前世でプロゲーマー、などと言う職業があったように。
この世界において、エリートトレーナーと言うのは立派な職業とされる。
そもそも、ポケモンと言う存在によって、トレーナーの価値と言うのは非常に高い。
人間の隣人とされるポケモンだが、突き詰めれば野生の生物だ。時に人間と敵対することだってある。
そうした時、人間では敵対したポケモンを止めることはほぼ不可能と言って良い。
当たりまえだ、火を噴き、水を吐き、氷を降らせ、空を飛び、雷を落とす。そんな生物を人間がどうやって止めるのだ。
一応銃火器の類は存在しているが、それでも種族によってはそんなもの効きもしないポケモンもいるし、何より製造には厳しい規制があるし、使用にはもっと大きな制限がある。と言うか『ゴースト』タイプの類はそう言う物理的な攻撃は割とすり抜けてしまう。その辺り研究者ではないので良く知らないが、ポケモンの物理技、と言うのとはまた違った区分がされるらしい。
まあとにかく、ポケモン相手に人間だけでどうにかしようと言うのは、かなり無理と無茶があるのだ。
だったら同じポケモンを捕まえてポケモン同士で戦わせたほうが手っ取り早いし、確実性もある。何よりも安心感が持てる。
ポケモンは人間を守ってくれる、と言う安心が。
ポケモンは人間の隣人である、と言う安心が。
一部反ポケモン団体と言う例外もいるが、基本的にポケモンと人間は良い関係を築いている。
と言うか、最早ポケモンと人間の仲は切っても切り離せない物だ。そのくらいポケモンは人間の生活に根付いてしまっている。
だからこそ、理解させてはならない。
自身の隣にいるその隣人が、自身をあっさりと殺すことのできる恐ろしい牙を秘めた怪物なのだと。
それを民衆が理解した時、真の意味でこの世界は滅びる。冗談も、誇張も一切抜きで。
まあ、そんな事態、あるはずも無いのだが。
野生のポケモンは人に敵対する、捕獲されたポケモンは人に懐く。
そんな理をこの世界では幼少の頃から
だからこそ、野生のポケモンがどれほど人に被害を出そうと、それは野生だから、の一言で片付いてしまう。
だからこそ、止めなければならない。
――――――――伝説と言う名の、最強の野生を。
この揺り籠のように優しい世界を守るために。
* * *
「やっぱ船って言うと、サントアンヌ号とか有名だよね」
「ああ、クチバのあの豪華客船ですね!」
「知ってる知ってる、あのおっきい船だよね」
「昔乗ったけど、内装もかなり凄かったわね」
「え?」
「え?」
「え?」
船に揺られる感覚、と言うのも少し懐かしい。
前世では基本的に船に乗った経験が無いので、六歳の時に旅行で乗ったのが初めてと言うことになる。
ただ以前に乗った船は長時間航行のため室内で休んでいることが多く、こうして甲板で海を見ながら揺られることは余りなかったので、年甲斐も無く心が弾んでいるのを自覚している。
…………いや、十二歳と言う年齢を考えれば、年相応なのだろうけれど。
「え、乗ったの? なんで?」
「なんでって…………以前にカロスのほうに来たことがあって、その時にまあちょっと家の都合で?」
「確かサントアンヌ号って招待制で、けっこうな著名人たちが招待されてるって話を聞いたような」
「シキちゃんのお家って有名人さんなの?」
「え………………………………あー」
特にこの連絡船は以前乗った物よりも背が低い小型フェリーのような作りになっているので、前に乗った巨大な客船よりも随分と
波が船にぶつかり、甲板にまで跳ねてくるが、それもまた新鮮で楽しい。
多分毎日乗っていたらすぐに何てことの無い光景になるのだろうが、新鮮味と言うのはなんでもないようなことまで楽しくしてくれる。
「えっと…………その…………」
「そう言えば、シキさんってカロスだとどんな生活していたんですか?」
「えっ…………あ、えっと」
「シキちゃんって、なんでホウエンに来たの? カロスからホウエンってけっこう距離あるよね? まだイッシュのほうが近いと思うけど」
「いや、その、ね…………あの、は、ハルト!」
と、そんな風に波と戯れていた自身の背をシキが引いてくる。
ざぷーん、ざぷーん、と寄せては弾ける波を見ながらため息を一つ。
「ほら、二人とも、その辺にしないと。家庭の事情なんてどこでもあるんだし」
まあうちには特に無いが。
