ポケットモンスタードールズ   作:水代

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ほっとなひととき

 

「お腹空いたなあ」

 呟いた一言に、どうしたものか、と手の中でボールを弄ぶ。

 ミツルはジムで勉強してくると残ったので、今は独り…………いや、ルージュがいるので二人か。

 と言ってもジムリーダー相手に割と暴れ、疲れて眠っているので、実質一人と言ってもいいだろう。

「ふむ」

 そうなると、朝から出かけたハルカは除いて、残りは自身と、まあエアとアース、起きていたらルージュと言ったところか。

「…………シキはどうするんだろう」

 確か朝自身たちが朝食を済ませた段階ではまだ寝ていたはずだ。

 どうやら旅疲れが想像以上にやばかったらしい、昨日も夕食だけ取ったら早くに寝入っていた。

 まあシキに関しては後で尋ねてみれば良いだろう。最悪でも彼女のエースのクロがいるはずなので、どうにかなるだろう…………長年シキと共に旅していただけあって、シキよりもしっかりしているし。

 

 街頭に建てられた時計塔を見れば時刻はそろそろ正午だ。

「一旦センターでエアたちを拾って」

 と、考えて。そう言えば今はエアがいるのだから。

「…………作ってもらうか」

 旅に出てまだ一週間弱だが、早くも実家の食事が恋しくなってくる。

 エアの作る料理は、母さんやシアとはまた違った物ではあるが、かなり自分好みなので実家では時々食べていたものだ。

 …………あんまり食べ過ぎると、母さんやシアの作った分が食べれなくなって、シアが拗ねるのでほどほどにしないといけないのが難だが。

 今日は存分に食べても問題無い、そう考えると余計にお腹が空いてきた。

 

「早く帰るか」

 

 少しだけ、急ぎ足でポケモンセンターへの帰路を歩く。

 

 楽しみだな、なんて思いながら。

 

 いつの間にか、気分も弾んでいた。

 

 

 * * *

 

 

 好きな人に手料理を食べてもらう。

 

 なんとも女子力の高い話ではないだろうか。

 と、以前シアに語ったら。

 

『その料理に込められてるのは女子力では無く漢気では?』

 

 などと言われ、泣く泣くハルトの口に無理矢理詰め込んだりもしたが。

「…………ふーんふーん」

 鼻歌混じりに野菜の皮むきをしていき、平行して鍋に水を張って温める。

 固形スープを溶かしている間に、一口大にカットしていく。

「ま、こんなもんかしらね」

 まな板の上の具材をどばどばと鍋に投入していく。シアなどはいちいちフライパンで順番に炒めたりするが、残念ながら自身はそんなことは気にしない。

「あとは」

 もう一つ、隣に用意したフライパンを熱し、油を引く。そこにビニールに包装された肉の塊を投下する。

 じゅうじゅうと音を立てながら、油が弾ける。

 軽く胡椒で下味をつけながら全体的に火を通し、色が変わったら。

「そのままどん、と」

 フライパンの中身を肉汁をたっぷり絡めた油ごと全て隣の鍋に放り込む。

 塊だった肉も、解しながら火を通したお蔭ですっかりバラバラになって鍋の中で舞い踊っている。

「後は…………」

 しばらく放置、その間に適当に木のみの缶詰を開けてボウルの中で混ぜ合わせていく。

「これで一品ね」

 野菜が足りないだどうだと小うるさいシアも今日は居ないので思う存分に作れる。

 そうこうしている内にぐつぐつと音を立てて煮える鍋の蓋を開け。

「…………ん、行けそう」

 鋭敏な嗅覚が火の通りと熱を感じ取る。実際のところこの煮えたぎる鍋に指を突っ込んで直接具材の具合を確認しても別に人間と違って火傷もしないのだが、あまり衛生的ではないと言う理由でシアに厳禁された。

 まあ自身に料理を教えてくれた仲間の言葉だし、一理あるのでそれだけは守っている。

 しっかり具材に火が通っているのを確認し、固形ルーを投入していく。

 直後広がる食欲を誘うスパイシーな香りに、ぐぅ、とお腹が鳴って。

「…………あとちょっと、あとちょっと」

 (鍋の中身)半分ほどつまみ食いしたい気持ちにかられながらも、最後のモーモーミルクを使って味を仕上げていく。

「…………ちょっと物足りない?」

 塩を少し足し、ようやく満足行く味になったのを確認して、火を止める。

 炊飯器を見ればご飯も炊けているし。

 

