターン以上戦って、16、7ターンはテッカグヤが場に出てると言う生存能力。
カプ・コケコに一発で落とされた時はもうだめかと思ったけど、レートの守り神ガブ・リアスによって勝利を得た。

最近気づいたが。
身内でやるとそんなに勝率良くないと言うか手管知りつくされて対策されつくしてるが、逆に互いに情報の無い状態のフリーバトルとかでやるとけっこう勝てるや。

カグヤにほのおZ持たせてたけど、面白いように奇襲が決まって笑える。
取りあえず3戦以上で参加賞もらえるらしいので、これでクチートナイトはもらったぜ。

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