ただ二人もそれはそうか、と一旦納得し、言葉を収める。
そして自身の横で、ふう、と安堵の息を吐いているシキ。
とは言う物の、色々と不詳な部分が多いシキに大して好奇心が疼いているらしい二人がその程度で止まるはずも無く。
「あの、シキさん…………ボクとバトルしてくれませんか?」
「え?」
「あ、私も乗った」
「は?」
唐突なミツルの申し出に、珍しいことにハルカが追随する。
「えっと、なんで?」
「シキさんのこともっと知りたいけど…………だったら、トレーナー同士、バトルするのが早いですしね」
さすが自分の弟子である。思考がよく似ていると言える。
「あたしはなんだか面白そうだから」
さすがミシロの野生児。実にシンプルな理由である。
「……………………はあ、分かったわよ」
数秒考え込み、ため息一つ。シキが頷き、ボールを取り出す。
「でもこっちとまともに戦えるのって、サーナイトとエルレイドだけじゃないの?」
「ああ、それなら大丈夫」
ミツルくんのポケモンの中で、と限定するなら確かにそうかもしれないが、今はハルカがいる。
だから後ろからそう告げた。
「ハルちゃんが三匹持ってるし、俺がルージュ貸すよ」
まあ残念だがミツルくんのフカマルではまだまだ実力不足なのは明白だし、その辺は仕方ないとして、
「ハルカが…………? でもハルカは」
――――トレーナーではない。
正確にはポケモンバトルを専門とする人間ではない。
それは正しい、正しい意見だが。
「かと言ってそれが弱いと言うわけでも無いんだよね」
実機ORASでのライバルは、バトルは苦手、と言いつつこちらと同じ速度で成長し、強くなるトレーナーだったが、現実でもそれは決して外れてはいないらしい。
オダマキ・ハルカはトレーナーではない。
けれども並のトレーナーより余程バトルと言うものを理解している一種の天才だ。
トレーナーとしての努力をしているわけではないので、決してエリートトレーナーにはなり切れないが、けれど或いはそれに達する域の腕前がある。
少なくとも、二年近く自身が教えを説いたミツルより、現段階で圧倒的に格上だ。
そもそもそうでなければ自身とて、この旅にハルカは連れてこなかった。
説き伏せてでも後一年は大人しくさせるか、それとも後一年早く旅させるか。
少なくとも、
「まあさすがにミツルくんいるし、トレーナーズスキルは抜きでやればいいんじゃない?」
「まあ、別にいいけれど」
なんでこんなことになったのだろう、と嘆息するシキに苦笑しながら。
「ムロに着くまでの時間潰しとでも考えれば?」
そんな自身の言葉に、また一つため息。
「まあ、そう考えたほうが建設的ね」
呟きと共に、ボールを構えて。
――――投げた。
* * *
ムロタウン…………おいおい、どこだいそれ? 聞いたことも無いよ。
と言われ続けて早二十数年。
公認ジムまで出来たのに、未だに離島の秘境扱いなムロタウンに到着する。
以前来た時も田舎だと思っていたが、それでも実機だと必ず来なければならない場所な上に『いしのどうくつ』と言うイベント場所もあるので割と覚えていたが、世間での扱いは未だに秘境扱いである。
とは言っても『かくとう』タイプ専門のジムがあるため、格闘家などには割合知名度があるらしい。
だがそれ以外には…………まあお察しである。
まさか公認ジムがあるにも関わらず、トレーナーの間での認知度まで低いとか本気でどうなっているのかと問いたい。
そもそも、ここまで廃れてしまっているのは立地的な不利と言うのが大きい。
本土から離れた孤島とは言え、それでも定期便まで出ているのだ、決して交通が無いわけではないのだが。
だが立地を考えてみて欲しい、カナズミから、或いはトウカシティからカイナシティに行くならコトキタウンを東に抜けたほうが速い、実機のように『なみのり』が無いと進めないなんてことないし、普通に水辺に沿って歩いていけばカイナシティ北側に抜けられる。何もわざわざ一日二本しかない船に乗る必要なんて無いのだ。
カイナシティからカナズミに行こうとした時だって同じ。わざわざ船に乗って行く必要などない。
そもそもが船と言う移動手段自体が、人の移動手段としてはかなりマイナーなのだ。