「ハルー、できたわよー」

 

 エプロンを外しながら、隣の部屋にいる自身の主のそう声をかけた。

 

 

 * * *

 

 

「こっちの料理って美味しいわね」

 スプーンを咥えながらシキがぽつりと呟く。

「それとも、エアの腕がいいのかしら?」

 目の前の皿に盛りつけられたカレーライスをさらにスプーンで掬いながら一口。

「シキって確か…………カロスのほうから来たんだよね、あっちはカレーとか無いの?」

 昼食を作ってと言った自身にエアが出してきたカレーライスに舌鼓を打ちながら満面の笑みを浮かべる。

 やはりカレーは偉大である。

 簡単に作れて、失敗が無い。けれどそこからさらに好みによって奥行きはどんどん深くなる。

 エアの好みはどうも極めて自身と似ているらしい、大雑把だが大量に入った肉、肉、肉。どこを掬っても肉がついて回る極めて男料理なカレーは、男子からすれば満足の一言に尽きる。

 母さんやシアはその辺どうしても栄養配分とかバランスとか気にするので、野菜多め肉少な目になる。それが不味いわけではないのだが、夏野菜のさっぱりカレーより、ごろごろと肉の入ったこってりカレーが食べたいのが十代の男子と言う生き物である。

 まあこれが二十代に入ると段々食性も正されていくのだが、残念ながら自身はその途中でこちらの世界に来たのでまだまだ食べ盛りである。

 まあそれはさておき、ホウエン地方と言うのは設定的には九州がモチーフに当たるらしい。対してカロス地方と言うのはフランスがモデルらしい。

 なので案外食生活と言うのは違うものなのかもしれないな、と思いながら問うてみれば。

 

「向こうだとこのお米もあんまりないのよね、あっちだとパンが主流だから」

 味付けもさっぱり、後こういうがっつりした一品よりも、少量の物をいくつも、と言うのが多いらしい。

「だいたい調理時間が長すぎるのよね…………あっちのレストラン、一品一時間とか普通だから」

「うわあ…………それってレストラン行くのにいちいち予定立てるレベルだよね」

「予約制のところも多いわね、こっちみたいな大衆食堂? みたいなのも少ないし…………まあポケモンセンターのご飯の不味さは同じだけど」

「あ、そこは共通なんだ」

 

 なんだ、ホウエンだけかと思っていたけど、そうでも無かったのか、センターのメシマズ。

 

「でもあっちだとポケモンセンター内に飲食店とかもあるのよね、フレンドリーショップもあるし」

「ああ…………実機でもそんなのだったね」

「実機?」

「いや、なんでもないよ」

 なんて久々に実機時代のことを思い出しながら。

「…………あの、エアさん?」

 先ほどから一言も語らないこのカレーの製作者に視線を向ける。

「はふはふ…………はふ…………ん? はにひょ?」

 口いっぱいにカレーを頬張りながら、リスのように頬を膨らませるエアの姿に苦笑する。

「いや、何でも無いから食べてていいよ」

「んぐ…………ん…………んん、そう」

 もごもごと口を動かし、咀嚼、飲み込み、口の中の物が無くなってから一言そう呟くと再びスプーンを動かし始める。

「…………良い食べっぷりだね」

「…………全くだよ」

 シキもまたそんなエアに苦笑し。

 

 なんてことの無い昼のひと時が過ぎて行く。

 

 

 * * *

 

 

「と、言うわけで…………これが近年発見された新タイプ、『フェアリー』タイプ」

 黒板にチョークで『フェアリー』と書き込み、その下に『ドラゴン』『はがね』『どく』と書き込む。

「一番の注目点は、これまでタイプとしては最強を誇っていた『ドラゴン』タイプを完全に無効化してしまう、と言う点。そして『ドラゴン』タイプに対して弱点タイプとなる点。まさしく『ドラゴン』タイプの天敵と呼んでも問題無い…………ように見えるけど、実はこれが違うんだよね」

 

 自身の言葉に、トレーナーズスクールの生徒たちが、えっ、と声を上げる。

 昼下がりのひと時。朝のジムでツツジ繋がりでトレーナーズスクールの校長から講義の依頼がポケモン協会超しに来ていたのだが、ちょうど予定も空いていたし、こうして来てみた。

「はい、じゃあシキ、この点についてどう思う? 例えばシキなら、サザンドラ使ってたよね」

 

 ついでに、去年のリーグ優勝者にして、防衛戦の相手…………つまり、四天王を突破したシキも道連れとして連れて来たのだが、思いの他子供たちから受けが良い。まあ何気に二年連続リーグ出場、一昨年は準優勝、去年は優勝したトレーナーとしてシキも名が知られているし、さもありなん、と言うところだろうか。

 

「例えば先発のサザンドラに、相手が『フェアリー』タイプならどうする?」

「そうね…………まあ、私の場合は異能でタイプ相性を逆転させることもできるけど…………基本的に『フェアリー』タイプってそれほど速い相手が居ないから、だいたいは“かえんほうしゃ”か“だいちのちから”で落とすわね…………まあ相手が来ると分かっているなら“ラスターカノン”あたりを仕込んでもいいし」

「そう、これが問題なんだよね」

 

 プクリン、ピクシー、トゲキッス、マリルリ、クレッフィなどなど、『フェアリー』タイプとして知られるポケモンの名前をいくつか挙げていく。

「基本的に『フェアリー』タイプって足の速いポケモンが少ないんだよね…………ついでに言えば、耐久もそれほど高く無いから『ドラゴン』タイプ相手だと素早さで負けて一方的に攻撃されて一撃で負ける、と言うことも実は多々あるんだよ」

 一番分かりやすいのはガブリアスだろう。実機において“じしん”、“げきりん”、“どくづき”の三つに“つるぎのまい”か“みがわり”あたりがテンプレと言って良いほどに、良くある構成だった。

 実際ガブリアスの『こうげき』種族値で“どくづき”でもされれば並の『フェアリー』タイプなどたまったものではない。

 

「そんな時に、対策としてトレーナーが持たせるのが『こだわりスカーフ』や『きあいのタスキ』、他にも木の実で半減を狙ったりとかね」

 とは言っても、実際問題木の実は中々難しいものがあると思う。最悪等倍で殴られればほとんど無意味な産物だし。まあ6対6の持ち物重複無しのフルバトルならありかもしれないが。

「後は数少ない足の速い『フェアリー』タイプを使う、とかね」

 自身の先発チークの種族デデンネや、後はあの害悪存在エルフーンなども挙げられるだろう。

 ゼルネアス、と言うのもあるが、あれは伝説なのでノーカンで。

 

「まあまだトレーナーズスクールのみんなじゃ、持ち物、と言われてもすぐにはピンと来ないだろうけど、トレーナーになるならこの辺りは必須だね」

 だよね、とシキに視線を向ければ。

「そうね、持ち物一つで技の威力、与えるダメージ、そして受けるダメージなども全く変わるわ。だからトレーナーがそのポケモンにどんな役割を期待しているのかによって持たせる持ち物は全く変わるし、逆に言えば相手が持たせている道具である程度のどんな役割をさせようとしているのかは分かって来るわね。だからこそ、その役目を果たさせるか、止めることができるか。たった一手で趨勢が変わることだってあるわね」

 告げるシキの言葉になるほどと必死になってノートを取るスクールの学生たちに苦笑しながら、さて、次は何を話そうと考える。

 ただすぐには思いつかなかったので。

 

「ところでシキは何かある?」

「ん…………そうね」

 シキに投げた。そうして投げかけた質問にシキが一瞬考え。

「私がこっちに来て一番驚いたのは特技ね」

 知っての通り、基本的にポケモンの技幅とは四種類だ。

 だからこそ、特技と言うのはある意味革新的だと言える。

「前チャンピオンダイゴの作り出した技と技の合わせ技…………私もカロスでは噂だけは聞いていたけど、実際こっちに来て初めて見て本当に驚いたわね」

「ああ、それは分かる…………特技一つで既存の戦略が全部ひっくり返されたような気分になるよね」

 自身の言葉にシキが頷く。

 

 特技の最も恐ろしいところは、一つの技で二種類の技の効果を発揮すること、そして何よりも、発展性である。

 