ホウエンは街以外の部分は余り舗装されていないので車は余りメジャーではないが、それでも徒歩や自転車で移動している人は多く見るし、海なら『なみのり』それでなくても、『そらをとぶ』による航空タクシーと言うものまで存在している。
船と言うのは運送業などの大量の荷物を運ぶ時や、ホウエン以外の地方へ行くための長距離移動、後はそもそも遊覧などを目的とした客船などがメジャーであり、フェリーのような短距離を移動するための船と言うのは実のところ、トウカ、ムロ、カイナを結ぶこのラインにしか存在しなかったりする。
実際のところ、トウカ、ムロ、カイナと定期便は出てはいるが、実情はほぼムロタウンの住人専用である。
「急げ急げ、もう夕暮れだよ」
「ポケモンセンターが八時で営業終了って嘘でしょ?!」
「正確には食堂が、だけどね。早く部屋取ってさっさとご飯食べないと、夕飯が乾パンとドライフルーツと水になるよ」
「それはいや~、ちゃんとしたもの食べたい」
「ま、待って…………みなさん、速すぎ」
出発時刻は午前十時。到着時刻午後六時半。
かなりゆったり進んでいたのもあるが、単純にムロタウンまでの道のりが長いのもある。
そしてこの街、と言うか最早村では、午後八時以降に営業している店と言うのが存在しない。
となれば、のんびりとしていられなくなる、と急ぎ足でポケモンセンターへと向かった。
* * *
「クソがっ」
ぼん、とゴミ箱を蹴り飛ばす。
がたんごとん、と床に跳ねながらゴミ箱が転がる。
まだ中身は入っていなかったらしい、中から何も出てくる様子は無い。
それでもまだイライラが収まらず、男…………アオギリが悪態を吐く。
どうする?
苛立っているようで、けれど頭の奥では冷静に算段を思考している。
戦力差…………質は比べものにならない。こちらが勝っているのは数だ。
「団員全員のレベルアップが必要だな」
それはあのチャンピオン相手だけでなく、マグマ団を相手取った時にも有効だろう。
戦術…………全うにバトルをしていては決して勝ち目がない。
「奇襲だ…………今度は、全力で潰す」
だがそれだけで本当に勝てるだろうか、あのチャンピオンに。
あのとてつもなく強いヒトガタポケモンを思い出す。
「つっても…………対策は、必要か」
奇襲失敗、そしてそのまま全滅なんて詰まらないことにならないように、チャンピオン対策が必要だ。
そのための人員も必要になる。
面倒な話だ、だがそれだけならまだマシと言う物だろう。
「あのパーツは恐らくカイナに届けられるはず…………となれば、いっそ完成品を奪っちまったほうが早いな」
パーツさえあればアクア団の科学力で作ることも可能だろうが、パーツを奪えなければ無意味。
となれば、完成品、ないし、完成間近のものを強奪してしまったほうが良いだろう。
そのためにもまずはカイナに潜ませている団員を造船所に配置しなければならない。
「上手く潜りこめよぉ」
椅子に持たれながら足を組む。ぎしり、と椅子が軋みながら揺れる。
最大の問題が一つある。
以前からずっと探していて、ようやく見つけたが警備が尋常でなく堅くどうやっても手に入れられない物。
「『あいいろのたま』をどうするか…………それが最大の問題だな」
現在キンセツシティのとある施設にそれがあることが分かっている。
だがリーグトレーナーたちが複数日夜見張っており、とてもではないが手が出せない。
実際マグマ団のやつらが手を出して大損害を被っている。
「クソが、あれもチャンピオンの差し金か」
チャンピオンがリーグを動かし、そうさせたと言う情報はすでにこちらに流れてきている。
ことごとくこちらの邪魔をしてくれる相手だ。
「アクア団を破産でもさせる気か?」
実際のところ、アクア団とマグマ団以外にはほぼ無意味の長物である二つの珠。
それは今―――――。
「カジノになんぞ置きやがって、クソが」
コイン100万枚の景品として、キンセツシティのカジノに置かれていた。
『べにいろのたま』…………コイン1000000まい
『あいいろのたま』…………コイン1000000まい
景品の倉庫は常にリーグ側のトレーナー複数名に見張られ手が出せず、毎日スロットに勤しむ両団の方々。
マツブサがスロットやりながら眼鏡キラリさせてる絵思い浮かんでついやってしまった(
因みにコイン自体の購入制限は1万枚。それ以上はスロットで増やしてね方式。
チャンピオン相手だからと珠を渡した老夫婦も多分知ったらブチギレる。