 例えばエアなら“かりゅうのまい”。りゅうまいマンダは実機でもよくあった型だ。ボーマンダの“いかく”で相手の火力を下げ、安全を確保しながら『ぼうぎょ』が跳ね上がるメガマンダへとシンカ。そして“りゅうのまい”を積みつつ相手の攻撃を耐え、跳ね上がった火力と速度で敵を上から叩く全抜きエースが一体。だが極論、めざパ『こおり』でもいいし、最悪タスキで耐えてつららばり、もしくは優先技がボーマンダには無いので“こおりのつぶて”でも最悪一撃で落ちる。『こおり』4倍と言う明確な弱点がボーマンダにはあったせいで、絶対のエースと言うのは無理があった。

 だがそんなメガマンダにまさかの『こおり』タイプ半減差引二倍。実機でそんなことできたらメガマンダの暴威が止まらなくなる。相手の『とくこう』が高ければそれでも落ちる可能性もあるが、それでも一撃で落とすために必要な火力と言うのは段違いに高くなる。

 最早単純にタスキで『こおり』技、もしくは“こおりのつぶて”、なんて言えなくなってしまったのだ。

 

 “りゅうのまい”に当たりまえだが『こおり』を半減する効果など無い。それを“ほのおのキバ”と言う()()()()()の要素を足すことで、速度と火力を上げながら『こおり』を半減するボーマンダ、などと言うチート紛いな技が出来てしまうのだから、本当に恐ろしい。

 

「因みにカロスにはちょっと違うけれど『追撃』と言うのがあるわ」

「…………『追撃』?」

 初めて聞く言葉に、思わず問い返す。見れば他の学生たちも首を傾げていた。

「まあ見ての通りの追加攻撃、ね。私はあまり使い勝手が良くないから使わないけど。簡単に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うこと」

 なんだそれ、と思わず聞きたいところだが、今は授業中と我慢する。

「カントー、ジョウトなら『強化必殺』、シンオウなら『貫通』、イッシュなら『溜め撃』とかね…………面白いことに裏特性やトレーナーズスキルはどの地方も共通して存在するのに、残り一つの要素だけはそれぞれの地方の固有なのよね」

 まあ私みたいにこっちに来て学ぶトレーナーもいるけど、とはシキの弁。

「まあ、でも上に行くほど、その地方特有のスキルがあるから…………もし将来アナタたちが他の地方のトレーナーたちと渡り合いたいと思うなら、特技の存在は必要不可欠と言っても過言ではないかもしれないわね」

 そんなシキの一言と共にチャイムが鳴り。

 

 自分たちの一時間弱の講義は終了となった。

 

 

 * * *

 

 

「『追撃』、『強化必殺』、『貫通』に『溜め撃』かあ…………聞いたこともないようなのばっかだな」

「そうね、まあ他の地方に行かないとほぼ見られないでしょうね」

 スクールからの帰り道に、シキと話しながら歩く。

「まあ特技を覚えさせてるなら、無理な話だし、それほど気にしなくても良いと思うわよ」

「…………そう言うものかなあ」

 特技と言うのは以前も言ったが、ポケモンにとっての才能のリソースを喰う。

 恐らくシキの言う他の地方独特のスキルもそう言う類の物なのだろう。

 なるほどね、と一つ納得して思考を切り替える。

 

「そう言えば、シキは今年のリーグも出るの?」

 だからそれはまあ、他愛の無い世間話の一つ。

「……………………」

 そして、だからこそ。

 

「…………いえ…………今年は、と言うか、もう今後は出ないわね」

 

 その一言は予想外も良いところだった。

「…………どういうこと?」

「…………あのね、ハルト、ちょっと言いにくいんだけど」

 少しだけ俯いて。

 

「…………今年が終わったら、カロスに帰るわ」

 

 そう言った。

 

 




ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(発狂

バトルが書きたい、データ作らせろおおおおお、バトル、一心にバトルさせろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??!!?!

デート回? やっぱ時代はバトルだろ?
やろうかと思ったけど、なんか気が乗らなかったので料理回になった。
と言うわけで、次回はバトル予定。

内容ほぼバトルオンリーなポケモン二次って需要あるかな?
場合によってはカロス編本編終了後、バトルだらけのリーグやるかも。本編自体は50話くらいで終わりそうだし。


因みにハルトくんがフラグ立て損ねるとマジでシキちゃんは帰る…………頑張れホスト(違う

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